「髪、触ってもいいか?」
やたらにこちらを見てきて、遠慮がちに口から出てきたのはそんなお伺い。
髪の毛どころか肌も唇も体の深いところの触れ合いすらしているのに今更どうしたのか。
「ええ、勿論」
触りやすいように後ろ髪を体の前に流してやると驚いたように口を開いて、次に一文字に結んで、唾を飲み込んだのか喉が動いて、じゃあ触るからな!と恐る恐る指を伸ばしてくる。忙しないことだ。
大剣と長剣を振るう姿から一見繊細無ことは苦手に見られがちだが、その指は想いを伝える手紙を幾度となく綴り、優しく子どもに触れることを知っている。
臥所を共にする時もまるで壊れ物を扱うようにしてくる。こちらは人間よりも頑丈で、形作っているのも人間でいえば男のからだで多少手荒なことをしても良いと伝えているのに。
そう言うと彼はいつも「大事にしたいんだ」と
柔らかい熱を持った瞳で見つめてくる。
彼の指先が僕の髪に届く。手入れは欠かしていないが、先程までの情事の熱と湿度でゆくるうねっていて、ああどうせなら乾いている時が良かったかと思い至る。
そう提案しようかと思っていると、一房、彼の手のひらに載せられる。
親指で流れに沿って緩やかに撫で、落としてはまた掬い上げて。
緊張していた顔が段々と柔らかくなっていって、じっくりと髪を鑑賞している。
最初はされるがままに彼を見ていたが、至近距離で、僕の一部を見ているというのにどこか別のところに関心が向けられているような錯覚になってきて、段々と落ち着かない気分になっていく。
その瞳がまるで僕ではないものを見ているような姿に胸の内がざわついてきて
……ああこれは嫉妬かと得心する。
「フフ、夢中ですね。僕の髪、それほどまでに面白いのでしょうか?」
思わず出てしまった自嘲と言葉に、彼の瞳がこちらに向いた。
「ああ悪ぃ、無遠慮に触りすぎたか?スマン」
僕の言葉を制止と受け取ったのか、スッ、と手が引かれて今まで彼が触れていた髪が肌に落ちる。
ああしまった、責めるつもりなど微塵もないのに、このままでは気を遣い過ぎる彼を困らせてしまう。
所在なさげに浮いていた彼の手を取って、顔を寄せる。
彼の指が頬に触れる。様々な経験を重ねて厚くなった皮膚は、彼のこれまでを感じさせてくれてとても気に入っていた。
擦り寄り、その感覚を堪能していくにつれて、ざわついていた心が凪いでくる。
「いいえ。ただ、触れていただいているのにどこか寂しい気持ちになりまして」
髪の毛に嫉妬してしまったみたいです。
そう伝えれば、自分を見つめる青の奥にまた熱が揺らめきはじめたのが見えて、僕はほくそ笑んだ。
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