穏やかな休日の午後。アビゲイルはファーマーと共にウィロー通り一番地、つまりサムとヴィンセントの住む家を見上げるように立ち尽くしていた。
「何度見てもやっぱりここなのよね……」
アビゲイルは小さなメモに目を落とし、それから目を細めてじっと家の外観を睨みつけた。
「――一緒にこのメモの謎を解いてほしい」
ファーマーに見せられたのは一枚の小さなメモ。水に濡れたのか表面はボコボコになっているし、手に取ると乾いた土でカサカサしていていかにも古臭い。
アビゲイルは受け取ってすぐ、その汚くて怪しいメモの手触りに「うえっ」と言ってしまったほどだ。
書かれている文字のインクがかすれているのか、それとも何か木の汁のようなもので書かれている落書きのようなメモは、水色に×印のついた家の形といくつかの矢印がかろうじて読み取れる。
「これ……何?」
アビゲイルが目線を投げると、ファーマーは言葉を選ぶように目線を彷徨わせ、それから観念したように入手経路について話してくれた。
「――倒したモンスターが持っていたメモなんて素敵! 絶対にそのメモの正体を突き止めましょ」
そう固く約束をしてから数日。二人はペリカンタウン中の家を見て回り、ついにたどり着いたのがこのウィロー通り一番地の家だった。
「絶対にここしかないと思う」
アビゲイルは額の汗をぬぐい、ファーマーのメモをもう一度確認した。
「サムの家に秘密が……?」
ファーマ―は首を傾げ、それからアビゲイルに倣って家を見上げる。
赤い大きな屋根に爽やかなブルーの壁面、ドアの上にはおおきな舵輪が一つ飾ってある。
大きな窓には綺麗なレースのカーテンがかかっていて、ジョディのマメな性格が伝わってくるような気がした。
「じゃあ、とりあえず……入ってみる?」
アビゲイルが一歩踏み出そうとしたその時、トントンと後ろから肩を叩かれた。
「そんな鼻息荒くして、オレんちで強盗でもする気か?」
「サム……」
サムは携帯をポケットにねじ込み、肩を組むようにして二人の間に割って入った。
「お前ら全然気づかねぇんだもん。オレずっとここにいたからね」
「そうなの? 声かけてくれればいいじゃない」
アビゲイルが反論をすると、サムは肩をすくめて見せた。
「それはこっちのセリフ。で、オレん家がどうしたって?」
「それがね……」
アビゲイルは謎のメモを差し出しながら状況を話すと、サムはメモを近づけたり遠ざけたり、匂いをかいだりしながら興味深そうにそれを眺めた。
「へぇ……モンスターがねぇ。ってことは、何かお宝的なものなのかもな」
思い当たることがあるのかとファーマーが尋ねると、サムはうーんと首をひねり、しばらくして
「いや、オレん家にはない……と思う! そもそも、宝があったらバイトなんかしてないぜ」
「それはそうよね……。じゃあこれ、なんなのかしら」
ううん、と三人で頭を捻っていると、サムの肩の後ろから「矢印の部分はどう考えてる?」と声が響いた。
「あれっ、セバスチャンもいたの?」
アビゲイルが驚いて顔を上げると、セバスチャンは深くため息をつき、サムの脇腹をつついた。
「なあサム、ちょっと行ってくるっていうのはな、すぐに帰ってくるときに言う言葉だぞ」
「へへへ、ゴメン。でもお宝なんて言われたら気になるだろ?」
「そりゃ……まあ」
セバスチャンはポケットに両手を突っ込みながら、「で、矢印は?」ともう一度問いかけてきた。
「そっか……このあちこちに向かっている矢印に何か理由があるってことよね? じゃあこれって、この家をスタート地点にするってこと?」
アビゲイルがハッとした顔でメモをなぞっていく。
「左……上……右……何かの暗号……? ゲームの秘密コマンドみたい」
「モンスターはゲームなんかしないだろ? いや、するのか……?」
「んもう、サムはちょっと黙ってて」
アビゲイルとサムがああでもないこうでもないと言っている間、セバスチャンはじっとメモを眺め、それから
「……これ、道路標識みたいに道案内してるのかもな」
といってメモをファーマーに手渡してきた。
「歩いてみたところでそんなに距離じゃないんだし、ちょっと試してみたらどうだ?」
オレはここで待ってるから。
そう言うとセバスチャンはポケットから煙草を取り出しながら木陰の方へ歩いて行ってしまった。
「……やってみよう」
セバスチャンの助言通り、ファーマーとアビゲイルとサムはメモの矢印をなぞるように、右へ左へ、川にぶつかり、木にぶつかりながら歩いていき、気が付くとルイスの家の駐車場に着いていた。
「なにここ、ルイスの家じゃん」
「ハズレだろハズレ、絶対にお宝なんかないって」
ブーイングをする二人をまあまあとなだめながらもう一度メモに目を落としていると、「何をやっているんだね」と責めるような声が聞こえた。
「……ファーマーじゃないか。それにアビゲイルにサムまで。我が家の駐車場に何か用かね?」
庭いじりをしていたのか、ルイスは泥のついた手袋を外しながらこちらへ向かってくる。
ファーマ―の後ろでは「ゲッやばい」「どうする?」「よりにもよって」とヒソヒソ声がしているが、ファーマーはいつものようにこんにちはと挨拶を返した。
「ああ、こんにちは。……三人でかくれんぼかね?」
「……ええと、エッグハントの練習です。アビゲイルにコツを聞いていて、夢中になってついうっかり。すみません」
「そ、そうそう!今年も絶対に私が優勝するつもりだけど、ファーマーがどうしてもって言うから! ねぇ?」
「あ、ああ! 今年こそは! ってな!」
ぎこちなく笑みを交わす三人をルイスはいぶかしげに眺めていたが、少し間をおいて小さく息を吐いた。
「まあ……そういうことなら仕方ないが……くれぐれも、よその家にいたずらをするんじゃないぞ。君たちもいい大人なんだからな」
「「「はーい」」」
気持ち良いほどに揃った返事にもう一度ルイスは息を吐き、それから花壇の方へ戻っていく。
アビゲイルがルイスの後ろ姿にべえと舌を出し、サムが小さく中指を立てていたのを見てファーマーは少しだけ笑ってしまった。
「なんなのアイツ。仕事もしないで偉そうに」
「町長様だぞ! って権力に溺れてんだよな~ ちっとも偉くなんかねぇのに」
文句が止まらない二人にまあまあとフォローをするものの、これ以上ここにいてはさらに怪しまれてしまうだろう。
3人はスタート地点だったウィロー通り一番地まで戻り、顛末をセバスチャンに報告した。
「……宝の地図じゃなくて呪いの地図だったってことか」
セバスチャンはくつくつと笑い、アビゲイルとサムは反対にがっくりと肩を落とした。
「みんな、協力してくれてありがとう」
ファーマ―が礼を伝えると、アビゲイルは「またメモがあったら教えてよ。今度こそお宝かもしれないし」とファイティングポーズをとり、サムも「そうそう、ルイスに一泡吹かせられるようなアイテムが手に入るかもしれないしな」と笑う。
セバスチャンもまんざらでもなさそうだったので、ファーマーは「見つけたら必ず持ってくる」と約束をして別れ、帰路に着いた。
後日、先日のお詫びを伝えるついでにもう一度メモの確認を兼ねてウィロー通り一番地からルイスの家に行ったファーマーが「隠されたお宝」にたどり着き、ルイスの知られざる一面を知ってしまうなんて、この時は夢にも思っていなかった。
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