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g_g_i_i_e_e
2026-04-18 17:56:33
1900文字
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お題:「いい子わるい子」
#ししさめワンドロワンライ 2026/04/18
村雨は不満を抱えていた。
それでも社会的地位と知性を兼ね備えた大人として、冷静に現状を分析した。
そして分析した結果を、厳然たる事実として宣言する。
「私はわるい子ではない」
「あぁ?」
中華鍋を振って米を宙に躍らせながら、獅子神が声を張り上げた。
「なんか言った?」
「私は、わるい子では、ない」
ダイニングテーブルの椅子に着席したまま、顔を獅子神の方に向けて、はっきりと唇を形作ってやる。
「はぁ?」
中華鍋から茶碗へ、その茶碗を伏せて皿へと移した飯を、片手に持って獅子神はダイニングへやって来た。
「わるい子って、なんだよ」
「あなたがそう言ったのだ」
「そんなこと言ったか? まぁテメーはわるい子ってか、わるい奴だと思っちゃいるけどよ。ああ、先食っとけ」
「そんなはずはない。いただきます」
目の前に置かれた皿、こまぎれの牛肉と刻んだ青ネギをたっぷりと混ぜ込んだ炒飯だ。村雨は用意されていたスプーンを手に取って、大きくすくった一匙を口に放り込んだ。
ネギとガーリックの舌にしびれる風味、この手の炒飯には珍しい赤身の高級肉が、噛みしめるとうまみを伝えてくる。咀嚼して飲み込み、グラスに注がれた水を一口飲んでから、村雨はものわかりの悪い生徒を諭すように言った。
「生まれてこの方、『わるい子』などと言われたことは一度もない。父母も兄も、私を賢い可愛いと持てはやしこそすれ、わるい子などと言われたことは一度もなかった。叱られたときでさえ、お前がいい子だということは知っているよ、と言われたものだ」
「そりゃお前の立ち回りがうまかったからか、お前のご家族がよっぽどできた人たちかのどっちか
――
っていうか多分両方だろ」
家族というものの、各家庭ごとのあまりの格差に思いを馳せたのか、氷水でそばを冷やしながら獅子神は小さく肩をすくめた。ちがう、と村雨は断固として首を振る。
「私が実際にいい子だったからに違いない」
「一万歩譲ってガキのお前がイイコだったとしても、大人のイイコは健康な人間の腹を開いたり違法賭博で億単位の金を巻き上げたりはしねえんだよ」
「ベッドの中で違法賭博や手術の内容が関係あるのか?」
「へぁ?」
盛りつけの手が止まり、それから獅子神はようやく合点したといったように、「あー」と天井を見上げた。
「わるい子だと言うだろう、私のことを」
「あー、
……
あー。まあ。そりゃあな。うん」
「私はわるい子ではない。そもそもあなたが意図的に射精させているくせに、いざ射精したら私がわるい子だという扱いになるのは」
「あーわかった、わかったよ先生、わかった」
どうやって腹を満たすのかもわからない、そばと野菜の盛り合わせ
――
それの入ったボウルの中に、仕上げに温度卵を落として獅子神は、村雨の席の隣に置いた。
「理解したか」
「したよ、した、先生はわるい子じゃねえ。いただきます」
適当に流すような物言いは気になったが、バイタルサインを読む限りでは、納得のいっていない様子というわけでもないらしい。それならばまあよかろうと、村雨は改めてスプーンを手に取った。
「ローストビーフが予定より減るけど文句言うなよ。お前が急に牛肉炒飯とか言い出したせいだからな」
「構わん。この炒飯は悪くないな」
「そうですか」
辟易した顔をしてみせるわりに、嬉しさを隠すことができていない。これでよくハーフライフでデカい顔ができているものだ、そう思いながら村雨は、またもぐもぐと満足いっぱいに炒飯を頬張った。
村雨は不満を抱えていた。
抱えているというよりそれはもう、不満ではち切れそうだと言ってよかった。
「なんだよ、せんせぇ」
怒ってんのかよ、とはちみつに漬けたような声で言いながら、獅子神が身を寄せてくる。
断固として背を向けたまま、村雨は「おまえの言うことは聞きません」と表明するように上掛けを頭の上までひっかぶった。
「きげんなおせよぉ」
上掛けに無理やり腕を
――
そこから身体を
――
ねじ込み、裸同士で密着しようと、獅子神は背後から抱きついてくる。
「なにが不満なんだよ」
「うるさい」
「いっぱい褒めてやっただろ、いい子いい子って」
「うう、うるさい」
いいこだな、せんせい。
その声がまざまざと耳の奥に甦って、村雨は自由にならない両手足をばたつかせる。
すると獅子神がくつくつと笑った。
「村雨はほんとにイイコだなぁ」
「うるさい、うるさい、このまぬけ
……
」
まぬけ、まぬけ。そう繰り返す村雨の、真っ赤な耳に獅子神は、チュ、と唇を落としたのだった。
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