桜崎
2026-04-13 19:20:09
1351文字
Public
 

痴話喧嘩withフレンズ

れめゆみ 題名の通りの話

 長椅子の上。いつものように叶黎明は体を横たえている。その叶は獅子神ですらその心境が手に取るようにわかるほど感情をむき出しにして、スマホの画面を指先で叩いていた。
 険悪な雰囲気から逃げて台所に来た村雨と真経津は皿を洗う獅子神の隣で冷蔵庫から発見したアイスを齧っている。
「なんだ、アイツ、機嫌悪りぃ、人でも殺してきたみてーな顔してるぜ」
「それいつもどおりじゃない?」
「さっさとマヌケ神を呼べ。暴れ出したらどうする」
「ダメだよ、天堂さんと喧嘩したせいだし、全部ブロックされて音信不通なんだって」
「なんでうちに来るんだよ。自分家居ても一緒だろ」
「イライラしてテラリウムの人数が減っちゃうらしいよ」
…………なあ、このままじゃオレたちが減るんじゃねーの」
 そうかもね、なんて真経津は可笑しそうに笑っている。獅子神は何も面白くない。ふと上げた視線の向こうにいる男が得体の知れない何か、に見えた。
…………あなたが押さえるのだぞ、私がとどめを刺す」
「ボクは応援してるね」
 否定しきれない想像に訪れた沈黙の中、水の流れる音だけが響き、いやな緊張感が立ち込める。
 不意にスマホの通知音が鳴った。獅子神のものである。手を拭いて、ポケットから取り出した瞬間、ぞわりとした。背後に立つ気配に振り返る。
 叶がいた。
「うわッ!? 叶!? テ、テメーいつのまに……!!」
「静かにしろ。叫んでいる場合ではない。アイスがもうないぞ」
「獅子神さん、何か作って〜村雨さんがアイス全部食べちゃった……
真経津たちが呑気に食べ物の催促をしている様子を見るにどうやら人数を減らしに来たのではないらしい。心臓を宥めている獅子神を無感情な瞳が見下ろす。
……それ、ユミピコからだろ、なんで敬一くんのスマホにくるんだよ」
「嫌がらせだな」
「嫌がらせだね」
 冷蔵庫にめぼしいものが何もなかったのだろう。声を揃えた二人は竹輪を口にしている。明日の村雨の弁当のおかずが一種類、減ったなと思いながらスマホを覗くと叶の言う通り天堂からメッセージが来ていた。
「そこに黎明がいるだろう。教会に来い。赦してやる。供物を忘れるな。次やったら殺す。だろ」
 開いた中に書かれていた言葉は一語一句同じであった。
……なんだよ、赦してやるって……別にオレ悪くないだろ……
 そう言いながらも先ほどまでの剣呑な気配は消えていて、叶はふらりと背を向ける。そのまま部屋からも出ていったのできっと教会に向かうのだろう。今行ったと送る前にご苦労と表示される。オレ必要だったか、これ。
「アイツら何が原因で喧嘩したんだよ」
「どうせあのマヌケ神の食べ物をつまみ食いしたのだろう」
「オメーじゃあるまいし」
「うーん、まあそんな感じなんだよね。天堂さんが一緒に食べようと思ってたケーキを叶さん先に知らずに食べちゃったんだって」
「はあ? それが原因かよ」
「美味しかったものを一緒に食べたかったんだよね、天堂さんは」
「どうせ謝らなかったのだろう。あのマヌケは」
 そんなことで巻き込まれて命の危機を感じたくないものである。嘆息した獅子神は、再び冷蔵庫を荒らされる前に二人の食欲を満たすための手軽な菓子のレシピを思い出すことにした。