四月、日本では新年度となり学校や会社では始まりの月になる。桜が舞い春の陽気を浴びながら、新入生や新社会人が不安や希望を抱えて新生活を始めるだろう。
そして俺もその中の一人である。
(とは言っても)
気持ちは続きもので新しくはない。去年の暮れ頃に自覚した気持ちは新年を跨ぎ、進展もしないまま春を迎えてしまった。
かといって進展させるつもりはいまのところない。というのも相手は同性で一つ上の先輩。なおかつ正反対とも感じる性格だ。彼の迷惑になる可能性を考えてもこの気持ちは墓まで持って行こうと早々に決めた。
だがしかし。
ふと目が合う瞬間はきっと誰にでもある。意図していない、ただ見られていただけの瞬間が。むしろ俺や片割れは彼に見られることの方が多いのだから目が合うのだって普通かもしれない。
ぱちりと合ってしまった瞬間にぼっと燃え上がる心臓。その後はずっとドクドクと走ってしまうのは仕方なくないか?
バレてしまう、そんな気がしていて。それでいてもっと見てほしいと思ってしまう。
はぁと吐き出した息が熱い。今自分から出た熱は彼への想いでもある。
「なんか、ありました?」
なんて聞かない方がいいことを、なんでもない風に聞いて誤魔化す。
「いや、お前も先輩になったんやなって」
「ええ?」
新年度早々に片割れとともに俺のことを叱って言う言葉か? そんな疑問を思いながらも何故そうなったのか気にはなった。俺の知らないところできっと彼は俺のことを見てくれているのだと思ったから。
この気持ちを隠すと思っていた自分は一体どこに行ってしまったのだろうか。
「一年前はもっと暴れとったやろ」
「う……」
「今はちょっと落ち着いとる。……侑と一緒になったら精神年齢下がるけどな」
「ぐッ」
押さえられない感情はどうしようもない。指摘されてしまった部分にぐっさりと心臓を刺されてしまったものの、去年の自分と今を比較されたということは俺が好きになる前からずっと見てくれていた事実に心臓は大爆走。なんてポジティブな恋心だろう。
「……なぁ」
「はい?」
「お前最近……」
「最近?」
「……言葉にしずらい」
「ええ?」
彼にしては珍しい言葉だ。俺らに対しては特にはっきり言う彼が濁すというのは何かしてしまっただろうか。
「……俺になんか言いたいことあるんか」
「……えッ」
まさか、なんて言葉が頭を過ぎって思わず彼の顔をばっと見てしまった。はっきり言うとアホである。
「やっぱりなんかあるんやな」
「う、うぅん……」
「あるんやったら言えばええ」
墓までと思っていたのにすでに俺の態度からバレている。どうしたら、どうしたら誤魔化せるのだろうか。
「俺が言え言うたんやから怒らんよ」
いつもよりも柔らかく、思わず口を滑らせてもいいと思わせる声色。心臓がドクドクと暴れている、吐き出す息はどんどん熱くなる。
はく、と口を開いて閉じてなんて言おうか考えて。周りの音はどんどん消えていく。
自分の声も、もう聞こえない。
ぱちりと彼の目が煌めく。一拍ほど置いて彼の口が五文字の感謝の音が漏れた。しっかりと合わせられた目からはいつもと違う温もりが漏れ出ている。
今日という日が始まりの日になったのだった。
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