全くの不本意ながら体調を崩してしまって、丸1日療養する事に。前日夜に熱を燻らせていたはずのむっちゃんは、「よう休みや」と看病モードになってずっと傍についていてくれた。
(久々にしんどかったな。)
基本的には体調をそこまで崩さないから、久しぶりの体調不良だった。やっぱりあのしんどさを思うとなるもんじゃないな。楽になりたいの気持ちが強くて、心配してあれこれ気にかけて世話をしてくれたむっちゃんの事はほったらかし。寝づらいだのと我が儘ばっかり。
(流石になんかお礼しないと。)
とはいえ、どうやったらいいものか。
「う~ん…。」
「お、顔色良くなったな。」
「薬研。」
専属主治医と化してる薬研が顔を覗かせる。
「頭痛は?」
「ないよ。」
「怠さは。」
「無し!」
「鼻づまりは継続してるな。」
「薬飲み忘れしてたし、花粉症の延長だったのかな。」
「可能性は否定出来んな。まぁ薬もあと少しだ。あんまり飲み忘れるなよ。」
「はーい。」
簡単な問診が終わると今度は実休さんまでが来た。
「ストレスの可能性もあったし、緩和のハーブティーを持ってきたんだけど飲めそうかい?」
「ん、もらう。ありがと実休さん。」
「カモミールは苦手だって言ってたから、今回はレモンバーム中心のものにしたよ。」
元々紅茶やハーブ系を飲まなかったけど、実休さんの調合が上手いのかだんだん飲めるようになってきた。慣れると案外美味しいんだよね。
「はー…」
「いつもの調子が出てきたみたいで良かった。」
「大将が体調崩すと旦那が面白いくらいにうろうろし始めるな。」
「ずっと気にしてたよね。」
「『代われたらええんじゃが』とか『すぐにでも楽にする薬とかないがか?』とかいろいろ聞いてきたりもしてたしな。」
「むっちゃん何やってんの…。」
心配性な旦那さまである。過保護かと言いたくなるけど、変なタイミングで体調崩すだの入院だのを繰り返してる事を思うと、過保護気味になるのも多少仕方ないというか。
「婚約してから初めて体調崩したし、関係性がより近くなった分、余計に心配になったんじゃないかな。」
穏やかにおかわりを注ぎながら実休さんが言う。言われてみれば確かにそうだ。
「ようやく手に入れたお嫁さんが元気がない。なくなった。だったら、伴侶として代わるなり少しでも元気になれるならってケアを考えたり、精一杯尽くすのは当たり前の反応だと、僕は思うな。」
「そこは俺っちも同感。そんな相手はいねぇが、魂の伴侶が弱ってたら気が気じゃないってもんだ。」
「魂の伴侶…。」
なんかこそばゆい。伴侶かあ。
「予定あるのは知ってるが、無理だけはするなよ。」
「むっちゃんにこれ以上心配かけられないし、それはしないよ。」
よく休むように。そう言って薬研と実休さんは退室していった。それと入れ換わるようにむっちゃんが私室にするりと入ってくる。
「何ともないがか?」
「うん。薬研からもOKが出たよ。」
「なら良かった。」
する、と頬を撫でられる。
「ずっと付いててくれてありがとうね。」
「元気になったならそれでえい。…顔色もえいの。」
頬にちゅ、と唇が触れる。大事にしてくれてるのが分かってキュンってしちゃう。むっちゃんのこういうところ本当に好き。
(あ…)
本当なら金曜と昨日、ゆっくりしながらイチャイチャするはずだった。それが私の体調不良で出来なかった。むっちゃんにもお預けさせたけど、私も思ったようにむっちゃんに触れられなくて物足りなさを感じてた。
(お礼じゃないけど…)
いっぱい触れたい。触れられたい。寄り添うように横に座るむっちゃんの着物をぎゅっと掴む。
「むっちゃーん…。」
「どういた?」
おそるおそる呼び掛けたら伺うように顔を覗き込まれた。
「んー…。」
「ん?」
「えーと、ね?その…」
何となく恥ずかしくてもじもじしていると、むっちゃんがにんまりと笑みを浮かべる。多分何して欲しいかバレてる。
「……んー?」
「……ぎゅー、して?」
「えいよ。」
「んんん…。」
何とかおねだりすれば、柔らかく抱き締めてくれる。あったかい。嬉しい。大好き。すりすり頬を寄せていると、くくっと喉を鳴らすむっちゃん。
「これだけでえいが?」
「…お見通しされてる?」
「かもしれんにゃあ。けんど、おまさんの口から聞きたい。」
いつもならむっちゃんからしてくれるのに、時々こうやって私からおねだりさせようとする。…まぁ、私も自分でおねだりするのが増えてきてるから、言ってほしくなる気持ちは分からなくはない。
「いじわる…。…ちゅー、したい。」
「よう言えたの。やっとてごうちゃれる。わしの可愛い可愛い嫁さん…。」
「んぅ」
重ねるだけのキスを何回も繰り返す。
「愛しちゅうよ…。」
むっちゃんも待ちわびてたんだと思う。離さないと言うようにぎゅっと身体を抱え込んで、片手も頭の後ろに回ってる。
「ん、あ…」
「かわえい…」
「むっちゃ……んん」
ほんの少し鳴る水音が恥ずかしい。でも頭の後ろに回る手のせいで逃げられない。
「も……んぅっ」
「えい子で待ったんじゃ。ご褒美、おおせ。」
「いい、よ。私もほしい…」
「ゆき…」
恥ずかしいけど、まだ足りない。欲しい。満たされたい。
(そうだ)
「あ、ね、ちょっとだけ待って。」
「……なんじゃ。」
不服そうなむっちゃんに少しだけ待ってもらって、目の前の首筋に唇を寄せた。気持ち強めに吸い付けば、うっすらついた痕。
「…ん。」
「これも、ご褒美。」
「?」
「所有の証…なんて言ったら流石にキザ?……キスマーク。私のって。」
「!」
「むっちゃんだけ。」
「おまさん…。」
位置的には多分見えないけど、むっちゃんは私の唇が触れたところを何度もなぞる。
「所有の証…か。おまさんから見え透いたもんを付けられるらあて思わんかった。」
「別のが良かった?」
「いや?嬉しいぜよ。」
ちゅっとまたキスをされる。
「にゃあ。」
「ん?」
「わしもつけてえい?」
「え、あ、いい…けど、目立つとこダメだよ?!」
「おまさんは首につけたに?」
「むっちゃんは見られても本丸だけだし!でも私は不特定多数になっちゃうからダメ!」
「んは、分かっちゅう。安心しや、おまさんが忘れさえせんければ見られんき。」
「?」
意味が分からなくて首を傾げてると、捻った右手首につけてたサポーターが外されていく。
「え、なんで。」
「……。」
するすると外されて顕になった手首。力をかけると痛いから一瞬覚悟したけど、壊れ物に触れるようにそっと掴まれてて全然痛くなかった。
そのまま流れるように唇が手首に寄せられてチリッとした痛みが走る。
「あっ…!」
「……ん、ついた。綺麗な花じゃ。」
私がつけたものより鮮やかな赤。
「サポーターを忘れんければ見られる事もないじゃろ。」
「……え、あ?!待ってよ普通に見られちゃうって!汚れた時とか食事前とかで手洗うし!子供服洗濯する時もサポーター外してるんだから見えちゃう!」
「挟んだち言うてごまかす事も出来るじゃろ。」
「むっちゃん!」
もう!と怒ると静かに熱を帯びた目がこっちを見る。この目に最近覿面に弱い。動けなくなる。
「ほいたら絶対に見られんところのが良かったかの。」
「あ…その……」
「そうなると服の下になるにゃあ。どこがえいろ。脇腹か?それとも臍の辺り?背中も見られんし、肩もおまさん露出をせんき見られんのう。」
「……。」
「ただ、そこにつけようとなると、つけるだけで終わらんと思うんじゃが、それでもえいなが?」
「……手首でいいです。」
羞恥で死ぬ未来しか見えない。無理無理。
「のう、おまさん。」
「なーにー…。」
「手首への口づけ、意味分かっちゅう?」
「へ?確か……!?」
「まだ足りんがよ。おおせ。」
「……よくどしい。」
「わし強欲やき。おまさんの事やと際限がないんじゃ。」
手首へのキス。持つ意味は「欲望・あなたに触れたい」。
「まだまだ触れ足りん。」
上から被さるように抱き込んできて、至近距離で覗き込むみたいに額が合わせられる。
「好きじゃ、主。」
「むっちゃん…。」
「ご褒美、くれるがやろう?」
(ああもう。)
この身がご褒美になるなら、いくらでも。その代わり、ちゃんと愛して?
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.