カエデ
2026-04-12 21:22:43
1802文字
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桜と写真

現パロ丹星。 

 桜のトンネルを春の風が吹き抜け、花びらが舞う。
「丹恒!」
 ふわりと髪を靡かせ振り返った星は、丹恒に笑いかける。その笑顔はあまりにも愛おしく、丹恒もつられて微笑んだ。
 ひらりと舞い降りてきた一片の花びらが、星の髪の上に落ちた。彼女の透き通った灰色の髪に、薄桃色の花びらがほんのり色付く。
 花びらが髪に乗っていることに気付かず無邪気に笑う星が、どうしようもなく愛おしかった。この瞬間を記憶のみに留めておくのは勿体無い。
 丹恒はカメラを構え、ファインダー越しに星の姿を捉えてシャッターを切る。画面の中で笑う星も輝いて見えて思わず目を細める。
 画面の中で笑う星も、直ぐ傍で笑ってくれている星も。
……綺麗だ」
「桜?そうだね!」
 丹恒の考えを何も知らない星は、桜を見上げながらそう答えた。
 その無自覚さで他の男の視線まで集めていることに、彼女は気付いていないのだろう。
……ならば、星の視線をこちらに向けさせるまでだ)
 丹恒は無言で距離を詰め、星の髪に乗っている花びらを取り去る。髪に触れた事で、視線が絡み合う。星を見つめる丹恒の瞳は、熱を帯びていた。
 「綺麗だ、といったのは桜じゃない。 ……お前だ」
 「っ――!」
 頬を赤く染めた星は、顔を隠すように丹恒の肩に額をぐりぐりと擦り付ける。そして少し拗ねたように、くぐもった声で言った。
……その言葉、キュンとしちゃうから、だめ」
 丹恒はその言葉に口元が僅かに緩んだ。星の柔らかな髪に手を伸ばし、しばらく撫でていた。

 


 小鳥のさえずりで我に返る。どうやら過去の記憶を遡っていたようだ。目の前にある景色は、以前写真を撮った場所と同じ場所だ。今年の桜も、同じように咲き乱れている。風に揺られて木々たちが囁き、花びらが宙を舞う。そして、小鳥たちが華やかな桜のアクセントになっていた。
 ふと手に握っていた写真を眺める。写真の中の星は、相変わらず眩しいくらいに綺麗で、あの頃と同じように丹恒は目を細めた。
……懐かしいな)
 写真を眺めて過去の思い出に浸っていると、遠くから自信を呼ぶ、透き通った声が聞こえた。
「丹恒!」
 振り返ると星がこちらに向かって来るのが見えた。久々に会った旧友たちとの立ち話が終わったようだ。丹恒の傍まで来ると、星は桜を見上げ、感慨深げにつぶやいた。
「ここ、懐かしいね」
……ああ」
 写真を眺めていた時と同じ表情をしていたようで、星はキョトンとした表情を浮かべる。
「何笑ってるの?」
「以前、ここでお前の写真を撮ったことを思い出していたんだ」
「ああ、撮ってくれたね!そのあとに丹恒が私を『綺麗だ』って口説いてきたんだった……
「突然口説かれたから、動揺しちゃってふざけたことを言えなかったな」と言いながら頭を掻く星。今もその髪に花びらが乗っていることに気付いていないようだ。髪に手を伸ばし、花びらを一片取り去る。そして星に向かって甘く微笑んだ。
「あの頃も綺麗だったが、今の星も綺麗だ」
「っ――! 相変わらず、言葉が直球で照れちゃうから……
 星は照れをごまかすように丹恒の肩に額をぐりぐり、と押し付けてきた。愛おしくなり、頭を撫でる。
 暫くして気が収まったのか、星は肩から顔を離して丹恒を見上げる。
 その表情にはあの頃と変わらないあどけなさがあるが、瞳の奥には凛とした光が宿っていた。
「ねえ、丹恒」
「何だ」
「来年も、一緒にこの桜を見に来ようね ……この子も一緒に」
 そう言って、星はお腹の膨らみをするりと撫でた。丹恒も星の手を上から包むように、想いをこめてお腹に触れる。
 母子ともに無事に出産を終えますように、と。
「ああ。 来年だけでなく、何度でも」
 どちらからともなく、自然に笑みが零れる。星がふと思いついたように言った。
「そうだ、今回は二人で写真を撮ろうよ」
「そうだな」
 丹恒は持ってきた三脚を立ててカメラとカメラのタイマーをセットする。規則的に点滅するランプとともに、カウントが始まった。
 丹恒は星に寄り添い、星がカウントダウンを始める。
「3、2、1――
 丹恒は願った。この先も星と共に人生を歩むことが出来るように、と。
 「――チーズ!」
 二人の笑顔が写真に収められた。写真を見る度にこの幸福な時間を、丹恒は何度でも思い出すだろう。