幸希(ユキ)
2026-04-20 01:40:13
3622文字
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器の中に満たすもの

むっちゃん視点。独白に近い。
2ページ目着地点見失った。私が自分の情緒把握しきれずに半分暴走したせい。面倒くさい事やってる自覚はある。






「いた………っ!」

どん、と強めの衝撃が背を打つ。昼過ぎに畑へ出てから、あれこれと出てきた雑務を片しよったら随分暗くなっちょった。

「おおの、主?」
………。」

力一杯しがみつく主。呼び掛けにも答えん。

「(震えちゅう?)すまん、ちくと抱えるぜよ。」

半ば無理やり引き剥がすようにして身体の向きを変え、正面から主を抱えた。主はといえば、襟元を引っ張るように思いきりしがみついてくる。

「なんぞあったかえ。」
……。」

ふるふると首を振るばかりで答えない。はくはくと口は開くものの、そこから音が紡がれる事はない。時折うっすらと開けられる目は怯えるように揺れていた。

(これは)

揺らさぬようにしっかりと抱えて私室に向かう。多分だが、自分の思いと現実との解離で焦ってる。自分の手が及ばない事を怖がっている。
部屋に着けば、縮こまる主を胡座の上で抱え込んだ。

「焦っちゅうがか。」
……。」
「焦ってもどうにもならん。時間に任せるしかないがよ。主の“こうしたい”が仮に今すぐ叶わんでも、気持ちが落ち着けばちゃんと届く。大丈夫じゃ。」

頭を撫でながら言うが、またふるふると首を振られた。

「ちがう。」
「ん?」
「あなたからはなれるの、やだ。かわりたくない。大事なのに!」
……。」

細く「やだ」と繰り返す。息が浅い。

「落ち着きや。大丈夫じゃ。」

背を撫でて落ち着かせる。何に嫌と感じてるかは何となく分かった。それが焦りの原因なのも。

おまさん真面目やきね。」
「ん。」
「勝手しゆうと思うて、自分が嫌になってしもうた?」
「ん。」
「おまさんはなぁんも悪うない。それほどに負担を与えゆうもんがいかん。おまさんは今必死に自分を守って、治そうとしゆうだけ。そこにわしを入れ込めんからと焦らんでも大丈夫じゃ。」
「でも
「ちくと離れたくらいで、わしのおまさんが大好きちゅう想いは少しも変わらん。もらえんから想わん?ほがに馬鹿な話があるろうか。おまさんが心を差し出せんほど弱っちゅうなら、わしがその分差し出す。」
「それはフェアじゃない!」
「いや?フェアじゃ。わしが振り向く前から、おまさんはずっとその心をくれちょった。おまさんがくれた愛情は、わしのここにある。それを同じくらい返しちゃりたい。」
……。」

まだ顔は晴れない。一方的なんじゃないかと躊躇っている。

「ヒビの入った器に水を注いでも、ヒビから水はこぼれて溜められん。おまさんは今そういう状態じゃ。焦らんでえい。1人で治すのが難しいがやったら、一緒に治せばえい。不安やったらこういて抱き締めちゃる。受け取らんでもえい。ただ、わしが思うとる事に耳を傾けてくれたら、そんでえい。」
「でも!」
「万が一おまさんが離れてしまうがやったら、何度でも惚れ直させるだけぜよ。」
「!」

バッと俯かれていた顔が上がる。

「たったこればあの事でおまさんを諦められるほど物分かりよくないがよ。」
「なに、それ。」
「わし、強欲やきね。」

やっと泣き笑いのような顔になって、襟元を掴んでいた手が緩んだ。

「しわいかもしれんけんど、焦らんでえい。助けを求めてかまん。1人で無理やったら、みんなでやればえい。今は、自分優先での。いつまででもわしは待っちゅうきに。」
……いいの?」
「かまんきかまんき。おまさんがまた笑うてくれるがやったら、それが1番じゃ。嫁さん支えるのが旦那の役目、じゃろ?」
面倒な事してて、ごめん。」
「えいえい気にしな。」

全身から力が抜けて、主がくたりと凭れかかってくる。本人的には同じような想いを持てない現状が、対等でないと思って辛いのだとは思うが、だからと無理して想い続けて心を壊してしまったら意味がない。

(けんど、これ言うたら不謹慎なんじゃろうが)

それを心配するほど、主はわしを慮ってくれゆう。そう思うとやっぱり愛されてると感じる。

「むっちゃん。」
「ん?!」

呼ばれて主の方を向けば、唇に触れる柔らかなもの。リップ音と共にすぐに離れていく。

「   」

音無く紡がれたそれ。分かった瞬間もう辛抱堪らんくて、抱き寄せてわしから口づけた。






好きじゃ。大好きじゃ。心からおまさんを愛しちゅうよ。その器が治ったら、どうか満ち足りるほどにこの想いを注がせとうせ。