三毛田
2026-04-16 21:06:22
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29 【29/今なら夢へと近づける】

29日目
君が後押ししてくれたから

 将来の夢というものは、特に抱いていなかった。
 そういう思考になるようにと、誘導されていたのも大きいだろう。
 しかし、あの家から出たら、あそこが異常であったとわかり。それから、現実的でも、そうでなくても少しずつ夢について、将来について考えるようになり。
「生物学者……
 まだ幼く、外に出ることも外の人間と交流することも許されていなかった俺が初めて触れたのは、許されたのは、家を継ぐべきだと強制されていた兄がくれた生物図鑑。
 紙がボロボロになるまで読んだし、今でも大切にしている。
「学者になりたいのか?」
 俺の呟きを拾ったのか、隣の席の穹は少々不思議そうにこちらを見て。
「険しい道のりだということは分かっている」
「でも。俺は似合うと思うな」
「何故」
「忍耐強いし、体力もある。インドア派に見えるけど、好きなことに対してはアクティブだ」
「だが、漠然としすぎている」
「高校一年の夢なんて、そんなもんだ。だから、大学に進んだりするんだろ?」
 彼の言葉は、ストンと俺の胸に落ち。
「そう、か。そうだな」
「うん。俺は、友人として応援する。だから、今のうちにサインください」
「流石に早すぎるだろう」
 呆れたように告げると、ニカッと笑い。
 その笑顔が眩しく、だけど俺の道を示してくれる光で。
「だが、ありがとう。お前のお陰で、悩みが消えた」
「そうやって真っ直ぐに言われると、ちょっとした下心まで浄化されるじゃん……
 何かボソボソと言っていたが、新たな目標を決めたばかりの俺の耳には、きちんと届かなかった。
「今日も丹恒が可愛くて好き」
「お前はまた……
 両手で顔を覆いながら、ゴロゴロと床を転がる穹。
 そんな彼に告白されたのは、夏休みの直前。
 何故俺なのだと。俺に関わると、ろくなことにならないと。
 愛も知らなければ、恋も知らない俺が恋人になるのはいいのだろうか? 彼を好きだと、彼にあこがれているという人間はごまんといる。
 そう何度も告げたのに、彼は諦めなくて。彼は結局俺が折れた形になる。
「んふふふふふ」
「嬉しいのか怪しいのかどっちかにしろ」
「嬉しくて仕方ないんですぅ。何処が怪しいんだよ」
「笑い方だな」
 俺の腰に抱き着いて、腹に顔を埋めながら変な笑いを出すので思わず呆れが声を剥けてしまう。
「丹恒」
「なんだ」
「夢、叶えろよ」
「お前に言われなくても」
 ちょっと照れくさくて、乱暴に髪を混ぜる。でも、嬉しそうだ。
 時々穹が理解できない。そう思うのも仕方ない。