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HAZURE_Mapo
2026-04-19 22:23:31
3181文字
Public
追憶
ガスロラ(ガス→ロラ(→ベラ))です。
捏造設定ありますのでご注意ください。
「
……
ここはもうお終いね」
目の前に広がる故郷の地。
無惨にも、焼け野原が広がっていた。
人はいない。自分達の他に誰も。
ただ眼下に在るのはかつての原形を留めていない瓦礫と焦げた匂い。
街からかなり離れた丘にいるというのに、燻り続ける残骸の残り香は彼らの元にも届いていた。
「ロラの家も、ありませんね」
ガストンは静かに言った。
彼女には伝えていた。たとえ行っても何も成果は無い。敢えて言うのであれば、得られるのは虚しさのみだと。
それはロラも覚悟をしていた。前衛として戦う身分ではないが軍に所属している身、こんな廃れた風景は見慣れている。
しかし生まれ育った場所が完膚なきまで消失した光景を目前にし、生家を失ったロラはもちろん、ガストンもやるせなかった。
星の海から侵入してきたスコピアムによって人々の思惑が入り混じりついには分断、故郷の惑星ヴィープスは内戦状態。これを収束させるために地球から軍が派遣されるも寧ろ悪化。彼らの介入はロラ達にとって、滅びの速度を加速させるだけだった。
もうこの惑星に、かつての姿は蘇らない。
生まれ故郷の現状を見て、改めてロラは思った。
隣からの呼び掛けに返事をせずその場にすとんと座り込むと、続けてガストンも腰を下ろす。
ガストンが生まれ育った場所はまた別だが、こことさほど変わらず人一人住めない状態である。ただ話を聞く限り、ロラの方が故郷に対する感情が強い。それは彼も理解していた上で、度々口にしていた事案を投げ掛ける。
「これで貴女も解ったでしょう。もう無理です。留まって抵抗するのは諦めて、他の惑星へ行きましょう」
するとロラはガストンを睨むような眼差しを向けた。
「
……
私にその決断をさせるためにここへ連れてきたの?」
確かに生家の状況を一目見たいと言ったのはロラ自身である。しかしその様に仕向けたのは他でもない、ガストンだった。
この問いにガストンは無言のまま動かない。
ただ悲しさと憎しみが備わった眼からは一寸たりとも逸らさなかった。
互いに何も発しない、沈黙の時間。
ロラは威嚇するかの如く、一方のガストンは慰めるかの如く。
どちらも折れるつもりは微塵も無い。
それなりの時間が経過しても、二人にとって時は止まっているかの様だった。
しかし天候が変わって流れる雲の速度が増した。同時に微風が流れ始めてくる。
張り詰めた空気を漂わせた二人に注がれるのは傍に聳え立つ桜の花びら。
かつて銀河連邦のリーダー格である地球から友好の証にと送られた桜はこの地にしっかりと根を張り、満開の時期になれば名所として有名だった。
時に賑わい、人々の笑顔が絶えない場所だった。ロラはもちろん、ガストンも訪れた事がある。もちろん当時は楽しい気分で。
それが今、奇跡的に戦火を逃れて咲き誇るも花見に来る者は誰もいない。二人の目的もそれとは違う。
盛りの時期を観客がいないまま過ぎた桜は一枚、また一枚と散ってゆく。
ひらひらと宙を舞えば、降り立つのは二人の頭上。
最初は何も思わなかったが、段々と桜色に染まっていく様子にロラが先に、ふ、と漏らした。
「
……
どうしたんですか?」
突然笑みを溢したロラにガストンは訝しむ。
しかしあまりにも真面目なこの一言がさらにロラの笑いを誘った。
「だって、ガストンの髪の毛に桜の花びらがたくさん絡まって全然落ちないの。段々ガストンが桜になっていくって思ったらつい
……
」
口に手を当ててこらえる彼女を見てガストンも乾いた笑いをした後、頭を掻きむしって花びらを落とそうとする。
「これでどうですか? 落ちましたか!?」
「まだついてるわよ。動かないで」
ロラがゆっくり膝立ちになると黒紫の艶やかな長髪から桜の花びらがするりと舞った。
そして癖毛である彼の髪から丁寧に摘んで取り除いていく。
さっきよりもロラが近い。
彼女に好意を持つガストンは腰に手を回して抱き寄せたら彼女はどんな反応をするだろうかと緊張しつつも心を躍らせたが、拒絶される恐怖の方が勝ったため行動には移さなかった。
「はい、全部取れたわ。ねぇ、私にはついてるかしら」
ロラも自分自身が気になるのか、頭上を手で払いながら尋ねた。
「いや、ないよ。全部落ちた」
そう、と軽く返事をした後、また元の体勢に戻って二人は無言になる。
相変わらず遠くの街から流れ着いた焦げた匂いが鼻につく。
しかし桜の匂いが風に揺られて運ばれてきて、淀んだ空気を少しだけ浄化する。
匂いを感じ取ったガストンが横を向くと、さっきとは違うロラの横顔が見て取れた。
悲しさは変わらない、しかし寂しげながらも、吹っ切れた様子が目に写った。
「
……
わかったわ。ここから脱出する。それしか生き延びる方法はない事ぐらい、私だって解ってた」
やっと口にした同意の言葉。
しかしガストンは決断を後悔してほしくないため念を押した。
「
……
いいんですね? きっと二度とここには戻れませんよ?」
「二言はないわよ。それに時勢を間違えたら私もガストンもここで野垂れ死ぬだけ。そんなのは御免だわ。ただ二人だけじゃ心許ないから、誰かあと一人ぐらい一緒に行ってくれる人が欲しいわね。ベランジェ大佐とか」
やはりロラの口から名前が出てきた。恐らく彼女が想いを寄せている張本人。ガストンは嫉妬心が自分に芽生えている事を自覚しつつも軍の階級や信頼等々彼には全く及ばない。だから個人的感情は胸の内に固く閉ざし、あくまで彼女の幸せを優先した。
「大佐とはもう話がついています。けどロラの説得には僕が任されていましたから」
「そうだったの
……
」
根回しされていたとは露知らず、きょとんとするロラにガストンは立ち上がって手を差し伸べる。
「では、善は急げです」
せめて二人きりの時ぐらい、男らしくエスコートしたかった彼の精一杯の背伸びだった。
これにロラは何の思惑かと疑いの目を向けるも、相手はいつもの通り読めない微笑み。
諦めてガストンの手を取り立ち上がると、旅立つべく大佐の元へと足を運ぶ。
ここでも無言で歩く二人。
しかし道中、ガストンが口を開いた。
「ロラ、お願いがあります」
「何よ」
「もし仮にここに戻って来れたなら、さっきの場所で花見をしたいのでお弁当を作ってくれませんか?」
「
……
え?」
理解不能と言わんばかりにロラは顔を顰めても、ガストンはいつもの調子で飄々としている。
「仮に、です。でもこの現状ではそんな事はあり得ない。だから絶対に叶わない約束なら貴女に迷惑はかけないでしょう?」
ガストンはいつもそうだ。調子の良い事を言ったと思えば防御に回る。けど彼なりの気遣いだろう。自分に負担をかけない為の本音を言う。
「
……
いいわよ。でも私は叶う約束しかしないわ」
ロラは小声で言ったがこの言葉をガストンが聞き逃す訳がなく、断られると思い込んでいた彼は予想外の展開となり目が点になる。
「えっ? いいんですか?」
「そのくらい何ともないわよ」
この返事に浮き足だったガストンはもう一つだけ、願いを口にする。
「では他の惑星にもあのくらい立派な桜があれば、その時はお願いしますよ」
「駄目。他の場所じゃ作らないわ」
「
……
ケチくさいですねぇ」
口を尖らせて嫌味を言われるもロラは無視してまた互いに一言も喋らず歩き続ける。
後に降り立った惑星にある城の片隅にいた彼女を見かけて声を掛けると、数枚の桜の花びらを手のひらに乗せていた。しかし花びらを握り締めて目を潤ませながらすぐに去った。
あれはきっと決別したはずの故郷に思いを馳せていたのではと、何も知らないゲラルトは追懐している。
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