ニイナ
2026-04-15 01:04:33
5453文字
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煩わしい視線が交わる時

転生パロのロドフで、若様のストーカーをしてるローの話。ほぼ会話のない話なので読みづらいかと思いますすみません。
続きは思い浮かべばな〜〜の気持ち。

 ドンキホーテ・ドフラミンゴには古い記憶があった。それはいつかの過去のもので、前世と呼ばれる類のものだった。そのせいかいつにも増して達観しているきらいがあり、それが余裕にも見え、人から見初められることも多かった。果たしてそういう人種は勝手にドフラミンゴに理想を押し付け、捏造し、拗らせるので相手をするのには骨が折れた。誰かから見られている気配というのは身近なものになりつつあり、辟易していたものの、企業してひとりで暮らすようになるとだいぶマシになっていた。オートロックでセキュリティが高いマンションはそれなりに値が張るものだが、ドフラミンゴの安寧に替えられるはずもない。実家の両親が気がかりだといえばそうだったが、今生ではそう物騒なこともないだろうと決め付けていた。これで弟もいれば心配もかさむ気がするけれども、両親のように弟には恵まれなかったのでそれは杞憂だった。ドフラミンゴの生活は実に安定していて、ここ最近は煩わしい相手とも出会っていなかった。それが変わったのが、23回目の誕生日を迎えた頃だった。
 秋から冬に向かって空気が冷えていく程中、ポストに一通の手紙が届けられていた。桃色の封筒に丁寧にシーリングスタンプが押された手紙は、消印もなければ差出人もなく、そもそも宛名すら書かれていなかった。ドアのポストに直接入れられているということは、厳しいセキュリティを誰かが掻い潜った可能性よりも、同じマンションに住んでいる誰かの仕業と考える方が合理的である。
 どこぞの招待状のように手触りの良い紙を撫でつけ、念のため封筒を振って中身を確かめ、ドフラミンゴは慎重に封を切った。入っていたのは、一枚のメッセージカードのみで、危惧していたものは何もなかった。ただ、そこに綴られていた文字は、実に不穏さを滲み出させていた。
『やっと見つけたぞ』
 たった一文。その一文に、やけに執着が浮かんでいる。じっとりと空気が重たく湿る感覚がして、ドフラミンゴはメッセージカードを静かに見下ろした。この空気に、どういうわけかドフラミンゴは覚えがあった。根拠のないおかしな確信が、胸の内で息をする。憎しみを幾重にも折り重ねた気配がそこにはあり、ドフラミンゴのよく知る人物のにおいをひどく漂わせていた。
…………ロー」
 ぽつり、と呟いた声は誰に聞かれるでもなく玄関にとけていく。理由も根拠もない直感が、これはトラファルガー・ローからの手紙だと告げていた。いつかの過去に、自身の半身であり右腕にと考えていたひとりの青年が、ドフラミンゴの脳裏へよぎる。拙い文字は、けれども殴り書きをしたローのものに、似ている気がした。ただ文字の近寄りではなく、このメッセージからこぼれる感情に、ローを感じただけだった。おそらくローにも記憶があり、今生でのドフラミンゴの動向を探っていたに違いない。何一つ伝えられていることはなくとも、ドフラミンゴはやはりおかしな感覚でもってローの記憶保持を確信していた。もしもローが弟のことを知るためにドフラミンゴを見つけ出したのだとすれば、それは残念な結果しか与えてやれないのだが、そのことについてはひとまず考えないようにした。
 まさか同じマンションに住んでいるとは思いもよらなかったが、エントランスにある郵便ポストには名前が記されていていないのが常なので気付きようもない。同じマンションに住んでいるからといって全員と顔を合わせるということもないため、ローがこんなにも近くにいるとは知る由もないのだ。
 見つけた、とメッセージをよこすぐらいなら、次は何を送られてくるのだろう、とドフラミンゴは思う。もしかしたら、ローの存在を知らしめたかっただけで、今後は接触はないという可能性もあるのだが、それであの青年の気が済むとも思えなかった。ただそうはいっても、ローの次の行動を予想することは難しい。ドフラミンゴがこの手紙に反応して、ローを探すことを期待しているとしたら、それもまた残念な結果にしかならない。ローを探して接触しようなどと、ドフラミンゴは一切考えてもいないからだ。それは相手がローだからではなく、誰でも等しくそうだった。ローの手紙をじぃっと見下ろし、浮かんでいる顔に無視を決め込んだ。

 その後、ローからはまた手紙が送られてきていた。朝に弱いドフラミンゴを見計らってか、たまたまなのか手紙は早朝に投函されているらしく、気付けばそこにある、という感じだった。内容は、いつも見てるからな、と半分脅しめいた言葉になり、ドフラミンゴはなるほど監視の一環なのだなと納得してしまった。初めて届いた手紙の一件から、誰かに見られている気配がしていて、けれどもそれもローなのだろうという予感がしたのでドフラミンゴは気にもしないことにした。ドフラミンゴを監視する目的なのであれば、害もなく些末な問題である。ローの視線は放っておいてもいいもの、という判断をして、ドフラミンゴは変わらず日常を過ごしていた。
 そうして日が経つにつれ、ローの手紙は少しずつ長いものになっている。お前のことはいつでも見てるからな。下手なことはするなよ、と牽制していた文言から、ドフラミンゴの生活に口を出すようになっていて、ドフラミンゴはむっつりと口を閉じた。
『いつまでも起きてないで早く寝ろ。お前がタフでも人の身体は意外と脆い。食事もちゃんと食え。どう見ても摂取量が足りてない。それからよく行くカフェは店員がおかしいから気を付けろ』
 この手紙はなんなのだ、と頭を抱えたくなる。どこから、どこまで、見ているのかと苛立ちを覚えてドフラミンゴは思わず舌を打った。そもそも憎い相手にかける言葉ではない。ドフラミンゴが健やかであることはローにとって遺憾なのでは、と勘繰りさえしているというのに、本当にどんな思考回路をしているのか理解できなかった。
…………野垂れ死ねば、満足なんじゃねェのか)
 そう、胸の内で呟き、ドフラミンゴは息を吐いた。ローが今も医学をかじっているのだとしたら、みすみすドフラミンゴが死ぬのを見送るわけがない、とは思う。そんなことをすれば目覚めが悪いのだから、それも当然であるともドフラミンゴは思っていた。けれども、だからといって、ドフラミンゴの生活に口を出すのは、おかしいとしか言いようがなかった。届く手紙に綴られる文字をもう一度眺めて、ドフラミンゴは便箋をぐしゃりと握り締めた。
 それからも変わらず、ローからの手紙は届き、内容が細かくなって長くなる。あの食事はなんだ、もっとバランスを考えろ、服ももう少し控えめにしろ、あのカフェは行くな、云々。本当にどこからどこまで見ているのかとこめかみを押さえ、次いでこの男は何をやっているのだ、とドフラミンゴは嘆息する。ドフラミンゴにかまけていても意味などないだろうに、こうやって手紙が届けられている。監視をするなら、手紙など本当に無意味なものでしかなかった。ローからの近況を一方的に知らされるならともかく、ドフラミンゴの生活に逐一横槍を入れてくるローには苛立ちが湧いてくる。かといってこれに反応するのもばからしく、面倒で、ドフラミンゴはローの手紙に無視を決め込んだ。
 そうして月日は流れ、冬が来て去り、春がやってくる。季節の移り変わりの中でもローの手紙は途切れず続き、ドフラミンゴは不毛さに眉を寄せていた。年末年始あたりの手紙には、ドフラミンゴの両親に対する態度に衝撃を受けたような、受け入れ難いとでもいうような、動揺が伝わってくる内容が書かれていて、それには少し笑ってしまった。
(俺が身内を丁重に扱うのがローには気に入らないらしいな)
 それはある種のイメージでもあり、過去の記憶に引き摺られているからでもある。血を分けた肉親にやさしいわけがない、とローが決め付けているのだろうし、その態度がローの中にあるドフラミンゴの記憶と齟齬を生じさせているのだろう。そう思いつつもドフラミンゴが何かを言えるわけでもないので、ローの手紙には耳を傾けないことにしていた。再三、行きつけのカフェに行くな、という忠告も実に煩わしくてたまらないため、ドフラミンゴは気にもせずカフェには通っていた。のだが、どうにも春になると良くない輩、というのは湧いてくるらしい。
 纏わりつく視線が増えたかと思えば、見知らぬ男に声をかけられて今時流行りもしないナンパをされ、行きつけのカフェの店員から思わぬ方向で好意と誤解され、会社の部下からは熱烈な告白を受けた。そのどれもが、非常に億劫なもので、ドフラミンゴはとにかく辟易としていた。そこにきて、ローの手紙ともなれば、苛立つなと言う方が無理な話である。
『お前が人誑しなのは今に始まったことじゃないが、さすがに目に余る。なんで勝手に声なんかかけられてるんだ。もう少し愛想を控えたらどうだ?それでも変な輩はついて回るんだろうが、マシにはなるだろ。服装もそうだ。無駄に色気があるやつを着てるから、変なやつに目を付けられる。お前は愛想は良いから、店員におかしな気を持たせることになるし、付き纏われたりもするんだ。しかも下のやつからも、口説かれてるってのはどうなんだ。いい加減にしろ。お前に隙があるのが悪い。さっきのやつはさっさと切り捨てろ』
 あまりにもくどい内容に、ドフラミンゴは憤りと共に手紙をぐしゃぐしゃに丸めて放り投げた。どうしてローにここまで好き勝手言われなければならないのか本当に理解できない。頭がおかしいとしか思えない。苛立ちでムシャクシャとしてたまらず、ドフラミンゴは発散して寝よう、という考えに辿りついた。怒りが性欲と繋がっているというわけではないのだが、マスタベーションでも迎えれば幾分すっきりするのでは、という程度の気持ちだった。
 すこしゆっくりめに入浴してから心を落ち着かせ、身体の力を抜くようにしてベッドに背を預けた。さすがに寝室までは覗いていないだろう、と高を括り、ドフラミンゴは寝間着代わりのスラックスをくつろげて下ろし、下着の中に手を入れた。明るすぎる室内では気が散るので照明は抑え目にして、自身に指を這わせてなぞる。まだ愛撫にもならない指先にふるりと震えるのを感じながら、形を辿ろうとしたところで、スマホが軽やかにメールを受信した。
『この悪魔野郎!』
 たった一言、飛んできたそれは、どう考えても今の状況を見ていたローのもので、ドフラミンゴは呆気に取られた。つまるところ、この部屋も見られているのだと理解して、頭が痛くなる。自慰すら監視されているのかと思うとさまざまな気持ちが萎え、力が抜けて、ドフラミンゴは送られてきたものに、うるさいと返してしまった。当然のように、エラーで返ってくるメールにおおきく舌を打ち、ドフラミンゴは衣服を整えてからベッドに潜り込んで目を閉じた。
 それから数日経ったある日、ドフラミンゴはいつもよりも大分早い時間に目が覚めた。いつもなら起きることのない、午前七時半、という時間をスマホで確認して、四時間程度しか寝ていないのに、とあくびを噛み殺す。それでも目が冴えてしまっているので、仕方なくドフラミンゴはベッドから下りて寝室を出た。
 春になり空気があたたまっているおかげで、もう暖房もいらず、快適な気温になっている。今日の天気は晴れだというから、世間は花見に浮足立っているだろう。それに乗る気になれるはずもなく、けれどもどことなく会社に出るのも億劫になり、ドフラミンゴは一日ゆっくりしてやろうかという気になっていた。目覚めが良かったとはいえ、まだ寝起きでぼんやりしている頭を動かしながら顔を洗うために洗面所まで足を向けたところで、カタン、とかすかな音を耳が拾い上げる。それにハッとして、ドフラミンゴは足早に玄関へ向かい、そのままドアを開いた。
「っ!?」
「ロー……?」
 ポストの中身を確かめることなく開いたドアの先で、確かに思い描いていた人物が、いた。生意気そうな陰りのある榛色の眸と、斑模様の帽子とそこからこぼれる黒髪。髭やタトゥーは見られないとはいえ、それは間違いなくドフラミンゴの知るトラファルガー・ローだった。けれどもその姿は思っていたよりもずっと小柄で幼く、ちいさな身体には重そうなランドセルが背負われている。それを見た瞬間、ドフラミンゴの思考回路が一時的に停止した。黒いランドセルは真新しくはない、月日の経ったものだったものの、それを背にしているということは、ローの年齢もある程度絞られてくる。この子どもが、あの手紙を、と脳が処理することを拒んでいたところで、驚愕に目を見開いていたローがハッとして踵を返そうとするのがわかり、ドフラミンゴは咄嗟にローの手を掴んでいた。
「なにすんだ!離せ!」
「お前は俺に、言うことがあるだろう」
「あるわけないだろ!」
「まァ、お前になくても俺にはある。すこし、付き合ってもらうぞ」
 ぎゃん、と喚くように声を上げるローを容易く玄関に連れ込み、ドフラミンゴは幼いローと対峙する。正直なところ、話があるというよりは、どうして無駄なことをしているのかと問い質したいだけなのだが、何を話せばいいかはよくわからない。身構えつつも逃げようとはしないらしいローの諦めの良さに息を吐き、ドフラミンゴはひとまず紅茶でも淹れて朝食代わりにしようと決めた。