機械を壊すのが得意なフリンズさんの話

※ほよふぇあ2025「境界越え彼方へ至る」KVイラストのフリンズさんから着想したパロディです。

 今回は珍しく合同作戦とのことで、みんなで本部に集まってから現場入りだ。
 
 ボスの瑞希さんから皆に、モニターと資料を見ながらの全体説明があった。なんでも『めちゃくちゃ大きな工場を数日停止させるために現場を混乱させて欲しい』との依頼らしい。依頼先はいつも通り知らないけれど、なんなんだその変な依頼は……
 説明が終わった後も配られた資料を見ていた刻晴さんが、私に話しかけてきてくれた。
「いつも思うけど、貴女の調査資料で分かりやすいわね。裏方も向いてるんじゃない?」
「そうなんですよ、元々裏方なんですよ?――あの人が変な事言い出すまでは」
 わざとらしく目線を送り、指でその方角をさす。もちろんフリンズさんだ。
 指摘された本人は「おや、僕が何か?」とかニコリと笑いながら――大きなマスクで口元見えないけど――言っている。もちろん聞こえていたはずなのに、ね。それを無視して、もう一度刻晴さんに向き直る。
 
「事前に瑞希さんから依頼があったので、ちょちょいと作りました。分かりやすくできてたなら、嬉しいです!」
「えぇ、侵入経路や注意事項も分かりやすい。良くできた資料だわ。ね、キィニチ?」
「あぁそうだな。さらに、アハウの出番まで作ってくれるとは、なかなかの段取りだ」
「なにぃー!オレさまをこき使うつもりなのか小娘ぇー!」
 
 刻晴さんに続いて、キィニチさんにも褒められてしまった!嬉しい‼︎
 謎の小型浮遊生物のアハウの担当分は、実際やってくれるか分からないところではあるんだけど。その時になったら、実践してくれそうではある。

「こう言った現場の台本作りは、キィニチさんの方が得意そうですけど……今回は私で良かったんですか?」
「あぁ勿論だ。今まで現場で会うことは少なかったが――改めてよろしくな」
「はい、よろしくお願いします! ……アハウもね!」
「おい……オレさまをついで扱いするのか?」

 その後もワァワァ言っているアハウをキィニチさんに任せていると、後ろから聞き慣れた足音が近づいてきた。
「今日は随分と、賑やかですね」
「はい。……フリンズさんは、こういうの苦手ですか?」
「そうでもありません。好ましいですよ、ただ――
 そんなことを言いながらフリンズさんが、背後から私の両肩に手を乗せ、耳元に顔を寄せてくる。
「貴女とコンビを組んでいるのは僕なので……、少し妬けますね」
…………、どこに妬く要素が……?」
「ふふ、内緒です」
 そんな意味深なセリフだけ置いて、彼は「少し離れますが、ここで待っていてくださいね」と部屋を出て行った。くすぐったいし、ちょっと恥ずかしいので耳元で喋らないで欲しい。一体……なんだったんだ?

「私達への見事な牽制、ね」
「あぁ、気付いてないのは彼女だけだな」
 同じ部屋にいた二人の呟きは、私には届かなかった。


 ***


 作戦開始時間が近づいたため、私はフリンズさんと二人で現場近くへ向かった。刻晴さんとキィニチさんコンビは、現場の反対側から別動予定だ。
 フリンズさんにはいつも通り、指定された機械をいくつか『壊して』もらう必要がある。私はそのサポートなんだけど……
「フリンズさん、今日は指定された機器の破壊が目的ですが、不必要に壊しちゃダメ! ですからね‼︎」
 
 ビシッと指で差しながら、フリンズさんには事前に伝えておく必要がある。だって言っておかないと、見境なく壊されちゃうし……それでは瑞希さんに怒られてしまうかもしれない。
 まるで子供を諭すような言い方になってしまったのは悪かったが、言われたフリンズさんは大きく瞬きを数回したあとに、目を細めてから大きなマスクを一度外し、ククッと小さく笑った。
 
「えぇ、はい。分かりました。……では、お願いしますね」
「え……? なにを?」
「僕を、貴女がちゃんと見張っててください、ね?」

 まるでウインクでもしそうな、軽やかな語尾でお願いされてしまった。不覚にも、フリンズさんが少し可愛く見えたじゃないか。


 事前調査で入手していた地図を手元の端末で表示しながら、「あれ壊してください」とか「次はあれです」とかフリンズさんにお願いしながら作業を進めていく。途中で警備ロボが出てきて私は焦ったりしたけど、フリンズさんがナイフ一本でサクッと壊してしまった。
 
「前にも聞いたんですけど、何故そんなに正確に毎回壊せるんですか?」
「そうですねぇ……。僕は、物の壊れやすいところが『見える』んですよ。見えたコードや隙間にナイフを入れると――ほら、ご覧の通り。たまに僕の血筋には、そう言った特殊な目を持つ者が現れるんだそうです」
……ほんとに魔眼じゃないですか……
「これは、秘密ですよ?」
……分かってます」

 実践付きで説明した彼は、人差し指だけを伸ばして口元に当て、シーっと息を吐く。……気になるけど、人の出自をおいそれと聞き出す予定はない。
 彼が足に身に付けている筒状のランプだってそうだ。あの蒼い炎が普通の炎ではないことは、薄々気付いている。――うちにある飾りランプも、やっぱり置いといちゃダメなやつでは?
 うーん……と唸りながらも手元の端末を操作して、制御室までのルート検索をしている。こっちであってそうだ。
「フリンズさん、次はこっちです」
「えぇはい。……ふむ」
 ……ん、何か今言いかけたっぽい、かな。

「何ですか? 気になる事でも……
「いえ、そうではありません。ただ、貴女が望むなら……僕の秘密を語って差し上げますからね」
 そんなことを言う彼は、私を見ながら優しく微笑んだ。私にはまだ、それを知ろうとする覚悟――彼に踏み込む覚悟――が無いので、今回はここまでにして貰おう。


 予定通り制御室に到着した私とフリンズさんは、サクッと扉を壊して入室した。私は手元の端末を使いつつ、制御システムを強奪した。
「よし、これで……できたかな?――えいっ」
 実行ボタンを押した途端……なんかサイレンが、聞こえるね……
……おや?」
「それは僕のセリフですね」
「待ってまって! え、なんで??」
 えーと、なんか予想外なミスでもあった……?とかは、今は置いといて。
 
「フリンズさん、急ぎ脱出です!」
「貴女の仰せのままに。場所はどちらへ?」
「屋上です!」

 そう伝えた途端、彼は私を片手で抱えて制御室を飛び出し、走り出した。
「え? ちょ、私、自分で!」
「この方が早いでしょう?」
 それはそうなんですけどー!、という心の叫びは飲み込んで、先に鳴り響くサイレンをどうにか止めようと、彼の腕の中で手元の端末を操作することにした。なんかこれ、前にも同じことあったな……
 
 フリンズさんは走っているのに、あまり揺れないので助かる。一体どんな移動方法なんだ。
 曲がり角で遭遇した警備ロボは、投げナイフっぽい装備で機能停止させてた。どこにそんな装備が隠れて……?とか見惚れてる場合じゃなくて、それよりも!
 一旦フゥーっと細く長い息を吐き、端末に集中する。制御は奪ってあるから、これをこうしてっと。サイレンは止められたから、あとは警備が鎮れば、なんとかなる!


 ***

 
 そうこうしているうちに、フリンズさんが屋上まで運んでくれたらしい。
 
 屋上に飛び出すと、合流地点に刻晴さんとキィニチさんが居た。遠くには巨大化したアハウが、何も無いところに炎?かな?を吐き出す様子が見えた。お願いしていた陽動作戦の大役、しっかり果たしてくれてるみたいで安心だ。
 フリンズさんに下ろしてもらってから、私は慌てて二人に駆け寄る。
「すみません! 警備システムが少し変わってたみたいで……‼︎」
「大丈夫、こちらは無事よ。貴女たちも無事みたいね?」
「はい!」

 ――そう元気に返事したばかりだったのに、作戦終了前の気の緩みがあったのか、突風に煽られた私の足は、何も無い空中へ踏み出してしまった。
…………へ?」
「え!ちょっと‼︎」
 掴み損ねた手すりと、慌てて伸ばしてくれた刻晴さんの手と、フリンズさんの腕がスローモーションで見えた気がする、けど……あ、やばい――

 しかし私の体は何か強い力に引き寄せられて、地上への落下旅ではなくビルの屋上へと戻ってきていた。
 パチパチと大きく瞬きをしてから自身を確認すると、体に巻き付いたワイヤーのようなものでグルグル巻きにされた上、キィニチさんに抱えられていた。
…………無事か?」
「え、あ、はい‼︎」
 巻かれていたワイヤーをサッと解いてくれた後、私を地面に立たせてくれた。なるほど、彼のワイヤーで捕まえてくれたのか。流石に焦ったので心臓がバクバクと鳴っている……けれど、助けてもらえて良かった。
「油断しました……キィニチさん、ありがとうございます」
「あぁ、気をつけてくれ」

 手をグーパーと動かしつつ、自身が動くには問題なさそうなことを確認した。さて、本部へ帰還しようかと……思って振り返ると……あれ?

「フリンズさん、何をそんなに……
「今のは……僕が、彼女を助ける場面だったのでは?」
…………は?」

 何を言ってるのか分からないけど、なんかすごい怒ってるし、矛先はキィニチさんに向いているらしい。……勘弁して欲しいんですが!
……フリンズ、そんなこと言ってる場合か?」
「関係ありませんねぇ……
 キィニチさんもフリンズさんを煽らないで欲しい。二人の目線が交差してるだけなのに、火花みたいなの見える気がするって、あ、フリンズさん!本当に目元から蒼い炎漏れてますよ‼︎
 
「無事だったんだから良いでしょ。ほら皆、帰還するわよ」
「そ、そうですよ! 戻りましょう、ね⁈」
 そこで声を挟んで仲裁してくれる刻晴さんは、本当に頼れるお姉さんだ。ありがたい。
 私はパタパタとフリンズさんに駆け寄ると、彼は漏れ出ていた炎を納めてくれたようだ。よ、良かった……助かった。
 刻晴さんとキィニチさんが、屋上から降りていくのを見送ってから、私はフリンズさんへと振り返る。残念ながらここから下りるには、彼にまた抱えてもらわねばならないのだが、このタイミングでお願いするのは、少々気恥ずかしい。いやでも、頼むしかなくて……

「フリンズさん、おねが……――
「僕はとても、心配したのですよ?」

 抱えるとは異なる形で、フリンズさんの腕の中にきつく閉じ込められてしまった。……でもまぁ、今回は私が悪かったから、なぁ。
「心配かけてすみませんでした。今後気をつけますね」
 そう言って、腕を彼の背中に回してポンポンと優しく撫でた。すると、彼が腕を少しだけ緩ませてくれたので、上を向くことができた。
 へへっと笑いかけると、フリンズさんも目元を緩ませてくれたようだ。少し過剰ではあるが、彼の心配は、私にとっても心地が良いものなのだ。なのだが――
 
「やはり、どこかに閉じ込めておくべきでは?」
「それは勘弁してください! 仕事できません!」

 ふふっと彼は笑いかけ、私を横抱きにかかえてくれた。突然の浮遊感にフリンズさんの首に手を回すと、彼は私のおでこにキスを一つ落とす。
 …………え? と思って顔を上げようとしたのだが、その瞬間に更なる浮遊感――屋上からの飛び降り――が発生して、私はそれどころでは無くなった。

 

「それで、結局どうなったの?」
「ひとまず現状のままですよ。まぁ、送迎サービスは過剰になりましたけど」
「何言ってるの、それは予想済みよ」
……刻晴さんってエスパーなの?」


『僕を、あまり心配させない方が良いのでは?』