Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ten_matoi
2026-04-19 01:02:06
4509文字
Public
Clear cache
冷や汗デンジャー!
クリレオ
頬を撫でられて意識が浮上する。ぞわぞわと全身に疼痛が走り、レオンはその手を嫌がるようにかぶりを振った。ぐらり、と平衡感覚がおかしくなっているのか、体が沈む感覚。
「ふふっ、あれだけ飲ませても平気なのか」
甲高く、興奮しきった声。レオンの聴覚が捉えたものは、知り合いの声では決してなかった。
吐きそうだ、胃がひっくり返りそうな気持ち悪さがある。いったい、何を飲ませられた?
レオンが震える瞼を開くと、そこには白衣の男が立っている。細身で、眼鏡をかけたブルネットの男はレオンをつぶさに観察しているらしい。
「ずいぶん、と
……
たのし、そうだな
……
」
は、と吐息を漏らして辛うじて言葉を紡ぐ。男は目を細め、にたりと笑った。
「レオン・S・ケネディ」
男が大袈裟に両手を広げた。
「君が僕のことをDSOに告発してくれたお陰で、研究から外されてしまってから半年
……
長かったよ」
「
……
ああ、そう、か
……
あの時、の
……
」
思考がぐらつく。むずむずと後頭部が痛んで、考えることが難しい。それでも辛うじて手繰り寄せた記憶で思い出した事案。レオンは苦い笑みを浮かべて首を傾げた。
BOWをブラックマーケットで手に入れようとした男が複数人。その中の一人がこの男だったと、レオンの記憶が言っている。粗悪品のウィルスは人をBOWに変異させ、パンデミックを起こさせるには充分なものだ。事前に防ぐ為に家宅捜索を強制的に執行し、男は逮捕。その後どうなったのかはレオンは知るよしもなかったけれど。
どうやら、あのあと逃亡したらしい。でなければ、レオンを拘束して薬を投与するなんて芸当できない筈だからだ。
どんどん思考が戻ってくる。どうやってこの廃墟のような研究施設に運ばれたのかも、少しずつだが思い出した。
逃亡した男にしては随分と金の巡りがいい。レオンの飲むコーヒーに薬を仕込み、デスクに突っ伏したところを攫われた
――
DSO内部を金で懐柔してこそできる仕業に、レオンは呆れてしまう。
違法薬物であるロヒプノールを入れられていたとしても、コーヒーだと色がひと目では分からない。強力な睡眠薬だが、入手は案外簡単なのだ。
「そ、れで
……
俺になん、の
……
用、だ
……
」
「そうとも、ケネディ! 君には僕の実験体になってもらおうと思ってね」
体がだるく、思考も未だに少しは戻ってきたがバラバラに近い。レオンは必死に男の方を向いていたが、本音を言えば意識を失いたいくらいには辛かった。がくっとここで失神してしまえば、レオンは確実に己がBOWに変異してしまうことを自覚していた。そうなれば、レオンは躊躇いなく己の口内に銃口を招くだろう。
――
そこで、違和感に気づく。レオンは解剖台に乗せられている。全身に痛痒が走るなか、何も衣服を身に着けていないことに気づいてしまった。くそったれ。レオンは思わず悪態をつく。DSOの本部にいたので、装備なんて勿論身に着けていなかった。ここに運ばれた時点で無防備な姿をさらしているも同様だが、ここまで無垢な姿にされているとは業腹である。
「本当に
……
本当に苦労したんだ。君を攫うのに金を握らせて
……
オフィスから人払いをして
……
ロヒプノールを飲ませる時が一番緊張した
……
」
男の手がレオンの肌に触れる。びりっと痛みが走り、レオンは息を詰める。神経が鋭敏になっている。これは
――
ロヒプノールだけでは済まないだろう。
「ああ、美しいな
……
本当に。僕を売りさえしなければ、君に恋した僕だったのに
……
」
「そう、かよ
……
それは、どうも
……
」
はっ、と鼻で笑えば、メスを目の前に突きつけられる。まるでエルピスを巡るあの事件のようではないか。わなわな震えている手が、レオンの首筋にそのメスを移動させた。
「許さないよ、レオン
……
僕が手に入れたtウィルスから新たに作り出すウィルスの実験体になってもらうことで、君の罪を償ってもらう」
違法なウィルスを手に入れることで、バイオテロを引き起こそうとしている男に〝罪を償え〟と言われたところで、レオンに一ミリたりとも響くことはない。
……
レオンは猛烈に腹が立っていた。
このような滑稽な馬鹿どものせいで、レオンやDSOの職員は疲弊している。クリスたちもそうだが、BOWを利用しようとするバイオテロを起こすのはいつだって愚かな人間たちだ。
さて、ここでレオンは自身の状態を改めて確認する。痛痒はあったが、それでもようやく体が少し動くようになった。薬を過信してレオンを拘束していない男は本当に滑稽でしかない。
「それで
……
お前のバックにいる組織は?」
「は?」
男がメスをレオンの首筋に押し付けたまま、目を丸くした。微かに動揺した手が、レオンの肌を傷つける。チクッとした痛みは特段レオンを身じろぎさせることもなかった。
「
――
っぐ!」
レオンは首筋に当たっているメスを手で払い、起き上がる。男が怯えた顔をしたが、容赦なく蹴りを入れて後ろへ吹っ飛ばす。悲鳴が上がり、起き上がった男の鳩尾へトドメの正拳突きを放った。
胃液を吐きながら昏倒した男を冷たく見下ろしたレオンは、ぐらつく体をふらふらと壁にもたれさせた。気を抜けば視界がメリーゴーランドのようにぐるぐるするのを堪えて、レオンは近くにあったカートに自分の携帯端末が置かれているのを確認した。
体を壁から起こし、ふらふらっとカートに近づく。端末を震える手で持ち上げ、ひとつの回線にコールした。
冷や汗が止まらない。いったい、何を飲まされたのか知らないが、本当に気持ちが悪い。末端が冷えて、歯の根が合わずにかちかち音が鳴った。
「
……
GPSを追って、くれ」
長いコール音のあとようやく繋がった。レオンは一言絞り出し、通話を切った。緊急信号を端末から送り、その場にしゃがみ込みたいのを耐えて鉄扉から外へ出た。
地下施設にはいつも悪い思い出しかない。今回も地下施設らしきところに囚われていて、レオンは思わず舌打ちした。
外へ出る前に男から引っぺがした白衣を緩慢な動作で羽織る。前を閉める余裕もなく、ただ羽織っただけでレオンはのろのろと壁伝いに歩くが、ここがどこだが皆目見当もつかない。果たして、緊急信号とあの通話が届いていたのかも朦朧とした意識では確認できなかった。
本当に吐きそうで、レオンは前屈みになる。途端、頭上でヘリの旋回する音が聞こえて驚いて吐き気が引っ込んだ。
少し距離のあるところにマシンガンが撃ち込まれ、天井が落ちた。すぐさま土埃の中にヘリから降りてきた人影が見えて、レオンは反射的に警戒したが
――
「レオン!」と叫ぶ男を見て一気に脱力した。
「対象を確認。ここは俺一人で充分だ。各員はその他のターゲットを制圧しろ」
通信機器に命令を飛ばした男
……
クリスが、レオンに走り寄ってくる。ざっと周囲を警戒しているが、ここにはレオンと昏倒しているあの男以外いないらしかった。レオンはほっとして、クリスの腕が伸びてきたのをいいことにそこへ倒れ込んだ。ぐったりと肢体を投げだし、ぐっと胃の腑が痙攣してその場で胃液を嘔吐した。
「う、ぐ、ぅぇ
……
う
……
」
びしゃびしゃと床に胃液が叩き付けられる。クリスが焦って背中を摩ってくれているが、嘔吐したことで少しだけ楽になった。は、は、と荒い呼吸を繰り返してクリスに抱えられているが、未だに体は震えているし倦怠感と痛痒は消えない。
「何を飲まされた
……
?」
怒りに満ちた声だ。レオンはかぶりを振る。
「わから、ない
……
ロヒプノールは分かってる、けど
……
でも
……
どうしてここが
……
」
レオンは疑問だったことを聞くが、その前にクリスに負ぶわれて胃がまた気持ち悪くなる。ぐ、と唇を噛んで嘔吐感を堪え、クリスの次の言葉を待った。
「DSOの職員が金を掴まされてレオンを売った
……
とシェリーに懺悔したそうだ。それから、その売った男のことも知ってる
……
とな。偶然、それが俺たちの追っている犯罪組織と関係のある男だった」
クリスが向かっているのは、隊員たちと合流するランデブーポイントだろう。
背中に揺られているとやっと吐き気がおさまってきて、レオンはクリスの肩に頭を預けて目を閉じた。
「小さな組織だが、この施設を最近買い取って研究員を何人が常駐させていると報告が入ってな。突入しようとしていたタイミングで
……
お前からの緊急信号と通話が入った」
「は、そんな
……
偶然もあるんだな
……
」
「
……
肝が冷えた」
閉じていた目を開く。ブラウンの短い髪を見つめて、レオンは苦笑して「悪かった」と囁いた。
「俺もつい
……
自分に鉛玉をぶちこむかどうか、考えたよ」
「おい」
クリスが低い声で唸る。レオンは「仕方ないだろ」とぼやいた。
「ウィルスの実験体にされるところだったんだ」
レオンは考えてしまう。変異する前に、自分を終わらせることができる僥倖は享受すべきだと。
これをクリスに言えば彼は怒るだろう。だから言わないが、レオンは本当に先刻はそう思ったのだ。
「頼むから
……
自分の命を諦めるな」
クリスが今度は懇願するように言った。レオンは彼の後頭部に額を当て、「ああ」と本音を隠して返事をする。
「レオン」
「なんだよ」
「
……
着いたぞ」
プロペラの旋回音。ヘリが近くにいる。レオンは閉じていた目を開くと、近くにアンバーアイズがいて軽く挨拶してくれた。
「やあ、ケネディ」
「
……
こんな格好でどうも」
「ひどいな、こりゃ。アルファ、もうあとは俺たちで充分だ。ケネディを病院に?」
クリスに話しかけたアンバーアイズは、彼が頷いたのを見て「了解」と言った。
照明で照らされた周囲は眩しすぎてよく分からない。レオンはぐらぐらする思考が再び戻ってきて、何も考えられずにクリスの愛車にそっと乗せられた。それから、クリスが己の上着をレオンにかぶせてくれたのを肌で感じたが、礼も言えずにただ荒い呼気を繰り返す。
「レオン」
「な、に
……
」
クリスの熱い手が頬に触れる。先刻の男の手は嫌悪感しかわかなかったのに、彼の手は痛痒感よりも安堵が勝った。
「よく頑張った
……
もう寝てもいい」
「あ、くそ
……
言い、やがった
……
な
……
」
急速にレオンの意識が遠のいていく。レオンはクリスに悪態をつき、がくっと脱力して失神した。
「アルファ」
失神したレオンの頬に口づけてから、クリスはアンバーアイズに向き直る。彼は少し遠慮がちにレオンを見遣ってから、「制圧完了した」と報告をした。
「安心して病院に向かってくれ。救急であることは伝えた」
「助かる」
「その
……
大丈夫なんですか」
ケネディは? と彼が戸惑っているので、クリスは苦笑して「ああ」と頷く。
「こいつはそんなにヤワじゃない。だがしかし、少しばかり説教は必要のようだがな」
勝手に命を諦めていたこの男のことを、クリスがどれだけ愛してるのか。それを教え込まないとどうにもならない。
冷や汗をかいて冷たいレオンの手を握り、クリスは吐息した。
「
……
ったく、ほんとうに」
厄介な男に惚れてしまったものだ。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内