白殊皎(しらよし こう)
2026-04-15 21:00:00
8092文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

広大慈悲の道なれば、紀路も伊勢路も遠からず

ハードな素材狩りのご褒美として新選組で慰安旅行に行けることに。
皆一様に【北海道】は却下となった。
果たしてその行き先は?

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
温泉


【温泉】がテーマでしたが前半の旅行部分が長くなってしまいました……。
南紀好きなんです、行きたすぎるんです。
ごはんめっちゃ美味しいんです!
最近行った時は温泉行けなかったけど、温泉もいいんです!!
閻魔亭にでもしておけばよかったかもしれないけれど、閻魔亭の詳細を知らないマスターなのでできませんでした。
ちなみにこのクソ長いタイトルは『梁塵秘抄』から取りました。



 二泊三日。
 そう告げられた。
 何がというと、半月ほど前から新選組メンバーはかなりハードな自分たちのためではない素材狩りに従事していた。
 そのご褒美にレイシフトを使った旅行をしていいとのお達しが下ったのだった。
──但し、新選組全員で同じところへと。
「「「「「「函館(北海道)以外で」」」」」」
 集められた隊士たちは近藤が口を開く前に揃ってそうのたまった。
 土方は『近藤さんが行きたいところならどこへでも』とそう言ったが、見事にかき消され、近藤はかなりショックを受けたようだが、ひとまずそれはスルーされた。
「せっかくの休暇なら、美味しいものが食べたいですね」
 山南がにこ、と笑って言葉を紡ぐ。
「いいね、温泉とかもあれば最高なんだけど」
 それを受けて斎藤が一同を振り返る。
「ん~温泉に美味いものと来れば、武田の大将のお膝元、と行きてぇところだが、このメンツで行くとなるとちょっと引っかかるしなァ」
 その視線を受けて年を経た姿の永倉が呟く。
 確かに甲州、今の山梨県なら温泉もグルメも、はたまたワインなどのアルコール類も豊富だが、過去甲陽鎮撫隊で大敗を喫した場所には誰も行きたくはないだろう。
「なかなか、ゆかりのない土地を探すのも大変だよね」
 藤堂も旅行自体には不服ではないようで、腕組みをして考え込む。
「南紀州とかどうっスか? 熊野詣して、海辺の温泉で美味い魚介をってのもいいんじゃ。特に俺たちの縁の土地でもありませんし」
 いつも明後日の方向の言動をする原田が、珍しくそう主張をした。
「おいおい、なんか悪いものでも食ったか? おまえがまともな事を言うなんて」
「失礼だな馬鹿っ八。俺だって考える時は考えるんだよ」
「なにおぅ?」
「はいはい、そこまで! 沖田さんも南紀州いいと思いますよ!」
 険悪な雰囲気で睨み合った二人を、黙らないと張り倒すというような顔で止めたのは沖田総司。
「ということで、近藤さん。南紀州でいいですよね!!」
 必殺幼馴染みスマイル──ではないがしょぼーんとしおれたままの近藤に、沖田は満面の笑みを見せた。
「ま、まぁ……総司がそう言うのなら?」
「おまえらもうちょっと近藤さんの意見を……
「土方さんに発言権はありません!!」
 押され気味の近藤に土方が助けを出そうとしたがぴしゃりと沖田に封じられた。

──そうして新選組の慰安旅行は南紀州と決定したのだった。

「で、誰か運転できるのかな……?」
 昼少し前に南紀白浜空港付近に無事にレイシフトされ、現地では利便性を考えてレンタカーが用意されることになったが、山南が素朴だが重要な疑問を突きつける。
「俺ができる」
「僕も一応」
 近藤の意見が通っていなくて仏頂面の土方と、その彼を気遣うような顔で斎藤が応じた。
「そうなのか、こんなに大きな車を運転できるなんて、すごいな歳! それに斎藤君!」
 八人乗りのワゴン車を前に近藤がきらきらした瞳で二人を褒める。
 それに土方の険しい顔が、僅かに緩んだ。
「あーじゃあ先に副長が運転で。助手席は局長に譲ります。副長、疲れたらいつでも代わりますんで」
「おう」
 ナビはあるけれど、と斎藤は道路地図片手に席を割り振り、自分は一番降りやすい場所に腰を下ろした。
 土方の運転は近藤がいるのもあるのだろう、安全優先な安定したものだった。
「腹減ったっす。魚介が美味いってことで朝メシ抜いてきたんでメシにしましょう」
「食事もできる市場いちばがあるみたいだね、そこはどうだろう」
 原田がそう言えば、カルデアであらかじめ仮プランを組んだタブレットを辿りながら山南がわくわくしたように返す。
「よし、歳。そこに向かおう!」
「わかった」
 実のところ全員が現地での食事を楽しみに、朝食は抜いていたりする。



 広い駐車場に車を止め、地元の市場に入る。
「近藤さん、ソフトクリームありますよ、食べませんか!」
「後にしとけ沖田」
「そうだな。歳の言うとおり、あとで食べよう!」
 沖田が反応したように建物手前にはソフトクリームや軽食の店が並び、入ってすぐは豊富な土産物コーナーだった。
 一番奥まったところにフードコートがあり、寿司、刺身、各種丼物、そして焼き上げられた海鮮が見事に並んで客を待っていた。
「すごいね。どこから手をつければいいのかわからないよ」
 頬を僅かに紅潮させ、藤堂が圧倒されたように呟く。
「一番美味そうなモンからいきゃあいいのよ」
 今日は若い姿だが、まるで孫に言うように永倉が笑う。
 一同は席を確保して思い思いの食事を調達し、人数もあって目の前のテーブルには山のように料理が集まった。
「それでは、皆、乾杯」
 近藤が、爽やかに笑って飲み物の入ったグラスを掲げる。
「かんぱい~」
 車を運転しないといけない土方と斎藤に遠慮してか、アルコールを選んだ隊士はいないようだ。
「美味しいですね、このマグロは一度も冷凍されていない生だそうですよ」
 ごはんもマグロも大盛りの丼を前に山南が店員に聞いたという蘊蓄うんちくを披露する。
「へぇ。じゃあいつも俺たちが食ってるのは冷凍されてるんすか?」
「らしいね。普通は遠洋で冷凍されて運ばれ来るようだけど、ここは船上で活け締めして運んでくるので冷凍されないそうだよ」
「それでこの甘みともちもち感なのか。新鮮というのは素晴らしいね」
 近藤はこれまた山盛りの豪華な海鮮丼を頬張りながら相槌を打った。
 線の細い穏やかな物腰の二人に大盛りが吸い込まれていく様には、見慣れた隊士たちにはともかく、周囲は驚くだろう。
 実際近くに座った人の中にはテーブルの上の料理の量だけでなく、その食欲にビビって目を丸くしている者もいる。
「ごちそうさまでした! 次はソフトクリームですよ、ソフトクリーム!!」
 いち早く食事を終わらせて沖田は席を立つ。
「総司、もうちょっと待ちなさい。皆まだ食べているんだから」
「皆ソフトクリーム食べますよね! 買ってきますね!!」
 近藤の言葉も耳に入らない様子で沖田ははしゃぐ。
「沖田先輩一人じゃ持ちきれないっしょ、俺も行きます」
 ほぼ食べ終わっていた原田が残りをかきこんで立ち上がる。
「ありがとう原田君、総司を頼むよ」
「ういっす」
 やがて二人は両手一杯に人数分のソフトクリームを抱えて戻ってきた。
「さて、次はどこへ行くのかな」
 濃厚なソフトクリームを味わいながら、次の道筋の確認か土方の手に移っていたタブレットを近藤が覗き込む。
「宿は湯の峰に取ってあるようだな。最寄りは本宮だ、白浜の海岸を少し回って山の方に向かうか」
「昔はここまで来るのに大変だったというのに、今は便利になったものだね。険しい参詣道を歩かなくても熊野詣ができるとはなんともありがたい」
「そうだな」
「そして湯の峰と言えば小栗判官の逸話にもある伝統ある湯治場、今夜は温泉だな!」
「あぁ、楽しみだ」
 相変わらず距離の近い二人を隊士たちは半笑いをして見守る。
 この二人はカルデアに来てから恋人同士になっているが、当人達は隠しているつもりらしい。
 実のところ隊士たちにしてみれば『今更かよ!!』というところらしく、そのことは全員知っている。



 食事を終え、再び車に乗り込む。
 次に向かった先は白良浜しららはま、南紀州を代表する純白の海岸である。
 まだ海水浴の時期ではないが、真っ白い砂浜に翠玉エメラルドの海が広がる様になんともいえず清々しい気持ちになった。
 八人もの誰もかもが容姿の整った男女が歩いてゆくのを、他の観光客が珍しそうに眺める。
「皆さん、写真撮りましょう、並んで並んで~」
 沖田が自分の端末を自撮り棒にくくりつけて海をバックに構える。
「ちゃんと全員収めてよ、沖田ちゃん」
「まっかせてください!」
 ぱしゃり、とシャッター音がして無事八人全員が収まったショットが撮れるが、肝心の海と海岸は人数に負けてほんの少ししか写っていなかった。
「むぅ、人数多過ぎですね! でも皆一緒だからいいですよね」
 沖田はちょっと不服そうに頬を膨らませたが、やがてにっこりと相好を崩した。
「皆揃って、こうして平和に旅行ができるんだ、本当にいい時代になったものだね」
 海からの風にその浅葱混じりの黒髪を靡かせ、近藤が感慨深げに言う。
「旅、といっても以前はそんな余裕はなかったからな」
 その横に立って土方はふ、と笑みを漏らした。
「──サーヴァントだからこそ、なのかな……
 かの特異点は近藤が隊士たちが座に縛られ輪廻からも逸脱し、戦い続けなくてはならない宿業を課された事を嘆いて作り出されたものだ。
 穏やかなこの時はそれが間違っていたのかもしれないと、近藤は遠い目をした。
「さあな。普通の聖杯戦争じゃ相互あいたがい殺し合うのが宿命だ。同じ目的の人理の為なんて大それたモンの為に一緒に戦えるって方が珍しいのかもしれないぜ」
「歳……
「まぁ、聖杯戦争なんぞに喚ばれても、あんたがいりゃ俺は自分のマスターだろうがなんだろうが、切り捨ててあんたの所に行くがな」
 当たり前だろう? という顔をして微笑む土方に近藤は泣きそうな笑顔を向けた。
 そのまま二人はじっと見つめ合い、そっと唇を重ねた。

……周り、見えてませんね」
「見るわけなくない?」
 そろそろここを立つ頃と一番隊隊長と三番隊隊長が二人を捜し当てたのはその瞬間だった。
「よし」
「沖田ちゃん!?」
 しばらくその二人を見守っていた沖田が、決心したように走った。
「お二人とも~~~そろそろ時間ですよ~~~」
 そして少し離れた二人の背後に陣取ると、わざと大声で呼びかけた。
「総司!?」
「沖田ァ!!」
 二人はそれを認めると慌てて身体を離し素知らぬ顔をしてみせたが、それは無駄な努力というものだろう。



…………
…………
 車に戻った二人はどことなく照れたようなお互いの顔が見られないような雰囲気でかたや黙々と運転、かたや旅行ガイドブックを持ったまま固まっている。
「沖田ちゃんあれはやり過ぎだって」
「なんのことですか?」
 後部座席で斎藤は沖田に囁いたが、本人はケロッとした顔で鼻歌でも歌いそうな顔をしている。
「沖田君、なにかやったの?」
 そんな二人に藤堂が怪訝な顔をして聞いてくる。
 明らかに運転席と助手席に聞こえないように交わされる会話に、山南と永倉、原田も疑問顔だ。
「あ~。お二人がいい雰囲気のところに特攻かましてくれました」
「うわぁ」
 斎藤がしおしおの困り顔で零すと、聞いていた全員天を仰ぐか床を見つめた。
「でも、沖田先輩にしかできませんよね。お二人待ってたら出発遅れてただろうし」
 それはそれで良かったんじゃ、と原田が漏らした。
「斎藤ォ、次はどの道だ」
 背後のヒソヒソ話に土方がピリとした声で問いかける。
「ナビの通りです、副長。運転代わりましょうか?」
「いらん」
──胃が痛い、斎藤一はちょっと泣きたくなった。



 一行は海岸線から約一時間半、次の目的地の熊野本宮大社に到着した。
「ここが……誰もかも受け入れてくださるという浄土の地、熊野本宮……
「なんとも清浄な空気ですね……サーヴァントの我々でも赦し導いてくれるようです」
 近藤と山南が心底安心したような顔で呟く。
「神だ魔王だいるカルデアだけど、こういうところに来ると本当の神仏がいるという感じがするね」
 藤堂もほぅ、と息を吐いてその空気に浸った。
 全員が全員信心深いわけではないが神御座おわす気配を誰もが感じ取っている、そんな雰囲気だった。
 熊野本宮大社、産田社うぶたしゃ大斎原おおゆのはらと滞りなく参拝を済ませ、駐車場に戻る。
「熊野速玉大社と熊野那智大社は明日になるのですね」
 宿に向かう車内で、山南はそう言って微笑んだ。
「この数日で三社全て巡れるのか。本当に車というのはありがたいね、私も免許を取ろうかな」
「あんたの行くところには俺も行くからいらないだろう」
「そうか?」
「あぁ」
 ここに来て本人達無自覚のイチャイチャぶりが復活したが、それだけ二人の機嫌が直ったということだろうと、後部座席組はホッとした。



 そうするうちに今日の宿・湯の峰温泉が目前になった。
「えーーー沖田さん一人部屋ですか!?」
 その車内にそんな絶叫が木霊する。
「何考えてんだ、沖田お前一応娘だろう。野郎と一緒にできるか!!」
「そんなこと気にしないのに!!」
「お前は気にしなくてもこっちは気にするんだよ!!」
 沖田と永倉が言い合っているのは、部屋割り問題である。
 本人が気にしなくても沖田は女性なのだ、いくら昔は一緒に雑魚寝もしていた隊士たちとはいえ、今の世で気にしないわけにはいかない。
「近藤さ~~~ん」
「駄目だぞ、総司」
 最終手段とばかりに近藤に泣きつくが、バッサリと切り落とされた。
 部屋は四室予約されていて、一室あたり四名まで宿泊できるらしい。
 沖田の分を除けば残り三室、人数は七人。
「局長は副長とご一緒に。一室使ってください」
 ごく当たり前のように言う斎藤に隊士たちは有無を言わさず頷いた。
「斎藤君!? 皆も!?」
「あとは……山南先生と平助と僕、佐之助と新八でいいんじゃないかな」
 斎藤はさりげなく自分を平和で安全な方に割り振った。
……まぁ、仕方ねぇか」
「広く使えるなら布団離せば新八の寝相に巻き込まれないだろうからいいっすよ」
「夕飯のおひつ、二個……いや三個もらおうね」
 藤堂が心配したのは何故かごはんの量だった。
「ぶーーー。温泉は一緒に入りたいです!!」
 一人にされた沖田は不満たらたらな様子だったが、最後の砦とばかりに食い下がった。
「ばっかやろう! それこそ問題だ!!」
「あ~。今回は露天風呂を特別に貸し切りって事で、沖田ちゃんさえよければ一緒に入れます」
 永倉が顔を真っ赤にして叫ぶが、それに微かに吹き出すと斎藤はそう付け加えた。
「全然気にしませんから! やりました、沖田さん大勝利です!!」
「斎藤、てめぇ!!」
「僕のせいじゃありませんから~」
「まぁまぁ、沖田君と時間をずらせばいいじゃないか。私もそうさせてもらうよ」
 山南は困ったように言いつつ、永倉を宥めた。
「ずらしても沖田が飛び込んできたら終わりだろう!」
「ウブっすねぇ」
「なんだと!? お前が鈍いだけだろう!!」
「お前等うるせぇ! ガキの裸の一つや二つに騒いでんじゃねぇ。着いたぞ」
 後部座席の大騒ぎを一喝して土方は車を停めた。
 宿は風情のある和風建築で、自分たちの生きていた頃を彷彿とさせる造りだった。
「副長、お疲れさまです。明日は僕が運転しますね」
「そうか、なら頼んだ」
 車の鍵を胸ポケットに収めようとした土方に斎藤は声をかける。
 土方はふ、と表情を柔らかくして斎藤にそれを預けた。

 チェックインを済ませ、それぞれ割り振られた部屋に通る。
 夕食までにはまだ時間があるということなので、土方と近藤は部屋に用意の茶と茶菓子で一息つき、浴衣ゆかたに着替えて温泉に向かうことにした。
「近藤さん、土方さん。今からお風呂ですか? 一緒に行きましょう!!」
 廊下の途中でどうやら待ち構えていたらしい沖田が、並んで歩く二人の間に割って入った。
「全く、仕方ないな、総司は。永倉君のことも考えてあげなさい」
「はーい。別に永倉さんがいる時に飛び込んだりはしませんよー」
 配慮などするつもりは全くなさそうな沖田の返事に近藤はやれやれと溜息をつく。
 幼馴染みで今はサーヴァントとはいえ、沖田は年頃の娘なのだ。
 本当なら自分たちとも一緒はさせたくないが、本人が収まらないのなら仕方がない。

「近藤さん、髪」
 脱衣所で土方は近藤に短く声をかけ後ろに回り、その豊かな黒髪を綺麗に頭頂近くで纏めた。
「あぁ。ありがとう、歳」
『相変わらず変にスマートなんですから……
 沖田は一人砂糖を吐きそうな顔でそれを見守った。
「おぉ、これはなかなか……
 石で縁取られ、いい雰囲気の東屋もある大きな露天風呂に近藤は感心の声を上げる。
「露天というのもいいもんだな」
「沖田さん一番乗りです!」
 かけ湯をして沖田が湯に駆け寄る。
 ちゃぽん、と足をつけて湯加減を確かめるとそのまま奥に移動して肩まで浸かる。
「最高です! 近藤さんもどうぞ!!」
「歳、照手姫の言葉に甘えようか」
「随分おてんばな照手姫もいたもんだ。小栗判官もびっくりだろうよ」
 湯から首だけ出して沖田が微笑むと、近藤もそれにつられて笑った。
 流石の沖田も湯の中で二人に近づくことはしなかった。
「あぁ、いいね……蘇りの湯とはよく言ったものだよ」
「うん、流石だな」
 ゆったりと湯に浸かり、近藤は大きく息をつく。
 土方は頭に冷水につけたタオルを乗せ、その横に陣取った。
「いいお湯ですね~」
 沖田はその二人を見ながらにこにこと声を上げた。
「総司、のぼせる前に出るんだよ」
「はーい」
「近藤さんもな」
「大丈夫だよ、歳」
 肌寒くもなくちょうどよい季節の風に吹かれながら暮れつつある空を見上げる。
「このあとは豪華なお夕飯だそうですよ! 楽しみですね!!」
 沖田はそう言って湯の中を移動して縁まで移動すると湯から上がり、頭の上に乗せていたタオルで身体を隠した。
「お先に失礼します、ごゆっくり~」
 そしてひらひらと手を振りながら脱衣所に引っ込んでいった。
「全くあいつは……
 それを見て土方がやれやれ、といった顔で溜息をつく。
「あの顔が見られただけでも価値のある旅行だね」
「まぁな」
 触れれば切れる刃だった彼女が、人間としての感情を表に出せるようになったのは、何故だろうと考えてみる。
──それはやはり、カルデアでのマスターとの生活ではないだろうかと近藤は思った。
「近藤さん、そろそろあがらねぇとのぼせるぜ」
 湯の中で思考をはじめてしまいそうになった近藤に、土方が声をかける。
「あ……
 土方の声かけがなければ自分はそのまま湯の中で考え込んでのぼせていたことだろう。
 ゆっくりと湯から上がる土方について自分も立ち上がった。
「いい湯だったな」
「うん、可能なら明日の朝にでもまた入りたいな」
 暖まった頭で土方の方を向いた時、絞ったタオルで身体を拭く土方の引き締まった姿が目に入った。
「いくらでも付き合うぜ」
 にこりと余人には見せないような笑顔を向けてきた土方に、どきんと胸が打つのがわかった。
「あ、あぁ」
「近藤さん、大丈夫か? のぼせてるんじゃないか?」
 土方は急に頬を上気させた近藤の頬にぴたり、と手を当てる。
「だ、大丈夫だ! 夕食、楽しみだな!!」
「うん?」
 急に恥ずかしくなって挙動不審になる近藤に、土方は疑問を浮かべた顔をした。
 手早く身体を拭いて浴衣を羽織る。
……近藤さん」
「ぴゃ!!」
 土方の顔が見られずそそくさと廊下に出ようとした近藤の肩に土方はぽんと手を置く。
「何考えてんだ?」
 そしてニヤリと笑っておとがいに手を添えた。
「何も考えてないぞ!」
 尚のこと頬を赤くして近藤は顔を背けた。
「なら俺の顔くらい、ちゃんと見られるだろう?」
 意地悪に笑って土方は更に顔を近づける。
「見られるとも!」
 そして近藤が開き直ったように声を上げると、その口にちゅ、と音を立てて触れるだけの口吸いをした。
「と、と、とし!!」
「言い訳は、部屋で聞いてやるよ」
 夕食の後、部屋で何が起こったかは──本人達しか知らないことである。