rai_13
2026-04-16 22:50:48
2043文字
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勝者と敗者/歓声と悲鳴

書き殴りました。最後の4コーナーからです。

東京レース場。
芝2400m左回り。
第12レース、日本ダービー。









 体が重い。脚が溜まってる。歓声が遠い。でも落ち着いている。息は乱れていない。
いける!やれる!そして何より────


─────あの白い背中が、すぐそこにいる。


第4コーナーに差し掛かる集団はハイペースの縦長。
後ろからの私には最高のペース。

「────ふッ!」

最後の直線に入る。少しでも温存するために最内だったのをそのまま内を選択した。
ハイペースなら馬群は乱れる。脚が上がった先行勢の間を縫えば!彼女に!勝てる!
しかし、しかし残酷にも目の前で彼女は─────ドウデュースは、私を置いて馬場のいい大外に持ち出していた。

「くっ!!」

もう全てが遅い。判断ミスだ。
悠々と外を走るドウデュースに並走するジオグリフの後ろに入り込み追いかけるように外に出す。

(ロスは最小限!間に合う!!)

ドウデュースもうスピードに乗っていた。ジオグリフも食いつく。

『残り400mを通過!』

ようやく場内に響く実況が耳に響く。
ドウデュースは、笑みを浮かべて深く踏み込むと──────その足をめまぐるしく回転させた!

(置いていかれる!)

そう思った時にはその背中は強烈な残像を残して坂を登っていた。

「うぁあああああ!!!!」

声を上げてあの背中を追いかける!
残像を切り裂くように空気を割く。
あの鹿毛の髪を追いかけて追いかけてなんとか差を縮める。
200mを切った坂上でもその差は縮まらない。
負けたくない。負けたくない。あの背中を追い越したい!絶対に勝ちたい!!あの背中を越えたい!!


「───ドウデュースゥウ!!!!!」


喉がちぎれそうなくらい叫びながら一歩一歩差を縮めていく!


『これはドウデュースだ!ドウデュースだ!!』


一バ身!!!!


『イクイノックスか!?』


半バ身!!!!!!!


『ドウデュースか!?』


クビ!!!!!!!!!!
捉えた!!!!


『────の想いが!ドウデュースに伝わったッ!!』


しかしそこが終着点。
笑みを浮かべる口元だけがよく見える。
ゴール版を1着で通り抜けた瞬間、大きな右手によるガッツポーズを一つ繰り出し、すぐに目の前にドウデュースの右腕が伸ばされた。


『ドウデュース逆襲の末脚ィイイイイ!!!』


スタンドに向けて立てられた人差し指が残酷にも私に敗北の事実を叩きつけていた。
流れるようにガッツポーズを重ねる彼女に対して、私は声にならない悲鳴をあげてしまった。
歓喜に沸くスタンドは信じられないほどの熱と声を上げレース場を揺らして彼女の勝利を祝うばかり。
歓声に紛れて聞こえないほどの声にならない悲鳴は幸運にも彼女の耳には届いていないみたいだった。


「やっっっっっっったぁあああああああああああ!!!!!!!」


それは勝者の咆哮。減速しながら空に咆えるドウデュース。
私は間抜けにも息を切らし重い体をなんとか減速させて空気を吸い込むだけ。
勝者と敗者。決定的な違いに打ちひしがれる。

「ゲホッ!!ゲホッ!!」

膝に手をつきむせながら空気を吸い込む。
勝った時はきっと疲れなんてへっちゃらなのに、どうして負けたらこんなに体が重いんだ。
ガッツポーズをしているドウデュースの方になんとか歩み寄り手を差し出す。

「カンペキ!です!」

「ありがとう!!イクイノックスもナイスファイト!!」

いつもの飄々とした表情は一体どこへいったのか、気持ちのいい笑顔と共に手を握られる。
手から伝わるこの熱は今の私には酷く痛い。
ニコニコ笑いながら他の人の手厚い祝福を受けるドウデュースを片目に息を切らしながらふらふらとダートコースを横切り地下バ道へ重い足を進める。
後ろから何も喋らないジオグリフが肩を持ってくれた。
彼女は完璧だった。ゲートを出てから終盤まで全てが完璧だった。
大歓声のスタンドへ向かっていく彼女を見ることもできずに地下バ道へ進んで行く。
この息の乱れは負けたからなのか。それとも悔しいからなのか。

(くやしい。)

滲む視界。溢れる嗚咽。

(くやしいくやしいくやしいくやしいくやしいくやしい!!!!!!)


(私が1番!!誰よりも!!勝ちたかったのに!!!!!!)


(かちたかったのに…………)


ジオグリフは静かに肩を貸してくれる。気がつけばジオグリフの優しい肩に顔を寄せて大きな声で泣き喚いていた。
ありがとうすらいう余裕もない。ジオグリフも一緒に泣いている。
私たちだけではない。このレースに負けた全てのウマ娘が大小涙を流している。
人生に一回だけの主役を決める大舞台。
地面を震わせる彼女ただ1人を祝福する大歓声。
その陰に主役のスポットライトを浴びられなかった敗者たち。
そんな私達の悲鳴に似た嗚咽が地下バ道に酷く響いていた。