白殊皎(しらよし こう)
2026-04-12 21:00:00
3545文字
Public FGO【歳勇/土近】
 

喧噪の宴を抜けて

沖田総司が企画した新選組+マスターのBBQ。
しかし沖田は途中離脱する羽目に……。

この作品は2026年4月4日・5日に開催された、ぐだぐだ鯖WEBオンリー「ボイラー室横より愛をこめてW~二回目~」での白殊独自のリクエスト受付企画【白殊に歳勇小説リクエストを投げつけようVol.2】でリクエストいただいたものです。

◆リクエスト内容◆
土近でBBQ
依頼者様のTLが最近BBQの肉まみれだそうで、二人にも肉を堪能してほしかったそうです!
堪能……できてるかな?

BBQ大好きです。
普段食べられないようなお肉がいけるところがいいですよね!
誰かご一緒しません?(ぼっち)



 その話題と企画を持ってきたのは沖田総司だった。
「ばーべきゅー?」
「です。皆でやったら楽しいと思いませんか?」
 沖田にそう言われても、近藤はその左右色の違う目を丸くして、きょとんとした顔をしていた。
「沖田ちゃん、局長来たばっかりだし、バーベキューを知らないんじゃ?」
「そうなんですか? 近藤さん」
 斎藤の言葉にありゃ、というような顔をして沖田が言うと近藤はこくりと頷いた。
「私には耳馴染みがないのだけれど、なにか西洋の催しかい?」
「催しといえば催しですけれど……なんて言うんでしょうね……
 沖田はしばし考える顔になっていたが、やがて眉を上げた。
「野営で火を焚いて、お肉をたくさん焼くんです! お肉の他にも魚や野菜も焼きますけど、豪快な大きなお肉が魅力です!!」
「沖田ちゃん……
 大雑把な言い方過ぎる、と斎藤が顔を引きつらせる。
「それは凄いね、外で皆と食べるのなら楽しそうだ」
 近藤はにこりと笑みを浮かべて興味深そうに口元に手を当てた。
「でしょう? 皆でやりましょう!」


「──で、こうなった訳か」
 土方歳三は呆れたような顔をして腕組みをしたまま沖田の顔を見つめた。
「れす!」
 今の沖田はけらけらと笑いそうなほどテンションが高い。
 ここはシミュレーターの一室。
 空が広く眺めの良い丘の上のような爽やかな景色に、丸太を積み上げたログハウス、そして炭が入ったバーベキューコンロ、肉を中心とした山のような食材がセッティングされている。
 たしかにこの景観、その食材でバーベキューをしたら楽しいだろう。
「歳……。いや、その……これは不可抗力でね?」
 そんな状況であるにもかかわらず、近藤はおろおろと土方と沖田を交互に見ている。
 土方はこの状況の寸前までマスターと微少特異点の調査に駆り出されていた。
 それから戻ってきた途端このテンションの沖田にマスター諸共捕まって、ここに連れてこられたのだ。
「やらな~ひじかたさんがさんにんいる~。なんにんいたって、おきたさんはまけませんよ~」
……誰だ、そんな強い酒持ち込んだヤツは」
 そう、誰が持ち込んだか水に近い透明度の異様に度数の高い酒精が飲み物の中に紛れ込んでおり、それを水と間違えた沖田は一気に煽ってしまったのだ。
 運良く急性アルコール中毒は免れたらしいが、いまの沖田はべろんべろんの高テンションで、誰の抑止も効かない状態である。
「僕は知りません」
「私も知らないよ」
「いくら俺でもそんなの飲まねぇよ」
「知らないっす」
「僕が持ち込むと思う?」
 はぁ、と大きく溜息をついて、土方は沖田の襟首を捕まえた。
「なにするんれすか~ひじかたさん。よわいくせに~」
「おい、藤丸。こいつを医務室に連れて行ってくる」
 そしてマスターを振り返る。
「せっかくの準備だ、先にやっててくれ」
 暴れる沖田を体格差で担ぎ上げ、その度数の高い酒も一緒に外に運び出した。
──うっかり間違えた事に怒っても仕方がない。
 そういうところは土方は大人だった。



──沖田さんは土方さんに任せて、準備してくれたんだしバーベキューしよう? マシュも呼んできていい?
「主……はい、是非マシュ殿も」
 形の良い柳眉をしょぼんと下げた近藤に少女マスターは慰めるように声をかけた。
「そうですね。局長、初めてなら楽しみましょう」
 山南も笑顔を作って近藤の背を叩く。
「明日二日酔いかもしれませんけど、沖田ちゃんなら大丈夫ですよ」
 斎藤はいつもの調子でへら、と笑ってコンロの火加減を見る。
「まぁ、医務室行きで済んで良かったくらいだろう」
 ばりばりと頭を掻き永倉は溜息を吐いた。
「一番楽しみにしてたのに、運が悪かったね」
 藤堂も出口の方を見て溜息をつく。
「カレー作るんすか?」
 原田は既に別の方向を見ていた。



 やがてマスターが呼んだマシュも加わり、肉の焼ける香ばしい匂いが立ちのぼって、銘々が皿を手にコンロを囲んだところに土方が帰ってきた。
「土方くん、沖田くんはどうだった?」
「あぁ、多少暴れたがただの酔っ払いだ。二日酔いの可能性はあるが大したことはねぇ。一本もらうぞ」
 声をかけた山南に苦笑で返して土方はテーブルの上のアルコールの缶を手に取った。
 軽い音を立てて栓を開け、ぐいっと煽る。
「近藤さん、食ってるか?」
 缶を持ったまま近藤の隣に移動するとその手元を覗き込む。
「歳……
「あいつはあんたに楽しんで欲しくて準備したんだ、あんたが沈んでちゃがっかりするぜ?」
 そう言いつつ取り分け用の箸でひょいひょいと食べ頃になった肉を近藤の皿に追加していく。
「──そうか」
 積み上げられていく肉を見ながら、近藤はふぅ、と大きく息を吐き出した。
「総司のためにも、楽しまないとだな!」
 そしてにっこりと笑うと、大きめの肉を一口で頬張った。



「肉も種類によって食感や味が違うんだな」
 自分たちが生きていた頃にはほぼ食べることのなかったものに、近藤は目を輝かせる。
「そうだな、昔はせいぜい鶏くらいだったからな。いまは牛豚鶏は言うに及ばずここにはないが羊や馬まで食うからな」
 土方は開けたアルコール飲料をちびちびとやりながら、焼けた肉をいいタイミングで近藤の皿に乗せ、途切れさせない。
「とひ、わらしにばかりたべさせて、おまふぇ、たべてないひゃないか」
「ちゃんと食ってるぜ」
 土方はふ、と微笑んで自分の皿を示す。
 確かにその上には立派な肉が乗っている。
「ならいいんだが」
 口の中の肉をごくんと飲み込んで、安堵の息を吐く。
「斎藤、そろそろローストビーフがいい頃合いじゃないか?」
 その近藤を見つつ、仕込んであった次のメニューの様子を聞く。
「はーい。いい感じですよ、副長」
 斎藤は焼き上がってから冷ましていた肉の様子を見て、大丈夫と判断してまな板の上にでん、と肉塊を据えた。
「ろーすとびーふ! そんな大きな固まりがあったのかい」
「局長沖田ちゃんのことが心配すぎて、見てませんでしたからね。あとで沖田ちゃんにも持っていきますよ、っと」
 斎藤はそう言いながら薄く切り分け、炊いてあった米の上に丁寧に並べてソースをかけ、半熟卵を中央に乗せる。
「ローストビーフ丼です。たまごを崩しながら肉とソースと米を絡めて食べてくださいな」
 そして彩りのネギを振りかけて近藤に差し出した。
「おぉ、なんか食べるのがもったいないね」
 近藤は受け取ると、薔薇のようなその造形に感心の声を上げた。
「おだててもおかわりはないですよ」
 はは、と斎藤は笑って人数分プラス沖田の分を手際よく作り上げる。
 それは残念、と言いながらも近藤は言われた通りたまごを崩し、肉と米、ソースを混ぜて口に運んだ。
「うん、美味い。肉はしっとり柔らかくてたまごのコクとソースがなんとも滋味だね」
「ソースは副長製です」
 褒められて斎藤は嬉しそうにしつつ、土方の方を見た。
「そうなのかい?」
「余計なことを言うな、斎藤」
──土方さん、野営料理の達人ですよ。流石にゴルドルフ新所長とかには敵いませんけど、美味しいもの上手です。
 皆と一緒にローストビーフ丼に舌鼓を打っていたマスターもそれに便乗した。
「さすが歳だな」
 にこ、と満面の笑みを浮かべて近藤は土方の背を叩いた。
「藤丸もだ、余計なことを言うな」
 それをされて土方は微かに頬を染めて咳払いをした。



 このシミュレーションは時刻に合わせて空が移ろうようにセッティングされている。
 作り物であっても美しい夕日が地平線にかかろうとしていた。
「あぁ、満足した。肉がこんなに美味しいものだったとは思いもしなかったよ」
 片付けを終え各々がくつろぐ中、土方と近藤は二人並んで沈みゆく夕日を見つめていた。
「それなら良かった。沖田も準備した甲斐があっただろうよ」
「総司にはあとで礼を言わないといけないね」
「そうだな」
「歳」
「?」
 しばらくして近藤はそっと土方の手を取った。
「ありがとう。総司を叱らないでいてくれて」
「あいつも必死なんだ、あんたに早くカルデアここに馴染んで欲しくて」
「──そうか」
 近藤は微かに微笑んで土方の肩に頭を乗せた。
「おまえも、ありがとう──好きだよ、歳」
 宵闇が迫る中、その一対はそのまま動かなかった。



──熟年夫婦、っていう感じだね。いい雰囲気。
「はい、先輩! 仲睦まじくてとてもいいと思います!!」
 少し離れたところからそれを見守る二人がいたことは、誰も知らない。