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千代里
2026-04-21 08:27:34
7794文字
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千影とシリルの話
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【オリジナル創作】ネモフィラの話・2話【千影とシリルの話】
シリルがメアリーにリボンを渡した、その数日後。再び千影は、屋敷の中では聞き慣れない喧騒に耳を侵略されることになった。
シリルが通いの医師の診察を受けている間、彼が戻ってくる間に書斎の片付けと掃除でもしておこうかと、千影はそちらへ向かっていたところだった。
男性の上級使用人ーー執事や家令がいないこの邸では、シリルの居住空間を整えているのは、最近では千影の仕事となっていた。屋敷の主人を支え、時に彼らの業務の補助すら行うような上級使用人は、隠居同然の若君しかいないこの屋敷には不要だと、家のものに判断されたらしい。
閑話休題。
自分の仕事に向かう途中で耳にした喧騒は、今回は明確に剣呑な空気を孕んだものだった。
「誰かが叱られているんだろうか。珍しいな」
珍しいと言っているのは、叱責されることではない。
仮にも雇い主のいる階段上で、大声を出していることの方だ。
自分でもはしたないとは思いつつも、千影は声のする扉の前で足を止めて耳を澄ます。たしか、ここは客間の一つだったはずだ。普段は使われていないが、放置するわけにもいかず、定期的に掃除が入っており、ごく稀にやってくる客人が泊まる際の宿にもなっている。
「私は、昼までにすべての部屋を掃除するように言いつけたはずです。なのに、まだ終わっていないとは、どういうことですかっ」
嵐のような早口でまくしてられた言葉の雨霰に、思わず千影は自分の首を亀のように引っ込めてしまう。なぜなら、叱責の主が、メイドたちを束ねるハウスキーパーことミセス・スポットだったからだ。
叱られているメイドの誰かは、小声で何か返答したようだが、すっかり恐縮しきっているからか、声は全く聞こえなかった。
(スポットさんって、正論で畳み掛けてくるから、言い訳とか誤魔化しがしづらいんだよなあ)
彼女は、千影のこともシリルの従僕として見なしているためか、ことあるごとに千影に『使用人の心構え』を叩き込もうとしていた。そのうえ、千影が純粋な西洋人でないと分かると、時折り何か卑しいものでも見るような視線で睨みつけてくるのだ。シリルの身辺に怪しい者を彷徨かせたくないと、彼女なりに心配しているのだろうが、睨まれる側としてはたまったものではない。
そのせいで、たった数ヶ月の付き合いなのに、千影はすっかり彼女に苦手意識を持ってしまっていた。
叱られているのが誰かは知らないが、ここは何も言わずにおとなしく引き下がろうかと思ったときだった。
「
……
落とし物を探していた? まあ、仕事の最中に私ごとにうつつを抜かすなど、いつからお前は上流の皆様の仲間入りをしたのでしょうね、メアリー・ベイカー!」
スポット夫人が最後に放った呼びかけに、千影はハッとする。
よりにもよって、彼女が叱り飛ばしているのは、近日中にここを去る予定の花嫁こと、メアリーのようだ。
「シリル様が私たち使用人に甘いからと言って、彼のご厚意に甘えて私たちの本分を忘れるようなことがあってはなりません。この体たらくでは、あなたの紹介状を取り上げるように、若様にご忠告差し上げねばなりませんね」
「ま、待ってちょうだい、ミセス・スポット! すぐに、すぐに客間の掃除を終わらせて、それから仕事に戻るから!」
「その話し方を直しなさいと、いつも言っていたはずですよ、ミス・ベイカー。あと数日でこの館を去るからと言って、そのような汚らしい言葉を若様の耳に入れるのは、私の目が届くうちは許しません!」
彼女が言うところの「汚らしい言葉」を、シリルは数日前に結構な量を聞いていたのだと知ったら、彼女はなんと言うだろうか。
千影はちらと思ったが、そのようなことを言ったら火に油を注ぐ結果になるのは目に見えているので、もちろん黙っておくつもりだ。
そうでなくとも、この手の年配の婦人が誰かを叱っている最中に、余計な口出しをするのは自分の方に矛先が向けられる結果になりやすい。
君子危うきに近寄らずと、故国の諺にもあったではないか。
(だけど、裏を返せば、もしここで誰かが割って入れば、夫人の矛先はその誰かに向けられるってことだよな)
千影は扉に手をかけ、わざと大きな音を立てて開いた。
扉が開くか開かないかのうちに、スポット夫人がこちらをぎろりと睨んだのがわかる。
「おや、何の用でしょうか、千影様」
「少し、ただならぬ気配のやりとりが聞こえたものですから。そのようなやり取りを、シリル様の耳に入れるわけにもいかないと思いまして、様子を見に来たのです」
スポット夫人は、感情的になると周りが見えなくなる傾向があるらしい。だが、同時に、彼女は自分の使用人としての立場を厳しく弁えている人物でもある。
本来、雇用主がいつ通るかもわからない場所で、使用人を叱り飛ばすものではない。やるなら、使用人たちの主たる仕事場である地下で行うべきだ。
暗に千影にそう指摘されて、真っ赤になっていたスポット夫人の顔が一部青に染まる。紫のまだら模様になった顔で、何か彼女は言いたげにしていたものの、
「
……
メアリー。あなたは早急に掃除を片付けて地下に戻ってくるように。アンナ。いつまでもぼーっと見ていないで、あなたも持ち場に戻りなさい」
メアリーが叱られている間、彼女の様子を恐る恐る見守っていた赤毛のメイドは、小さく何度も頷きを返していた。
スポット夫人はそれでひとまず満足したのか、千影の横を通って部屋を出て行こうとする。その途中、彼女の足が千影の横でぴたりと止まった。
「立ち聞きをするなど、東洋の鼠は行儀が悪いと思いませんこと?」
「
……
そうですね。失礼な鼠に代わって、謝罪します」
ここで自分を鼠と認めるわけにはいかないので、千影はまるで無関係であるかのように装いながら返答する。
スポット夫人は千影をじろりと睨んでから、今度こそ部屋を出て行った。
監督役が室内からいなくなり、ふうと大きな息を吐く音が千影の背後から聞こえた。メアリーとアンナが、互いに顔を見合わせて吐いたため息の音だった。
「メアリーさん。何か落とし物をされたと聞こえたのですが」
取り繕っても仕方ないと、千影は未だ憂いを顔に滲ませているメアリーに尋ねる。
だが、仮にも客人の千影に話すのはどうかと思ったのか、彼女はしばらく口篭っていたが、代わりに隣のアンナが千影へと話してくれた。
「メアリーは、この前買ったリボンをどこかに落としちゃったみたいなんだよ。まだ新品の青いリボンなんだってさ。メアリーが結婚するから、この屋敷から離れる予定だったってこと、あんたは知ってるかい?」
「ちょっと、アンナ!」
「いいじゃないか。だって、千影はあたしたちを助けてくれたわけなんだし」
アンナのざっくばらんとした話し方を聞いたら、スポット夫人は卒倒したか、大量の雷を落としただろうが、あいにく彼女はここにいない。
アンナは裏表のない性格の人物らしく、千影にも最初から話しやすい口調で語りかけてくれた。
「メアリーはさ、結婚式につける予定に買ったリボンを無くしちまったんだよ。大事な式に使うやつだから、探しながら掃除してたら遅くなって、それであの人はおかんむりってわけ」
「なるほど。そういうことだったんですね」
話しながらも、ちらりと千影はメアリーへと視線を送る。
メアリーがすっかり恐縮しきった様子を見せていて、やや顔が青ざめているのは、ただ落とし物をしたからではない。敬愛する主人から戻った、大事なリボンを紛失してしまったからだろう。
メアリーにとっては、自分の持ち物をただ無くした以上の衝撃だったはずだ。
「ですが、探しながら掃除をしていたら、お二人の仕事が遅くなって、また叱られてしまいます。かといって、関係ない時に階段上に来てもらうわけにもいかないですし
……
」
基本的に、使用人は用もないのに階段上ーーいわゆる、客間や居間、廊下、書斎のような雇用主の住空間にいるべきではないとされている。
彼女、彼らの仕事場はあくまで階段下ーー地下が主だ。
シリルはかまわないと言うだろうが、ハウスメイドが用もなく雇用主の生活空間を彷徨いていたら、またぞろスポット夫人に叱られてしまうだろう。シリルとて、紹介状の取り消しを本当に考えなくてはいけなくなってしまう。
そこまで考えてから、千影は思いつく。
丁度、階段上を自由に動ける人物がここにいるではないか。
「それなら、俺が探しておきますよ。青いリボンなんですよね?」
「は、はい。千影様に、お願いしてもいいかしら」
「ええ。そのような物が見つかったら、すぐにお知らせしますね。すみませんが、メアリーさんが普段掃除している場所を教えてもらえますか?」
「わかりました。私も、後で私の部屋をもう一度探してみるわ」
笑顔で請け負って、早速メアリーから彼女が行った覚えのある部屋を教えておもらう。教えてもらった仕事場を、さてどう巡るかと千影が考えていると、
「やっぱりさ。メアリーのリボン、妖精が隠しちゃったのかな」
ふと、アンナの発言が耳に引っかかった。
「妖精、ですか?」
「あれ、千影は知らないの? ここって妖精の王冠邸って言うじゃない」
「それは知ってますよ。小さなお屋敷と、ぐるっと円形に広がるお庭を指して、そう呼んでるんですよね」
緑豊かな地域を象徴するかのように、屋敷の庭は通いの庭師によって様々な草花が植えられている。千影も、シリルに誘われてよく散策をしていた。
中央に建てられた屋敷は、まるで庭からそのまま生えてきたかのような風情があり、それらを含めて、王冠と呼んでいるのだろうと千影は思っていた。
だが、アンナは「それだけじゃないんだなぁ」と嬉しそうに言う。
「実は、この辺りには本当に妖精がいて、ここは妖精たちの遊び場なんだって! たとえば、鍵束から鍵が一本だけ無くなって、行ったこともないワインセラーの片隅にあったり、箒が箒置き場から無くなった箒が池に浮いてたりってね」
「でも、それ、結局は置き忘れとか、子供のいたずらだったって話でしょ」
メアリーは現実的な見解を示すが、アンナは妖精説を翻す気はないらしい。退屈なハウスメイドの仕事の中で、職場に広がるお伽話も、堅苦しい生活の程よい刺激になっているようだ。
「妖精は悪戯好きだから、メアリーのリボンもどっかに隠したのかもね。でも、いつもどこかで見つかってるから、そのうち思いがけないところで発見できるかもよ」
「それって、単に私がどこかに置き忘れたってことでしょ?」
「いやいや、だから妖精の仕業なんだってば。あわれ、メアリーは妖精と手を取って、おとぎの国に連れて行かれてしまうのであーる
……
ってね」
芝居掛かった言葉を朗々と謳うアンナに、メアリーは「もうっ」と彼女をつつく。だが、その小芝居めいたやりとりのおかげか、メアリーの顔は先ほどの沈鬱なものから幾らか明るいものになっていた。アンナはアンナなりに友人を励ましたかったようだ。
「じゃあ、俺は妖精がものを隠しそうなところも探してみますね。そうなると、庭も探したほうがいいかな」
「お使いのために、庭にも出たことはあるから、できればお願いするわ」
メアリーから現実的な後押しももらったところで、千影は二人を仕事へと送り出した。
屋敷中を探し物をしながら巡るとなると、少々時間がかかるだろう。それに、人手は多ければ多いほうがいい。事情を知っているものなら尚更だ。
「だから、シリルには伝えたほうがいいとは分かってるんだけど
……
やっぱり少し気が重いな」
メアリーと楽しげに語り合っていた友人の横顔を思い出し、千影はどうやって切り出したものかと思案したのだった。
***
「リボンを無くした?」
「ああ、本人がそう言っていたんだ。詳しく聞いたら、屋根裏部屋の自室に置いてある荷物の中に確かに置いたのだけど、と」
メアリーは、贈り物のリボンをまるで宝石でできているかのように丁重に扱い、毎晩寝る前に、サムシングフォーとしてアンナから借りたハンカチと共に一つの袋の中に入れて仕舞っていたそうだ。
しかし、昨晩いつものようにサムシングフォーたちを確認しようとしたら、そこにはハンカチしかなかった。慌てて荷物をひっくり返してみたものの、あの艶やかな絹のリボンはどこにも見つからなかった。
念のため、部屋中を探したが、もとより屋根裏の小さな部屋だ。探す場所などすぐになくなってしまう。
そうして焦燥に駆られたメアリーは、きっとお仕着せにリボンが何かの弾みで引っかかり、仕事の最中に落としたのだと考えた。今朝のスポット夫人の雷は、気もそぞろに探し物をしながら仕事をしていたメアリーを見抜いてのものでもあった。
「俺の方でも主だった部屋は探したんだけど、見た限りはなかったな」
「青のリボンなんて、床に落ちていたら目立つだろ。見逃しているとは思えないが
……
」
そこまで話してから、シリルは「もしかして」と一瞬呟き、だが何かを否定するように首を横に振った。
「思い当たることでもあるのか?」
「質が良いものだから、誰かが盗んだんじゃないかって思うところだろ。
……
でも、リボンを欲しがるような年頃の女性なんて、今ここにはアンナくらいしかいないはずだ」
「彼女が盗んで隠しているというのは、ちょっと考えにくいな」
そういう性格には見えないと付け足すと、シリルもアンナの態度を知っているからか、口元を釣り上げておかしげに笑って見せた。彼女には盗みや犯罪のような湿っぽい話題がこれっぽっちも似合わない。
「暗くなる前に、一度庭を見てこようと思っているんだ。シリルもついてくるか?」
「そうするかな。一日に一度は外に出た方がいいって、医師にも言われたし」
そうは言うものの、シリルの口ぶりからは医師への尊崇の念などは感じられない。彼にとっては、何年かけても足の不調を治せなかったのだから、その不信も仕方ないことではあった。
コートを彼に着せながら、千影は尋ねる。
「もし、リボンが本当に見つからなかったら、どうするんだ? もう一つあげるのか?」
「俺は別にそれでいいんだが、多分メアリーは貰わないだろう」
推測ではなく、どこかきっぱりと断言してみせるシリルに、千影は不思議そうな顔をする。
「あれは、メアリーにとっては簡単に手が出せる値段のものじゃない。少なくとも、メアリー自身はそう思っている。そんなものを無くしてしまったんだ」
「
……
次もまた失くしたらって思ったら、無邪気に『もう一回ください』とはならないか」
メアリーとシリルは千影と大して年も変わらないはずなのに、まるで何十歳も歳を経た者が持つ、独特の一線を引いているように思うときがある。それが、この国のしきたりが培ったものなのだとしたら、千影がそれを身につけられる日は当分来ないだろう。
「次に会う機会があったら、一応聞いてみる。でも、こうなると俺から何かもらうことすら、遠慮しそうだな」
メアリーの性格ならそうしても不思議ではないと、千影も俯く。そうなると、アンナが話していた無邪気な噂話の犯人すら、どこか憎らしく思えてくる。
「本当に妖精が隠したなら、さっさと返してほしいところだな」
その瞬間、手袋を直していたシリルの手がぴたりと止まる。
「
……
妖精?」
「ああ、アンナさんが言ってたんだ。この館には妖精が出て、時々悪戯をするから、リボンも妖精に隠されたんだろうって」
子供に聞かせるようなお伽話だが、どこか浮世離れしたこの屋敷の中では、それすらもどこか真に迫った話に聞こえる。
とはいえ、お伽話はお伽話だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「それは、アンナが言ってたのか?」
ステッキを手に、シリルはぐるりと体の向きを変えて千影に迫る。彼の手は、首元に結んだタイの上にある何かを握りしめていた。
「あ、ああ。でも、メアリーが落ち込んでいたから、揶揄って励ましている感じだったけど」
「
…………
」
何か思うことがあるのか、シリルの顔色は先ほどよりも悪い。口元に手を当て、何か言おうとしたとと同時に、その言葉を全て封じ込もうとしているようだった。
「何か、気になることでもあるのか?」
「いや
……
なんでもない」
だが、言葉とは裏腹に『何かある』ことぐらいは、千影にもすぐわかった。しかし、だからといってあれこれ探り合いをするほど、千影とシリルの距離はまだ近くない。
代わりに、千影はシリルが握りしめて皺が寄った手袋の上から、彼の指を解いていった。もし素手が見えていたら、彼の手は力がこもりすぎて真っ白になっているだろう。
「そんな風に、力を入れすぎると怪我するぞ。ああ、ほら、皺が寄っている」
「あのなあ。お前は俺の乳母かよ」
ようやく、シリルの顔色がいつもの様子に戻っていく。それを確かめながら、千影は彼の身なりを軽く整えた。
解いたシリルの手からこぼれ落ちたのは、普段から彼が身につけているペンダントだ。千影がシリルと初めて出会ったときから、ずっと肌身離さず身につけているので、千影にも見覚えがある。
透き通った青い石がはまっただけの、装飾も最低限のもので、貴族の身につけるものとしては簡素な作りだったが、それでも、これだけで相当な値打ちものなのだろう。
「大事なものなんだろう? そんな風に握りしめたら壊れるよ」
「大事なものって
……
俺、お前にこれのこと話したことがあったか?」
「いや、ないけれど。でも、いつもつけているから、大事にしているんだろうってことぐらいは分かるよ」
千影のもっともな指摘を受けて、ようやく自覚したのだろうか。シリルは手袋に包まれた指先で、青い石の表面に触れた。
その様子が、単に貴重品を触っているだけのものとは思えず、
「
……
ごめん。もしかして、嫌なことを言ったか?」
あるいは、言い回しがよくなかっただろうか。いまだに適切な単語を選べているか自信がない身として、千影は続く言葉に舌を迷わせる。
シリルはゆっくりと首を横に振り、
「そういうわけじゃない。確かに、これは大事なものなんだ。こっちに来る時に、母上に渡された。『肌身離さず持ち歩いているように』って」
「じゃあ、やっぱり大事なものなんだな。シリルのお母さんから渡されたお守りってことか」
「お守り? ああ、護符のことか?」
「あっているけど、少し違うと思う。故郷では、よく、親子とか友達同士で、無事に過ごしてくださいって思いを込めて渡したものを『お守り』って呼んでいた。そのあたりの石ころだって、気持ちがこもれば『お守り』になるんだよ」
「ただの石なのに?」
「そうだよ。シリルがメアリーに渡したリボンだって、ただのリボンだけど、幸せになるためのおまじないに必要なものだったんだろう?」
その説明を聞いて、シリルにもピンときたらしい。再び首元のネックレスを指先でいじってから、何かを吹っ切ったように顔を上げた。
彼が、自分に預けられた母のお守りに何を思っているのか。その全てを問う日が来るかはわからない。だけれど、できればそこには優しい感情があってほしいと、千影はそう思うのだった。
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