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ひるね
2026-04-15 06:17:54
5843文字
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終わらない夜のために(里指♀)R15
フォロワーさんが呟いていた「もし、生身に近い機体でエチしたらどうなる?」のネタを書いてみました。元々が🔞な内容だったのですがだいぶマイルドな感じに仕上がりました(すみません😂🙏)
⚠️女性指揮官です。微エロ。
「鎮静パルス」、「零フレーム」などのご都合捏造用語&設定があります。何でも許せる方のみどうぞ。
夜の特別居住区は、深い静寂に包まれていた。分厚い絨毯は足音を吸い込み、壁際の間接照明だけが温い光を落とす。軍の施設であるはずなのに、その一室は高級ホテルのような趣を漂わせていた。だがリーには、安らぎよりも違和感が勝っていた。本来、構造体にこんな部屋が与えられることはない。姿見の前で、彼は鏡に映る己の姿に息を詰めた。
戦闘型構造体は常に意識海に強い負荷を抱えている。戦場で浴びるパニシングの侵蝕も、その重荷を深める一因だった。
一方で、意識海には負荷を鎮める機構も備わっている。鎮静パルス
――
内部をリセットし、過剰な波を静めるための反応だ。そして人との触れ合い、とりわけ性愛は、そのパルスを最も効率的に引き出すとされている。公に口にされることはないが、現場では半ば常識のように囁かれていた。
数時間前に換装を終えたリーは、今もなお鏡に映る姿を信じきれずにいた。
零
ゼロ
フレーム
――
人間としてのモリアンを寸分違わず再現した、あまりにも生々しい機体だった。このフレームは鎮静パルスをより人間的なかたちで引き出すために開発された特別仕様であり、戦闘ではなく休養と安定のために与えられたものだ。
視覚モジュールは数値を排し、人の目に近い像だけを返してくる。鏡の中には、鋼の鈍い光も、機械的な表示もない。ただ、呼吸に合わせて胸郭を上下させる身体と、熱を帯びた掌と、鏡面をかすかに曇らせる吐息があった。かつて「モリアン」と呼ばれた頃の姿が、そこに立っていた。目を凝らすほどに、人間としか思えない。
「
……
」
リーは片手を持ち上げ、鏡に触れた。冷たい表面。そこに映る「人間」は憂いた表情をしている。これは精巧な錯覚に過ぎない。自分がまだ生きていると、そう思わせるためのものだ。触れた箇所はやがて温もりとなり、リーの胸の裡を締め付けた。
「
……
リー?」
背後から柔らかな声が聞こえた。視線を向けると寝台の上に指揮官がいた。シーツを肩まで掛け、じっとこちらを見ていた。夜灯に照らされた銀髪。肩上で切り揃えられたそれは、柔らかい光を灯している。
「どうしたの? 浮かない顔をしているね。
……
やっぱり、気に入らなかった?」
「
……
そんなことはありません。ただ、まだ信じられないだけです」
わずかに視線を伏せるリーに、指揮官は小さく微笑んだ。その瞳は柔らかく、けれど揺るがなかった。
視線を逸らすリーに、彼女は手を差し伸べる。
「リー、おいで」
「
……
子ども扱いしないでください」
「ふふ、分かってる。でも、今の君は途方に暮れてる迷子みたいで」
その声に、リーはため息をひとつ落とした。
「
……
その状況に落とした元凶は、どこの誰でしょうね」
「ああ、大変。意識海が大荒れにならないうちにケアしないと」
その仕草に導かれながら、リーは静かに歩み寄った。指揮官の手を取った瞬間、胸奥の重苦しいものがわずかにほどけるのを感じた。寝台の柔らかな白が彼女の形にまろやかに沈んでいる。指揮官はシーツをめくり隣を示した。
「こっち」
言葉は短くとも、そこには疑いのない確信と優しさがあった。リーが腰を下ろすと寝台は沈み込み、二人の距離が自然に縮まっていく。彼女の蜂蜜色に輝く瞳を覗き込むと、いたずらっ子のように少し撓んだ。
――
ああ、この人は全く。
ふと、リーの脳裏に数時間前のアシモフとのやりとりが甦った。
『
――
この零フレームは軍が単独で造ったものではない。成人向けの親密補助機器を扱う民間企業との協賛で開発した実験機だ。目的は戦闘ではなく、人間らしい接触と休養の再現にある』
『試験の本筋は“結合”による鎮静パルスの測定だ。
……
気楽な仕事だと思うか? ふん、そうでもないだろう』
『まあ、同じ日に休みを取ればすぐに噂になるだろう。だから彼女は先に向かわせた。
――
感謝するんだな、俺からのせめてもの配慮だ』
『ああ、報告には名前を残さなくていい。
……
オフレコにしておいてやる』
最後に残ったのは、あの皮肉めいた一言だった。
『
――
というわけで、ご多忙なレイヴン隊指揮官殿とその参謀役に休暇だ。二泊三日、保養地への宿泊許可が出ている。精々羽を伸ばしてこい』
※
「
……
これがレイヴン隊の功績への褒賞ですか?」
「でもそのお陰で、休暇が取れたでしょう?」
指揮官はそう言いながら、ほんの少しだけ目を伏せた。
「ふふ、君の代役をルシアやリーフに頼めば良かったかな」
指揮官の言葉に、リーは軽く咳払いをした。
「それは、聞き捨てなりませんね」
この役目は、ルシアやリーフでも良かったのだ。鎮静パルスを働かせる手段は、何も性愛だけではない。娯楽、スポーツ、人間と同じように楽しむ食事
――
方法はいくらでもある。
それでも彼女は、リーを選んだ。
「そう。だから私は君と、手っ取り早く気持ち良くなれる方法を選んだんだ」
指揮官はそう言って、リーの膝の上に寝転んだ。乱れた銀糸の隙間から覗く瞳が、蠱惑的に瞬く。リーは大きくため息をつく。
「
……
この、モリアンに似た姿を希望したのは、あなたですね?」
指揮官はゆっくり目を閉じ、髪を一房掬って指先に絡めた。
「うん。君が喜ぶかと思って」
その声には、わずかな後ろめたさと、切実な願いが滲んでいた。
この機体での触れ合いは、恋人としての喜びよりもどうしても測定と記録の匂いを帯びる。純粋に嬉しいと受け取るには、まだためらいがあった。
リーが口を開くより先に、指揮官の指先がそっと唇を塞ぐ。
「ねえ。リー」
彼女が身を起こす。咄嗟に背へ添えた手のひらに返ってきた感触は、今までの戦闘用機体とはまるで違っていて、リーは思わず息を呑んだ。
「今は考えないで。
……
ふふ、この機体だと、いつもの君みたいに演算出来ないでしょ?」
その言葉に、リーの胸の奥で何かが崩れた。
思考の制御を失ったまま、ただ指揮官の体温に絡め取られていく。リーは抵抗する間もなく、ベッドの上に押し倒されてしまった。彼女のわずかに硬い指先が、下唇をなぞっていく。
「柔らかい、ね。私よりずっと綺麗な体」
そう囁いて、指揮官はふと悪戯を思いついたように目を細めた。そのままリーの胸元へ身を寄せ、そっと耳を当てた。
「
……
っ」
リーの肩が強張った。
零フレームの胸郭は呼吸に合わせてかすかに上下している。その奥で、擬似的に再現された鼓動が、ひどく穏やかに、けれど確かに鳴っていた。
「
――
聞こえる」
彼女は小さく笑った。
「君、ちゃんとここにいるね」
その一言が、リーの胸を静かに締め付けた。
まるで、人間だった頃の自分を見つけ出されてしまったようで。
「
……
指揮官」
名を呼ぶ声は、かすかに掠れていた。
指揮官は答えず、もう一度だけ彼の胸に頬を寄せる。熱を確かめるように、鼓動を覚えるように。
それからようやく顔を上げ、肩口にそっと唇を落とした。その瞬間、リーの全身に火が灯った。循環液が巡っているだけのはずなのに、それすら血のように熱を帯びている気がした。
「指揮官。あなたの体の傷跡は、僕達の
……
いえ、僕にとっての誇りです」
あまりにも真っ直ぐに返すリーに、彼女は目を伏せてはにかんだ。
換装時、零フレームの冷却装置は正常稼働しており、排熱機構にも問題はないと説明を受けていた。だが残念ながら、その兆候は少しも感じられない。熱は逃げ場を失い、体の奥にじわじわと滞留していく。喉の奥が渇き、滲んだ汗が首筋を這い、下着の内側までじっとりと熱を吸い込んでいくのがわかった。
「
……
熱いね」
微笑みながら彼女が囁く。指先が胸元をゆっくりと撫でるたび、粘膜めいた湿度がそこに絡みついてくる。
唇が鎖骨をなぞり、指が腰を抱く。シーツの上に沈みこむ体の重みと、互いの温度が溶け合い、まるで境界を失っていくようだった。指先が背を辿るたび、熱はゆっくりと奥へ押し込まれていった。
零フレームの肌は、彼女の体温を受け止め、そのまま熱を返していく。重ねた肌の奥で震えているのは、演算装置ではなく、もっと深い場所だった。触れられた箇所から半拍遅れて火が走り、そのたびに呼吸が浅くなる。
浅い呼吸の中で、リーは“人間”に戻っていく錯覚に囚われていた。彼女の内側の熱が、戦闘用の機体では決して得られないほど生々しく伝わってくる。演算ではなく感情が、接触ではなく愛情が、その身を静かに満たしていく。まるで壊れものを扱うように、それでいて少しも手加減なく、彼女はリーを確かめていた。
鎮静パルスが、意識海へと広がっていくのが分かった。波のように優しく、甘く、柔らかく。深く繋がるほどに、鼓動は抑えようもなく高鳴った。まるで初めて触れ合った夜のように、もどかしく、焦れったい。吐息が彼女の頬をかすめる。肌に残る体温、重なり合う腰、お互いのボディーソープの残り香──そのすべてが、荒波に攫われそうな彼を、この場所へ繋ぎとめていた。
「
……
指揮官」
ため息のように零れた。リーは彼女の名を確かめるように唇の内で転がしてから、今度は自分から頬に触れた。熱を測るように輪郭をなぞり、耳元へ落ちた銀糸を指先でそっと払う。
それだけでは足りなくて、肩先へ、鎖骨へ、触れられた場所を辿るように唇を落とした。彼女がくれた熱を、そのまま返したいとでもいうように。
指揮官は揺らされながら手を伸ばし、リーの髪をそっと撫でる。その優しさに、子どものように泣き出してしまいそうになる。
今、この瞬間だけは。
『モリアン』として触れられることを、許されてもいい気がした。
この腕の中で、ただ愛されていてもいいのだと。
リーは目を閉じたまま、彼女の手をそっと握り直した。絡めた指先の向こうで脈打つ鼓動が、確かな現実として胸に落ちてくる。自分自身の命も、ここに確かにあるように思えた。
重ねた唇のあいだから、互いの呼吸が熱を帯びたまま奪われていく。
――
ああ、やはり僕は、人間を捨てきれていなかったのだ。
体内の演算装置が唸りを上げる。脊髄を駆け抜けるような電気信号。それは機能のひとつでありながら、確かに彼を救い、同時に抗いようのない現実を突きつけてもいた。
やがて波が引いたあとに残されたのは、甘く痺れたような虚脱と静かな安堵だった。
荒い呼吸はおさまり、甘い余韻だけがふたりの間に残った。
彼女の指が彼の髪を梳き、額に落ちた汗を優しく拭っていく。ぬるく湿った肌に口づけながら、リーはぽつりと呟いた。
「
……
指揮官。この機体は、もう二度と使いません」
静かに告げるリーに、驚きも問いも返さず、彼女はただまっすぐ視線を向けていた。
「この肌も、この反応も、まるで本物のようでした」
一度言葉を切って、リーは指揮官を抱きしめる。
「けれど
……
あまりにも人間に似すぎている。抱き合っている間、僕は本当にモリアンに戻れた気がした。その錯覚が、とても怖いんです。もう一度失うことに、耐えられる気がしなくて」
小さく息をつく。シーツの中は冷えるどころか、なお熱を帯びていた。
「僕は
……
過去を振り返らない。あなたとこの先を生きるために、零フレームはもう二度と使いません」
しばらくの沈黙のあと、指揮官はそっと身を起こし、リーの頬に手を添えた。
「わかった。でも、私はどんな君でも、ちゃんと覚えていたい。モリアンのことも、リーのことも──そして、今日の君も」
その言葉に、胸の奥までじわりと熱を持った。過去も未来もすべて含めて、自分を見てくれるひとがいる。その確かさが、何よりも救いだった。
リーはそっと、彼女の手の甲に口づける。
「あなたの隣にいるのは、モリアンではなく、リーです」
それは決意のような一言だった。
指揮官はしばらくそんな彼を見つめ、それからふっと笑った。張り詰めていた空気が、ほんの少しだけほどける。
「
……
うん。知ってるよ」
短く、それだけを返して。
彼女は視線を上げ、指先で彼の顎をくいと持ち上げた。
「でもさ、まだ休暇は残ってるんだよ」
「
……
は?」
珍しく間の抜けた声が出る。
指揮官はくすっと笑った。
「その機体、最初で最後なんでしょう? せっかくだから、もっと楽しもうよ。いろんな君を見てみたいし、ちゃんと覚えておきたいな」
悪戯っぽく目を細め、彼女は身を乗り出した。リーの膝に跨りながら、ふっと吐息を吹きかける。思わず身を震わせたリーに、君は本当にかわいいね、と囁いた。
「
……
あなたという人は、本当に」
「なぁに? でも君って、こんな私が好きなんでしょう?」
「自惚れも大概にしてください」
「でも、リーのここはもうしっかり反応してるけど? よしよし、元気だね」
「っ、
……
しっかり泣かせてあげますから、覚悟してくださいね」
小さく息を吐き、リーは目を伏せる。
「
――
本当に、突拍子もなくて、人を振り回して。いつの間にか僕の心の中に居座って
……
けれど、あなたの存在が僕を強くするんです」
「ふふ、感謝したまえリーニキ」
「リーニキはやめてください」
指揮官は笑って彼の額にキスを落とす。瞼に、鼻に、唇に。
それに応えるように、リーの気まぐれな指先が彼女の肌に残った花弁のような痕を、ゆっくりとなぞっていく。
「ねえ、明日は市街地に行こうよ。デートしよ」
「
……
そんな体力が残っているか、賭けましょうか?」
「ファウンス主席の実力を舐めるなよ。
……
とはいえ、流石に構造体には敵わないけど」
二人で吹き出して笑い合う。指揮官がリーの手をきゅっと握り直した。
「たまには普通の恋人みたいなこと、してみたいんだ」
「普通?」
「そう、普通。今の私たちにはあまりにも遠いものだね。普通にお洒落して、映画館に行って、ショッピングして、食事して。夜は情熱的に何度も愛し合う!」
「
……
テンプレのような普通ですね」
「そうそう。だがそれが良いのです」
指揮官が満足そうに笑って、リーの肩に額を預けた。その重みを受け止めながら、彼は目を閉じる。
もう、過去には戻らない。
けれど、捨てるわけでもない。
ただ、この先へ
――
この人と共に進んでいく。
二人の長い夜は、まだ終わらない。
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