ポほ
2026-04-22 17:36:57
5414文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

嵐の予感?

りやめ三学期編第6話。
続きも書いてる最中ですがここで区切った方がいいと思ったので一旦上げます。
呪いが精神に直接深く作用していることはなくて、普通に身体と心は繋がっていることと、精神的なショックを受けたことで色々と曖昧(シグルイ)になっているんだということにしています。その辺あんまりロジカルに詰めてません。その手のガッチリした設定を考えたり生かす話作りは自分には向いてないと思ったので、ファンタジーに逃げております

 新月の日の放課後。宗真は、部活に向かうヨツダと並んで昇降口まで歩いていた。もちろん男の姿のままだ
「今日はまっすぐ帰るのか?」
 ヨツダの問いに、宗真は少しだけ視線を落として答える。
「うん……でも、別にお前と帰りたくないわけじゃないからな?今日はちょっと、色々あって疲れたし。姉ちゃんたちや父ちゃんにも……母ちゃんのこと、話さなきゃ」
……そっか」
 ヨツダは一瞬だけ考えるように間を置いてから、続けた。
「一人で大丈夫か?」
 宗真は顔を上げて、呆れたように笑う。
「なんだよ、カホゴだな!?今オレ男だし、大丈夫だろ!」
※性別問わず、暗い中帰るときは気をつけましょう(作者注)
……っていうか!」
 宗真は、ぱっと表情を明るくする。
「今の言い方……。またお前と一緒に帰ってもいいってことだよな?」
 ヨツダは少しだけ目を逸らしながら、ぽつりと言う。
「あんまり女扱いすると、また今回みたいなややこしいことになるかもしんないから……それはしないようにするけど」
 そして、少しだけ声を落として続けた。
「でも、お前が一番大切なやつっていうのは、変わってないから」
 宗真は一瞬だけ目を丸くして、それから、ふっと笑う。
……オレも、そう」
 少しだけ間を置いて、何かに気づいたように言い直す。
「あ、『カノジョ』って言い方が悪かったのか?」
「え?」
 ヨツダが首をかしげる。宗真は、にっと笑った。
「オレとお前はさ〜、“一言では言い表せない関係”!これでどう?」
……なんか、かえって後ろめたい感じ出てるけど」
「はあ〜?それはどーせお前の方がエロいこととか考えてるからだろ!」
「考えてねえよ……
……いや、ゼロかって言われるとどうだろう)
 ヨツダは小さく息を吐いて、気持ちを切り替えるように言った。
「わかったから。俺、もう部活行くわ」
 それから、少しだけ真剣な顔で。
「何かあったら、真っ先に俺に言えよ」
 宗真は、力強く頷く。
「うん……!」
 その返事を背に、ヨツダは部活へと駆けていった。残された宗真は、少しだけその背中を見送ってから――静かに、帰り道へと歩き出した。

「ただいま!」
 玄関の扉を開けながら、宗真が声を張る。リビングから顔を出した静乃は、その姿を見て目を瞬かせた。
「お帰り……って、なんでジャージ?ていうか、男?」
 宗真は靴を脱ぎながら、肩をすくめる。
「それがさー。オレもヨツダに言われるまで気づかなかったんだけど……今日、新月だったろ?それなのに朝は女のままだったから、そのまま制服で行ったんだよ。そしたら学校でいきなり男に戻ってさ。酷くね?」
「そっか……新月か」
 静乃は小さく呟く。
「すっかり忘れてたし、戻ってないのも気づかなかったわ」
 宗真はリビングに上がり込みながら、少しだけ真面目な顔になる。
「そのことでさ。響姉と父ちゃんも揃ったら、ちょっと話があんだけど……
「ああ、それなら――
 静乃は少しだけ言いづらそうに続けた。
「響なら稽古中。でもお父さんは今週出張で、金曜まで帰ってこないわよ?」
「うそおっ!?」
 宗真は思わず大きな声を上げた。
「一番父ちゃんに聞いてほしい話だったのに……!」
「どういうこと?」
 静乃が首をかしげる。宗真は一瞬だけ言葉を選ぶように視線を彷徨わせてから、ぽつりと口を開いた。
……今日、初めて知ったんだけどさ」
 少しだけ声が低くなる。
「オレに呪いかけたの、オレらの母ちゃんらしくて……
 静乃の表情が、わずかに強張った。
……やっぱり、そうだったんだ」
「え!?」
 宗真が顔を上げる。
「姉ちゃんたち、知ってたの!?じゃあ父ちゃんも――
 言いかけて、止まる。静乃は、困ったように小さく息を吐いた。
……お父さんは知らないんだ。この話になると、なんか不思議と引っ込むの」
「は?」
「今回もそうだけど、前私達がそれに気づきかけた時も……タイミングよく、っていうか悪く?いないことが多くて」
 宗真は、眉をひそめたまま黙り込む。胸の奥に、嫌な引っかかりが残る。
……それ、たまたまなのかな?」

 やがて、稽古を中断した響もリビングに顔を出し、そのまま話に加わった。
「やっぱりこの話の時って、お父さんいないんだね……
 呆れたように肩をすくめる響に、静乃も小さく頷く。
「ほんと、なんでかしらね。……もしかして、それすらお母さんが何か手を回してるとか?」
 宗真は思わず顔をしかめる。
「姉ちゃんたちはさ……いつ気づいたんだよ」
 響は少しだけ考えてから、口を開いた。
「お姉の文化祭の時」
「文化祭?」
「あんたは私達と一旦別れて、吉田くんと模擬店回ってたでしょ。その間に、お姉の教室に――また、あの狐のお面の人たちが来てたの」
「え……!?」
 宗真の目が見開かれる。響はその反応を横目に、淡々と続けた。
「それで、お姉に呼び出されて様子を見に行ったらさ。“今日は静乃の様子を見に来ただけ”とか言われて」
 静乃が、少しだけ眉を寄せる。
「体育祭の時も、あんたの頭撫でてたでしょ」
「あ……
 確かに、そんなことがあった気がする。
「よく見たら、あれ女の人だったんだよね」
 響は腕を組みながら言う。
「あたし達にあんなことする女の人なんて、限られてるじゃない」
……それが母ちゃん、ってことか」
 宗真は、呆然と呟いた。
「え、っていうかさ……その時、響姉は母ちゃん(仮)と直接話したんだよな!?」
 少し前のめりになる宗真に、響は微妙な顔をする。
「えーと……話したと言えば、話したけど……
「え?」
 宗真が首をかしげる。静乃が代わりに説明するように口を開いた。
「向こうは筆談だったの。一筆箋に返事だけする感じ」
……ひ、ひつだん?」
 予想外の返答に、宗真は間の抜けた声を漏らす。
「ところでその時は父ちゃんもいたんだろ?」
 静乃と響は、同時に微妙な表情を浮かべた。
「それがね」
 静乃が、少し気まずそうに言う。
「お父さん、あんたと吉田くんがまだ一緒にいた時にコーヒー飲んでたでしょ。その後お腹壊して……トイレから出てこれなくなってたのよ」
「はあ!?」
 宗真の声が裏返る。
「いやタイミング悪すぎだろ!?」
「でしょ?」
 響が苦笑する。宗真は、なおも食い下がる。
「でも、そのイッピツセンてやつを父ちゃんに見せればいいじゃん!」
「それが……
 響は、視線を逸らした。
「そうしたかったんだけどさ。なんかもう、色々ピタゴラスイッチみたいに偶然が重なって……
 一拍置いて。
「その紙が燃えちゃったの」
「は、はあ!?」
 宗真は思わず叫んだ。
「そんなことあるかよ……!」
 静乃が、小さく肩をすくめる。
「だから、証拠もなくて……
 リビングに、重たい沈黙が落ちる。偶然にしては出来すぎている出来事の数々。そして、それを裏付けるはずだったものは、ことごとく手元に残っていない。

 宗真は、しばらく唇を噛みしめたあと、ふいに顔を上げる。
「姉ちゃんたちが気づいた時点でさ……なんでオレには言ってくれなかったんだ?」
 響が、少しだけ言い淀む。
……証拠もなかったし。あんたを混乱させるだけだと思ったから」
 宗真は、ぐっと拳を握りしめた。
……それにしたって、なんで……!」
 思わず、声が漏れる。響が、はっと顔を上げた。
「それは――
 言いかけて、止まる。その表情を見た瞬間。
……ああ)
 胸の奥で、何かがすっと冷えた。
……いや」
 宗真は、小さく首を振る。
「言えねえよな、こんなの。オレだって、わけわかんねえし……
 自分でも、分かってしまったからだ。こんな話、確証もないまま言われたところで、どうしようもない。
 それに――。「宗真が女の子の身体になったこと」の全てが、別の意味を持ち始めてしまう。
 今までは「そういうもんだ」と思ってた。新月になれば、男に戻る。それ以外に男、あるいは女に変わって焦ったことこそあっても、最終的には望んだ形に戻っていた。
 女子としての生活にも慣れてきた。女子の友達もできたし、生理などの身体の変化も、困惑しつつも受け入れてきた。
 何より――吉田樹が、性別に関係なく、自分を支えてくれていた。
 だから。変わっても、大丈夫だと思ってた。

 でも。この身体にしたのが、「ただ月城流を潰したい赤星流の誰か」じゃなくて。
 自分と血の繋がった母親だなんて。そして、その人が……自分の子供の身体を。人生を。弄んでいるかもしれないなんて。
 これを伝えるのは、きっと簡単なことじゃない。伝える側にも、相当な覚悟がいる。
 先程、ヨツダがそれを教えてきた時のことを思い出す。一度は自分と距離を置いてまで、悩んで。
 それでも、ちゃんと向き合おうとしてくれた。
……そりゃ、言えねえよな)
 宗真は、ゆっくりと拳の力を抜いた。姉たちを、責めることなんてできなかった。

「そういえばさ」
 宗真は、少しだけ顔を上げる。
「今日、新月なのに最初男に戻らなかったのも……嵐士が言うには、結構ヤバかったらしいんだ」
「どういうこと?」
 静乃が眉をひそめる。宗真は言葉を探しながら続けた。
「よく分かんねえけど……今日ずっと女のままでいたら、二度と男に戻れなかったかもって」
「え……お母さん、そこまでしてあんたを女の子にしたかったのかな」
 響が真顔で言う。
「そうなんだよ!」
 宗真は思わず身を乗り出す。
「ヨツダが母ちゃんのこと教えてくれてさ、なんか“これヤバいんじゃないか”って思ったら、なんつーか、タイムラグ的な感じでようやく戻れた、的な……
 静乃は腕を組み、少し考え込む。
「そもそも、今日が新月だってことすら、私たちが全然気づいてなかったのもおかしいわね」
「確かに……
 響も小さく頷く。宗真は、思い出すように視線を泳がせた。
「ていうか、先週、新倉さんと寄り道してからのこと……あんまり覚えてないんだよな」
「え?」
「ヨツダに嫌われたと思ったからかなって思ってたんだけど……
 そこで、はっとしたように顔を上げる。
「あ、それも変なんだよ!」
「何が?」
 静乃が即座に問い返す。宗真は、言葉を選びながら続けた。
「今までさ。あいつに嫌われたかもって思うと、だいたい男に戻って困ってたんだよ。でも今回は、その逆で、女のままで……
 少し言いづらそうに、頭をかく。
「なんか……メイクとかしてたし」
……え?」
 静乃の声が一段低くなる。
「もしかして」
 ゆっくりと視線が宗真に向く。
「私のポーチが出しっぱなしだったのって、そういうこと……?」
「え、いや、その……
「最近、私の使ってるお高いシャンプーの減りが早かったのも?」
……あ」
 空気が一瞬凍る。
「全部あんたのせい?」
「ご、ごめん……!」
 宗真は思わず頭を下げた。
「お、お姉!今はその話、一旦水に流してあげようよ!」
 響が慌てて割って入る。静乃は一瞬だけため息をつき、それ以上は追及しなかった。
……まあ、いいわ」
 少し間を置いて、静かに続ける。
「でも、“覚えてない”っていうのが本当なら……単純に宗真の意思で悪さしてたってわけでもないのかもしれないわね。ま、そのうち返してもらうから」
「し、出世払いで勘弁してよぉ……
 響が、少し不安そうに呟く。
「もしかして……宗真の見た目だけじゃなくて」
 一拍置いて。
「中身も、変えられてるとか?」
……え」
 宗真の声が、かすかに揺れた。さっきまでの軽口が、すっと消える。その一言だけが、妙に重く、胸の奥に沈んでいった。

 ぐう。
 宗真の腹が、間の抜けた音を立てた。
……そういえば、腹減ったな」
「あたしも!」
 響がすぐに乗っかる。気づけば、時計は18時半を回っていた。普段なら、とっくに静乃が夕飯の支度を始めている時間だ。
「え、もうこんな時間!?」
 静乃が慌てて立ち上がる。
「あーもう……今日は炊き込みご飯でいいか、早炊きにして……
「いいじゃん、それ!あたしも手伝う!」
「お、オレもっ」
 三人でキッチンに向かいかけた、その時――
……オレが)
 宗真の足が、ほんの少しだけ止まる。
(オレじゃ、なくなるのか……?)
 さっきの話が、頭の奥でくすぶっていた。
“中身も変えられてるかもしれない”。
 もしそうだとしたら。
……明日、女になった時)
 喉の奥が、わずかにひりつく。
(どうなるんだよ、オレ……
 言いようのない不安が、胸の奥に沈む。
――ピンポーン。
 不意に、インターホンの音が鳴った。
「宗真、出てくれるー?」
「はーい」
 宗真は軽く返事をして、玄関へ向かう。モニターを覗き込みながら、インターホン越しに声をかけた。
「月城ですけど――って、お前!?」
 画面に映っていたのは、見慣れた顔。
――嵐士だった。しかも、両手にやたらと荷物を抱えている。
「宗真くん……
 どこか申し訳なさそうに、しかしどこか図々しく。
「また、お世話になってもええ?」
「えーーーっ!?」