syanpon
2026-04-21 02:11:48
2773文字
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公私で分けてたお前が悪い

オトスバ
オフィスパロ

「やっぱりさ、公私混同は避けるべきだと思うんだよね」

 4人は余裕を持って座れるであろうソファに体の半分をオットーに乗り上げる形でぎゅうと腕に絡みついたスバルはそんなことを力説した。すりすりと頭をオットーに擦り付けているその動作と言葉が噛み合わずオットーはつむじの見える短い黒髪をとりあえず撫でてみた。風呂上がりのあたたかい体はお揃いのシャンプーの匂いがふわりと香っている。

「オットー聞いてる?」
「聞いてますよ。ナツキさんが変なことを言い出すのはいつものことです任せてください。慣れてますから」
「おい、流すな。恋人の言うことを右から左に受け流すな持ち帰って検討しろ」
「はあ……
「やっぱり一緒の職場になったら部署は違えど社内恋愛になっちゃうわけじゃん。先輩と後輩なわけじゃん。だから職場ではお互い適切な距離でいようぜって話」
……むりでは?」
「オットーが? お前俺甘やかすの大好きだもんな。でもそこは耐えてくれ!」

 まるで自分は分別がついた人間で、オットーが欲の制御ができない獣だと言いたげな口ぶりのスバルの頬をむいとつまんでひっぱり伸ばす。本当にオットーが堪え性のない男であったら明日が入社式であろうが無防備にひっついてくる恋人を頭からペロリと食べてしまっていることであろう。

「まあ言いたいことはわかりました。――それで今日はナツキさんもいつもより甘えん坊ですが」
「んー」

 曖昧な返事を返したスバルはオットーの腕から離れ、膝に乗り上げてくる。正面からぎゅうと抱きつかれ、それに応えるようにオットーは彼の背中に腕を回した。

「オットーの充電中」
……はあ」
「お風呂入っても煙草の匂いって消えねえのな」
「え、くさかったですか」
「んにゃ、コレも含めてお前の匂いだから結構すき」

 胸元に猫のように擦り寄って幸せそうに笑う髪に口付ける。

「今頭にちゅーした?」
「しましたねえ」
「ん! 口にも! そんでもってこのままベッド運んで添い寝して」
……はいはい」

 ――本当にスバルはオットーが堪え性のある人間であることを感謝すべきであると思う。

 ***

 めでたく同じ会社になったはいいもののスバルは営業でオットーはシステムエンジニア。部署が違えばなかなか会うことはない。たまに昼食が一緒の時に食事を共にするくらいだ。だからこそスバルが入社して早々に期待の新人ともてはやされている事実にほんの少しだけ頭が痛い。
 絶対にどこかで大きい揉め事に巻き込まれるに違いないぞあの人。根拠は高校から今までで指の数じゃ足りないほどだ。

「最悪部署の異動願いを出しますかねえ……
「スーウェンさん何か言った?」
「いえ。煙草休憩の後の仕事のことを考えていました」
「ははは……。今日は終電までに帰ろうな」

 同僚の死んだ声をBGMにトントンと煙草の箱を叩いて一本取り出し火をつける。オットーは喫煙家であり辛党でもある。スバルには「酒とタバコって嗜好品の役満やめろよ」なんて顔を顰められることも少なくはないがどちらも節度を守っているので許して欲しい。
 ……へべれけになっても一人で家に帰れたらセーフだろう。

「あれ、スーウェンさん煙草二つ持ち? うわ、赤マルだ」
「ああ、これは家で吸う方です。職場はこっちの軽い方」
「げえ〜、赤マルなんて吸ってたらそんなん吸ってるうちに入らないんじゃないです?」
「ははは……

 オットーは喫煙家であるが職場での煙草はただのコミュニケーションの手段の一つでしかない。喫煙所という狭い空間でしか得ることができない情報があることを知ってるが故のパフォーマンスである。そのためここでの煙草に嗜好の目的は存在しない。肺にまで煙を吸い込まず適当にふかしていると私用の携帯のメッセージアプリに通知が入る。

――僕これ吸い終わったら一旦お昼もらってきますね」
「スーウェンさんが昼ちゃんと食べるの珍し!? いや、なんか新年度から増えましたよね」
「健康に気を遣ってると言ってください!」

 ***

「ナツキさん」
「オットー! こっちこっち!」
「おや敬語はいいんですか?」
「あ! …………スーウェン先輩」
「なんか変な感じですねえ」
「揶揄うな……わないでください!」

 名字で呼んでくるのも下手くそな敬語を使っているのもこれはこれで新鮮で面白いが1ヶ月も経たないうちにここまでボロが出ているとなるとスバルの言う先輩後輩の分別は3ヶ月もてばいい方なんじゃないだろうかと思ってしまう。
 オットーとしても公的な場でなければいつものテンションでやってきてくれた方が嬉しいし。そんなことを考えてながらスバルのもとに足を進めれば手を振っていたスバルの腕がピタリと止まる。

「ん?」
「どうしました?」
「ん? んん……?」
「どうしたんですか……って、な、ナツキさん!?」

 すんすんと鼻を鳴らしていたスバルはそのままオットーの懐に潜り込んでくる。そのまま腕がオットーの背中に周りオットーは人目も憚らず大胆な行動をしてきたスバルに対し素っ頓狂な声を上げながら両手を降参するようにサムズアップ。時間にして10秒か――体感だとそれ以上であったが満足したのだろうスバルがオットーから体を離して首を捻る。

「なんかオットーいつもと匂い違わない?」
「え?」
「なんかちょっとメンソールみたいな……? んん……?」
「わー! もう一回嗅ぎにこないでください! 煙草! 煙草の匂いですよそれ絶対!」

 再度サムズアップ。慌ててそう叫べばスバルは背伸びをしてオットーに、顔を近づける。

「え、浮気?」
「浮気!?」
「こんなに煙草の匂い移るくらい近くにいたってことじゃねぇの?」
「違います! 僕が職場で吸ってるやつですほら!」

 ぽんとスバルの手に二つのタバコの箱を乗せてやる。しばらくその箱をまじまじとみてスバルは肩をすくめた。

「まあ浮気じゃないならいっか」
「するわけないでしょう。ナツキさんじゃあるまいし」
「はぁ〜!? むかついた! オットーお前今日午後からジャケット交換しろ!」
「なんで!」
「それ着て挨拶回り行ってやる!」
「動機が不明すぎるしジャケットだけデザインスーツなんてあんたまた悪目立ちしますよ……う、うわー! 追い剥ぎ!」
「ふはは! え、袖長いオットーのくせにムカつくな」

 ――3ヶ月も持たないと言ったがあれはちょっと長すぎたかもしれない。オットーの匂いを纏って嬉しそうにドヤ顔をする年下の恋人を視界に収め、ため息をつく。

 お揃いのお弁当箱を開けてここが社員食堂であることを思い出すのはこの5分後だ。