降り頻る桜の花びらの下。隣り合って歩く道には誰もいなくて、二人きりだった。いくつもの木々が両端を飾って花弁が美しく咲き誇り広がっている。他愛もない会話と会話の間にふと訪れる沈黙を桜を巻き込んだ春風がかき消した。
「黎明」
外れたフードの下。伸びてきた赤い指先が髪に触れて、薄紅色をすくう。
「ついているぞ」
可笑しそうに口元を緩める天堂のそれは甘くて、ふわふわしていて、いつも慈悲深いと自称する神さまの表情よりもよっぽど優しい顔で、黎明の心臓から変な音がした。それからどんどん早くなる。
その天堂の流れる銀糸にも花びらが絡んでいる。手を伸ばす。
ユミピコ。
「好き」
ついてる。
足音が途切れた。笑うのにも失敗した。どうして間違えてしまったのか。どうしてこんなうっかりみたいな告白をしてしまったのか。何よりどうして今日、告げてしまったのだろうか。
四月一日である。
そもそも天堂に嘘をついて良い日だという認識があるのか、ないのか。普段の行いのせいで冗談だと思われるのか。思わないのか。黎明の告白を、天堂の、返事を、観ても観られても読んでも読まれても嘘かほんとかわからない。信じたくて、信じられないし黎明は何を言われてもきっと疑う。
「ニューヨークかロサンゼルス、ホノルル、ロンドン」
「は」
天堂はつらつらと他にもいくつも並べて、機嫌よく笑っている。
「何処が良い?」
「……それ、移動してる間に日本は次の日になるよな」
「ならば神からの誘いを断るのか、黎明」
「……そんなわけないじゃん」
もう答えを貰った気がしたけれど、それすらも疑っているふりをして、黎明は天堂と遠い世界、二人きりで過ごす口実を選ぶことにした。
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