秘める願い

✦交流作品
 拝借:シルヴェリオンさん



 立ち寄った書庫内で見たシルの表情、いつもとは違う翳りを作る重たげな睫毛が、穏やかな筈の瞳の色を揺らしている。そう感じたからだけではないが、声を掛け、後で部屋に行くと告げてから茶葉を持ち改めて彼の部屋を訪ねたのが数刻前。
 ノックをすれば、いつもと変わりなく部屋に招き入れてくれる。シルの部屋は神術により彼の母国の自然を再現しており、敢えてそのまま使用している私とは根本的に異なる。しかし、やはりと言うか何というか。自然に囲まれるこの空間は実に心地が良い。流れる血の根本的な種族が同種の私たちにとって、自然は隣に常に在るものであり、それと共に生きる事を是としている。だからこそ、当たり前のように息を深く吸い、それを吐き出す。体内に取り込む空気の清廉さは、彼の性質そのままのようで。
「相変わらず、心地の良い部屋ですね」
「それはよかった」
 ふっと、目元が緩む。先程書庫で見た翳りとは異なるが、それでも僅かな光がそこにある。
 彼は淡々としているようで、よく見ていれば表情も声音も分かりやすい。同性で、血筋が似ていて、王族と貴族の違いはあれど同じ三男坊であり、甘やかされて育った私達の共通項は多い。だからなのか、最初から穏やかに壁もなく接してくれた事実が記憶に新しい。だからこそ、翳りの理由を聞いてみたかったが、それに踏み込むにはまだ私の中の厄介な部分が顔を見せるから聞くことはないのだが。でも、別の方法で気を逸らすことは出来る。例えば、こうして何でもない雑談に興じるとか、彼が好みそうな菓子を作って来るとか。
「今日は書庫で、面白そうな異国の菓子を見まして。良かったら食べませんか」
 こくりと頷くシルを見て、はらりと、持ってきたカゴの中身を取り出す。ガラスの器に入るのは色彩豊かな一口サイズのゼリーと、シロップ漬けにした果物。そして、スパークリングウォーター。
「少しだけ、注ぐそうなんですよ」
 器の中にスパークリングウォーターをゆっくりと注ぎ、シルへと差し出す。不思議そうに器を眺めつつ「キレイだな」と呟く彼に、私は微笑みで返す。全体的に色素の薄い彼に落ちる菓子の色は、ステンドグラスの輝きにも似ていた。
「シルの口に合えば、尚の事嬉しいですよ」
「うん。いただこう」
 一口。二口。ゆっくりと口にする。シルが気に入れば好きなだけ食べられるように比較的多く作ってきているから、これが空になるまでは、彼の心が僅かでも穏やかであるようにと願って。