ten_matoi
2026-04-11 23:19:35
3339文字
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たしかめる

クリレオ



共同戦線を張るメリットというのはいくつもあるけれど、今回はその共同戦線のメンバーにレオン・S・ケネディがいる――ということがはハウンドウルフにとって最もメリットがある、と言っても過言ではないだろう。
単身でいくつもの犯罪組織、バイオテロを解決してきた超人。クリスの部隊にも憧れていると言って憚らない隊員は多い。BOWと戦う者たちにとっても、噂はよく聞く合衆国きってのエージェント、それがレオンだった。
ワシントンDCに再び小さなBOWの種が撒かれたというのは、クリスが子飼いにしている情報屋からのタレコミだったが、どうやら信憑性は確からしい。DSOにも同じようにテロの存在が報告された上、その狙いはホワイトハウスだというのだから無視はできなかった。
ならば、クリスの率いる隊と共同戦線だ――と提案したのは誰でもないレオンである。
共同戦線と言いつつ、DSOから派遣されてきたのはレオンと数名のエージェントのみ。確かに対象は小さな犯罪組織であり、本来ならばハウンドウルフ隊だけで撃破は可能だった。そこへホワイトハウスを最終目的としているのなら、こちらも誰かを派遣したという〝実績〟が欲しい上層部が差し出してきたのがレオンだった。
〝クリス・レッドフィールド率いる隊ならばレオン・S・ケネディを差し出せばいい〟
言われなくても、それくらいは察せられる人選であった。公言はしていないものの、二人がパートナーであることは暗黙のうちに噂になっているのだ。二人ならどんな無茶ぶりでもやってのける――という考えも透けて見えていた。
「まあ……なんだ、とりあえずサポートに徹するつもりだからあんたらは好きにしてくれ」
相変わらず軽装……とクリスはレオンの装備を見て溜息をつく。愛銃たちをぶら下げ、最近お気に入りのアックスを腰に提げた格好は誰よりも身軽である。ジャケットも着ていないので、しなやかな体の輪郭が丸見えだった。
ハウンドウルフの面々が興味津々にレオンを遠巻きにだが見ている。クリスは複雑な気持ちになって、自分のパートナーを彼らと同じく見ていた。
嫉妬が半分、それから……この男は己のものだと誇らしい気持ち、あと、見せたくないという気持ちも少しある。四十九歳という歳には見えないくらいに、クリスの相棒はセクシーなのだ。
ワシントンの近郊に密かに作られたという研究施設はすでに地獄絵図。BOWの巣窟となっていることは既に把握済みである。パンデミックに至るまでではないものの、研究施設特有の密閉措置で拡散されなかったそれらを完璧に処理してしまわなければならない。
――結果、それらは完璧に遂行された。
ハウンドウルフの実力は折り紙付き、その上、DSOの伝説のエージェントがサポートについているのだ。あまつさえクリスまで前線に出て率先してBOWたちを片っ端から処理してしまったので、作戦自体は約三時間ほどで片が付いた。
複数の感染者に囲まれたとしても、レオンが颯爽とサポートとして刈り取ってくれる。押し倒されて噛まれそうになっても、クリスが殴り飛ばしてくれる。この二人は自分たちはあくまで〝サポート〟と言いつつも、途轍もない実力を発揮して参加している者たちの生存率を上げていく。
参加した面子にとって、今回の任務は特別なものとなった。
なんせ、生きる伝説のような二人が神がかったプレーを見せてくれたのだ。レオンとクリスが連携してBOWを殲滅していく様は、鮮やかすぎて自分たちには決して真似はできない。
「聞いたか、ミスター・ケネディ……あの人、ラクーン症候群から脱したばかりらしい」
そんな言葉が聞こえ、クリスは隊員たちの横を素通りしていく。すげえ、と次いで聞こえた声に苦笑してクリスは噂のパートナーのことを考えた。
ラクーン症候群はクリスにも影響を及ぼし、己もエルピスのお陰で危機を脱したばかりだ。症候群の痛みや倦怠感は軽症のクリスでも辛いものがあったというのに、ステージ3まで進んでしまっていたレオンは本当に辛かっただろう。
気づいていたのに何もできなかった自分がいまでも憎い。レオンの苦痛を和らげる術がなかった己が、苦しかった。
「アルファ、ちょっといいか?」
アンバーアイズが話しかけてくる。ああ、と返事をして彼からの報告を聞き、順調に後処理が進んでいることを確認してクリスは囲いの中を抜けた。愛車を停めてある区画まで移動し、預けた鍵で車内に侵入しているパートナーを見つけた。
……レオン?」
助手席のドアが開いたままだ。そこから片手片脚がぶらん、と飛び出している。クリスは顔を顰めて、ゆっくり車に近づいていった。
ぐったりと助手席に身を投げ出しているレオンは、クリスの声にも目を開かない。顔色が悪いのは明かりのせいなのか、それとも……
クリスは顰めた顔のまま、そっとレオンの肩へ手を置く。温かい……温かいのだが、それでも気持ちがざわつくのはまだあのラクーンシティの一件がちらつくからだろう。
ARK、パンドラの扉の前で吐血して倒れたレオンの姿は記録に残っていた。あんまりあんたには見せたくない……というアンバーアイズの制止を振り切って無理矢理見た映像は、クリスの胸に深い悔恨を残している。
「レオン」
クリスはぞっとして、思わず彼の頸動脈を探って脈拍を確かめた。とくとくとく……と規則正しい拍動を指から感じ、ほっとする。
「なんだよ、生きてるって……
ぼやくように絞り出した声。レオンが億劫そうに目を開き、クリスを見た。ブルーグレーの瞳がこちらを見ているだけでも、クリスはほっと安堵して彼の頬に手を添えた。
「ややこしい格好で寝てるなよ……心臓に悪い」
つい苦言が出るが、心配からくるものだと理解しているレオンは呻いて目を閉じるだけだ。疲れている様子のパートナーを心配して何が悪い。病み上がりなのだから、過保護にもなるというものだ。
「大丈夫、とは……まあ、言えないけど」
レオンが絞り出すように言う。やはり、少しは症候群の後遺症があるということなのか。
「ちがう、ちがうって」
クリスの思考を読んだように手を振って否定したレオンに、眉を跳ねさせてクリスは「じゃあなんなんだ」と問う。
「昨日……グレースとエミリーが遊びに来てて……クリスがいなかったから思いっきり羽目外して遊んだところだったんだよ……
……はあ?」
クリスは目が点になる。レオンが呻いてクリスの手に頬を擦り寄せて、上目遣いに睨んできた。
「俺だってあんたがいなかったら寂しいんだって。いいだろ、娘が二人できたみたいで嬉しいんだから」
ぐ、とクリスは言葉を詰まらせた。そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。
「別に子どもが欲しいわけじゃないが、構える相手がいるなら構ってやりたいだろ」
「俺は構ってくれないのか」
「じゃあ、あんたは先に家に帰ることを覚えてからだな」
ぐぐ……とまた言葉を詰まらせて、クリスはレオンの頭をよしよしと撫でた。
これからは、少しの待機時間でも家に帰る習慣をつけようと本気で思った。でなければ、グレースとエミリーにレオンを取られかねない。それだけは断固阻止しなければ。レオンの隣はクリスのもので、他の誰のものでもない。
さらさらのブロンドを撫でていれば、レオンは満更でもない顔をしている。更に「もっと撫でてくれ」と頭を傾けてくるので、クリスは犬にするようにわしゃわしゃと撫でてやった。
「あのう……ボス……
後ろから、ハウンドウルフの隊員が控えめに声をかけてくる。途端、レオンの頭を撫でる手を止めてそちらに「なんだ?」と返事をした。
「そろそろこっち戻ってきてくださいって、アンバーアイズが」
「ああ、分かった。すぐ行く」
「行ってこいよ、ボス」
ふふっと悪戯っぽく笑ったレオンの唇にちゅう、と人目も憚らずキスをして、クリスは呆然としている隊員を引きずって現場に戻った。後ろを振り返らなくても分かる。レオンがくつくつと笑って手を振っているのが見えるようだ。


たしかめた熱は確かに本物。
レオンの唇は柔らかく、そしてクリスとぴったり重なるようにしっくりきた。