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たもヤロウ
2026-04-13 18:24:02
16666文字
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盗賊を口説き落とせ
サイテリがくっつくまで。押せ押せ学者と押しに弱い盗賊。
【前回までのあらすじ】
――
サイラスは旅に出た
かつての仲間であった盗賊『テリオン』
彼に会いたい、その思いを胸に・・・・・・
女生徒の恋愛トラブルに巻き込まれ
テリオンへの恋心を自覚したサイラス
・・・そんな中、テリオンが今、クリアブルックに滞在していることを知る
長期休暇を言い渡されたこともあり
ちょうど馬車も出るということで会いに行くことを決めた
ここにはかつての仲間であり、薬師であるアーフェンもいる
テリオンはそこで助手をやっているはずだ
かくして、クリアブルックにたどり着いたが
――
「ではサイラスさん、私はゼフに会いに行きますのでこれで」
「ああ。ありがとう、メルセデス君」
アトラスダムにて馬車を手配してくれたメルセデスに礼を述べ、別れる。
彼女はアーフェンの親友であるゼフの家に向かったようだ。彼がメルセデスを迎えるならば、アーフェン達はおそらくそこにはいないのだろう。そういうところは空気を読む男なのだ。
クリアブルックは小さな村である。二人がここに滞在しているのならば、そう時間はかからず会えるはずだ。
まず、サイラスはアーフェンの家を訪ねる事にした。村の入り口からもそう遠くなく、酒場も近い。二人ともたいそう酒好きであったため仕事中でなければどちらかにいるだろう。とはいえまだ日は高く、往診中の可能性も高い。もし不在であれば、場所も分からないのにむやみに歩き回るよりは家の近くで待った方がいいだろうと判断した。
村の入り口から少し歩くと見知った家の扉が見えた。まずは数回ノックをしてみるが
―
(ふむ、留守のようだな。鍵もかかっているようだ・・・)
こんな時テリオンならばちゃっかり鍵を開けてくつろいでいるのかもしれないが、以前村に来た時にはあまり鍵をかける文化が見受けられなかったのでもしかするとテリオンの入れ知恵かもしれない。
「・・・っとまたテリオンのことを。やれやれ、病気だなこれは・・・・・・」
恋の病とは良く言ったものである。しかし、ここでこのままこうしていても仕方ない。まだ昼間ではあるが酒場で時間を潰そうと踵を返したその時
——
「・・・・・・サイラス?」
ずっと聞きたかった声と共に目に飛び込んできたのは見慣れた紫の外套ではなく、薬師の緑の衣装に包まれ驚きの表情をしているテリオンであった。
久々に会った彼は記憶と寸分なく、いや、記憶よりもより愛しく感じられる。まるで背後に花が咲き誇っているような幻覚すら覚える。何故だか暖かくて幸せな気持ちになる。
それと同時に薬師の服を身に纏っていることに仄かな嫉妬心が芽生えるのを感じ、恋とは厄介なものなのだなと、サイラスは身をもって知ることになった。
「久しいね、テリオン」
「ああ・・・久しいなサイラス。だがあんた、なんで此処に?」
「実は事情があってキミに会いたくなってね・・・メルセデス君が君たちが滞在していると教えてくれた。それで彼女が休暇を取ってここに帰るというので私も同行させてもらったんだよ」
「事情・・・?それで俺に用事だと?」
「用事というかただ単に会いたくなったというか・・・」
「はぁ?」
テリオンは心底意味が分からないという顔をした。確かに王都で忙しくしているはずの私が特に理由もなくここに来ることなど想定もしていなかっただろう。
正確には理由が無いのではなくテリオンが好きと自覚したから会いたくなった・・・という身も蓋も無いのが一番の理由である。問題はこの想いを抱えたままでは仕事に支障をきたすので、どうにか昇華する方法を探らなければならないのだが、そんなことを言われてもテリオンも困るだろう。サイラスは決して彼を困らせたいわけでは無かった。ではどう伝えたものかと思案していると
「おーい先生、俺もいるんだぜー」
少し声のする方へ視線をずらすと、すぐ傍に少々呆れたような困ったような顔をした薬師の青年が気まずそうに頬を掻いている。
彼が単独行動をしないとはいわないが、助手のテリオンがいるならば主治医のアーフェンもいると考えることが普通だ。己の視野の狭窄っぷりに驚きを隠せない。学者にとって視野の狭さは致命的である。こんなことは初めてだった。
「やあ、アーフェン君も久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
「へへ、久しぶりだな先生!全く、本当にテリオンしか目に入ってねえとは思わなかったぜ。んで、どうしたんだ?急に村に来るなんて珍しいじゃねえか。相談なら俺も乗るぜ」
「そうかい?それは頼もしいな。じゃあ聞いてもらおうかな・・・しかし、あまり外でしたい話でもないんだ」
「確かにプライバシーに関わる話ならそうか・・・じゃあ俺の家でやろうぜ。せっかく久しぶりに会ったわけだし、酒でも飲みながらよ」
「そうか、なら俺は酒場で適当に酒を見繕ってくる。まあ、あんたを酔わせられるようなもんは無いだろうが、相談事があるならちょうどいいだろ」
「おー!頼んだぜテリオン!んじゃあ先生はとりあえず鍵開けっから家入って適当にくつろいでてくれ」
テリオンが酒場に向かったことを見届けるとアーフェンは家の扉を開け、サイラスに入るように促した。錠はやはり真新しく、後につけられたものだとわかる。そしてその意匠は間違いなく彼の手腕のものであった。
遠ざかっていくテリオンの背中から中々目を離すことができないサイラスであったが、いつまでもこうしていても仕方がないと気持ちを切り替え、中に入る。
「お邪魔するよ」
「・・・・・・ほお」
アーフェンはその様子を見て、何かを察したかのような呟きを漏らすのであった
「まあ相変わらず狭いっちゃ狭いんだけどな。悪いな。すぐ机と椅子出すからちょっと待っててくれ」
「こちらこそ急に押しかけてすまないね。それにしてもまるで飲み会の流れになってしまったが仕事中だったのではないか?大丈夫かい?」
「ああ、今日の往診はちょうど終わったんだ。いやータイミングよかったなあ先生!ゼフの奴が、メルセデスが来るから今のうちに片づけちまおうって昨日から張り切っててよ。それにテリオンもすげえ優秀なんだぜ。あいつがスムーズに事を進めてくれるおかげで旅の間はともかく村の往診は早めに片付くようになっちまった」
「はは・・・彼とは仲良くやっているようだね。良いことだ」
そういったサイラスの顔は言葉の内容に合わず少々浮かない顔だった。家の中を見渡すと、カップや皿、鞄といった日用品が二人分に増えている。片方は間違いなくテリオンのものだろう。仲睦まじく暮らしているさまを見てしまい、サイラスは無意識に拳に力を入れた。
「さてと、んじゃまずは何があったんだ?テリオンのやつはまだいないけどまずは俺に聞かせてみてくれよ。言いたいことだけでいいからさ。そっからなんかアドバイスとか思いつくかもしれねえし体調のことなら薬も作れるかもしれねえ」
「そうだな・・・実は
―
」
サイラスはこの頃些細なミスが増えたこと、さらに些細ではないミスを犯し、学院から疲れによるものだろうと長期休暇を言い渡されたことを話した。
まさかテリオンへの恋に現を抜かして何にも集中できないので彼に告白して玉砕するために来た上、今も嫉妬でどうにかなりそうだ
――
などと話すにはサイラスの羞恥心と理性が許してくれなかった。そして告白して嫌われることが怖くて結局未だに葛藤していることも。
「なるほどな・・・睡眠時間はちゃんと確保できてるか?先生だから本の読みすぎで夜更かししてるとかじゃねえのか?」
「いや・・・辺獄の書の研究も一段落ついたから最近はほどほどにして睡眠時間は沢山取っているよ」
「うーん・・・身体に異変は?」
「旅の頃より体力は衰えた気がするけど普通に健康体だよ。風邪などもここ一年ほど無縁だ」
「まあ、アトラスダムに薬師がいねえわけねえしな。ってことは心当たりがあるからわざわざここに来たってことか?うーん・・・やっぱり精神的なもんかね。まず作用の軽い精神を落ち着ける薬があっからとりあえずそいつを試してみてくれ」
「ああ、ありがとう。頂くよ」
心当たりしかないサイラスは内心アーフェンに謝りつつも薬を飲むことにした。確かに不安定だった心の芯が落ち着いていく気がする。
改めてサイラスは家の中を観察した。テリオンが暮らしている家ということは勿論、学者の性として観察の癖があるからだ。
(おや・・・? ベッドは一つしかないのか・・・まさか同衾!?やはり二人はそういう関係・・・なのか)
男二人に寝床は一つ・・・冷静に考えれば家の狭さで二つ置く余裕がない事や、テリオンの性格から床やソファで寝ていると想像できそうなものだが、サイラスは残念ながら恋の病で頭がバカになっていた。
そんな推定患者のサイラスの様子を見ていたアーフェンは、少し思案するような仕草を見せるとニヤリと笑った。
「どうしたんだ先生?寝床が一つしかないのが気になるってか?」
「あ、アーフェン君・・・?」
「いやーテリオンの奴ってよ。夜すっげえ可愛いんだぜ?あいつ普段ツンケンしてる癖に二人になるとホント健気でよ。俺のが欲しい欲しいって強請って来てよお~。先日の夜も大分頑張らせちまったな!はははは!!!」
「つまり君はテリオンと・・・そういう仲なんだね。その・・・やはり好き・・・なんだろうか。いや、当たり前のことを聞いたな。忘れてくれ」
わかっていたとはいえ恋に破れるとはこのことか。あの女生徒が暴れた気持ちも少しわかってしまう。アーフェンから予め薬を貰っていなければ黒い感情が肥大して暴走していたかもしれない。私だってテリオンが好きだったのに、と。しかし、彼らは歳も近く気の置けない関係であることは十分に伺えた。自分の出る幕はないのだと突き付けられたようだった。
俯いて小さくなってしまったサイラスにアーフェンは答えた。
「ああ!もちろん好きだ。俺にとってあいつは本当に都合のいい助手だよ」
「は・・・え?」
「男同士ってあんな風になるんだなって知れたのもあいつのおかげだしな。村のやつらは健全なやつばかりだから、その手の知識がこんなに増えちまうなんて旅に出る前の俺なら想像もしなかっただろうな~!ははは!!・・・・・・」
聞き間違いだと思いたかった。しかし長年の学者生活で培われた耳は、アーフェンの大きくハッキリとした声を聞き間違うなんてことはない。
さらに思い返せば確かにテリオンは随分と疲れた顔をしていた。きっと寝不足なのだろう。ということは彼の言うことは事実であり
――
(都合のいい?彼をそんな風に思っていたのか?)
アーフェン君は・・・真っ直ぐで誠実で立派な青年だったはずなのに。そう信じていたのに。裏切られて底に落とされたようだった。テリオンだって彼を信じているはずなのに。
(
―
—
そうだ、私がテリオンの恋人になればいい)
サイラスの内を黒い感情が覆いつくした
(やれやれ、少し時間がかかっちまったな。だがその分いい酒と、マグのやつがお手製のつまみもサービスで持たせてくれた。再会の一杯には悪くない)
テリオンは、酒場にて酒とつまみを調達し、夕日が照らす村の中を駆け足で自宅へと向かっていた。距離的に遠いわけではないが既にかなりの時間が経過している。何より久々にサイラスに会えると思うと少々足も弾むものだ。
テリオンは、サイラスが好きであった。だが彼は由緒正しい王立学院の天才学者であり、今は薬師の真似事をしているとはいえ、根っからの盗賊であり、ろくでなしのテリオンとはまるで釣り合わない男である。そうして旅の間は胸の内を完全に隠し、この想いを墓まで持っていく心づもりであった
そうして家にたどり着くと、酒とつまみで両手が塞がっていることに気づく。
「アーフェン、戻ったぞ。手が塞がっているから開けて・・・」
「テリオン!!好きだ!!!アーフェン君と別れて私と付き合ってくれ!!そしてアトラスダムで暮らそう!!」
「っ!」
扉に向かって声をかけると、何故か鬼の形相で愛を叫びながら弾丸のように飛び出てきたのは黒い塊・・・もといサイラスであった
そしてテリオンはこの黒い塊を咄嗟に避けてしまい、サイラスは地面と強烈なキスをすることになった。
自制が効かない。
嫌われるかもという懸念は何処へやら、サイラスは胸の内を思いっきりテリオンにぶちまけた。テリオンが好きなことも、アーフェンと別れてほしいことも、恋人になってほしいことも、アトラスダムで一緒に暮らしたいということも全部全部本音なのだ。その本音が際限なく口からスルスルと出ていってしまう。
テリオンがアーフェンから慰み者にされているのではという疑念を抱いたとき、理性のすべてが吹っ飛んでしまったようだ。ここでテリオンが頷いてくれれば丸く収まると本気で考えていたのだが、告白された当の本人は非常に珍しく目を丸くして唖然としていた。
そしてみるみるうちに苦虫を嚙み潰したような表情になり
「あんたと付き合う?冗談じゃない!ふざけるのも大概にしろ!」
「冗談じゃない!私は本気だ!本気でキミが・・・好きなんだ。だからこそクリアブルックに来たんだ!キミに会うために!」
「俺なんかの何処がいいんだ!あんた頭がおかしくなったんじゃないのか!?」
「キミの魅力は沢山あるだろう!?自覚してからというもの毎日毎日キミのことばかりを考えてやまないんだ!お願いだよテリオン、私と・・・恋人になってくれないか・・・」
「それにアーフェンと別れる?あんた何寝ぼけたこと言ってるんだ」
「あ・・・」
心底意味が分からないという表情を見て悟ってしまった。彼の中にアーフェンと別れる、別れたいという考えは微塵も無いのだ。
これでは己の独り相撲ではないか。惨めな思いが胸中に溢れる。今度こそ正真正銘、恋に破れたのだ。まるで沼の底で重りを付けられたような気持ちになった。
「は・・・はは・・・」
「・・・俺は少し外の風にあたってくる。あんたも俺も少し頭を冷やしたほうがいい」
「うん・・・また後でね・・・・・・」
図らずとも告白して玉砕するという目的は果たせた。崩れ落ちたサイラスはこれからどうしようか・・・と痛む顔を擦りながら思案する。そこへアーフェンが心配そうに駆け寄ってきた。
「おいおいおい派手に顔から行っちまったな!?ったく、骨でも折れたら大惨事だぞ、顔は大事にしないといけねえぜ。ほら、傷薬。それにしてもテリオンも素直じゃねえな・・・」
「あ・・・アーフェン君。ありがとう。いやはや完膚なきまでに振られてしまったよ」
「・・・なあ先生、テリオンは外しちまったが、ちと俺と話さねえか?」
「・・・・・・?」
「ほら座ってくれよ。酒はあいつが戻ってから楽しむとして茶を淹れっから」
再び招かれた家の中、そう言ったアーフェンはサイラスに椅子を引き、暖かい茶を淹れた。テリオンが持って帰ってきたつまみと酒は一旦別の場所に保管したようだ。
いったい何を話すのか・・・アーフェンが口を開くのを待つ。すると彼は神妙な顔つきになり、手を合わせ、頭を勢いよく下げた。
「えーっと・・・まずはすまん!さっきの話、実はすっげえわざと紛らわしい言い方をした!先生がテリオンのことが好きなのは薄々気づいてたし、今日会って確信した!それであいつに想いを伝えてもらうのなら手っ取り早く挑発しちまえって思ってよ・・・建前で断るぐらいはするかもとは思ってたんだが、まさかあいつがあんなにキツく言い返すとは思わなかったんだ」
「えーと・・・じゃあもしかして君たちは恋仲ってわけじゃないのか?」
「俺たちはただのマブダチだぜ。ちなみにアイツ、布団は床に敷いて寝てる。そっちの方が落ち着くんだと」
「じゃあ私が勝手に邪推しただけだったのか・・・その、夜が可愛いとか寝不足とかは」
「ああ、日中は仕事だから夜に薬の勉強してるんだ。ほんと努力家で健気な奴だぜ。あいつは幼少期はあんな暮らしだったこともあって本を読んだりするのあんまり得意じゃないみたいだからよ。俺が直接、口頭で教えることが多いんだ。それでもって貪欲だから俺の持ってる知識が欲しいってな。昨日はちょっと難しめの薬の話をしたから寝るのがかなり遅くなっちまった」
つまり注釈をつけるとこうだ。
『いやーテリオンの奴ってよ。夜(に勉強する姿が)すっげえ可愛いんだぜ?あいつ普段ツンケンしてる癖に二人になる(患者に見せない)とホント健気でよ。俺の(知識)が欲しい欲しいって強請って来てよお~。先日の夜も大分(勉強の付き合いで)頑張らせちまったな!』ということだろう。
テリオンに寝ぼけた発言だと思われたのは別れるも何もそもそも付き合ってないからだ。薬師助手をやめろという曲解が生じた可能性があるのかもしれないが、サイラスはそんなことを言う人間ではないし、テリオンも文脈からアーフェンと付き合っていると誤解されていると理解できるぐらいには聡い人間だ。本当に『何言ってるんだこいつ』程度の話だったのだろう
(確かにアーフェンくんなんて善性の塊のような子がそんな無体を働くわけがない・・・テリオンの様子を見ていれば普通にわかることだ。なんだか全然冷静じゃなかったな。教師として、年上として情けない限りだ)
冷静に思い返せばなんて猥雑ではしたない勘違いだろうか。恋とは恐ろしい・・・少々冷えた頭とは裏腹に、今ならば顔から
特大火炎魔法
アールデーイグニス
が出るのではないかとサイラスは思った。こんな体たらくではテリオンに振られるのも致し方ない
――
と考え嫌われた可能性に思い至り、ますます気が沈んでいく。
「そんでもってもう一つ謝らなきゃならないのはあんたに処方した薬なんだが・・・あれ、実は少し口を軽くする効果があるんだ。酒の席でぶちまけてもらう方がいいかと考えてたんだけど、先生全然酔わねえからよ・・・酔って思考が鈍って、口が軽くなるまでを薬で再現させてもらったんだ。そうじゃねえと言ってくれ無さそうだったからよ・・・本当にすまねえ!」
「ということは・・・キミは私に告白してほしかったんだね?どうして・・・」
「先生の本音をよ、あいつに聞かせたかったんだ。俺はあいつのことがダチとして好きだし幸せになってほしいと思ってる。どう思われてるかってハッキリさせたかったんだよ。今回やったことは、薬師のアーフェンとしちゃ叱咤もんだがダチのアーフェンとしちゃどうしてもやっておきたかった事だったんだ」
「つまり・・・」
テリオンのことが良く分かっているアーフェンのことである。おそらく目的はサイラスの好意をはっきりとテリオンに知らしめることだ。先ほどの素直じゃない発言も合わせると、うっすらと解が導き出される。ならばテリオンが私から好意を向けられることに嫌悪感を抱いているということはないはずだ。諦めるにはまだ早いのかもしれない。
サイラスの表情に少し希望が湧いた様子を見たアーフェンは話を続ける。
「先生はあいつのことが好きってことでいいんだよな?もし、恋人になったらよ。あいつをどうしたいんだ?学者にでもなってほしいのか?」
確かに学者になった彼は素敵だろう。揃いのローブを身に纏い隣に佇むテリオンを想像すればそれはそれは幸福なことだと思う。
しかしサイラスは、自由で何にも縛られないテリオンが好きだった。盗賊稼業という度し難い行為をしているにもかかわらず、彼は身も心も美しかった。傍には居てほしいと思う反面、何者にも成れそうな彼を一つのことに留めるのが非常に勿体ないと思う。
「確かに学者になった彼は素敵だろう。しかし、盗賊のテリオンも、薬師のテリオンも、踊子も、狩人も、剣士も商人も神官も・・・ありとあらゆる可能性の獣である彼が素敵であって私はそんな彼が好きなんだ。私の勝手で縛り付けるのだけは嫌だ」
「へえ、結構奔放主義なんだな。じゃあ恋人になった後も他の奴にやってもいいってことか?」
「は?」
見過ごせない発言をしたアーフェンに対し、サイラスは真顔になって答えてしまう。それを見たアーフェンは愉快だとでも言うようにケラケラと笑った。そしてサイラスの目を真剣に見つめる。
「・・・ちゃんとあいつのこと愛してるんだな。しっかしわかりやすい独占欲もあって安心したぜ。知識は広めるものって言ってるけどテリオンのことは絶対に渡さねえっていう顔だ」
「・・・まあ、今までのは仮定の話であって現実は振られてしまったけどね」
先ほどのテリオンの態度を思い出し、肩を落としたサイラスに、アーフェンはにこにこと笑いながら近づき、気合を入れるようにサイラスの背中をバシバシと叩きながら言った。
「ま、俺が直接どうこういうのも野暮だから伝えるのはこれだけにしとくが、あいつのあれは本心じゃねえからよ、しっかり口説き落としてくれよな先生」
「しかしなぜここまでしてくれるんだい?」
「そりゃ、俺の大事な親友で助手だぜ?幸せの種が迫って来てるんだから、ちゃんと掴んで幸せになってほしいに決まってんだろ。それに先生だってもちろん大事な仲間だからよ。二人とも幸せになってくれるならそれに越したことはねえだろ」
屈託なく笑う薬師に本心なのだと理解する。テリオンの大親友である彼が言うのならば間違いないと信じている。ここから想定されることはテリオンもサイラスのことが好きなのだ、ということであった。思えば振られたとき、彼は何と言っていたか?私のことが無理だとか嫌いだとかの言葉は口にしていなかった。『俺なんか
――
。』つまり彼が気にしているのは生きてきた境遇の差や身分なのだろう。そんなことで彼を諦めるわけにはいかなかった。
そうなればやることは一つ、何が何でも口説き落とす
――
サイラスは決意した。
「ありがとう、アーフェン君。しかし君も結構回りくどいやり方を覚えたものだね・・・」
「ま、村の外にはいろんなやつがいるし、神出鬼没の凄腕の盗賊様と一年も一緒にいりゃな」
今はこの状況を作り出したその処世術に最大限感謝しつつ、少し遠い目をしたアーフェンを見て、テリオンに相当叩き込まれたのだろうな・・・と、なんだかんだ世話焼きな盗賊を思い浮かべた。
「はぁ・・・・・・」
一方テリオンは、日が沈み始めた村の川辺に座り込み大きなため息を吐いた。
サイラスに告白されたとき、心に浮かび上がったのは絶望と喜びであった。好きな相手に好きと言われて喜ばないはずがなかったのだ。しかし同時に、自らの存在がサイラスの心に巣くってしまったという絶望でもあった。
(あんな顔をさせたいわけでは無かったんだがな・・・)
テリオンは盗賊であり、れっきとしたろくでなしである。結局、善性の塊のようなアーフェンと共に薬師をやっていても生まれながらに身体に染み付ききった盗賊稼業は完全にやめることができなかった。そんなろくでなしと人望も未来もある天才学者様とが釣り合うはずがない。釣り合ってはいけない。サイラスが好きである分、彼の未来を台無しにしたくはなかった。
恋人になってほしいとストレートに伝えてきたサイラスに対し、冗談じゃないとこっぴどく返したその時の絶望した表情が脳に焼き付く。罪悪感が募っていく。だがしかし、サイラスは心が強い人間だからすぐに立ち直るだろうと信じている。
テリオンの本心としては、サイラスと共に生きたかったという気持ちはある。だが怖いのだ。サイラスが怖いわけでは無く、己と共にいることでサイラスが周りから疎まれるのではないかということや、また大切なものを失ってしまうのではないか。彼の信頼に答えられないのではないか・・・結局は己の心が弱いという理由だった。
(ともかく、そろそろ戻らないとあいつらが捜しに来る可能性がある。酒でも飲んでバカ騒ぎして一晩寝れば整理もついて何事も無かったことになるだろう)
あの場にはアーフェンもいたからきっと場を取りなしてくれただろう。そういう信頼が彼にはあった。そしてあの出来事は、ただそういうやり取りがあっただけという思い出になり、また元の日常に戻るだけだと気持ちを落ち着かせて帰路に就く。
そして家の扉をガチャリと開けると真っ先に目に飛び込んできたものは
―――
「やあ、おかえりテリオン。愛しているよ」
「・・・・・・は?」
早々にテリオンに愛を伝える学者の姿であった。
サイラスは困っていた。口説くと決めたのはいいものの、誰かを恋愛的な意味で好きになることが初めてだったので口説き方がわからないのである。
こんな時は散々旅の間に皆に言われたことを参考にするに限る。例えばこういった事情に詳しいプリムロゼ君はなんと言っていたか・・・
『あなたは良い言葉を使いすぎ。意識もせず歯の浮いたような言葉がぽろぽろ出てくるんだもの。その気も無いなら期待を持たせない。意中の相手に愛を語るのはどんどんやってもいいんだけどね』
(オデット先輩も言っていたが、どうにも素直な感想を口にすると口説いているように見えるようだな・・・ならばテリオンに対して素直に思ったことを口に出し続ければいいのだろうか?)
ならば面と向かってテリオンに抱いた感情を吐き出し続ける。これがサイラスの出した結論であった。これで口説くようなセリフになるのかわからないが、ただただ好きだということや、その時思ったことを口に出し続けることにした。彼もあまりおべっかを使われることや回りくどくされるのは好みではないだろう。ならば本心を愚直に出し続ける、これこそが最も成功率が高いと確信した。
「ああテリオン、急にすまなかったね。でも私は自分に正直になることにしたんだ。きみが!はいと言うまで!キミを口説くことを!やめない!」
「・・・おい、なんでこんなことになってるんだ。薬屋?」
「いや~はっはっはっは!!先生も振り切ったなあ!」
「ああ、好きだよテリオン!好きなんだ!とにかく君を愛してやまない!」
「いつもの語彙は何処へ行ったんだ?」
アーフェンの入れ知恵を察したテリオンは、思いっきり笑い転げている図体のでかい男を睨んだ。この男のことだから最初は真面目な話をしていたのだろうが、今は明らかに面白がっている。
「いや~普段はあんなに誤解されまくるような言動してたってのに口説くって意識するとこうなんだな!」
「そもそもなんで口説かれる流れになってるんだ振っただろ俺?」
「一度振られたぐらいで諦められるならそれはその程度の恋ということだよテリオン。それに本気で嫌悪してる様子は見られないからね」
(こ、こいつ・・・探る技能をこんなところで存分に発揮してやがる)
観察眼を取り戻したサイラスは非常に厄介であった。得意の演技も生半可では見破られるからである。口とは裏腹に本気で嫌ってはない事も、愛を囁かれると内心喜んでしまうことも、わざと冷たい態度を取っていてもすべて見透かされてしまう。
しかし、心の内で認めてしまっても表に出さなければそれは事実にはならない。テリオンは己の心の城塞が削られていくのを自覚しながら、決して口では認めないと決意した
「やあテリオン、薬師としての腕も上げたんだね・・・キミのその努力家なところは本当に好ましいよ。愛している」
「ああテリオン、少し傷が増えたんだね。キミの逞しさは知っているし強さも信頼してるけどやはり好きな人ともなると少し心配しちゃうな・・・」
「今の表情、とてもよかったよテリオン・・・随分可愛らしい顔も見せるんだね。仕事とはわかっていても、それがこちらに向いていないと嫉妬してしまう身勝手な私を許してほしい」
「少し疲れた顔をしているね。私の言動が原因なのかな?それは本当に済まないと思っているが、それだけちゃんと耳を傾けてくれているということだろう。君は本当に優しいね・・・好きだよテリオン」
「テリオン、この恋を自覚してからというものキミのことを考えない日がないよ。でも、キミを想うと胸が苦しくてもとても幸せな気持ちになれるんだ。愛しいよ」
――
が、テリオンは非常に押しに弱かった。
理不尽や悪意の押し付けならば跳ね除けることができるが、好意や善意に関してはまったく無下にできない男であった。連日連日愛を囁かれ、テリオンは青くなったり赤くなったりしながらそれを本気で突っぱねる事もできず、ただただ言われるがままであった。
「おいサイラス・・・いい加減鬱陶しいぞ。やめないかそれ」
「キミが本気で嫌がるならそうするけどね。でも見る限り君のそれは口で言っているだけだろう?それに少しずつ絆されていっているように見えるから私はこのまま君を口説き続けるよ」
(無敵かこいつ・・・くそ・・・事実だから困る)
それにしてもこいつはいつになったらアトラスダムに帰るのだろうか。余り長期戦になると陥落する未来しか見えない。期限まで耐え忍ぶだけだと一抹の望みをかけて尋ねるも
――
「私の休暇かい?この精神的な問題が解決するか数か月は戻ってくるなと言われているから・・・キミに本気で振られるか付き合うまでかな」
これは時間の問題だと絶望した
――
「アーフェン、どうにかならないか・・・」
「おーおー、観念して付き合っちまえって!」
アーフェンは終始サイラスの味方であった。裏切られたような気持ちになったテリオンであったがこの男はテリオンがサイラスに惚れていることを知っているため百パーセント善意の行動である。そう思うとやはり恨んだり怒ったりする気は失せてしまうのだった。
「おや、テリオン、戻っていたんだね。アーフェン君もお疲れ様」
今日の仕事が終わり、家に戻ったころを見計らいサイラスも家にやってくる。泊まりは宿だが、普段は酒場や付近の川で自然観察をしながら時間を潰しているようで、酒場に近いアーフェンの家の様子がわかりやすいところに滞在していた。
そしてこうなると二人を微笑ましく見守る薬屋は気を利かせて出てしまうのである。
「それじゃお二人さんでごゆっくり~!」
「待て薬屋・・・いい加減二人にしないでくれないか・・・本当にそろそろ我慢の限界だ」
「おーおー!さっさと落ちちまえ!」
「薬屋ァ!!」
はぁー・・・とため息を吐きながらテリオンはサイラスに向き直った。
こうなったらもはやこちらから仕掛けるしかないだろう。テリオンもサイラスに嫌われたくはなかったが、もし恋仲になるというのならば避けて通れない問題でもあったのでちょうどいい。
「サイラス・・・あんたが俺のことを好きなのはよーく分かった。だがな、あんたは俺を抱けるのか?」
「え・・・」
サイラスの目が見開かれる。彼は今まで恋愛とは無縁だったため、そっち方面に関してはお綺麗な学者であるし、下世話な話でもしてやれば百年の恋も覚めるのではないかと思ったテリオンであったが
――
ボタッ・・・ボタッ・・・
「あ・・・」
サイラスは盛大に鼻血を垂らすことになった。初日にそういえば顔を思いっきり打ったのだったか。それに興奮まで加わったので血流が活発になりこんな状態になったのだろう。
猥談で鼻血とはあまりにも典型的すぎる。しかも顔のいい美丈夫であるサイラスである。その図があまりにも面白く、それを目にしたテリオンは思わず吹き出し、肩を震わせた。
「ふっ・・・く、くくっ・・・!まさかこんな一言で鼻血とはな!学者先生は初心なのか?」
「いやその・・・キミとの情事を想像してしまってどうにも興奮してしまったようだ。キミは自分を抱けるかと聞いたね?確かに私にその手の経験はないが、抱ける・・・どころか抱きたいと思っているようだ。あまり傷つけたくはないが、キミを押し倒して服を一枚一枚脱がせて触れてみたい、愛撫したい、一つになりたいだなんて私も男だということだと・・・」
「お、おお・・・」
(こいつ、俺にしっかり欲情できるのか)
いらんスイッチに触れてしまった気がする。あまりにもあけすけな言動にテリオンはぽかんとした。こいつにも肉欲があり、しかもそれが自分にだけ向けられている・・・と理解してしまった。
「ああ、もちろんキミのことが第一ではあるけどこの想いは嘘でもなんでもない。私はキミのが好きで、愛しているし、抱きたいというのも本気だ。あとは醜い話だが、キミが他の人と仲良くしていると嫉妬すら覚えるし、もしも誰かに害されているなんて想像をしていると腸が煮えくり返って大火炎魔法をうっかり詠唱してしまいそうだよ。アトラスダムで一緒に暮らしてほしいのも本音なのだが、その反面、自由なキミが好きだから縛り付けたくは無いし、でも私には縛られてて欲しいという・・・これは独占欲というものかな?キミと共にいれば日に日に愛しさも黒い感情も増していくようだ・・・ああ、改めて私と付き合ってくれないかテリオン」
「話が長い!」
あまりにもストレートなサイラスの口説き文句にテリオンは思わず話を遮ってしまった。ここまで感情をぶつけるように言われてしまうと、もはや自らの心を偽ってまで振るという選択肢がなんだか馬鹿らしくも思えてきてしまう。そうなると、示すべき答えは明白だった。
「はぁ・・・。わかったわかった・・・俺の負けだ。俺もあんたが好きだ。サイラス」
サイラスの怒涛の告白にテリオンは敗北した。まさかここまで拗らせているとは思いもしなかったし、放っておくとますます良くないことになるだろう。それに結局、テリオンはサイラスのことが好きなのだ。もはや断る理由も思い浮かばなかった。
(まあ・・・いいか。俺の意地なんてなんだかどうでもよかった気がしてきたな)
それを聞いて子供のように笑い、目を輝かせたサイラスはテリオンを腕の中に搔き抱いた。
そしてテリオンもまたやれやれといった様子で破顔した。
「とりあえずその垂れ流しているモンを何とかしろ。手当してやる」
己の顔面の惨状を思い出したサイラスは、一度名残惜しそうに離れる。しかし彼の服を鼻血で汚すわけにもいかなかった。テリオンに治療を施されたサイラスは、手際の良さに関心しながらも照れ臭そうに笑った。
「おおお!やっとくっついたんだな!おめでとさん!いや~テリオンがなかなか素直にならなくて困っちまったよな~!」
数刻後、戻ってきたアーフェンに事の顛末を話すと、二人をずっと気にかけていたお人好しの薬師は自分事のように大げさに喜んだ。
「ありがとうアーフェン君。これからは私がテリオンを幸せにするよ」
「へへ、頼むぜ先生!俺の助手をよろしくな!」
「おたくのそれは何目線なんだ・・・」
「アーフェンお兄さん目線?」
「おい年下」
すっかり祝いのムードと化したグリーングラス家であったが、他にも話すことは山積みである。何せテリオンは既にクリアブルックの一員で、アーフェンの助手なのだ。
「んで?テリオンは先生んとこ行くのか?」
「私としてはそうだと嬉しいのだが・・・テリオン的にはどうなんだろうか?」
「あれだけ言っといて今更それか?俺はもう腹を括った。それが望みならあんたと暮らすさ」
「テ・・・テリオン・・・!」
「だが俺はあいつの助手をやめる気もないぞ。未だに知らない町や治安の悪い町であいつを一人にするのはまだ危なっかしいし、常連患者の中には俺を気に入ってくれた物好きなやつもいるからな・・・」
「あー・・・たしかにあんた旅先で子供とか、ばあさんとかに好かれてたもんな・・・」
「となると・・・」
アトラスダムとクリアブルックは正反対の位置であり、一日そこらで気軽に行ける距離ではない。しかしサイラスにとってもテリオンの今の仕事を奪いたくはない。
そこでテリオンの住処そのものはアトラスダムに移すが、薬師助手の仕事は必要な時に出張という形を取るという事で収まった。
「では連絡手段として私の遣いガラスを寄越そう。この宝石はカラスの目印になるからアーフェン君が持っていてくれ。ああ、別に仕事じゃなくて私信でも構わないよ。なんてことない世間話でも大歓迎だ」
「ありがとな!じゃあ俺からの餞別はこれだ!」
サイラスはカラスの使役に用いる青い宝石をアーフェンに渡し、アーフェンもまた何らかの薬剤が詰まった袋を渡した。袋の薬剤には特に用途が書かれておらず、何の薬かはわからない。サイラスが疑問に思うのは最もだった。
「これは?」
「夜の営みセットだぜ」
「なんて??」
一年前は娼館ひとつで動揺していた彼の口から信じられない言葉が飛び出る。何かの冗談かと思いテリオンの方を見れば、彼は頭を抱えながら友人である薬師を赤い顔で睨んでいる。どうやら冗談でもなんでもないようだった。
「おいアーフェン・・・飛躍しすぎじゃないのかそれは」
「いや~だってよ?切れるのも病気も怖ぇし慣らしにも安全なもん使いてえだろ?そんな苦労をかけるわけにはいかねえじゃねえか。次いつ渡せるかわかんねえんだしよ」
「余計なお世話だ!!」
「えっとつまりそういう薬なんだね・・・?どうしてこういったものを?そういや男同士がどうのとか言ってたね?」
「俺もこんなモンを作る日が来るとは一年前は思ってなかったけどよ・・・テリオンと旅して思い知ったぜ。患者ってのは病気やケガだけじゃねえ・・・世間にはいろんなヤツがいんだなって」
「ああ・・・ヴァローレあたりのアレか。俺がその手のものに詳しくてよかったな?薬師先生よ」
「あーうん・・・助かったし、今回のこともあって知識がついてよかったなとは思うけど世界は広いんだなって思ったぜ・・・」
アーフェンはどこか遠い目をして語るのであった。
―
そして出立の日
—
サイラスとテリオンは、クリアブルックから歩いてアトラスダムへ向かう事を決めた。お互い二人きりでゆっくりと話したいということや、旅路を楽しみたいということであまり急ぎで戻る必要性を感じなかったからだ。
村の入り口へアーフェンや村人たちが見送りに来てくれる。テリオンはすっかりクリアブルックの一員であり、村人たちも名残惜しいと思ってくれているのだろう。
「じゃあなテリオン!先生!元気でな!」
「ああ、何か用事があれば連絡を寄越せ。すぐに駆け付ける」
「本当に世話になったねアーフェン君。君の助力がなければこんな結末は迎えられなかっただろう。最大限感謝するよ」
「へへ、いいってことよ!それじゃあ先生、テリオンのことよろしく頼むぜ!あ、万が一そいつを不幸にするようなことがあれば・・・このビヒモスの眼球と超劇物の素材で作った薬をぶち込んでトレサに売ってもらうからな!」
「過保護か?」
「ビヒモスの眼球か・・・なるほど、石化の効果がある薬だね?テリオンを不幸にする気はさらさらないが万が一無体を働いてしまった際には戒めとして甘んじて受けることを約束するよ」
「あんたも乗るなよ・・・」
傍から見れば無茶苦茶なことを言っているがお互いの信頼から来る軽口だ。そんな日は絶対に来ないと思っているからこそ言える。テリオンはそんな友人たちが内心誇らしかった。かつての自分が手に入れられなかったものがそこにはある。
「テリオンちゃんがいなくなるの、寂しくなるわねえ」
「テリお兄ちゃん!また遊びに来てね!」
「いつでも帰ってくるのよ。私たちはいつでも歓迎するからね」
村の大人や子供、老人もまた、テリオンに声をかけていく。ここの者たちもテリオンのことが好きなのだ。
「ふふ・・・人気者だね。キミがみなに好かれるような優しい子だって言われているようで私もなんだか嬉しいな」
「全く・・・この村はお人好しが過ぎる。いくらアーフェンが連れ帰ったからといってこんな得体のしれない盗賊を迎え入れちまうんだからな・・・まあ、悪い気分ではなかったが」
「そこは素直に嬉しいって言えば良いのに」
村の皆が手を振って送り出し、テリオンとサイラスもまた手を振って返した。遠く離れ行く村が見えなくなるまで何度も何度も・・・
―
—
かくしてテリオンとサイラスは旅立った。親友の薬師の思いや村人たちの暖かさを胸に、アトラスダムを目指して。
決して今生の別れではない。しかし一抹の寂しさが無いと言えば嘘にはなる。だが、テリオンの隣にはサイラスがいる。きっとこれから幸せな未来が待っていると信じている。
「これからよろしくな、サイラス」
「ああ、よろしくねテリオン」
誰の気配もしなくなった川辺の中、二人の影が重なりあった
――
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