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mochimochizucchini
2026-04-19 09:33:24
5536文字
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丑蜜時
レムレスが幽体離脱して異邦の世界の灰に会いに行くお話です。
※灰レムレムが既にデキてます
※異邦の世界・魔導の捏造描写あり
※きらレムに対する妄想解釈あり
「
…………
ふう」
パタン、と本の表紙を閉じる。
一度読み終えた内容でも、見返してみると新たな発見があるものだ。
新しい知見を得られたことに満足感を抱きつつ、また次の本を選ぶために本棚の前へと足を運ぶ。
今日はなんとなく修行や散策をする気分でもなく、家に籠もって一日中書物を読み漁っていた。
本というのは良いものだ。まだ見ぬ新たな知識や、先人たちの知恵など、色々なことを教えてくれる。
それらを知るのは純粋に楽しいし、なにより「読書」という静かな行為そのものが、僕の心を落ち着けてくれる。
もう何冊目かも分からない本を読み終えた時。
ふと窓を見やると、外は漆黒の闇に包まれていた。
「
…………
もうこんな時間か」
ここ異邦の世界にも、「表」の世界と同じように「昼」と「夜」の概念が存在する。
といっても、ここには時計などという洒落たものはないので正確な時刻までは分からないが。
月の位置から察するに、今は丑三つ時に近い頃だろうか。
今日も今日とて、どこか落ち着かない気分で床に就く。
どこか心の中が物足りないような、何かに飢えているかのような、ソワソワとした、きもちわるい感覚。
ここ数週間、そのような気分で過ごすことが劇的に増えた。
そして、その原因には心当たりがあった。
———
『彼』のせいだ。
『暫く魔導師の仕事の方が忙しくなる』とか何とかで、ここ数か月「レムレス」の顔を見ていない。
……
あれだけ騒がしくて、おせっかいで、時には鬱陶しさすら感じる存在でも、こうも長期間会っていないと逆に調子が狂ってくるものだ。
自分も随分と「甘く」なったと苦笑しつつ、近いうちに彼の元をサプライズで訪問してやろうか、という悪戯心が芽生えた。
そして、彼が大袈裟なリアクションで驚く姿を想像しながら、ご機嫌な気分で算段を立てている途中、はたと気づいてしまった。
……
これではまるで、「『レムレス』に会えなくて寂しかった」とアピールしているようなものではないか。
そう思った途端、なんとなく自分から会いに行く事が「負け」のような気がしてきた。傍から見れば些細なことかもしれないが、他でもない『レムレス』に対してそのような事をするのは、自分の中のプライドが許さなかった。
………
やはり、あちら側から会いに来るのを待つことにしよう。
そう思い直して本格的に寝に入ろうとした
———
ちょうどその時。
『やあ』
突然、目の前に件の人物が現れた。
「うわぁ!!!」
素っ頓狂な声を上げながら、思わずベッドから転げ落ちる。
………
流石の僕だって、何もないはずの空間にいきなり人が現れればビックリするさ。
『あはは!ごめんごめん、そこまで驚かせるつもりはなかったんだ。
でも大成功だったみたいだね、キミのそんな表情初めて見たよ』
目の前の犯人は、必死に口元を手で抑えつつも、笑いをこらえきれていない様子だった。
いつもだったら速攻で反撃してやるところだけれど、あまりに突然の出来事だったからか、目の前の「彼」を呆然と見つめていると、「ある事」に気が付いた。
———
身体が透けている。
そう、彼の身体はまるでユーレイのように半透明で、僕のお菓子の家の天井や壁が向こう側に透けて見えるのだ。
「まさか、これは
……
」
僕の呟きから察したのか、レムレスが再び口を開いた。
『
……
『魂を飛ばす魔導』の存在は知っているよね?』
僕は無言で頷く。
身体からその精神だけを遊離させ、様々な場所への移動を可能にする術。
有り体に言ってしまえば、己の意思で「幽体離脱」をする技だ。
「肉体」という物理的な制約が無くなるため、術者の能力次第では「異世界」や「並行世界」といった、本来は自由に行き来できない場所にすら移動できるようになる。
しかし、この術は
……………
『
―――
それにしても』
彼の声で、思考が中断される。
『箒じゃなくて自分の身体で空を飛ぶのって、こ〜んなにも気持ちがいいんだね!』
『肉体が無いからか、身体の感覚も普段よりと~っても軽くて、本当にどこまでも
…………
そう、天国にだって行けてしまいそうな気分なんだ』
少々不穏なことを口走りつつ、あはは、と華麗にターンを決めながらレムレスは愉快そうにはしゃいでいる。
そんな彼を見やりつつ、ほんの少しの罪悪感を感じながら、僕は水を差すような問いを投げかけた。
「
………
魂を飛ばす魔導は、とても危険なはずだ」
「肉体から離れた精神は脆く
…
そして儚い。
『己』という存在を強く持ち続けていなければ、その魂はやがて、意識の海に溶けて
———
消えてしまう」
「万が一キミの肉体に何かあったら、仮に精神が無事だったとしても、二度と元に戻れなくなる可能性だってある」
「それに
……
その術は
……
非常に高度な『闇の魔導』だろう?」
いつの間にか真剣な表情で僕の言葉を聞いていた彼は、ふっ
…
と微笑むと、
『ありがとう。僕のことを心配してくれて』
『でも大丈夫だよ!ちゃ〜んとその辺りの対策はきちんとしてあるんだ』
まるで、不安がる子供をなだめるような、穏やかな口調で話し始めた。
『異邦の世界でも、防御の魔導さえかけておけば記憶や精神に影響は受けないことは、既に調査済みなんだ。』
『肉体の方も、今回は何重にも強力な結界を張っておいた上に、何かあった時に備えて見張りも頼んであるからね』
そして彼はふと、たおやかな笑みをたたえ、
『
……
それに、今は「闇」だって立派な僕の一部だ。
―――
『光の魔導師』だからといって『闇の魔導を使ってはならない』、なんていう決まりはないでしょう?』
そう、軽やかに言ってのけた。
『だから、大丈夫。心配はいらないよ』
「
…………
」
そうだった。
彼は、もう「受け入れて」いたのだった。
僕のものとは違う、彼のもつ「強さ」にあらためて感心しつつも、僕は思わず呟いた。
「でも
……
なぜそこまでして
———
?」
『どうしても、キミに会いたかったから』
「
…………
は?」
ただ、それ「だけ」のために?
『僕に会う』
ただそのためだけに、命の危険まで冒して?
本日二度目の思考停止に陥っていると、相当ご機嫌らしい彼は、悪戯っぽく笑って言った。
『ねえ、折角だしよかったら空のお散歩に行かない?』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
———
イチかバチかの突撃訪問は、なんとか成功に終わった。
気難しい彼のことだから、いくら魂の身であっても「今何時だと思ってるんだ」「騒がしい」などと蹴り出されるんじゃないかと思ってドキドキしていたけれど。
随分丸くなったなぁと、空を飛びながら隣を見やる。
夜闇に白いローブをはためかせ、漆黒の箒にまたがる彼。無表情ではあるものの、不機嫌そうなオーラは感じられない。
むしろ、意外にも彼の纏う雰囲気は柔らかなもので、この空の散歩を割と楽しんでくれているようだった。
その事に堪らなく嬉しさを感じつつ、僕は眼下に広がる景色に目を向けた。
夜の異邦の世界は、「表」の世界とさほど変わらないように見える。
昼間こそ、紫の森によどんだ空気など、異質な雰囲気に包まれた、こちらとは「文字通り」正反対の世界なのに、月明かり以外に光源のない真っ暗な闇に包まれると、元の世界と同じように静かで、冷ややかな空気を纏うようになる。
僕はそんな「闇の」異邦の世界に、少しだけ親しみを感じていた。
……
今までだったら、「闇」に対して親しさという感情を覚えることなんて、なかっただろうなあ。
今の僕があるのは全て、隣に居るはいいろの『彼』のおかげだ。
彼に久方ぶりに会えた喜びと、改めて感じた自分の成長ぶりに対して感慨に浸りながら、僕は暫く彼との空の散歩を楽しんでいた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
魂だけの「彼」に連れられて空の散歩を暫く堪能し、程なくして僕たちは小高い丘に降り立った。
見下ろしてみると、僕の縄張りであるお菓子の家を含め、周囲の森や湖など、辺りの景色を一望することができた。
夜の異邦の世界は、昼間よりもずっと冷たくて、黒くて、静かで。
なるほど、真夜中の散歩というのも、たまには悪くないかもしれない。
そんな事を思いながら隣に目をやると、相変わらず「レムレス」の体は半透明のままだ。
幻のようなその姿を見ていると、どうしても不安に駆られてきてしまう。
僕が目を離したその瞬間に、
彼が
———
『消えて』しまうのではないかと。
……
たとえ精神だけでも、彼が確かに「ここに居る」ことを感じたくて。
僕は、無意識のうちに彼の腕へと手を伸ばしていた。
しかし、魂のみの存在である彼には触れることさえ叶わず、僕の手はただ虚しく宙を掴んだ。
うつろな瞳で、そのまま自分の手を見つめる。
『どうしたの?』
ハッと顔を上げると、目の前にレムレスの顔があった。
「いや
……………
なんでもないよ」
僕の表情から何を読み取ったか、彼はほんの少しだけ泣きそうな、切ない笑みを溢した。
………
全く。相変わらず人の心の機微に敏いやつだ。
『
……
そうだ!』
彼は突然何かを思いついたらしく、懐から杖を取り出した。
『上手く発動するといいけれど』
祈るように表情で、杖を振り上げる。
『ガレット・デ・ロワ』
そう呟いた瞬間
———
真っ暗な異邦の世界の空に、色とりどりの光が降り注ぎはじめた。
「
…………………
」
流れ星のように輝く光の軌跡は、まるで螺鈿のように、次々と色を変えていく。
いつの間にか、僕は抱いていた不安や寂寥感も忘れ、目の前の美しい光景に、ただただ目を奪われていた。
ひとときの天体ショーが幕を閉じ、じっくりとその余韻に浸っていると、レムレスがおもむろに一輪の白い花を取り出した。
『これはね、『ユーフォルビア』というんだ。『チキュウ』という、こことも、表の世界とも異なる所に咲いているんだよ』
「チキュウ
……
」
初めて聞いたはずなのに、どこか耳になじむその名を口の中で呟く。
『チキュウの植物にはね、それぞれの特徴に合わせて『花言葉』というものがつけられているらしいんだ。
そして、この子の花言葉は
———
』
『君にまた会いたい』
そう言って彼は僕の手を取ると、それはそれは優しい手つきで、その花を握らせた。
『このお花には特殊な細工がしてあるんだ。
……
これは幻じゃなくて、本物だよ』
僕は、手元の小さな花を見る。
その花弁は、とても小さく、繊細だけれど、可憐で。
……
僕は今までに感じたことのない、言いようのない気持ちで、胸がいっぱいになった。
「
……
魔導師の仕事とやらが落ち着いて、君の方から訪ねてくるのをずっと待っているつもりだったけれど。
……
なんだか馬鹿馬鹿しくなってきてしまったな」
「
……
気が向いたら、今度は僕の方からも顔を出すことにするよ」
それを聞いた彼は、一瞬心底驚いた表情を見せたと思うと、とびっきりの笑顔になって
———
『本当かい!!!』
ものすごい勢いでこちらに身を乗り出してきた。
「
……
べ、別に
……
毎度毎度こんな危なっかしい事をされては、こちらが気が気じゃないからね
………
」
彼の熱に少々気圧され、咄嗟にいつもの癖で本心とも照れ隠しともつかない言葉を発してしまった。
『えへへ
……
それでも、と~~~~~~っても嬉しいよ!ありがとう!』
突如、向こう側から明るい光が差し込んできた。
「
……
もう朝か」
『
……
そろそろ魔導の効力が切れる時間だね』
過ごした時間はゆったりとしていたはずなのに、なんだかあっという間だった気がする。
「
……
それじゃあ、また。僕は戻るとするよ」
ほんの少しの名残惜しさを感じながら箒にまたがろうとした瞬間
———
『待って』
必死そうな声につられて後ろを振り向くと、目の前に彼の顔があった。
そして、そのまま近づいてきて
———
二人の唇が、重なった。
思わず、目を見開く。
触れられた感覚はないはずなのに。
なぜかその瞬間だけは、口元の柔らかい感触と彼の甘い味が、確かにはっきりと感じられた。
一瞬とも、永遠とも感じられる時間が過ぎ、やがて彼は顔を離すと、
『
———
じゃあ、またね!』
少しだけ寂しそうに、しかしとびきりの笑顔で、こちらが何か言う前に姿を消してしまった。
「ふうん
………
少しはやるようになったじゃないか」
先ほどの感触を思い出すように、口元を指でなぞる。
今度こちらから行くときは、何を仕掛けてやろうか。
頭の中に様々な案を思い浮かべながら、家路につく。
いつの間にかすっかり日の登った異邦の世界は、再び異質な色と、澱んだ空気を纏い始める。
しかし僕は、そんな目の前の景色には目もくれず、永い間忘れていたはずの胸の高鳴りに心を踊らせていた。
~Fin.~
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