どぅんEX
2026-04-18 19:51:26
2863文字
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それは幸せないき方だろう

解放ルート後、いき方を選んだオキーフのオキラス話

お前に届く頃には、俺はこの星には居るまい。そんな気持ちでオキーフは短い逃避行を終えた。たった一言、また向こう側でと書き添えて。


それは幸せないき方だろう。


独立傭兵レイヴンが解放戦線についたと分かった時、オキーフは即座に、予測よりも正確にアーキバスの敗北を予見した。長官職としての職能からではなく、耳元でざわめく旧世代型強化人間としての経験がそれは避けようのない事実だと突きつけてくる。1秒ごとに悪くなる旗色に長い付き合いの頭痛が騒ぎ出す。ここが潮時だと。
コーラル焼き付きもある程度自身ツテで処置できる所まで落ち着いた。それに加えてオールマインドの手駒がアーキバス内で蠢くようになっていた事もあり、遅かれ早かれオキーフは先のないコーラルを巡る争いから退場する予定だった。のだが、鮮烈に現れた男に心まで奪われてここに至った。不器用な生き方で理想を大真面目に煌めかせて笑顔を見せたあの男を死なせるには忍びなかった。
そんな男も今は古巣の庇護下に戻った。未踏領域でフラットウェルに託したその命が自由に飛び回る姿をあと1度だけでいい、この目で見られたらと言う願いも叶った。他に望むものもない今が被害を最小限に抑えるなら頃合だ。
捕虜になれば人権どころか尊厳すら残らない扱いを受けるだろう第3部隊を全員空に上げる。その先のことは各々に任せつつ、オキーフは悠々と飛び回り命を蹴散らすラスティをもう一度だけ見ようとバレンフラワーを……

赤い閃光が視線を焼いた。

────

結果として、ラスティもオキーフもギリギリのところであちら側には行かなかった。最後に胸に抱いたラスティは昏睡状態で腕があらぬ方向に曲がっていたし、オキーフも元の厚みが分からないほどに完全に潰れた片足を切り離す羽目にはなったが、お互い薄い装甲のコアで命があっただけ運がいい。
自分を慕う部下のひとりが地面に向かうバレンフラワーを追いかけてくれたお陰でラスティは延命処置を施され、オキーフも解放戦線に捕まることなくルビコンに潜伏出来た。

以来オキーフはルビコンに残った部下たちと宇宙へ上がる機会を伺いながら、密かにラスティと、そしてオールマインドの監視を始めた。
内蔵も幾つか損傷していただろうあの大怪我で表舞台に立つことはなかったが、秘蔵っ子たるラスティの活躍により企業を退けたことでドルマヤン派が勢力を失い、名実ともに解放戦線の長へと上り詰めたフラットウェルは事ある毎にラスティの名を用いた。同意の上か分かり兼ねたが、フラットウェルが自分の後継の1人としてラスティの名を売っているのは事実だった。
数年経つとラスティはようやく表舞台に姿を表した、あらぬ方向に曲がっていた腕は元通りになり、フラットウェルの後ろをついて歩く足取りにも不安は無い。少し精悍さを増した、それでも甘い顔の色男の姿に心底、安堵した。
それから数年、オキーフはルビコンに留まりラスティを見守り続けた。1度頓挫したリリース計画に未練がましくしがみつくオールマインドの監視という名目ではあったが、本当のところまだ彼から離れ難いと思っていたのだろう。
ラスティ、ひいては彼を庇護するフラットウェルが窮地にあった時、オキーフは思わずバレンフラワーを晒した。リリース計画阻止のためならば身を隠し続けるべきだった。が、言い訳もできないほどエゴに突き動かされた判断をした。オキーフにとってラスティなくしては人類の存続など既になんの意味も持たなかった。
目に焼きつけるようにバレンフラワーのセンサーをブースターを焼かれ地へ伏したままのオルトゥスへと向けた。必死にこちらに通信しようと試みているのか何度も何度も通信を弾く軽い音がコアの中に落ちる。
一方通行の通信を1度だけ繋げる、焦ったような声でオキーフと呼びかける掠れた声に低く笑って、そうして一言もかけることなく通信を切る。
愛していた、この男を。そして今も愛している。ラスティがこの先も望む通りに生きられるなら、そのために自分がなにかできたのなら、一度は人類を見限った自分の罪くらいは雪げるだろうか。
それから幾度か彼らの手助けをした、追いかけてくるラスティから逃げるように何度も何度も拠点を変えて、それでも献身を続けた。
そして終わりはやってくる、オールマインドの核を叩く絶好のチャンスをようやく得たオキーフは迷わなかった。ルビコンに残った部下を全て宙に上げ、自分亡き後も暮らしに困らないようにとエゴに付き合ってくれた彼らに次の拠点を与えた。もう戻らないとは言わなかったが副官のように従ってくれた部下は袖を引いた。その想いに応えられる訳もなく、オキーフは出発を告げる警笛響く貨物船ロビーから踵を返し二度とは振り返らなかった。
数日かけてルビコンでの活動痕跡を消し終わると、オキーフは静かに貨物と銘打った違法シャトルに乗り込んだ。大小連なる荷物とともに積み込まれ小さな窓から遠くなる地面を眺める。アーキバスに招致されてから数年、まさか自分がこんな生き方をする羽目になるとは夢にも思わなかったなと感慨にふける。離陸前に送ったラスティへのメッセージはあまりにも不格好で情けなかっただろう。それでも、餞だった。死にゆく自分へあてた唯一の。

ぼんやりと灰色の天井を見つめていたオキーフの耳にけたたましく鳴り喚く警報音が飛び込む。
頭上でバタバタと足音が忙しなく行き交い、ところどころACだの急接近だの慌てた無線が飛び交っている。
尋常ではでは無さそうな状況に腰を上げ窓を覗いた先で、居るはずの無い姿をみとめる。機体洗浄もしなかったのか汚れや傷が目立つオルトゥスと目が合ったような気がした。
ハッキングでもしているのかシャトルのスピーカーから電子的なノイズと焦ったような機長の悲鳴が混ざり交互に鳴り喚く。

『覚悟してくれオキーフ、私は必ずあなたを捕まえる』

ブツンと耳障りの悪い切り替え音のすぐ後に、長らく聞いていなかった自分の名を呼んでくれる愛しい音を聞く。言い終わるやいなやブースター限界で高度を落としはるか下方でフラットウェルが駆るツバサに回収されたオルトゥスから目が離せない、突然もたらされた僅かな邂逅が、あまりにも名残惜しかったから。
通信網を取り戻した事にか、はたまた接近していたACから逃れられたからなのか船内は騒然としていながらも落ち着きを取り戻していく。
貨物室に響いていた警笛と危険を示す強発色のライトが消灯して、オキーフはどっと疲れたように息を吐いて小窓に額を押し付けた。
人生の最後に聞くラスティの声が、自分勝手に愛を叫ぶそれで、本当に良かったと思う。
二度とは聞けないと思っていた男からの執着に思わず目元を覆い空を仰ぐ。枯れ果てたはずの目尻が一筋濡れた。心中する為に死地へ逝くオキーフはラスティの溌剌として自信に満ちた、どこまでも好ましく愛おしい声を、窓から見えるルビコンが小さくなり、そして消えるまで反芻し続けた。