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キョウビ
2026-04-22 17:48:09
5698文字
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見知らぬ少女は一人を嫌う
別所で書く文章のネタが思いつかなすぎて自キャラを持ってきて適当に締め上げた誤字の確認もしていない酷く故乱な文章。キャラ設定は大まかには一緒。
「おにーさん」
「おにーさんてば」
「ねーおにーさん?聞こえてる?」
その少女はずっと誰かに向かって話しかけていた。先ほどから何度もお兄さん、お兄さんと言っている。声からしてずっと無視されているようだ。ちらりと目に入った背丈からして小学生ぐらいだろうか、理由は分からないが、自分を呼んでいる子どもに対してシカトを決め込むというのはどうかと思う。
「とんだ放任主義のやつもいるものなのだな」
「それ自分のこと言ってるの、おにーさん」
「────俺か?」
「そーだよー。最初から最後までおにーさんのこと呼んでたんだよ」
気付くのが遅ーい、と少女は頬を膨らませた。茶色がかった黒髪を長く伸ばし、一房だけサイドで結んでいる。身長はおおよそ一般的な小学校高学年の平均といったところで、俺の腰と同じぐらいの高さに顔があった。
「俺とどこかで会ったことあるか?」
「無いと思う」
「親御さんは?」
「いなーい」
「なんで俺に話しかけた?自分で言うのもなんだが人選ミスだと思うぞ」
「だっておにーさん以外に人いないんだもの」
言われて気がついたことだが、その時周りには本当に誰もいなかった。なにせ平日の昼間だ。珍しく仕事が終わり、帰路についていた俺以外に人がいないのも無理はない。
「小学校は今日休みなのか」
「休みではないんだけどね、遠足だよ遠足。現地解散でみんなについてってたんだけど、途中で置いていかれちゃった」
「置いていかれた?」
「うん。そっからは一人で帰ってこれたけどね。電車一人で乗ったことなんてなかったから大変だった」
「
……
何処に行ってたか聞いてもいいか?」
「えっとねー、この水族館」
少女が背負っていたリュックサックから縦長のパンフレットを取り出して俺に渡してきたので、丁寧に半分に折りたたまれていたそれを開いた。
「いや、これ此処から一時間強は掛かる場所じゃないか」
「うん、途中でおにーさんが席譲ってくれなかったら大変だったよ」
「この距離で現地解散とは、最近の小学校というのはこれが普通なのか?」
「どーだろ、でも制服の子は電車の中でいっぱいいたね」
「あれは私学の人で毎日電車を使っているからな」
「へー」
俺はパンフレットを折りたたんで返した。
「お前が一人でいる理由は分かった。じゃあ本題、俺に話しかけてきた理由も教えてくれると嬉しい」
「理由!そーだった忘れてた!」
少女はリュックサックのショルダー部分を握り直した。
「おにーさんが暇だったらでいいから、一緒に家に帰ってくれない?」
「
……
帰る?」
「うん、お喋りとかしながら。歩きスマホしててもいーよ、私が前ちゃんと見といてあげるし。とにかく着いてきてほしいの」
「唐突過ぎてあまり理解できていない、やっぱり人選ミスじゃないか?」
「おにーさんがなんでダメって言ってるか私には分かんないけど」
平日の真っ昼間に成人男性が女児を連れ歩いている状況はどうしようもないほどにアウトである、なんて説明をしたところで、却って話をややこしくしてしまいそうなので省略する。
「でも電車のおにーさんに言われたんだもん、『一人は危ないよー』って。それに私もこれ以上長く一人だと寂しいし
……
」
なんと傍迷惑極まりない奴なのだその男は、と俺は思った。言い分は正しい、確かに言い分は正しいが、それで不審な人間に自分から声をかけに行くとかになりかねなかったのだぞ。事実少女はこんなのに声をかけてしまっている。おそらくそいつは「誰か友人や保護者と一緒にいるんだぞ」と言おうとした可能性が高いだろうからあまり悪く言うこともできないのだが。
「ねーねお願い。おにーさんあっち行くんだったら私と行く方向一緒だしさ」
そういう間にも少女は何度もショルダーを持ち直していた。
少しばかりの思考。──結論。この少女がなにかしらの事態に巻き込まれるよりも、俺が不審者だと誤解される方がよっぽどいいだろう。俺が彼女と同じくらいの頃
……
は正直思い出せないが、そうだとしたら、こっちの方がいい。きっとそうだ。
俺は自分にも聞こえないぐらい小さくため息をつくと、
「いいよ」
「ほんと!?」
「ああ、横で着いてく感じでいいか?」
「うん。あっ、私コトネって言う名前なんだよ。今更名乗ってちょっと遅かったかも
……
」
しょげたように首を傾けた。
「そもそも知らない人に軽率に名前を教えるのあまりいいことではない。別に謝ることではない」
「そっかー、おにーさんは?」
オニーサンハ?文字列を認識できず一瞬意味が飲み込めなかったが、あー
……
「俺の名前か。トオリと言う」
「トーリ?初めて聞いた」
「そうか」
俺もコトネという名前を聞くのは初めてだった。
「おにーさんは今日お仕事休みなの?それともあれ、無職さんなの?」
なんつーことを聞いてくるのだ、この小学生は。
「コトネ、あまり他の人にそういうこといったらいけないからな。人によっては泣かれかねないぞ、大の大人に、大声で」
「うぇぇ、それは怖いしなんだかちょっともーしわけない」
──コトネには間違っても言えないが、これは俺の経験談だった。本当に申し訳ない所の空気ではない。
「俺はちゃんと仕事が終わったから帰ってきたんだよ。昼帰りなんて今までに片手で数える程度しか経験がないけどな」
「お昼帰り!良いなぁー。私いつも学童保育行ってるから午前で授業が終わっても帰れないもん」
学童保育は確か、小学校などの児童預かり施設だったか。ということは、彼女の両親は共働きとかそういうことなのだろうか。
信号が黄色になったので立ち止まった。
「コトネは学童が嫌いなのか?」
「そんなわけないじゃん、楽しいよ。でも
……
そうじゃないときはちょっと寂しいなってだけ」
「そうじゃないとき」
俺は意味もなくその言葉を繰り返す。
「体育大会とかさ、あーいう行事のときってお仕事休みで来てくれる人多いでしょ。そんで終わったら一緒に帰るの。羨ましいなー」
「
……
そうなのか」
コトネはそのときのことを思い出してか、ほんの少しだけその表情に暗い影を落としたかのように見えた。が、すぐに先ほどと同じような明朗快活な顔に戻っていた。
「おにーさんはそーいうことなかったの?」
「あぁ
……
正直体育大会とかも経験したことないしな」
俺がそういうとコトネはへぇー!と目を丸くした。
「意外
……
!おにーさん子どもの頃もきっとすっごく背が高かっただろうから、もし出てたら騎馬戦とか大活躍だっただろーに」
「自慢じゃないが身長は高いほうだったぞ。幼馴染によく『いつも見下ろしやがって』とつっつかれていた憶えがあるからな」
「やっぱりだー」
コトネはにひーっと笑った。
信号がちょうど青に切り替わった。
「おにーさん、もうお昼ご飯食べた?それとも帰ってから?」
コトネの質問の数と頻度は凄まじかった。スポーツはしてるの?だとか好きな音楽は?だとか、さながら街頭アンケートのようだった。別に邪険に思っていたわけではない、俺からしても二人きりで黙りこくっている状況は最悪だし、かと言って自分から話すのもどうかと言葉に詰まっていたので、有り難くもあった。──もしかしてコトネはこのことまで考えた上で話しかけて来ているのだろうか。
……
そんな訳ないか。
「昼食なら、少し前に駅近くにあるうどん屋に行った」
「うどん私も好きだよ。最近は冷たいののほうが美味しくて嬉しい」
「暑くなって来たからな。──そういえばあそこの店主、『注文で冷たいやつが増えても何故俺はひんやりできないのか納得いかねぇ』、などととぼやいていたな」
「てんしゅさん頑張ってるんだねー」
関係ない話だがこのとき店主とは、
「トオリィィィーーもう疲れた俺
……
日本酒奢ってくれぇ
……
」
「えっやだ」
「なんて薄情な奴
……
!」
「昼間かつ勤務中に飲もうとするな、下戸」
「なんで知ってるんだよ」
と、かなり生産性のない話をしていたことを思い出したが、思い出したところでなので割愛。
――
暫くしてコトネがきょとんとしていることに気づいたのでどうしたのか聞くと、
「聞いてる限りだとそこのてんしゅさんと仲良さそうだし、おにーさんは麺類ならうどんが一番好きなのかなーって」
なんだそんなことか、──そんなことで悩んでいたのか?そんなに気になることなのだろうか。子どもは本当に分からん。
「うどんもまあ好きだが、俺の中での一番ならナポリタンか」
え?とコトネが俺を見上げてきた。
「ナポリタンなの?もっと辛いのが好きなのかと思った」
「なぜ?」
「なんとなく」
「そうか」
あんまり良い印象は与えてないのだろうか。ここ最近は目つきが悪いと言われることも減ったが子ども相手だとどうしてもそう見られてしまうのかもしれない。気をつけなければ。かといって常にニヤニヤしているというのもかなり気持ち悪いのでは。
「あっ怖いって意味じゃないからね」
俺の考えを見透かしたかのようにコトネは言った。気を利かせてくれただけかもしれないが、少なくとも今このことについて頭を悩ませる必要はないようだ。
「雑学というほどでもないがナポリタンは日本料理らしいぞ」
「えっそうなの!?じゃあナポリにはナポリタンないってことなの」
「多分ないんじゃないかな」
「ない料理に自分の住んでるところの名前付けられてるナポリの人たちってどーいう気持ちなんだろ」
中にはパスタとして認めない、なんて考えの人もいるという内容のネット記事も見かけたことがあったが、統計はあまり信じていない。行ったこともない国の人々の味の好みを推し量るなどそう簡単にできるはずもないけれど。
「日本人のカリフォルニアロールみたいな感じだろうか」
「そーれーーはーなんとも言いがたぁい」
その声は、何かの歌のメロディーかというくらいに間延びしていた。
「俺はもっとグローバルになっても良いと思うんだけどな」
「おいしいもんね」
「ああ」
そこ右に曲がるのー、とコトネが曲がり角を指差した。幸い、俺の家も同じ方向だった。
日が少しだけ傾いた。歩き始めてから二、三十分たっただろうか、もうそろそろ俺の方が先に家にたどり着いてしまうぞ
……
と焦ったのも束の間コトネにももうすぐで家だよ、と言われ安心したのが数分前。
「ねぇおにーさん」
「どうした」
そして今、またコトネが話を始めようとしているようだった。今度は何を聞いてくるのだろうか、芸能人の話をされようものならば何も分からないな、と俺はボケーっと考えていた。
「人ってなんのために生きてるんだろうね」
「────え?」
まさかそんな質問が飛んでくるなんて思ってもいなかったから。
「コトネ、それは」
「あっ誤解しないでね
…
!?おにーさんが思っているようなことは何一つないから、本当に」
誤解というか、そういう推測をしない方が昨今難しいだろう、と言いたくて仕方がなかったが、俺を見るコトネの目からは何かを隠したり誤魔化そうとしている色が見えなかった。目を逸らしたくなるほどに、真っ直ぐしっかりとしていた。
「なんていったらいーのかな
……
うーん
…
哲学、みたいな?そんな感じのことが言いたいの」
「哲学か」
「うん」
コトネは小さく数度頷いた。
「私はまだ大人じゃないし知らないことの方が多いけど、生きる理由を常に持っていたいなって思って。だって、ちゃんと良い学校に行って、就職して不自由なく暮らすためだけに──生きるためだけに今の時間があるなんて思いたくないんだもん」
「本当にすごいことを考えてるな、子どもなのに」
「でしょ」
ませてるって笑われるから誰にもいってないんだけどね、とコトネは独りごちた。
「おにーさんはどーなの?」
「俺は
……
」
なんのために生きているのか。考えない日はなかったとも言える。俺が生きていることを咎める人がいた。その通りだと思った。でも、そうはしなかった。できなかった。生きろといった人がいた。お前は生きるべきなんだと言った人がいた。数秒の思考、体感はもっと長かったけれど。
だから、俺の生きる理由は──
「好きだった人に笑われたくないから」
「──そっかぁ」
教えてくれてありがとうね、とコトネは笑った。
それからすぐ、一軒のマンションの前でコトネの足が止まった。
「ここ、私の家」
コトネは空を見上げるように顔を上げた。
「付き合ってくれてありがとうね、おにーさん」
「何事もなくてよかった。今度からは誰かと一緒に帰るんだぞ」
「うん。ちゃんとぜんしょ、するね」
「それはよかった。──ところで、凄く言いにくいんだが
……
」
「なーに?」
コトネが今日一番の角度で首を傾げた。
「俺のうちも──ここだ」
俺は目の前のマンションを指差した。
コトネは大きく目を見開くと、
「──は、あははっ!!うそっ、そんな偶然あるの!!だって私おにーさんと会ったことない!!」
とても嬉しそうに笑った。何が嬉しいのだろう。俺はというと、一度も会ったことがなかったことの方に恐怖を抱いていたのだった。
「交流の減少とは、思っていたよりも問題が多いようだな」
「そーだね」
俺も確かに嬉しかった。
上の階なんだよー、と階段を登って行ったコトネを見送ったあと、俺は自室に帰った。
カバンをソファに放り投げ、洗面所で手を洗う。鏡を見ると、そこには当たり前なんだろうけれど、俺がいた。
何かあったかと言われればなんとも言い難いが、良い1日だったことは間違い無い。
「こーんにーちは、おにーさん」
「
……
とうとう部屋が割れてしまうとは」
「居るとわかってしまえばこっちのものだもん。おにーさんはそうはしなかったみたいだけどね」
「俺がそれしたら捕まるだろ」
「あははっ、そうかもね」
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