Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
氷酒
2026-04-14 20:43:43
2000文字
Public
SS
Clear cache
『幕間 花の色』
まりみや組。ちょっと不穏。
花のような甘ったるさと、どこか苦味を帯びた芳香。記憶の中の女はいつもそれを纏っていた。
鏡の前に座り、けばけばしい色彩を顔に塗りたくって、そうして最後にいつも、その香りを吹きかけるのだ。
幼心にそれが無性に嫌で、自分は女の背後に向かい、声をかけるのだ。
『かあさん』、と。
その時、女がなんて答えたのかは覚えていない。もしかすると、彼女がこちらを向いて答えてくれてことすら、ついぞ無かったのかもしれない。
代わりに色褪せた世界の中でも鮮明に残っているのは、鮮やかな赤と、毒のようなその香りだった。
『幕間 花の色』
甘くて、苦い。明らかに人の手を加えて作られた濃い香りが真倫の鼻腔を刺激した。
「
……
美夜、なんか付けてるか?」
その匂いの元が、普段ならばあり得ない人物から香っていることに気付き、真倫は自然と眉を顰めた。対する美夜は心当たりがあるのか、あー、などと煮え切らない返事をしている。
「やっぱり
……
?」
「何、女? 初デートにしてはちょっと向こうに気合が入りすぎじゃねぇ?」
「違うって! 今日の取材相手の人! インタビューしてたんだけど、結構香水の匂いキツくてさー」
多分その時に匂いが移ったんだと思う。と、美夜は自身の袖のあたりを摘んで匂いを嗅ぐ仕草をする。その様が小さな犬のようでおかしく、小さく笑みが溢れた。
言われるまで気付かないくらいだ、既に匂いに対して慣れてしまっているだろうから、今更確認しても無駄なのに。それでも確認するところが彼らしいと言えば彼らしい。
「そんなに匂う?」
「いや、いつも家の中にじゃ絶対匂いだから気になっただけ」
或いは、自分が取り分け敏感なだけ
――
だろうか。
「あ、そういえば。そのインタビューの時に試供品貰ったんだけどさ」
「試供品? 香水の?」
「えっと化粧品かな? 確か
……
」
直接見せた方が早いと思ったのだろう。美夜がごそごそと鞄の中を漁る。
そうして差し来たのは、透明なケースに入った小さな口紅だった。
「その人がやってるブランドの新色なんだって。真倫、使う?」
「撮影以外で化粧する趣味なんてねぇけど?」
「知り合いに渡してもいいって言われたし、真倫の方がいるかなーって」
「まぁなぁ
……
」
そういう話なら若干の心当たりが無くはない。そう思って受け取り、改めて口紅を確認する。
一般的にリップと分類されるそれは、サンプルらしく外からでも色が見れるよう、蓋まで透明な造りになってた。シンプルながら上品なデザインのようにも見えるから、もしかすると元からこういう形なのかもしれない。
そして、ケースから除くリップの色は、鮮やかで、それでいて深みを帯びた赤だった。
「また派手な色を貰って来たなぁ。もう少し大人しい色もあっただろうに」
「えっ、口紅ってみんなそんなもんじゃないの?」
「お前ね
……
」
貰ってきた当の本人はこれである。雑誌記者の知識としてそれで良いのかと思いはするが、まぁそれはそれ。自分と縁遠いものならそんなものだろうということにする。
改めて、口紅の赤を見た。随分と発色が良い。ある程度化粧に慣れたものが使えば、これだけで随分と印象が変わるだろう。
まるで花弁のように鮮やかな服装で飾り立てて、誘う色でめかしこむ。これはそういうものだ。
赤い色と、甘くて苦い花の蜜を纏って。でもきっとその視線は、こちらには向けられない。
まるでそれは、記憶のあの人の
――
。
「真倫?」
呼ばれて気がつけば、心配そうな美夜の顔が至近距離にあった。様子を察するに、どうやら何度か呼ばれていたようだ。
「どうしたんだよ、急に黙っちゃって」
「ああ、いや
……
」
こちらを見上げる美夜から、嗅ぎ慣れない香りを感じて、鈍く頭の奥が痛んだ気がした。
「
……
お前絶対女にモテないなって思っただけ」
「なんで急に!?」
「化粧品くらい多少知っとけよ。いいからシャワー浴びてこい。その間に夕飯用意してやるから」
「はーい。今日のメニューは?」
「ロールキャベツ。安かったから挽肉二割増」
「やったー!」
子供の頃から変わらない無邪気な歓声と笑顔をあげて、美夜は自室へと戻っていく。
扉が閉まって、隣の部屋の扉が空いて、遠くでシャワーの水音が聞こえ始めてから大きく息を吐く。
そして手の中に残っていたリップへともう一度視線を落とし。
滅多に開けることのない棚のの引き出しへと、そっと閉まった。
この先も暫くの間、この引き出しが開けられことはないと感じながら。
◆
真倫の苦手な物の話。
派手な化粧やキツイ香水は実は苦手だったりします。仕事関連の際は仕方なしだけど無意識に機嫌が悪い。
本人は半分自覚がなくて、ちょっと嫌だなーって思うくらいなので基本黙っています。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内