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夜明 奈央
2026-04-18 15:53:18
4422文字
Public
中太SS
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中太 裏七不思議
なあ、知ってるか? 深夜に保健室行くと童貞卒業できるらしいぜ。
*現パロ中学生 学は無関係 *旗会のことはよくわからない
2026年4月17日初出
「アホくさぁ」
昼休みの教室の一角。クラスメイトが各々好き勝手に喋る喧騒の中、繰り広げられていた阿呆鳥の神妙な語りを中也は一刀両断した。
増える階段、動く肖像画、鳴り響くピアノ、姿が映らない鏡、保健室の啜り泣き、開かずの教室。そして最後の7つ目を知った者は口にするのも憚られるような恐ろしい目に遭う。どこにでもあるありふれた学校の七不思議だ。
しかしうちの学校にはもうひとつ、裏七不思議と呼ばれるものが語り継がれていた。例えば保健室の啜り泣き。曰く、深夜の保健室を訪れた生徒は、怪異で童貞を卒業できるらしい。
「どこのどいつが怪異で童貞捨てたいんだよ。最低限人間の女で捨てさせてくれよ」
「バッカそう言うなよ、もしかしたらサキュバスみたいに自分好みの姿で誘惑してくるのかもじゃん! 悪くないだろ」
「だとしても」
中也と阿呆鳥が言い争っていると、ピアノマンが割って入ってくる。
「まあそう言うなって。深夜の保健室だろ? 学校に忍び込んで警備の目を掻い潜って
……
って、童貞卒業のシチュエーションとしてはなかなかにスリリングじゃないか?」
「そもそも対象は童貞だけなのか? 非童貞が行ったら怪異が現れないのかエロいことさせてもらえないのかどっちなんだ?」
「怪異がその気でもこっちが勃たなきゃ無理だろ」
広報官の疑問をすかさず外科医が引き継ぐ。
「つまり童貞には女に見えるが非童貞には本物の怪異に見えると?」
「それはそれでおもしろいな! 側から見たら異形とセックスするキチガイってことか」
冷血が乗っかると、阿呆鳥が笑い飛ばした。
阿呆鳥、ピアノマン、広報官、外科医、冷血。この独創的なあだ名の面々は、入学して間もなく知り合った中也のクラスメイトだ。性格が違う割にはウマが合い、最近ではよくこうして連んでいる。
では訪れたのが女だったら、EDだったらと話が飛躍し、憶測で大いに盛り上がる。
思春期真っ盛りの中学生だ。怪異を本気で信じる程子供ではないが、性的な興味は人一倍大きい。されど実際に経験したことのある同級生などほとんどいない。誰かが面白半分に「行ってみようぜ」と言い出すのに、そう時間はかからなかった。
× × ×
その日、中也たちは空き教室に隠れて夜になるのを待った。外部から侵入するより警備が開始される前に入る方が簡単で効率が良いという判断だった。上手くすれば先生たちにもバレずに済む。
先生たちが全員帰宅したのを確認した後、中也たちはひっそりと隠れ場所から出てきた。電灯を点けるわけにはいかない。非常口の明かりと窓から射し込む月光で薄ぼんやりと照らされた夜の学校は、本当に怪異がいてもおかしくないくらいに不気味だった。
「よーし、じゃあまずはこっから1番近い『増える階段』でも確認しに行くか!」
静寂をぶち壊すように阿呆鳥が元気に腕を突き上げる。てっきり保健室を確認するだけだと思っていた中也は苦い顔をした。
「保健室だけじゃねぇの?」
「せっかく来たんだ。保健室だけなんてもったいないだろ」
視線で問いかけると、他のメンバーは中也と違って乗り気のようだった。ピアノマンには「いいじゃないか、夜は長いんだ」と肩を叩かれ、広報官にも「まだ深夜というには早い。他の七不思議も巡っているうちにちょうどいい時間になるんじゃないか」と宥められる。
「エロ餓鬼の中也がどーしても早く童貞卒業させてもらいたいっつーなら先に行ってもいいけど」
「エロ餓鬼は手前もだろ」
阿呆鳥に揶揄われ、外科医も冷血も特に異論はないようで無言で頷く。そうなれば中也も諦めるしかなく、夜の七不思議巡りが始まった。
が、増える階段は何度数え直しても同じ数で、肖像画はぴくりとも動かず、ピアノも静まり返ったまま。もちろん鏡にはしっかりと全員の姿が映ったし、校内を何周しても開かずの教室らしきものは見つからなかった。
「つまんねぇー!」
「やっぱ子供騙しだったか」
「七不思議なんて所詮そんなものだろう」
七不思議など、元より誰も本気で信じてはいない。ただ、深夜の学校をこっそりと巡るこの状況を楽しんでいるだけだった。
「っつーか、裏七不思議って保健室の他はなんなんだ?」
「んー、俺も全部は知らないんだよなー。確か開かずの教室は両思いの男女のみすんなり入れて、閉じ込められたそこはセックスしないと出られない部屋になるとか」
「え、裏ってそういう裏?」
「その噂、ぜってぇ最近の話だろ」
わいわいとくだらない雑談や噂話で盛り上がりながら、最後の目的地である保健室へと向かう。この頃には怪異どころか警備員に対する怯えすら消え失せていて、誰も彼も全く隠れようともしていなかった。
しかし保健室のある1階職員廊下に差し掛かったところで、趣がやや変わることとなる。
「おい、何か聞こえないか?」
いち早く異変に気づいたのは冷血だった。最早騒がしいとさえ言える会話がぴたりと止まる。耳を澄ますと、ぐすん、ぐすんとどこからか鼻を啜るような音が聞こえてきた。出所はどうやら噂通りの保健室のようだ。
「なんだ、面白くなってきたじゃないか」
「そ、そそそうだな」
「なんだ、ビビってるのか?」
「ンなわけねぇだろ」
乗り気のピアノマンに対し、言い出しっぺのはずの阿呆鳥はやや尻込みしている。
「こんな時間に俺ら以外に誰かいるのか?」
「まだ帰ってない先生がいたのかも」
「だとしたらやばくね? 絶対怒られるぞ」
「先生なら電気くらい付けんだろ」
「ここまで来て確かめずに帰るわけにはいかない」
こそこそと小声で作戦会議を行なった結果、満場一致で啜り泣きの正体を確かめることに決まった。そろり、そろりと保健室に近づく。扉の前まで来て耳を澄ませると、やはり音の出所はこの部屋のようだった。そっと引き戸を引いたつもりだったが、静かな空間にはやたらと音が響く。途端に啜り泣きの音がぴたりと止まった。
保健室の奥にはベッドがある。無人の時には開いているはずのカーテンが閉まっていて、月明かりに照らされてぼんやりと人型のシルエットが浮かんでいる。
「だ、誰かいるのか?」
代表してピアノマンが尋ねた。しかし返事はなく、シルエットは微動だにしない。互いに頷き合い、そろそろとベッドへと近づく。やがてベッドの間際まで辿り着いたところで、カーテンを勢いよく開いた。
「誰だっ!」
ベッドの上には包帯塗れの男が座っていて、こちらをぎろりと睨みつけた。
「ギャー!」
「わー!」
「うわぁ!」
「ひぇぇ
……
」
「
……
っ!」
「って、お前かよ!?」
思い思いの悲鳴を上げる5人を尻目に、中也ただ1人が静かな驚きの声を上げた。
「何これどういうこと?」
男は鬱陶しいとでも言わんばかりの態度を隠しもしない。中也にとっては見慣れた同級生、太宰治であった。
悲鳴を上げた面々も相手が生身の人間だとわかると落ち着いたようで、一拍置いて悲鳴を上げたことを恥じるように取り繕っている。
「なんつーか、ちょっと肝試し的な
……
」
「ああ、もしかしてあの噂? 童貞卒業させてくれるっていう
……
」
「ンなわけねぇだろ」
「そうなの? 残念。僕が卒業させてあげても良かったのに」
人差し指で顎先をすーっと撫でられ、ぞんざいに叩き落とした。
「誰が手前なんかで卒業するか!」
「君はそうかもしれないけど、後ろのお友達はどうかな?」
「ふざっけんなよ!」
中也の反応は太宰を満足させるものだったのか、くすくすと楽しそうに笑っている。
「まあ男が相手じゃ童貞卒業したって言えるか怪しいしね」
「それで君はどうしてここに?」
中也に任せておいては埒があかないとでも思ったのか、後ろで会話を見守っていたピアノマンが口を出した。
「放課後ちょっと気分が悪くて、ベッドを拝借したんだ。少し休んだら帰るつもりだったんだけど思いの外ぐっすり眠っちゃったみたいで」
「ではさっきの啜り泣きは?」
「啜り泣き?」
「七不思議にあるみたいな啜り泣きが聞こえてたけど」
周りが同意するように頷くと、太宰はしばらく考えた後、「もしかして洟かんでたからかな? ほら僕花粉症で」と続いて脱力した。つまり保健室の怪異なるものは存在しなかったというわけだ。
「マジかよアホくさ」
「純粋で初心な中也くんはもしかして本物の幽霊とでも思っちゃったのかな?」
「んなわけあるかっ!」
「ははは、いいじゃないか。怪異じゃなかったってことで」
放っておけばいつまででも続きそうなやり取りに広報官が割って入る。
「それで、これからどうするんだい?」
「僕は帰るとするよ。幸い警備の抜け道を知ってるんだ。良かったら君たちも一緒に来るかい?」
太宰の誘いに、一瞬顔を見合わせてからすぐに頷いた。朝までここで過ごすつもりでいたが、もう用はない。帰る手段があるなら帰って家のベッドで眠る方がいいに決まっている。
学校を出て、校門の前でそれぞれの方向に別れる。なんとなくみんな黙って歩いていたが、太宰が見えなくなるくらい遠くに行ってから、阿呆鳥が口を開いた。
「なあ、なんでお前らそんなに冷静なんだ? 誰も言い出さねぇからサイン貰い損ねたじゃん!」
「サイン?」
阿呆鳥の発言に残りの5人が首を傾げる。
「え、まさかお前ら橋本環奈知らねぇの!?」
「いや、橋本環奈は知ってるけど」
やはり意味がわからず、皆で顔を見合わせる。
「え、さっき保健室にいたの、環奈ちゃんだったよな
……
?」
「はあ? ありゃ太宰だろ。寝呆けてんのか?」
「いや、結衣ちゃんだろ?」
「ひなたじゃなかったか?」
「蒲田さんじゃねぇの?」
「今川先生だと思ってたけど」
全員バラバラの答えに、背筋がすっと冷たくなる。
「お、おい。誰か電話してみろよ」
「できるわけないだろ、もう3時回ってんだぞ」
「さっきまで俺らと一緒にいたんならまだ起きてるだろ」
「違ってたらなんて説明すんだよ」
「太宰、太宰ならいいだろ」
皆に唆され、中也は慌てて太宰にコールする。数十秒に渡る長いコール音の後、通話はキャンセルされた。すかさずもう1度掛けると、既に電源は切られている。
「ほ、ほら、あいつ俺をおちょくるのが趣味だから」
「っつーかよく考えたら繋がったところでとぼけるかもしれねぇし。は、ははは」
乾いた笑いが伝染する。
それから先は、誰もまともに話をしようとしなかった。真相を確かめる勇気はなく、翌朝学校で顔を合わせた太宰にもその晩の話をすることはできなかった。
そうしてあの日の出来事をなかったことにしようとしていた数日後、ふと気づくのだった。あの太宰の姿をしたなにかは確かにこう言った。
「僕が卒業させてあげても良かったんだけど」
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