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tokanon
2026-03-05 09:33:26
2313文字
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ろささ超大前提優しい左馬刻の話
左馬刻絡みのろささは好きですごめんなさい
「う〜、あだまいだい
……
さまときぃ、みず」
「ああ? 俺様に指図すんじゃね
…
」
「うんうんハイハイ、雨止んだらお兄さんがヨシヨシしたるから、ほんまあかんねん
…
薬のみたい
…
」
急な雨が降ると簓はこうして体調を崩す。滅多に外に向けて本音を見せない男だ。子分たちがいる前では普段と変わらず振る舞っているし、仕事にも差し障ることはない。それでも俺と二人の時には、時にこうして素直に弱みを見せることがある。
「ほらよ、薬ってこれでいいのか? ちゃんと座って飲めや」
「おん
…
ありがとサンキュー有休もろキュウ
…
」
甘えたように開く唇に白い錠剤を押し込み、力の入らない手に、キャップを開けた水のペットボトルを渡してやる。白い喉がのけぞり、嚥下に伴ってこくりと上下した。
「寝とけや、どうせ今日はもう誰も入っちゃこねえ」
「う〜、ほんますまん、梅雨あかんなやっぱ」
心なしかいつもよりボリュームをなくした緑の頭を引き寄せて、自分の膝に載せる。簓は素直にソファに横になって目を閉じた。雨が苦手な理由を、簓は話さない。俺も聞いたことはない。どうせおしゃべりなコイツのことだ、いつか話したくなれば自分から話すだろう。
「ふひひ、左馬刻ってなんやオカンみたい、ママトキや、やさし〜
…
」
「アホが、たたき落とすぞ」
「ひょえ〜ご勘弁を〜!」
笑い声に合わせて膝の上で緑の髪が揺れる。タバコを咥えライターを手に取ったところで一瞬迷って、そのまま机に投げ出した。膝の重みが増し、触れた体温が高くなっていく。手持ち無沙汰に跳ねた緑に指を絡める。穏やかな寝息は、雨の音にかき消されて俺の耳には届かなかった。
◇
「まあまあまあ、左馬刻くんも飲みぃや、DRBんときは世話になったなあ」
「せやせや、せっかくオオサカまで来てくれたのに狭い部屋で悪いけど」
「いや俺の部屋や!いっつも勝手に上がり込んで狭い言うなや!」
たまたま仕事で訪れたオオサカで二人と出会い、あれよという間にこの部屋に引き摺り込まれた。すでにかなり街で飲んでいたらしい二人は相当出来上がっている。すぐに帰っても良かったが、こちらもどうせどこかで飲み直すつもりだった。“ええ酒があるんや!”と誘い文句にされたウイスキーは確かに華やかな味わいで、ペラペラ軽快にしゃべり続ける懐かしい声を肴に飲むのは嫌な気分ではなかった。
「ほんでな〜、その時何と巨大なワニが背後から
…
うわっ! なに、停電
…
あら、ついた」
一瞬だけ部屋の電気が落ち、一、二秒してまた蛍光灯が瞬いた。半端に開いたカーテンの向こうから時間差で大きな雷の音がして、ほどなくざんざかと雨がアスファルトを打つ音が響く。
「あちゃ〜カミナリや! 天気予報晴れやったんに、この時期多いなあ。あれ盧笙センタク干してへんかった?」
「ええ、ええ、大丈夫や〜ささらぁ、止んだらどうせまた乾くねん〜三日濡れても一日で乾くからな」
「うひゃひゃ、雨垂れ柄のシャツになんで!無地がストライプになってストライク〜!」
「いやハンシンのユニフォームちゃうねん!」
くだらない会話の応酬を流し聴きながら窓の外に目をやる。安アパートの狭いベランダなんて通り過ぎた雨がバチバチとガラスを直接叩く。梅雨もまだ明けぬ六月だ、イケブクロにいた頃にもこんな雨の日があった。ハタと気づき、割り材用の水のペットボトルに手を伸ばした。
「簓、お前雨ダメだろうが、あたま
…
」
「おん?」
簓の顔がきょとんとこちらを見た。ゆるく弧を描く瞼のラインはむしろいつもよりも楽しそうに下がり、ゆるんだ頬はあの頃よりも少しだけ丸みを帯びている。
「ささら、雨苦手なんか?」
酔っ払いの教師が心底意外そうに呟いた。何を言っているのだと訝しんでその顔を見る。簓の相方、簓を置いていった男、そして今の簓が最も信頼を寄せる相手。どこかで見たような赤い瞳はアルコールでさらに赤く溶け、間の抜けた丸メガネは押し上げられて頭の上にある。誰よりも簓のそばにいることを許された男が、簓のことを知らないはずはないのに。
「あっ、ろしょー!ろしょーメガネないで!どしたん?」
「ああ?メガネ、ほんまや、メガネメガネ
…
どこや」
「大変!目ぇ見えんくて3の字になっとるで、のび太くんや」
「いやダテや2.0の視力でしっかりはっきり見えとるわい!」
「はいはい、メガネ頭の上やで、ちゃんとないないして寝落ちしぃや」
赤い目をした男は大事そうに頭のメガネを外して畳み、そのままちゃぶ台に突っ伏してイビキをかき出した。大きなイビキに雨の音は気にならなくなる。
簓の指が、乱れた紫の髪をゆっくり梳いた。薄く開いた瞳の色は、俺の知らない色に優しく揺れている。
「あんな、もう大丈夫やねん、俺」
ポツリと部屋に落ちた呟きは、すぐにイビキの音にかき消されてしまう。簓は吹き出して、ロショーのチョーカーに指をかける。大切なものを傷つけないように扱う仕草には、俺にも覚えがあった。そういうことだ。
「オオサカは雨降んねぇんだな」
「おん! オオサカの空は1000%快晴やで!」
簓の声には曇りがない。翳らない太陽を、この男は自分の手で取り戻したのだ。
これ以上タバコも吸えない部屋に用はなかった。たまには知らない街を濡れて歩くのも悪かねえだろう。グラスに残った酒をゆっくり煽って、狭い部屋に別れを告げる。
傘を押し付けようとする簓に軽く手を振って外に出た時には、もう雨は止んでいた。雨の匂いだけが残る街で咥えたタバコは、シケった空気に時間をかけて、ようやく小さな赤い火を灯した。
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