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流れザメ
2026-04-12 14:52:07
3398文字
Public
ビマヨダ
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侵食は緩く、穏やかに
セフレ関係のビマヨダで、何とか先に進みたいビマと、ビマが自分を好きになるはずが無いという思い込みでその好意に気付けないヨダの話。
ヨダ視点です。
ビーマが何かを言っている。
どうせいつもの小言だろう。
寝ぼけた頭でそう考え、適当に生返事を返す。
その声が耳に届いたのか否か、ビーマは急いだ様子で部屋を出ていった。
自動ドアが開く音がして、バタバタと駆け足の足音が遠ざかっていく。
いつものことながら騒々しい。
所詮は戦いで昂ぶった熱を
体
てい
良く発散させる為の関係に過ぎないのだ。
共に一夜を過ごしたからといって、律儀にわし様が目を覚ますのを待つ義理など無いと言うのに、どういう訳かビーマは毎回決まってわし様が起きたのを確認してから食堂へと向かう。
その上、勝手にお節介を焼いておきながら、『いつまで寝てるんだ』だの『さっさと起きろ。朝の下拵えに間に合わねぇだろうが』だの文句を言ってくるのだ。
わし様に構わなければ良いだけの話だろうに、本当にあの男の考えは理解に苦しむ。
ビーマへの不満を積もらせながら、気怠い身体を起こす。
慣れとは恐ろしいもので、最近では早起きが身に付いてしまった。
特に予定がある訳では無いが、寝て過ごそうにも此処はビーマの部屋だ。
ずっと居座っていると、またアイツに小言を言われかねない。
仕方がないのでベッドから降りて朝支度に取り掛かる。
サーヴァントであるこの身は、霊基を編み直す事で髪も服装も一瞬で全て綺麗な状態に戻す事が出来る。しかし、そんな便利な身体になっても、かつて人として生きていた頃の習慣から、どうしても直接水を浴びて身を清めたいと思ってしまうのだ。
これはもはや人間しての
性
さが
と言っても過言ではないのかもしれない。
バスルームへと向かい、シャワーを浴びる。
慣れ親しんた沐浴とは大分勝手が違うが、それでもつまみを捻るだけで簡単に綺麗な水を浴びれるというのは中々に魅力的だ。
シャワーを浴び終え、霊基を編みなおして衣服を身に纏う。
生前であればここで時間を掛けて今日着る服を吟味している所だが、サーヴァントは服装も霊基の一部に含まれている為、そう簡単に身に着ける物を変えることが出来ない。
何かと利点が多いサーヴァントの身体だが、こればかりは不便だ。
同じ服をずっと使い回して着続けるなど、クル族の王子にあるまじき貧乏くささだ。
カルナのように霊衣なるものを拵えれば着替えも可能になるのだが、勝手にやるとレイシフトする際の霊基調整がどうのこうのとカルデアのスタッフ連中がうるさい。
仕方が無いので、隙あらばいつでもわし様とアシュヴァッターマンの霊基に新しい衣装を組み込めるように準備だけはしつつ、今は既存の服で我慢をしている。
壁に取り付けられた鏡で身なりを確認して部屋に戻る。
棚に置かれた時計を見れば、起きてから二十分程経っていた。
シャワーを浴びている時に思い出したが、そういえば今日は久しぶりにカルナ達と共に朝食を食べる約束をしていたのだった。
二人が迎えに来る時間にはまだ少し早いが、そろそろ自分の部屋に戻っておこう。
そう思って出入り口の方を向いた瞬間、空気の抜ける音と共にドアが開いた。
ドアの向こうに立っていたのはビーマだった。走ってきたのか、僅かに呼吸が乱れている。
「なんだ、忘れ物か?」
「違ぇよ。朝飯を持ってきたんだよ」
そう言って、ビーマは皿がいくつも乗せられたワゴンを引きながら部屋に入ってきた。
テーブルに並べられた料理はどれも馴染みの深いものばかりで、出来立てなのか、細く立ちのぼる湯気と共にスパイスの香りが部屋に漂い、空の胃袋を刺激した。
「朝飯?ここで食べるのか?」
カルデアに在籍しているサーヴァントは基本的に食事をストーム・ボーダー内にある食堂でとる。
自分達が住んでいた城や棲家を再現したシミュレーター内に料理を持ち運ぶ者や、そもそもとして食事は不要だと食べない者も居たりするが、大体のサーヴァントは食堂内で一日の食事を完結させている。
朝早くから厨房で働くビーマもその例外ではない。
いつもは開店前の食堂で共に厨房を回している連中と朝食をとっているのに、一体どういう風に吹き回しだろうか。
眉を寄せたわし様の顔を見て言わんとする事を察したのか、ビーマが明らかに呆れた表情を浮かべた。
「一緒に朝食を食べるって、部屋を出る時に言っただろうが」
わし様がビーマと共に朝食を?そんな約束をした覚えは無いが。
そう言葉にしかけて、ふと起きた時の事を思い出した。
わし様が目を覚ました時にビーマが何かを言っていたが、もしやあの時、共に朝食を食べるかどうかを聞いていたのだろうか。
普段であればビーマからの誘いなどに頷くことは無いが、あの時は寝起きで頭もろくに働いておらず、半ば条件反射で適当に返事をしてしまっていた。
ただの相槌として声を発しただけだったのだが、ビーマは肯定の返事として捉えたらしい。
突き刺さるビーマの視線から逃げるようにテーブルに並べられた料理達を見やる。
正直、とても美味しそうだ。
生身の頃と違って毎日食事が必要な身体では無いが、入浴と同じで生前から根付いた営みの記憶に引っ張られ、あれらを胃に収めたいと思ってしまう。
咥内に滲んだ唾液をそっと嚥下し、視線をビーマに戻す。
どうやらわし様が寝惚けて朝食の誘いに同意した事に気付いたようで、ビーマは逃さないとばかりにドアの前に立ち塞がっていた。
用意された料理を食べずにこの部屋を出ていくという選択肢は存在しないらしい。
こうなってしまっては仕方が無い。
カルナ達との予定は明日に回して、今日はここで朝食を取ることにしよう。
これは朝から喧嘩騒ぎを起こしてマスターに要らぬ苦労を掛けまいとするわし様の苦渋の末の決断であり、決してビーマの作った美味しそうな料理につられたからでは無い。
椅子を引いてテーブルに着くと、ビーマも少し遅れて向かい側に座った。
「ところで、朝の仕込みとやらは良いのか?」
豆がふんだんに使われたカレーをチャパティで掬いながら問い掛ける。
料理に手を付けようとしていたビーマは、途端に少し気まずそうな顔をした。
「無理を言って今日だけ外してもらった」
「ふーん」
厨房仕事を好んでいるこの男にしては珍しい事もあるものだ。
それ程までにわし様との約束を果たしたかったのだろうか。
まぁ、おおかた約束を破った事でわし様に因縁をつけられるのが嫌だったのだろうが、そもそも冗談でもわし様を食事に誘わなければ良かったのだ。いつもは夜の誘い以外声を掛けてこないくせに、どうして今朝に限ってそんな事を言い出したのかは甚だ疑問だが、この男の思考回路などいくら考えても理解は出来ないだろうから、考えるだけ無駄だ。どうせ魔が差したとか、単なる気まぐれとか、その程度のことなのだろう。
思考を切り替えて、目の前の食事に集中する。
どれも懐かしい味だ。
現代の料理は味に深みがあってどれも美味しいが、やはり舌に馴染んだこの味付けが一番良い。認めるは癪だが、ビーマの料理人としての腕は確かなようだ。
料理を頬張りながらビーマの方を伺う。
ビーマは静かに食事をとっていた。
子供の頃は野生児丸出しの騒がしさで行儀もマナーもなっていなかったが、流石に今はあの様な食べ方はしていないらしい。
森育ちのビーマも、多少は成長したという事だろうか。
こう静かなら、たまには共に食事をとるのも悪くないかも知れない。
もちろん、またビーマから声を掛けてくればの話だが。
そんなことを思っていると、こちらを見たビーマと目が合った。
しかし、すぐに慌てたように薄紫の瞳が逸らされる。
この男らしからぬ反応に、胸の辺りにモヤモヤとしたものが
蟠る
わだかま
。
本当に今日はビーマの様子がおかしい。
またカルデアの何処かで聖杯が悪さをしているのだろうか。
今日は素材集めの任から解放されて自由に過ごせる日だというのに、戦闘招集が掛かって折角の休みが無に帰すのだけは勘弁して欲しい。
これ以上異変に巻き込まれまいと、妙に食べるスピードが遅いビーマには気付かないフリしつつ、どうかマスターから声が掛からないようにと祈りながら、目の前のヨーグルト和えのサラダを口へと運んだ。
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