桜崎
2026-04-13 19:17:45
2704文字
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友達半歩先

れめゆみ 羽を授けてるれめ見て結構言うこと聞いてあげちゃってるんだと思った話

友達半歩先
 目前に鎮座するのは巨大なパフェである。
スマホの画面越しにそれを見ていた黎明は、スプーンを差し入れる天堂へ撮影対象を移す。綺麗に整った満面の笑みである。
「黎明、一口であれば恵んでやっても良い」
「オレはいいよ、ユミピコが食べてるの見てるだけで気持ち悪くなりそう」
大量のクリーム、スポンジ、アイス、フルーツ。なぜかからあげも乗っている。
 天堂の提案は唐突である。黎明がテラリウムを眺めている傍らさっきまで咎人の密告に精を出していたはずなのに、黎明、ここに行くぞ!と、いきなり突き出されたスマホには巨大なパフェが写っていた。
 検索すれば近所にあるらしい。天堂の中でもう向かうことは決まっているようですでに席から立ち上がっている。ささやかな抵抗として人気店だからすぐに入れないぞ、なんて忠告はした。天堂の耳には入らなかったらしいのでいつの間にか消えた姿を長い足でゆっくり追いかける。
 到着した店は案の定、長蛇の列である。げんなりした。神父の恰好と自身の組み合わせ、女性だらけの中で男二人ということでとてつもなく浮いていたが、いつものことだし、有象無象でも視線が集まるのは気分は良い。天堂が最近話題の動画を見たいというので二人で狭い画面を眺めながら待つ。お前の方が良いと言われ機嫌を良くしたが、まあ誰しも神には劣るなんて付け加えてくる。一言多いのだ。
 そこから数十分待ってようやく店内に入ることが出来た。すでに黎明は疲れ切っているが天堂は、自分の望みが叶って大層、ご満悦である。口に運ぶ仕草は丁寧なのに食べるのは早いのか、黎明がコーヒーを二杯ほど飲んでいる間に天堂の腹にそれらは全て収まっていた。
 店を出た瞬間、冬の終わりの、暖かくも冷たくもない無機質な空気が身を包む。それに春の訪れを感じたのか、天堂は服を買いに行くと言い出して、次の目的地が決まってしまった。徒歩で向かえるショッピングモールを探して、端から端まで見て回り、ほとんど天堂の、大量の荷物を配送した後である。
「黎明、あれに乗るぞ」
 指差した先には観覧車があった。なぜ。と言うのも天堂相手には愚問だろう。どうせ神さまだから天上から下々を見下ろしたくなったとかそんな理由だ。
ゆっくりと上昇していく箱の中で窓に張り付いている後ろ姿を黎明は眺めていた。一番上まで行ったところで教会が見えるというので隣に立って指差す方向を探す。あった。オレんちは?と訊くと別の方向を天堂は差し示す。真経津のマンションを探すのを競争している間に降下を始めた。村雨の家を探すのは天堂の方が早く、獅子神の家を先に見つけた方が勝者ということになった。負けた方が今度の獅子神邸でのいたずらの主犯になる約束をして、ついでに内容を話し合う。ピンポンダッシュ、砂糖と塩を入れ替える、玄関の靴を全部隠す。どちらにしろ怒られるのだから勝つのも負けるのも些細な戯れだった。
 観覧車から降りた瞬間、天堂は遠くに視線を飛ばす。 
「黎明、咎人だ」
黎明には人影すら見えないが、どうやら空の中から探っていたらしい。走り出した天堂の靡く髪が徐々に小さくなっていくのを視界に留めながら、黎明はゆっくりと歩き出す。追いつけるわけがない。途中で息切れするに決まっている。方向だけ同じ通り進んでいれば天堂から連絡が来る。
 黎明が向かった時にはすでに片が付いていた。黒い袋に収まった人の形と傍には幼い少女がいる。
天堂はその子どもを一瞥だけして黎明に帰るぞと言った。





「それでさーユミピコ、ずっとソイツのこと虐めててさーオレのことぜんっぜん見ねーの。もう死んでんのに吊り上げるとか意味不明なこと言い出すしさ! しかもいきなり腹が減ったとか、夜中だぞ、店どっこも開いてねーよ。コンビニは嫌だっていうから探してやったけど。やっとファミレス見つけて、そこ行って朝までいたから眠く眠くて。一日中歩き回ったから、筋肉痛で体ばきばきだし。それなのにユミピコのやつ次の日の朝から」
 かちゃかちゃと洗い物の音に混じるよう黎明の声が響く。ああそうだな、なんて気のない相槌を打っている獅子神の視線は当然、手元の皿である。さっきまでいた医者と無職の食事を片づけているのだ。
「なあ、敬一くん聞いてる? こっち見ろよ」
 ちらりと目線が黎明に向けられたことですこし満足して、けれど次いだ言葉に眉を顰める。
「聞いてる聞いてる。良い一日だったんだな」
「はあ? 何処がだよ、ユミピコに振り回されたって話してんだけど」
 「……オメーさ、オレにしてあげちゃうのは、とか言ってたけどよ、テメーも大概だ。この間も同じこと言ってたぞ。そこまで毎回付き合わねーよ。断ったことねーんじゃねーの」
「んなこと……
 ない、だろうか。そう言えば天堂に何かをしようと誘われて断った記憶がない。あまりにも黎明が当然のようについてくると隣にいるべきだとでも言うように天堂は黎明に声をかける。行くか?ではない行くぞである。断られる選択肢が天堂にはそもそも存在していない。それに感化されていて、ついていくのが当たり前になってしまっているのか、天堂のやりたいことである目的の細かい予定まで黎明が考えてはなぜか付き合っている。
「まあいいんじゃねーの。オメー話してる時、楽しそうに笑ってたぜ」
「は」
 あんなにあきれた物言いをしていたのにまさか笑っていたのだろうか。楽しい、楽しいのか。つまらなくはない、と思う。
 ただ天堂はとても楽しそうだった。いつもいつも。お前ももちろん楽しいだろうと、愉快そうに、黎明と名前に喜びを乗せて呼ぶ。それは嫌いじゃない。
 スマホの通知音に手元へ視線を落とす。
天堂からだった。
「車出せって、どこ行くんだよ。あー海か」
 三十分後に迎えに行くと返信した。こんな単純なこと観測する必要もなく、ほらな、なんて獅子神は笑っているだろう。
「敬一くんも来る? 釣り」
…………いやいい、テメーぜってえ釣った魚この家に持ち込むなよ」
一度何も知らずに付き合ったことを思い出しているのだろう。顔色が悪くなる。
 味に変わりはないのに。
立ち上がった黎明は、スマホでまだ行ったことのない海岸と道順を探しながら獅子神邸を出る。帰りに道の駅とか寄ってもいいな。朝食も考えておく。どうせ天堂はすぐに腹を鳴らして、食事の催促をする。調べたいくつか出てくる候補の中で、おにぎりの食べ放題だとか好きそうだなあなんて思って、保存した。
 ああ確かに。ふと触れた口元はいつのまにか笑みの形をかたどっていた。