桜崎
2026-04-13 19:18:36
1694文字
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プレゼントは

れめゆみ ホワイトデー

 細々としたものでも増えれば重い。黎明の両腕には大量の袋がぶら下がっていた。全て天堂の購入した品々である。その天堂は、コスメカウンターに座り何か話していて、黎明に持たせる袋をまた増やすつもりのようだった。
「黎明」
口紅の、二つの色が提示される。選ばされるのは、今日何度目だろうか。
「右の方」
即断すると微笑した天堂は手のひらを差し出してくるのでそこにカードを乗せた。
 何故か代金が全て黎明から出ている。別にいいけど。いくらでも手持ちはあるし。だが、天堂もそれは同様であり、何だか釈然とはしない。
「次はあっちだ、黎明」
 天堂が動くとふわりと普段つけていない香水の香りが鼻腔をくすぐった。好きな匂いだった。
 いつもの格好ではない天堂と自身に注がれるいくつもの視線に悪い気分ではない。それに今日の天堂は随分と楽しげではある。機嫌が良い。表情がくるくると変わる。それを可愛いとは思う。し、天堂はよく黎明のことをわかっているので、常に黎明を視界に入れていて、視線が外れても苛立つ前に黎明を見る。
それでも単に荷物持ちにされているわけだが、つまらないほどでもない。でもやっぱり釈然としないのだ。
 その後も天堂は買いたいものを買い、食べたいものを食べ、帰宅してからは、黎明に一連の世話を強請った。
 背後からかけていたドライヤーを止めて、その艶やかな髪の毛に指を通す。面倒な手順の成果である。
 これでようやく終わりだった。
 そう思った瞬間、今日常々頭を巡っていた疑問が噴出した。
「いやおかしくね、なんでオレがお前に物買ってやってんの?  世話してやってんの? しかもオレなんももらってねーし」
 むしろ本日は、本日こそは天堂に返してもらっても良いはずであった。ホワイトデーである。記憶上、バレンタインにチョコレートを渡したのは黎明のはずであった。
 今日の早朝、いきなり黎明のマンションを訪れた天堂は、珍しく黒い神父服ではなかった。部屋から溢れ出す声量で無理やり起こされた寝ぼけ眼を覚ますくらいには綺麗に着飾っていて、頭から爪先まで完璧で何より黎明、の好むような見目で思わず見惚れた。けれどその時間はほんのひとときであった。寝台から引きずり出すように追い立てられ、支度を急かされる。天堂が選んだ服を着せられ、髪を上げるように整えられる。両眼が揃った方が良く見えるだろうと満足げな天堂は何がと黎明が聞き返す間もなく、部屋を連れ出された。ホワイトデーに買い物に行くと言うのだから、黎明の欲しいものでも買ってくれるのだと思った。その期待があったので文句も言わず一日付き合ったのである。天堂は自分のものしか買わなかったわけだが。
 しかし、振り返った天堂は、心底不思議そうに首を傾げ、まるで黎明の言い分が間違いであるが如く言い放つ。
「何を言っている。神の尊い一日を与えてやったではないか」
「はあ? ユミピコがずっと買い物してたのに付き合わされただけじゃん」
「褒美だろう? お前の愛しい神の幸福たる様を隣で一日中見られたのだぞ」
目を惹かれていたのは確かなので否定しきれないのが腹立たしい。が、どう考えても割に合わない。それがお返しだなんて傲慢すぎるだろ、この神さま。
「不満そうだな、黎明」
首に腕が絡んだ。黎明に乗り上げる体からはきっと今日買ったばかりの知らない匂いがした。透き通った髪を揺らして真正面の天堂は美しく笑う。
「これはお前が選んで買ったものだ。この服も、この髪も体の香りも、爪の色も」
唇が一瞬同じものに触れた。
「これもお前が選んだ」
かすかに色のうつった口端を黎明が整えた赤い爪先がなぞっていく。珍しく風呂に入ったのに紅を塗っているなと思っていた。
「好きだろう? お前に染まった私は」
 口角が自然と上がった。温い熱が触れている場所から伝染していく。
「それ、ぜんぶ貰っていいんだろ」
「赦す」
 笑みを模っている赤い色を落とすのが惜しく、けれど、黎明と誘うように囁く形が欲しくて、沸る熱情をこの一瞬だけ深く押し込めてただそっと口づけた。