みる
2026-04-14 09:17:39
1966文字
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【脹虎】思い初める

狩人期の2人。脹→虎。脹相視点。

思い初める(おもいそめる)…相手に恋をしはじめること

 ぴちょん、と軽い音がして、ふと目が覚めた。
 いつの間にか眠っていたらしく、何度か瞬きを繰り返せばようやく現状を把握できそうなくらいに頭がはっきりとしてくる。さっきの音はむき出しになった蛇口から漏れた水音だったらしい。
 なんとか形を保っている廃ビルの一角。おそらく普通のオフィスだっただろうそこは、いくつかのデスクとオフィスチェアがごちゃごちゃになっていた。かろうじて電気が使えたことと、給湯室だったらしいミニキッチンのような場所があったことから、ここを今日の休息場所にしようと悠仁が決めた。
 オフィスチェアを四つ並べ、その上に横になった悠仁を見て、自分は近くの壁に背をもたれて座る。少しでも暖をとろうと腕組みをして目を閉じたところまでは覚えているが、そこから先の記憶はない。呪力は切れていないようだが、疲れはあったのだろう。目を閉じですぐに眠ってしまったのだと思う。
「ん……
 自分のものではない小さな声がした。悠仁だ。並んだオフィスチェアを見れば空っぽで、どこに行ったのかと探しに行こうとした矢先。ようやく自分の膝の上に悠仁の頭が乗っていることに気付いた。
「ゆっ……?!?!?!」
 慌てて両手で自分の口を塞ぐ。健やかに寝ている末の弟の寝顔はとてもあどけない。当たり前だ。まだ十五歳なのだから。脳内で可愛いという言葉が浮かび、叫びたい抱きしめたい愛でまくりたい気持ちをなんとか抑えてから、両手を口から離して大きく息をついた。
 寒かったのだろうか。丸くなるように横になった悠仁は、柔らかくもなんともない自分の片膝にしっかりと陣取っている。寝息が下肢に当たっているのがわかり、再び愛おしさが爆発しそうになるが、なんとか耐えた。なんたってお兄ちゃんなので。

 寒かったのか。それとも、寂しかったのか。

 おそらく前者だろうとあたりを付けて、ほんの少しだけ血流を操作する。顔が触れている膝あたりは温かくなるだろう。もしかしたら温かさに誘われてもっと近づいてくれるかもしれないし。だとしたら嬉しい。けれどそうなると今度こそ叫ぶ気がする。悠仁が自分から俺に近付いてくるなんて、初めてのことなのだから。

 少し汚れた、薄桃色の髪を撫でる。短く切り揃えられていた髪は、出会った渋谷の地下の頃より数ミリ伸びている気がする。刈り上げられた後ろ頭も、髪の感触が以前より多い。
 こんなこと言葉にすれば気持ち悪いとか言われてしまうだろうか。想像して悲しくなった。でも泣かない。お兄ちゃんなので(二回目)。

 悠仁。もっと頼ってくれ。傍にいるから。なにがあっても。

 眠りを妨げることは許されないので、ただ寝顔を見つめることに徹する。あどけなさすら感じる寝顔は、一晩見ていても飽きることはない。とはいえ、見続けていたら、気配に聡いこの子は起きてしまうだろう。ならば休む体を装って薄目で見続けるほかない。見ないという選択肢は存在しない。
 頭の重さなんて軽いものだ。少しでもお前を支えられるなら、兄としてただ誇らしい。きっといつか、この生活は終わりを告げるだろうけれど、それまでなにがあっても、悠仁を一人にしない。させない。

 目の下にうっすらと隈が滲んでいるのがわかって、そっと指を伸ばした。夢の中では、どうか幸せに。眠っている今だけは、どうか。

 神なんているわけがないと思っているくせに、無意識に縋っているのは神様なのだろうか。まあ結局、悠仁のためであれば神だろうと縋ってやる。
 眠る前に膝にかけておいたブランケットを、愛する弟にかけてやる。この時間が続いてほしいと思ってしまう、ダメな兄を許してくれ。
 目を閉じる直前、悠仁の寝息が聞こえた。
 この子は、生きている。

 ああ。幸せだ。


(おまけ)
数時間後

……なんで俺ここにいんの? 椅子の上いたよな? え? 寝ぼけた? それとも落ちた? あったかいけど、あったかいけど! 膝枕は違うだろ?!)
……
……
(起きてる。こいつぜってー起きてる! なんか薄目でこっち見てる怖い! これ離れてもいいやつ? ダメなやつ?? 教えて伏黒!!(この悠仁くんは困った時恵くんを呼ぶ癖があります))
「起きていいんだぞ悠仁」
……バレてんのかよ……
「おはよう」
……オハヨウゴザイマス。すみません膝を借りたようで」
「いいんだ。お兄ちゃんだからな」
「意味がわかんねえ……
「寝れたか?」
……うん。寝れた」
「そうか。よかった」
……そんなんだから、俺はおまえに、こんなにも)
「今日はどこに行くんだ」
……北のほう、かな。でもまず」
「?」
……飯。腹減った」
「はは。そうするか」
(笑った。なんだろ。なんか、むずむずする、かも)