風花莉亜
2026-04-11 23:33:54
3156文字
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日常に潜む幸せ。


第38回とどち版ワンドロワンライ参加作品。千早くん視点。ちょっと何を書きたかったのか謎な帰宅途中のとどち。藤堂くんのおばあちゃんの存在が出てきます。いつも通り何でも大丈夫な方向け


「椿ってさ、見た目結構目立つタイプの花じゃん? だけど花言葉は『控え目』とか付くのなんでだろな?」
………………
「え、無視?」

他愛のない会話をしながらいつも通りに帰路に着くその途中、不意に藤堂くんがらしくない事を言ってきてフリーズする。
え、なに、花言葉がなんだって?
突然止まって微動だにしなくなった俺の目の前で、藤堂くんの手がヒラヒラと揺れている。
おーい、なんて掛け声付きで。
何度か繰り返されるそれには気付いているが、あまりの衝撃に反応できない俺を前に、最終的には「無視するなよ」と藤堂くんは言った。
別に無視している訳ではないのだけれど。
そこから藤堂くんの無骨な指がツンツンと俺の頬をつついてきて、漸く金縛りにも似た硬直から解放される。

「つつくの止めてください」
「おめェが無視するから」
「無視していた訳では。そもそも花言葉って……ふっ」
「ンだよ、笑うな似合わねーってか」

似合うか似合わないで言えば、この見た目だし似合わないのだと思う。
金髪ロン毛、ガタイが良い目付きの悪いヤンキー。
そんな見た目だが、中身は結構面倒見の良いお兄ちゃんタイプでなんだかんだと優しいし、料理上手いし、繊細な部分も持ち合わせている。
しかもこの人、おとめ座だしロマンチストだしな。
……だからと言って男子高校生捕まえて、花言葉が似合うはおかしいか。
もっと儚げだとか、可憐な見た目になってから出直してくれ。

止めていた時間を動かすように一歩足を出すと、隣の藤堂くんも並んで歩き出す。
俺よりも一歩が大きい筈なのに、いつだって同じスピードで歩いてくれる所が密かに好きだ。
本人は意図的なのか無意識なのかは知らないが。

「似合うって言って欲しいんです?」
「いや全然」
「ふっ……じゃあ、いいじゃないですか。『似合わない』で」
「そーだけど、面と向かって言われると何か」
「面倒臭いですね」
「うるせー」

むくれた横顔にクスリ、と笑う。
たまに子供っぽい表情をするのを可愛いと感じるようになったのは、いつからだっただろう。
きっと俺がこの人を好きになってからなんだけど、その境界線は曖昧だ。
知らない内に惚れていたってやつで、『好きになった瞬間』という明確なタイミングはなかった。
顔を見るだけで嬉しくて、目で追う事が増えて、会話をするのが楽しくて、隣に他の誰かがいると不満になって、そこでやっと、これはただの友達としての感情ではない事に気付いた。
気付いた時は絶望したっけ。
凡そ、友達に対して想う感情ではなかったから。
でもその後色々あって、今では手を繋ぐような関係になっているのだから、人生何があるかわかったものではない。
色々と考えていたら今この瞬間が奇跡みたいなものだと、隣の横顔を見て思った。
そうしたら何だか愛おしさが溢れてきて、あまり人通りのない道に入ったのを確認して足を止め、むくれたその頬をお返しとばかりにつつく。
すると、ピタリと足を止めた藤堂くんがこちらを向いた。

「なにすンだよ」
「先程のお返しですけど?」

シレッと返せば、微妙な顔をされる。
自分が先に仕掛けた事なので文句は言えないし、と言った所だろうか。
別に文句があるのなら言えば良いのに。
もっと我儘になってくれても良いのに、それをしないのはまだ心の距離が遠いからなのか、例え近くなったとしても変わらないのか。
まだ一緒に時間を過ごすようになって、そこまでの年月を重ねていないので判断がつかない。
けれど藤堂くんは、俺の我儘は両手を広げて受け止めてくれるのだから、もう少し俺のように我儘に振舞ってくれて良いのに。
肝心な所でどこか遠慮しがちと言うか、ひと月くらいしか誕生日が変わらないのに、たまに妙にお兄ちゃんになるのは俺的にはあんまり嬉しくない。
嫌とかではないけど、俺は対等でありたいと思うし、藤堂くんと兄弟になりたい訳ではないのだから。

「おとめ座ロマンチストの藤堂くん」
「その呼び方やめろ」
「では、藤堂くん」
「なンだよ」
「椿の花言葉ですが、『控え目な』と付くものが多い理由は、華やかな見た目に反して香りがほとんどない為、らしいです」
「あー……そういや、あんま匂いわかんなかったな」

流石の俺も花言葉に精通している訳ではないので、スマホで検索した結果を口にすれば、何もない上空を見て藤堂くんは言った。
人は何かを思い出すとき上を見るの典型で、右か左でまた違ってくるのだが、今回は過去の記憶を思い出しているので左上だ。
合点のいった藤堂くんは、ひとり納得して頷いている。
しかし、その内容は俺の知らない物なのでちょっとだけ面白くなく、シンプルにどういう意味だと聞けば、おばあちゃんの家に飾ってあったのだとあっけらかんと答えられた。
椿を何故このタイミングで思い出したのかは全くもって謎だが、おばあちゃん家というワードに安心感を抱く。
どこぞの女子とのエピソードではなく、身内での出来事で本当に良かった。
だって、嫉妬せずに済むから。
我ながら心が狭いとは思うのだが、藤堂くんが女子と親しく話してるだけで普通に嫉妬する。
結構嫉妬するのって疲れるんですよ、ストレスにもなりますし。
好き好んでしたくはないけれど、逆に嫉妬してもらえる側は存外悪い気はしないし、寧ろ気分は良くなる。
それも全部、愛されてると感じるからなのかもしれないが。

それにしても、おばあちゃんって呼んでるんですかね?
だとしたら可愛いし、花言葉もそのおばあちゃんから聞いたんですかね?
想像したら、何とも微笑ましかった。

「なに笑ってンだよ?」
「いえ、別になんでも?」
「気になるだろが教えろ」

名も知らぬ藤堂くんのおばあちゃんと、孫の顔をした藤堂くんのやり取りを妄想してたらほっこりしたなんて言えない。
言えないけれど、自然と口角が上がってしまうのは止められなくて、最終的には「あはは」と零してしまった。
それが合図となったのか、難しい顔をしながら面白くないと零した藤堂くんに抱き寄せられ、近くなった顔に今度はドキドキする。
未だにこの距離感は慣れない。
今から顔を近付けますよ、なんて言われたとて、きっと無理。
合図があろうがなかろうが関係ない。
もしかしたら一生慣れないかも、なんて未来を想像して、サッと目を逸らした。

「千早さ、顔近付けると一瞬固まるよな。嫌なん?」
「嫌とかじゃないです」
「じゃあ、恥ずかしいのか」

そうだけど。
そうだけど、素直になって「はいそうです」なんて言えやしない。
図星をつかれてぐぅ、と押し黙る俺に、顔を覗き込んでいた藤堂くんはニヤリと笑った。

「素直になっちまった方が楽だと思うけどな」

そんなにすぐ素直になれるのだったら苦労などしない。
俺の性格からして、どこぞの要くんの様には振る舞えないのをわかってる癖に、敢えてそんな事を言うんだ。
たまに意地悪ですよね、藤堂くん。
キッと睨み上げると、目の前の顔が慌てる。

「ごめんて、そんな顔するなよ」
……許してあげません」
「そんな事言わずにさ」

顔の前で両手を合わせて謝る藤堂くんに、怒ったフリを続ける。
それに気付きながらも乗ってくれる優しさに、やっぱりこの人の事が好きだと再確認してしまった。
だから少しだけ、ほんの少しだけ、素直になる努力をしてみようと思う。

……ス」
「うん?」
「キス、してくれたら、許してあげま……っん」

言い終わる前に引き寄せられて唇を塞がれてしまった。
俺の素直になろうとした努力を返してほしい。
と言うか藤堂くん、せっかちすぎるでしょ?


END