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ながみね
2026-04-19 13:51:10
3438文字
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カレーうどんが飛んだ日
fgo。第一部攻略中の別デアに、終章途中の偽ソとぐだがうっかり漂着してしまった時空の日常話。
没ネタ供養です。
漂着◯◯日目 昼時の食堂
「ロマニ!」
鋭い声と共に突然腕を引かれ、手元のトレイでガチャンと嫌な音がした。
バランスを崩して倒れるほどではない。けれど状況を把握する前に、今度は悲鳴と衝突音、なにか食器が床に転がる音が立て続けに響いてロマニ・アーキマンは身をすくませた。
「えっ、なに? これどういう状況?」
ひとまず自分の腕を引いた相手に尋ねてから、それが誰なのかを理解して硬直する。
象牙色の髪に褐色の肌、不機嫌そうな表情。魔術王を名乗る存在とそっくりな見た目の"キャスター"が、至近距離から苦々しい目で睨んでくる。ひええ。
「
……
怪我は?」
「うえ?! いや、ええと、ないかな? たぶん大丈夫だ」
今日の昼ごはんはトレイの上で散乱しているけれど、お茶と汁物以外はなんとかなるだろう。
真名不詳のキャスターは自分の目でもロマニの様子を確認すると、ようやく解放してくれた。
そうしてやっと食堂の床の惨状が目に入る。すなわち、ぶちまけられたカレーうどんとその器。その持ち主らしきカルデアスタッフは青ざめて尻餅をつき、その隣で年少のサーヴァント達が縮こまっている。
ついでに言えば、一番被害が大きいのがキャスターだった。長い髪や、白い衣装にまともにカレースープをかぶっていた。控えめに言って大惨事だ。
(あれ、これボクらのカルデア終了のお知らせでは?)
彼はこのカルデアで契約したサーヴァントではない。ともに漂着した彼のマスターが回復するまでの間、一時的に滞在する客人だ。
つまりマスターがこの場にいない以上、彼を抑える手段がロマニの説得か実力行使しかない。
怒りの食堂爆破、職員達の食糧事情悪化、ボソボソの保存食で不満が爆発して反乱発生、カルデア滅亡。そんなバカバカしいシナリオが一瞬で脳裏を駆け巡る。
「待ってくれ。落ち着いて、冷静に話し合おうか」
裏返る声の制止を無視して、彼は顔にかかったカレーを指の腹で拭うと元凶達に向き直った。
冷ややかな視線に順々にさらされたスタッフと年少組がすくみあがる。
「す、すいませんでした
……
!」
「ごめんなさいっ」
かわいそうなほどに震える彼らを前に、キャスターは面倒そうにため息をついた。
状況からすると、食堂ではしゃいでいた年少組がうっかりスタッフにぶつかり、不運な彼の昼ごはんが宙を舞ったのだろう。
キャスターは軽く腕を組み、年少組の方を見下ろす。
「食堂はふざけて走り回る場所ではない。以後気をつけるように」
「
……
!」
見た目は幼い年少組の「はい!」「うんっ」「気をつけます!」がめいめい元気に響いた。
(おや?)
想定よりも穏やかな展開に拍子抜けする。キャスターの物言いはまるで学校の先生のようだった。
カレーまみれになった事実もそれ以上責めるつもりはないらしく、「片付けはお前達も手伝いなさい」と告げてさっさとその場を離れようとする。
「あっ、ちょっと待ってくれ!」
このまま行かせてはまずいと気づき、ロマニは慌てて彼を呼びとめた。
だってこの状況、彼が助けてくれなければ熱々のカレーうどんをかぶったのは自分だったかもしれない。というか、かなりの確率でそうだ。
助けてもらったのにお礼もしないまま行かせるのは、人としてよくないだろう。
「さっきのあれ、庇ってくれたんだよね? 助かったよ、ありがとう」
なんとか笑顔の形をつくると、キャスターはなぜか目を逸らしてひどく険しい顔付きになる。苛立たしげな舌打ちを一つ。
そのまま返事もせずに、ロマニを残して霊体化してしまった。
「
……
え? なにあれ、こわ
……
。ボクなにかおかしいこと言ったっけ?」
「ドクター! 大丈夫だった!?」
ドン引きしているところに藤丸とマシュが駆けつけてきた。離れたところで見ていたらしい。ちょうどいいと今のできごとを話して泣きつくことにする。
「ボクなにも悪いことしてなくない? むしろ被害者だよ!
あの子達には大人な対応だったのに、ボク相手だと全然態度違うしさあ!」
「うーん
……
」
しかし二人の反応は芳しくなかった。
「まず、ドクターは成人男性です。
見た目の上では子どもの皆さんと態度が変わるのは当然ではないでしょうか? むしろ子ども扱いを望まれているのですか?」
「ちがうよマシュ。そういう趣味はないからね、ボク」
ふるふると力なく首を横に振る。
「みんなもう反省してたから、そんな子達を強く叱るのはよくないと思ったんじゃないかな?
ドクターはほら、そもそもぼんやり歩いてなかったら、キャスターが庇いに行ってカレーまみれになることもなかったわけだし」
「そうです、注意散漫だったのではないですか」
「ええー? さすがに非戦闘職にそこまで求めるのは酷じゃないかなあ?」
そうやってうだうだ管を巻いていると、残る一人が「ドクターのせいじゃないよ」と苦笑した。
疲れないよう浮遊式の車椅子に座り、一緒にお茶を飲んでいるのは例のキャスターのマスター。女の子の方の立香ちゃんだった。
「あれ別にドクターに怒ってるわけじゃないと思うし、気にしなくていいんじゃない?
キャスターの仏頂面は普段からだしね」
だいじょーぶ大丈夫、そう笑って請け合う彼女は、別世界のカルデアで人類最後のマスターをしているらしい。
キャスターとの付き合いも長いようで、それこそ強面の担任教師にうざ絡みしに行く女子高生のような戯れ合いをたまに見かける。
彼女の付き添いでキャスターは食堂に来ていたわけだが、今は先に部屋に戻っているらしい。
「そう? 本当にそうかな?? うーん
……
」
付き合いの浅い自分には何がどう「大丈夫」なのかよく分からない。あの舌打ちとか、どう考えても嫌われてるっぽいし。
いまいち信じられないロマニに対し、彼女は困った顔で「たぶんだけど」と前置きしてこう言った。
「八つ当たりみたいなものだと思うよ?
マスターの私を置いて咄嗟にドクターを助けに行っちゃったこと、気にしてるんだろうね。
うちのキャスターは真面目だからさ〜」
「えっ?」
意外な解釈を聞かされて、ロマニは間抜けな声を上げた。あの邪悪な魔術王は論外だが、かつてのソロモンであってもそんな思考はしないだろう。そもそも使い魔としてマスターを疎かにするようなミスも犯さない。
姿形が似ている別人と割り切っていたつもりだが、思った以上に見た目に引き摺られていたようだ。
「それは、立香さんとしてはどう思われますか? サーヴァントの行動として不適格ですか?」
藤丸のサーヴァントでもあるマシュがおずおず尋ねると、もう一人のマスターはあっけらかんと答えた。
「いやべつに? キャスターとは最初から期間限定の契約ってことで話がついてるし、助けたい相手を助ければいいんじゃないかな」
ああ、でも、とにっこり笑って付け加える。
「ドクターが怪我しなくて良かった。その点はグッジョブだと思うよ」
本人にはわざわざ言わないけどさ。そう言って微笑む彼女は、歴戦のマスターの風格を漂わせていた。
きっとこちらの藤丸君と同じように、曲者揃いのサーヴァント達とこれまでうまく折り合いをつけてやってきたのだろう。
「
……
そうか、うん。そういうことなら、ちゃんとお礼が言えて良かったかな」
「そうだよ! まあ事情は分かるから無理にとは言わないけど、あの人のこと、そう怖がらないであげてほしいな」
「うーん、努力はしてみるよ
……
」
怖いものは怖いし、正体がわからないことも恐ろしい。けれど、身を挺して助けてくれたことは事実だ。
嫌われているかもしれないが、その程度には気に掛けてくれているのだろうか? そこまで考えて、ふと思い出す。
「──そういえばあいつ、さっきボクのこと"ロマニ"って呼んでなかった?」
彼のマスターはそれについては触れずに全く別の方向を指差した。
「ねえドクター、あっちでゲテモノスイーツ試食会が始まってるんだけど、私も混ざっていいやつかな?」
「いやダメだよ!! なにそれまさかレイシフト先のエネミー再利用じゃないだろうね?!」
つい先日のゲテモノメニュー試作会の惨事を思い出し、ロマニは急いで事情聴取に走る。今日のランチタイムは最後までスリルに満ちていた。
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