かなざわ
2026-04-18 19:12:41
2636文字
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そもそもサイズが違いますけど

よだつかワンライ第2回お題「シングルベッド」で参加&投稿作品。作成時間1h45min。
よだつか未満で、夜鷹(恋心自覚あり)→→→司(恋心無自覚)。慎一郎は純に相談されていて、後押ししてる。

 何がどう転んだのかは分からないが、司は夜鷹純と鴗鳥慎一郎が不定期に催している夜間の貸し切り枠に呼ばれるようになっていた。
 一度目にお邪魔した際はそれこそ神経をゴリゴリに磨り減らし、あまつさえ夜鷹純相手に宣戦布告めいた啖呵を切るという超展開に至ってしまったのだけれど。
 その後諸々あって、再び名古屋に居を構えることにしたらしい純が、親友である慎一郎と懇意にするのは、まあ自然の成り行きだろう。そこにどういうわけか、慎一郎経由で司にも声がかけられるようになった。純の中で何がどうなって司を呼ぶという結論に至ったのかは、未だに謎のままだ。
 意を決して、純本人に何故自分も呼んでくれるのかと訪ねたことがある。司の問いに、純は何故そんなことを聞くのかとでも言いたげな様子で「乗りたくないの」と聞き返してきた。貸し切りで広く使えるリンクに、夜鷹純と鴗鳥慎一郎のスケートが間近で見られるという最高に贅沢なオプションまで付いたシチュエーションだ。そんなリンク、乗りたい以外の選択肢は存在しない。
 訴えかけたい様々な言葉をぐっと呑み込み、ただ「乗りたいです」とだけ答えた司に、純は平然と「好きにすればいい。僕は君に強制しない」と宣ったのだった。
 そこからは、いわば開き直りの心境である。不定期に届けられる誘いには、時間が許す限り参加するようになった。
 勉強になるし、二人のスケートを間近で観たいし、何より。リンクで滑るのは、楽しかったからだ。
 司の参加理由は、大半がコーチングに活かすためのものだ。それでも、誰かの目を気にせず滑ることが出来る時間は何より得難いものだった。
 氷上の世界を知り、そこで生きたいと足掻いていた頃にはあまり見つめることの出来なかった気持ち。氷の上で、自身の思い描いたように滑るのは、楽しい。
 その気持ちを自覚してから、司はこの贅沢な時間を過ごす際に過度の緊張を抱くことはなくなっていった。

 共に過ごす時間が長くなれば、気安い話も出来るようになる。元々司は、人とのコミュニケーションが苦にならないタイプだ。
 貸し切り枠の終わりは、穴埋め作業がある。ぺちぺちと氷の表面をならしながら、他愛もない話をするのも楽しかった。
 粗方の穴埋めを終え、リンクサイドに向かっている時だ。ふと、司は鴗鳥先生にも聞いてみようかな、と思い至った。
 スケートに関する話じゃないんですけど、と前置きをした上で、司は慎一郎に質問を投げ掛けた。
「鴗鳥先生は、どこのメーカーのベッド使ってらっしゃいますか?」
「ベッド、ですか?」
「市販されてるものだと、長さがちょっと心もとないじゃないですか」
「ああ、そうですね。身長が」
「はい……
 司と慎一郎は、日本人男性の平均身長より大きめの体躯をしている。その為、たまに服や家具などで市販のものが使いにくかったりするという事態が発生することがあった。
 司が加護家で使わせてもらっている部屋に置いてあるシングルベッドも、当然のようにロングサイズだった。
「ベッドを新調されるんですか?」
「新調というか、お世話になっているお宅から出ようかな、と考えてまして」
「おや、では一人暮らしを?」
「したいな、というだけで具体的には何も決まってないんですが。今使ってるベッドが、どうやら分解出来ないタイプみたいで……買い換えるしかなさそうなんです」
 ようやく収入が安定してきて、一人暮らしを考えてもいいかなと思い立ったのだ。とは言え、何かが具体的に決まっているわけではなく、とりあえず必要最低限の家具家電の値段だけでも見積もっておこうか、くらいの算段でしかない。
 明日は洸平くんにも物件選びで何を重視したか聞いてみようかな、などと考えていると。
「寝具は相応の値段のものにした方がいい。パフォーマンスが変わるから」
 後ろから割り込んできた声に、司は驚いて振り向いた。
 今までの貸し切り枠で、純が司と慎一郎の雑談に混ざってきたことはなかった。寡黙で言葉の少ないタイプなのだろうとは思っていたし、想像通りの性格に驚きはなかった。
 だからこそ、この変哲もない話題に純が食いついてきた事実に驚きを隠せない。
「ええと……?」
「明浦路先生、純くんは睡眠時間が長いので、寝具に関しては私より詳しいですよ」
「そうなんですか」
 それはwikiには書いてなかったな。内心で呟きながら、そっと脳内に情報を付け加えておく。
 前にもこんなことあったな、と呆然としていると、バケツお預かりしますね、と言いながら慎一郎が司の持っていたバケツを流れるように浚っていった。
「見に来る?」
……え?」
「ベッド。見に来たら」
……はい?」
 軽くなった手を所在なく見下ろしていると、音もなく隣に並んだ純に話しかけられた。
 この人、今日はよく喋るな。それだけベッドだかマットだか枕だか布団だかに拘りあるってことなんだろうか……見に来るって、何の話だ?
 投げ掛けられた言葉が、ふわふわと周囲を漂っている心地だった。自分に向けられた言葉だと分かるのに、間違いなく日本語なのに、意味を把握する前にするりと逃げていってしまうような。
 ぽかんとしていると、純に腕を掴まれる。触れた手袋は冷えているはずなのに、手触りの良さばかりが際立っていて。高いんだろうな、と考えているとそのまま腕を引かれた。
「靴、脱ぎなよ」
「あ、はい、そうですね」
 促されるままベンチに腰掛け、靴紐を解いていく。思考の大半はフリーズしていたが、指は淀みなく動いた。
 純に言われた「見に来たら」の意味は掴めないままだ。返事をちゃんと出来ていないことは申し訳なかったが、純がその後言及してこない以上は追いかけない方がいいだろう。
 リンクの穴埋めも終えて、今日の貸し切りは終わり。後は帰るだけ。明日は休みだから、注文していた本を受け取りに行こう。
 予定を頭の中で組み立て、何事も滞りなく終わるはず、だった。

 その後。建物を出たところで、純は再び司の腕を掴んでそのまま部屋へ連れて行き。有言実行とばかりにベッドを見せて、「寝心地試してみたら」と言い出し、司を混乱の極地へと陥れるのである。
 思考停止したまま寝かされた司は、そのまま意識を飛ばしてしまい。数時間後目覚めて「シングルベッドの話してたんですけど、聞いてました?」と力なく言う羽目になるのだった。