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trsmddd
2026-04-12 23:46:09
3820文字
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あまやか師匠 針の上を歩く
師匠がひたすらアレンくんをあまやかす話がよみたくてなんとなくシリーズになってます(続いてはないです)
あまやか師匠 アレンくんが今のかんじと赤腕時代とちょっと混ざってます よく考えなくても師匠、アレンくんをあそこまで立ち直らせたのめちゃくちゃすごいよな…と思っている
学校のひとの目が変なんです。帰宅して夕飯を一緒に食べている時に、アレンは困ったように言った。
「変?」
「ええと、いつも通り距離を取られてはいるんですけど、なんか、なんだろう、とにかく変なんです」
「なんもわかんねえな」
「ですよね。僕もよくわからなくて」
距離を取られているのがいつも通りというところにひっかかりはしたものの、アレンが遠巻きにされるのは確かによくあることだったのでとりあえずは置いておくことにした。クロスはテイクアウトの中華の、なんだったか、名前は忘れたが少し辛めの麺を食べながら思案した。
変、というのはつまり、アレンにとっては居心地の良い状態ではない、ということだ。アレンは他人の機微には聡いくせに、自分の感情となると海に放り込んだカナヅチより酷い有様になる。要するにすこぶる鈍い。海に放り込まれたことにも気が付かずにそのまま沈んでいくような奴だ。学校には一応親しい人もいるらしいので、それなりに心配はしつつもとりあえず静観している。もとより学校に行く気のなかったアレンを通わせているのは自分なので、そのあたりのフォローはきちんとしてやりたいと思う。
アレンは親戚の勤めている病院に運び込まれた孤児だった。本来ならばなぜこんな子供の面倒を自分がみなければならないのかとも思うが、親戚がどうしても引き取り手になってくれないかと直談判してきたのでうちにいる。後見人でもないし、書類の上では完全な他人である。
アレンは親が死んだ後もその部屋にずっといた。冬で発見が遅れ、がりがりに痩せ細った状態で発見され、しばらくはしみついた死臭が消えなかったらしい。事件のあらましは大体教えてもらったが、まあ簡単に言ってしまえば相当悲惨な状況にいたということだ。そのせいか知らないが、アレンは社会性というのを全く持ち合わせていなかった。孤児院で集団生活をさせた方が良かったのだろうが、本人が嫌だと暴れたので結局子育てなんてのにやる気のないクロスのところに流れついてしまったわけだ。
アレンは今フリースクールに通っている。これまで学校に行ったことすらないアレンが普通の学校の学習レベルをクリアしているはずもなく、入院中に勉強をさせて、ようやく中学初等レベルまで理解できるようになった。初対面で僕はたらきますと言い放ったアレンに対して、クロスは学校に行けと言って譲らなかった。どうして、と尋ねるアレンに、クロスは「お前の歳で働けるとこなんかないからだ」と言った。児童労働が違法のこの国で、そのときのアレンが合法で働ける場所はどこにもなかった。
「気持ち悪いってことか?」
クロスはアレンの表情を慎重に観察しながら尋ねた。アレンは最近ようやく笑うようになったけれど、普段はぼんやりとした顔をしている。焦点が微妙にずれているのだ。ここではないどこかを眺めているような顔をするアレンが何を考えているのか、クロスは知らない。
「きもちわるい
……
うーん、近い、気はするんですけど」
「見せ物になってる気分ではないんだろ」
「それは慣れました。えっと、なんか知ってる気もするんです。でも思い出せなくて」
「慣れるなよ」
「だって僕何もしてないのに勝手にそういうふうに見られるのってどうやってやめてもらえばいいんですか?見るなって怒鳴ったら先生に叱られました」
「
……
そうかよ。ならそれは一旦忘れる。あー、つまり、とにかく気持ち悪いかんじの視線があると」
「はい。師匠、フードか帽子かかぶっちゃだめですか?やっぱり見た目のせいだと思うんです」
「お前ずっと被り物して生きてくつもりかよ」
「そっちのが楽なら全然そうします」
「
……
俺としちゃそっちのが慣れて欲しいんだが」
アレンはぶすくれた顔をして、それもすぐに引っ込めてしまった。感情をおもてに出すのが苦手な子だ。そうやって生きてきたのだから仕方ない。クロスの前では少しずつ喜怒哀楽を出すようになったけれど、やはりすぐに引っ込めてしまう癖はなかなか治らなかった。
出会ってからもう三年になる。ひょろひょろだったアレンはようやく頬骨が目立たない程度ににふっくらとした頬を取り戻した。少し前よりよほど大人に近づいてきた顔つきは、贔屓目に見なくてもきれいなもんだと思う。アレンは見た目のせいだと言ったが、確かにアレンの容姿は目を引く。良い意味でも、悪い意味でも。
そこでクロスははた、と気づいた。アレンはきれいになった。と、クロスは思っている。ということはつまり、同じように考えている輩がいてもおかしくない。
「
……
アレン、今からお前のことを見る」
「もう見てるじゃないですか」
「その変な視線で見る」
「はあ」
「あってたらそう言え」
「ゲームですか?」
「そう思いたいんならそれでもいい」
クロスは一度目を閉じて、顎を撫でてから目を開いてアレンを見た。酷い犯罪者じみている気がして吐き気がしたけれど、とにかくアレンを見た。性的に関心があります、という視線で。
アレンの顔が固まった。視線が下がってうろうろと彷徨い、それから小さな声で「それです」と呟いた。
「
……
なるほど」
クロスは頭からその考えをさっさと振り払うと、いつものようにアレンを見た。アレンは強張った顔を崩さなかった。クロスが手を伸ばしたら体がわずかに引いたので、伸ばした手を引っ込める。
「
……
師匠はすごいですね」
「人生経験の差ってやつだな」
「その、どういう目なんですか?それって」
「あー
……
そうだな、」
説明しづらい。好意のみでないことは確かだが、全てが悪意であるかといえばそうでもない気がする。本気でお付き合いをしたいと思っている奴だっているだろうし、それを排除してしまってはアレンが今後生きていく上で壁になってしまう可能性もある。クロスだったらそんな目で見られたら振り返って格好つけて笑うだろう。ウインクもつけるかもしれない。相手が女ならばだが。別にお綺麗に生きてきたわけではない。夜道で刺されない程度には遊んできた自覚もある。けれどアレンはその視線が不快だと言った。ならば対処してやらねばなるまい。少なくとも、今アレンを養育しているのは自分なのだから。
「
……
あー
…
簡単に言えば、お前とセックスしてみたいって考えてる奴の目だ」
「
……
そんな変な人いるんですか?」
「少なくとも俺は今そういう目でお前は見たぞ」
「はあ
……
師匠は僕とセックスしたいんですか?」
「んなわけねえだろアホ」
「ですよね」
困惑した目が少しだけ和らいだのをクロスは見逃さなかった。アレンがこの『変な目』を不愉快に感じていることが証明されたようなものだった。それとも恐怖か。知っている気がする、と言っていたから以前にもそういう目で見られて嫌な思いをしたことがあるのだろう。アレンの年齢を考えるとおぞましいという気持ちの方が強かった。この間ようやく十五になったばかりのアレンを過去に性的な視線で見ていた人物は確実にペドフィリアでしかない。クロスは考えただけで気分が悪くなったので、とりあえずグラスに残っていた酒を煽った。
「
……
ともかくそういう意図を持って見られてるってことだ。世の中にはお前のいうような変な奴がいっぱいいるんだよ。それにティーンエイジャーなら興味が出てもおかしくない年頃だ。お前が相手に好意がないなら無視しろ」
「無視」
「余裕があるならお前には興味ねえって顔してやればいい」
「
……
えっと、どういう顔ですか?」
「とりあえず睨んどけ」
「
……
はあ
……
」
アレンは首を傾げていたけれど、結局自分で考えてもわからないと判断したのか「わかりました」と言ってフォークを置いた。
「アレン」
クロスは食器をシンクにかたそうと立ち上がりかけたアレンを呼んだ。アレンはまたどこを見ているかわからない顔でクロスを見た。
「お前が自分の見た目を気にしてるのは知ってるし理解もする。だけどな、お前が隠す必要なんかないんだ。お前は何も悪いことなんかしてないんだから」
アレンの目がわずかに揺れた。何か言いたそうに唇がはくはくと動いて、けれど言葉を見つけられなかったのかアレンはこくりと頷いた。
「それでも気になるならフードでも帽子でもかぶっていい。ただし俺の前ではかぶるな。かぶってたらひっぺがすからな」
「
……
どうして?」
ようやく発せられた声はとても小さかった。クロスはふん、と口を引き結んでから言った。
「俺はお前がどんな見た目をしてても気にしないからだ」
「
……
気持ち悪くないんですか?」
それは出会ってから星の数ほど聞かれた言葉だったので、クロスは鼻で笑った。
「今更なに気持ち悪がるとこがあるんだよ。俺が気に入ってる奴しか相手しないのお前も知ってんだろ」
アレンは唇をとがらせて、それから眉を下げた。下手くそな笑みだったけれど、十分きれいな笑顔だった。世間ってのは馬鹿ばっかりだな、とクロスは思った。
「
……
お風呂入って寝ます」
「おー。歯磨き忘れんなよ」
「はい。
……
師匠、おやすみなさい」
「おやすみアレン」
自室に向かおうとしたアレンが立ち止まって俯いたままこちらを見た。
「
……
ありがとうございます」
礼だけ言ってアレンはそそくさと部屋に消えた。クロスはそんなアレンを見て、やっぱり世間ってやつは馬鹿しかいねえんだな、と思った。
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