一人暮らしをしている1DKのキッチンで、来栖理玖は鼻歌交じりに乾燥ペットフードを器に移し替えていた。先程拾ったばかりのウサギ用のものだ。
スマートフォンで検索して餌の量を調整していく。足りなさそうであれば後でまた追加しようと思って振り返った。
「これくらいかな。よし、飯出来たぞー
……」
話しかけながら視線を向けたものの想定外の〝モノ〟が視界に飛び込んできて、思わず器を落としてしまう。中身が床に散らばってしまったがそれどころではなかった。
「何だ、葉っぱはないのか」
——誰っ?
そこにはさっき拾ったばかりの垂れ耳ウサギではなく、灰色がかった薄い茶色の髪色に垂れ耳ウサギの耳をつけた筋肉質の男がいたからだ。
しかも真っ裸だ。端正な顔立ちをしているものの、眉間に寄せられた皺と醸し出す圧や雰囲気は、どこからどう見てもヤクザかマフィアのボスにしか見えない。そのボスが片手で髪の毛を後ろに撫で付けながらヤンキー座りをしている。
己が落としてしまった乾燥フードを手に取り、男は不服そうに見つめていた。
その姿で葉っぱとか言われると、違法性のある葉っぱしか思い浮かばない。いや、その前に誰だよこの人。混乱を極めている思考回路ではまともな考えは思い浮かべられなかった。
借金取りに追われるような事をした覚えはないし、誰かに名義を貸すなどもしていない。どちらにせよ、裸で取り立てに来るなど聞いた事もなかった。
「は? えええ?」
そんな男が何故自分の家にいるのか皆目検討もつかずに困惑する。微動だに出来ずにいると、男がゆっくりと立ち上がった。
羨ましすぎる程の肉体美を惜しげも無く曝け出した男が腕を組む。身長も見上げるくらいには高いので二メートル近いだろう。
くっきりとした二重瞼を眇められると圧が強すぎる。動けば仕留められそうなくらいの気迫が伝わってきた。
——いったい何が起こっている?
停止寸前の思考回路を巡らせて、今から三十分前へと記憶を遡ってみる。
それは仕事の帰り道だった。
達筆すぎて上手くも汚くも見える字で『拾え』と書かれている小さめのダンボール箱を見つけたのが始まりだ。
他の人たちはダンボール箱に視線を向けながらも、見て見ぬふりをして通り過ぎていく。今日は確か夜中から雨が降ると天気予報で言っていた。このまま放っておけば命を落としかねない。
「ごめんな、開けるぞー」
てっきり犬か猫だと思っていたのに、中に入っていたのは一匹の垂れ耳ウサギだった。
動物愛護協会に保護してもらう迄の間は自分で面倒を見ようと連れ帰ってきた。
先にダンボール箱ごとウサギを家の中に入れ、餌などを買うために近くにあるドラッグストアへと走った。
ペットコーナーに置かれていた乾燥フードなど必要な物を買い、急いで家に帰ってすぐに準備を始めた。なのに、振り返ったらウサギは居なくなっていて、代わりにウサギ耳付きのどこかの組織のボス
……いや、この男がいたという流れで今に至る。
「は? 待って! あの
……どちら様ですかっ?」
「ウサギだ」
「そんな圧の強いウサギが居て堪るか!」
流れでツッコんだものの、ギロリと睨まれたのですぐに「すみませんでした」と即行で謝る。
意味が分からない。どうしてこんな状況になっている? そうだ
……。
「ウサギ!」
拾った本物のウサギは無事なのだろうか。男の横を通り抜けて、ベッド近くに置いたダンボール箱の中を覗いた。
「いない
……」
——どうしよう。俺が目を離したせいだ。
ベッドの下を覗き込んだり、あらゆる箇所の隙間を覗き込んだがどこにも居ない。ベランダの鍵も開けて覗いてみたがそこにも居なかった。
「あの
……ウサギを何処かにやったりしてないですよね?」
「だから俺がウサギだと言っている」
「
……」
話にならない。
偉そうな口調で告げられ、胡散臭げに見つめる。その前に服を着て欲しい。どうして裸なんだ。
確かにウサギの耳はついているが単なるコスプレだろう。裸でウサギの耳をつけるだなんて痛い事この上ない。変質者確定だ。
「失礼しました」
スマートフォンを掴んで外に飛び出すなり警察に通報した。
「すみません。家にウサギの耳をつけた裸の変質者がいるので、今すぐ来て貰えませんかっ?」
「おいお前、また俺を放置して何処かへ行くつもりか?」
内側からドンドンと扉を叩かれる。
「放置もなにも俺はアンタなんて知らない!」
男が出て来られないように外から扉を押さえつけたまま、警察官に住所を告げて通話を終わらせた。その後、警察官が二名駆けつけたが、家の中には居なくなったと思っていたウサギが一匹いるだけで、今度は男が消えていた。
——何処に行ったんだ?
借りているこの部屋の間取りは縦長の造りで、今いるリビングとダイニングとキッチンが一体型になっている部屋と、スライド式の扉越しに繋がっている寝室しかない。
常に扉を開け放して大きなワンルームとして使っていた。
玄関から部屋の隅々まで見渡せるこの部屋で、急に姿を現したり消したりするのは不可能だ。しかもあの体躯の良さだ。見つからないわけがない。潜めるとなればトイレか浴室、クローゼットだが、何処にも姿が見当たらなかった。
「うーん、くまなく探したんですけど何処にもいないですね」
「でも俺はここから動いていませんし外には出ていないと思うんですけど
……」
「もしかしたらベランダ伝いに逃げた可能性もありますので注意して近辺を捜索してみます。念の為にこのアパート周辺の道もパトロールで巡回するように伝えておきますね。また何かありましたら通報してください」
すみません、と頭を下げてドアロックもかけた。
——どういう事なんだ?
額に手を当てて目を瞑る。疲れているのかもしれない、と目頭を揉んだ。視界はゼロだが、ウサギがポリポリと餌を食べている音が聞こえてくる。
——ん? 音?
「何だ、ヘンシツシャとやらは見つからなかったのか?」
弾かれたように目を開けると、ヤンキー座りをしている男と目が合った。
「アンタの事だよっ!」
「俺はヘンシツシャではない。ウサギだと言っている。まあ、厳密に言えばウサギの獣人だがな。ウサギにも人型にもなれるぞ。ほれ
……」
目の前でモフモフの可愛らしいウサギに変化されると疑いようもなかった。しかしながら現実離れしすぎていて、事実をうまく飲み込めない。
「嘘、だろ」
「信じる気になったか?」
男が鼻で笑いながら言った。そんなドヤ顔で言われても困る。
「ウサギの獣人
……?」
男の頭を凝視する。緩く後ろに撫で付けられた髪の毛と同じ色をしたフワフワの垂れたウサギ耳があり、時折りピクリと反応していた。
——これ、マジで本物なのか?
「触るか?」
低く落ち着いた声音が心地良い。頭を下げて差し出されたので、手を伸ばして触れてみた。
——何だこれ
……フワッフワ
……ッ、めちゃくちゃ気持ちいい。
「ヤバッ
……」
ずっと触れていたいくらいには触り心地が良くて、心臓のあたりが歓喜でムズムズしてくる。しかし男が全裸なのを思い出し、熱が冷めて手を離した。
「何で裸なんだよ? 服は?」
「服を着てウサギの姿にならなかったからな。そのまま人の子の住む世界に来たのもあって、用意するのを失念していた」
見た目とは違って存外に抜けているらしい。
「人の子の住む世界って
……、もしかしてアンタ違う世界にいたのか?」
「そうだ。獣人族の国という所にいた。この世界と並行して存在している異世界と言った方が早いだろう。俺のような獣人が、嫁や旦那を探しにこうしてこの世界に紛れ込む。俺もそうだ」
——成程。嫁を探しているのか。
どちらにしても、そんな話は聞いた事もなければ、今まで出会った事もなかった。俄かにも信じ難い。
「いや待ってくれ
……色々ありすぎて、何というか
……どう受け止めて良いのか分からないというか、直ぐには受け入れられそうにない」
異世界の話など夢でも見た試しがない。もしかしたら今夢を見ているのかもと考えて頭を振る。寝た記憶がないからだ。
——これは本当に現実なのか?
再度頭を横に振った。いくら何でも現実離れし過ぎだろう。それにあんなに可愛かったウサギが、本当は筋肉質の強面男だったなんて信じたくない。
——しかも
……。
チラリと視線を向ける。大層立派なモノをぶら下げているのが憎たらしい。見たくなくても視界に入るし、その度に視線を逸らすが、男が堂々とし過ぎているので見えてしまう。
有体に言えば目のやり場に非常に困る。とりあえず服を着せようと思い立ち、クローゼットを開けた。
——何か服なかったっけ?
三年前に振られた恋人と夏祭りに行く予定で買った浴衣が、袖を通さないままの状態で残っていた気がする。服の中を漁った。
「あった!」
「何だその布は。かじっても良いやつか?」
「かじるのはダメだ。これは浴衣と呼ばれている服のようなものだ。俺の着ている服だとアンタには小さいだろうから、とりあえずこれを着てくれ
……その前に風呂でも入るか? ちゃんとした新しい服は明日にでも買ってくるよ」
「風呂
……まさか水浴びか?」
どことなく嫌そうな顔をしてみせた男に向けて口を開く。
「そうだな。その水が温かいんだよ。ウサギは風呂に入れちゃいけないみたいだけど、アンタは獣人だから良いだろ? 使い方を教えるから一緒に入ろう?」
「ああ」
先に湯をためる為に「準備をするからちょっと待っててくれ」と声を掛けて風呂場へと向かう。全て準備を整えて、男の手を引いてタイルの上に座らせた。
「頭から洗うぞ。目に入ると痛いから目は閉じててくれ」
「うむ」
シャワーで湯をかけると、男が突然勢いよく立ち上がった。
「え、何?」
「こちらのセリフだ!」
——もしかして驚かせた?
「悪い。シャワーは慣れてないか? 洗う前と流す時にこうやって濡らしていくんだよ」
服を着たままだったけど仕方がない。シャワーを自らにかけて見本になる。
「そうなのか
……」
少ししょんぼりしている様子はどこか哀愁が漂っていて図体がデカくても可愛く見える。
また大人しくタイルの上に座り始めた男にシャワーを浴びせて頭から洗っていく。男の全身を洗い終えた後に、湯船へと誘導した。
自分も濡れてしまったので、服を脱いで同じようにシャワーを浴びていく。ふと視線を感じて男を見る。食い入るように観察されている気がして声を掛けた。
「何だよ? どうかしたのか?」
「お前、オスだったのか?」
一拍の沈黙が流れる。
「いや、どっからどう見てもオスだろ。女顔してるなんて言われた事もないし、体つきも顔も声も男だろ?」
「細くて小さいからてっきりメスだと思っていた。ふむ。まあ、大丈夫だろう」
「アンタが規格外に高くてガタイ良いだけだぞ? アンタに比べたらみんな細くて小さく見えると思う。人間の中では俺は平均身長に平均体重だ。顔も普通だと思うし」
何もかもが普通で突出した魅力がないのは悲しい。「理玖は普通に優しいだけなんだよな」と、振られるセリフも毎回こうだ。見事にトラウマになっていた。
「まあ、それも良い」
「何が?」
先程から噛み合わない何かがある。問いかけると男が口を開いた。
「もう決めたから、オスでもメスでも変わらんという話をしている」
頬を撫でられる。武骨で大きな手で優しく撫でられると、心地良くて胸が踊った。
「見てくれだけで言うならばお前は綺麗だと思うぞ。好ましい」
「あり、がとう?」
——褒められたんだよなきっと?
一切染めていない黒髪に黒目は獣人族には珍しいのか? つい疑問系になってしまう。
獣人には褒め言葉なのかも知れないが、どうせなら綺麗ではなくカッコいいと言われたかった。
「俺はお前からはどう見える?」
「え
……? イカつい
……いや、男らしくてカッコいいんじゃないか?」
頬を撫でていた手で顎先まで撫でられる。男の行動の指す意味がよく分からない。頭の中で疑問符がたくさん飛び交っていた。
のぼせる前に風呂から出て、タオルで体や頭を拭くのを教えていく。何もかも面倒をみるのは手間がかかり大変だったものの、嫌というわけではなかった。隙あらばタオルを齧ろうとするので困ったが。
「浴衣の袖通すぞ」
「うむ」
男に袖を通させて、軽く帯で締めておかしな所がないかチェックする為に正面から見つめる。
——どうしよう
……似合い過ぎてマジでそっち系の人にしか見えない。
懐から短刀とか拳銃が出てきても違和感が無さすぎた。妙なドキドキ感がある。
「髪の毛を乾かすから此処に座ってくれ。あと、大きい音がするけど大丈夫か?」
「構わんぞ」
髪の毛をブラシしながらドライヤーをかけると男が気持ち良さそうに目を細めていて、それが微笑ましくてつい笑いを溢してしまう。濡れたままだと可哀想だと思い、耳までしっかり乾かした。
細かい毛がみっちりと詰まっている耳は乾かずにつれて手触りのいいモフモフへと変化していく。可愛いし気持ちいい。ついテンションまで上がった。
「どうかしたのか?」
「いや、こうしてると耳もあるし可愛いなと思って」
間違いなくこの強面男に向ける言葉ではない。
「気を悪くしたんならごめん。そういえばアンタ名前はないのか?」
ずっとアンタと呼ぶのは気が引けて問いかけた。
「名前
……ないな」
「ふーん。ないのは困るな。それなら夕闇ってのは? お前を拾ったのは月が出る夜になる頃の時間帯だったし。あー
……安直過ぎたかな」
「いや、それでいい」
男
……夕闇の表情が輝いた。
思った以上に気に入って貰えた様子だったので、逆にこちらが気恥ずかしくなってしまった。
「俺は来栖理玖だ。理玖でいい」
「理玖。分かった」
鷹揚に頷かれる。ドライヤーを片付けた後で、冷蔵庫を開けて何かないか漁っていると夕闇も近付いてきた。肉を取り出し、キャベツやチンゲンサイ、ニンジンをキッチンの調理台に並べていく。
メニューを考えるのは面倒だったので適当に炒め物を作ろうと、取り出したキャベツに手を伸ばしたが空振りする。いつの間にかキャベツが無くなっていたからだ。
シャリシャリと音が聞こえてきたので、音源に視線を向ける。
「キャベツ
……好きなのか?」
「これは美味い」
上質な肉しか食べそうにない強面の筋肉質の男が、生の半玉キャベツにかぶりついている絵面は中々シュールだった。
取られてしまったのは仕方がないので、チンゲンサイに手を伸ばすがそれも奪われる。ついでにニンジンも奪われた。
「
……」
ダンボール箱の中に隠しているのを見て、思わず声に出して笑ってしまう。
——他、何か代わりになりそうなものあったっけ?
また冷蔵庫を開ける。焼きそば麺を見つけたけれど、具が肉だけの焼きそばになった。
「今度から別で買ってこよう」
食事も終わり時間潰しにテレビを見ていると、夕闇が寄ってきて後ろに陣取られた。
当たり前のように抱き込まれ、手や足をスリスリと指の腹で擦られる。その後で手の指一本ずつを丁寧に絡ませられて握られた。
大きくて節張った手だと思ったら、指も太くて男らしい。己とは大違いだ。思わず食い入るように見つめてしまった。男らしくて大きな手が癖だったりする。しかし
……。
——どうしよう、困ったな。
相手が普通の人間の恋人ならばこのスキンシップの取り方はセックスの誘いだと解釈するが、相手はウサギの獣人だ。どう受け取っていいのか悩んだ。
セクシャリティーが男だと余計な心配事が増える。
先程みたいに使い方を教える為だけの裸の付き合いなら、割り切れるし案外平気なのだが今はそうじゃない。
夕闇は寂しいだけで他意はないのかもしれないけれど、こっちは恋人のいない期間が長かったのもあって、こういう接触はさすがに体が反応してしまう。
さりげなく立ち上がり、飲み物をコップに注いで座る場所を変えてみたものの、また腕を引かれて同じ体勢に戻された。指を絡ませられて指の間を優しく擦られる。
「
……」
——これはもうあれこれ考えるより寝てしまった方が良いのでは?
早々に考える事を放棄して、コップに注いだ飲み物を一気に飲み干して立ち上がった。
「そろそろ寝たいんだけど、夕闇はどうする? ウサギの姿に戻るか?」
出来るならばそうして欲しい。ウサギの姿には欲情はしないからだ。一縷の望みをかける。
「このままでいい。一緒に寝る」
——マジか
……。横向きで背中を向けて寝よう。
ベッドに入って横向きになると、背中合わせのつもりだったのに向かい合わせに体の向きを無理やり変えられた。また頬を撫でられる。
——垂れ耳ウサギは寂しがりやだとネット記事には書かれていたけど、そのせいか?
恐らくは己の行動の何かが夕闇に刺さり、懐かれてしまったのだろうと思案する。どうしてこうなってしまったのか全く分からないが。
——拾ったから? それとも風呂? 着替えか? 名前をつけたから?
思いつくだけ考えてみたものの答えは出てなくて更に困った。
風呂以降すぐに触れてこようとするから、人型なのもあって何だか意識してしまう。
落ち着け。ウサギだからだ。ウサギだからだ。コイツは俺に気があるわけでも無ければ誘っているわけでもない。ウサギだからだ。何度も頭の中で同じ言葉を反芻した。
「お前、俺を蹴り落とすなよ?」
気まずさをかき消すように思考回路とは全く噛み合わない話題を出す。
「蹴り落とさなければ良いんだな。承知した」
——まあ、本当の理由はそうじゃないから、蹴り落とされても問題ないんだけど。
何とか自分自身を誤魔化して目を閉じる。当たり前のように密着する形で抱きしめられたので、目を開けて夕闇を見つめた。
——これはアウトだ。無理だ。
「何で俺を抱きしめている?」
「外敵から身を守るにはこうしていた方が安全だろう」
「いや、ここには敵とかいないから大丈夫だ。離れてくれ!」
体を押し返して離れようとしてみたが微動だにしない。己が疲れるだけだった。
「何があるか分からないだろう?」
「ちゃんと部屋の鍵もかけているし、ドアロックまでしてるから大丈夫だ!」
「ダメだ」
夕闇は善意でやっているのかも知れないがこちらは死活問題だ。下半身が反応して気持ち悪がられるのは堪える。
「そんなに俺は嫌か?」
「ちがっ、そうじゃなくて
……」
「では何だ?」
言うかどうか迷って視線を彷徨わせる。真意を探るように見つめられていた。
「あー、もう! 俺は
……この世界ではゲイって呼ばれているもので、まあ
……いわゆる男が恋愛対象なんだよ。だから夕闇が人型でこういう風にくっ付かれると、その
……勘違いしてしまうというか、生理現象で体が反応する。あまり恋人みたいな触れ合い方はして欲しくない」
「何だそんな事か。全く気にならん」
「いや、頼むからそこは気にしてくれ!」
その後も何度か敵がいる居ないで揉めていたが、体力が先につきて抱きしめられたまま寝ることになった。
***
「ん、あ」
何かに体を弄れているような、気持ち良いような違和感があって目を開けた。
主に下半身
……というよりも想定外の場所に刺激があって、思いっきり開かされている足を閉じようと試みる。逞しい腕にガッチリと押さえ込まれていて足を閉じる事さえもままならなかった。
「え、え
……嘘? ひ、ぁあ!」
湿った何かがあり得ない所を出入りしている。蠢く肉感のある柔らかいモノが内部に入り込む度にピチャピチャと音がしていた。
まさかそんな所を舐められるとは思ってもみなくて暴れる。これまでに恋人にもさせたなどなかったからだ。
「夕闇? や、め
……っ、何して
……」
暫くの間繰り返された後で、舌と一緒に指が入り込んでくる。指が何本か増えたかと思いきや、今度は体をひっくり返され腰だけ高く持ち上げられる。
「ゆう、やみ」
ゴクリと喉を嚥下させた。
——え、もしかして最後までするのか?
焦燥感と少しの期待感が胸に芽生え、心音が高鳴った。
「理玖」
熱っぽい夕闇の声がしたかと思えば、腰の辺りを上から押しつぶされる。そして少しずつ質量のあるものが後孔に押し入ってくるのが分かった。
「やめ
……やめろ! 夕闇
……っ、それはダメだ
……、ぁ、ああああ!」
静止の言葉も意味を成さず、どんどん内部を押し開かれていく。
「抜けっ! やめ、ひ、あああ!」
「理玖
……っ、大丈夫だから力を抜け」
勝手に人の内部を暴きながら、声音は酷く優しい。それに大丈夫とかの話ではない。想定外の行為に戸惑っているから止めろと言っているのだ。
「ほら、半分は入ったぞ」
「冗談だろ
……、これで半分?」
全部押し込まれたら腹の奥深くまで犯されそうだ。思った通りに内部の奥へと進んでくる熱を感じて、腹の中に甘い疼きが生まれる。侵入を拒むように思いっきり腰に力を込めてしまった。
▼配信先
シーモア
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など各種電子書籍店にて。