moto
2026-04-14 15:14:17
1144文字
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同じ夜の話

さまささワンドロワンライお題「月」


「でっかい月やぁ」
 最寄り駅近くでタクシーを降りた途端、思わず声に出してしまうほど、今日の月は大きかった。道行く人も立ち止まり、写真を撮っている。例にもれず、簓もまん丸な大きな月を写真に収めて歩き出す。近道である街灯のない道も今日は月のおかげで明るい。やわらかい月明かりは、仕事で高ぶった心を落ち着かせてくれる。
 合鍵でマンションのオートロックを開けてエレベーターに乗り込む。静まり返った廊下を進み、迷いなく慣れた仕草で、部屋の扉にカードキーをかざした。
「邪魔すんで〜」
 人感センサーですぐに玄関は明るくなっていたが、部屋の奥は暗いままである。返事がないのはわかっていた。部屋の主は留守であり、そして、なんと、オオサカにいる。
 簓はリビングに入り、灯りをつけ、すぐさまスマホを取り出した。
「着いたで〜、と」
 左馬刻からは少し前に「着いた」とだけメッセージが届いていた。仕事の関係で、オオサカの簓宅にいる左馬刻と、ヨコハマの左馬刻宅にいる簓。見事なすれ違いが起こるスケジュールを知った時にはお互い大笑いしたものだ。
 手洗いうがいを終えて、左馬刻宅にある簓用の部屋着に着替える。風呂の湯はりのスイッチを押したところで、着信が入った。
「冷蔵庫のもん、あっためて食え」
「わ、なんやいっぱいある!」
 左馬刻宅の冷蔵庫の中は、いつも充実しているものだったが、今日はつまみになりそうなものが入ったタッパーがいくつもあった。簓が来るというので作ってくれたものである。嬉しさとかいとしさとかいろんな感情が沸き起こり、全部をひっくるめて、簓の口からは、ンモ〜という呻き声だけがもれた。
「俺んちの冷蔵庫空っぽやん!」
「あ?ビール飲んだぞ」
「ええよええよ、なんぼでも飲んで!秘蔵の焼酎もあるで!」
 左馬刻の笑い声を聞きながら、タッパーを見ていくと、簓の好物ばかりだった。さらに特大の、ンモ〜が出た。なぜここに左馬刻がいないのか。抱きしめられないのが悔しくてしょうがない。
「ありがとうな、左馬刻」
「おう」
「あっ!左馬刻、ベランダ出てみて」
「ベランダ?」
「今日、でっかい月が出てんねん」
「おー、まじでデカイな」
「な!」
 大きくてまん丸な月は、左馬刻にも静かに同じ光を落としているだろう。気持ちのよい夜風が、簓の頬をさらりと撫でていく。左馬刻にも同じ風が吹いていたらいい。簓は、月に手を伸ばした。
 これから左馬刻は、近所の簓行きつけのお好み焼き屋へ行くという。先日連れて行ってから左馬刻も店を気に入り、オオサカに来た時は、簓がいなくても立ち寄るようになった。意気揚々と、ばあちゃんに俺にツケとくよう言うといてや!と答える簓に、左馬刻は「遠慮なく食うわ」と笑った。