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みずあめ
2026-04-11 23:03:59
2446文字
Public
brmy
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ゆづあい
ワンライお題「すれ違い」
「ただいま戻りました。
……
あれ、逢さんは?」
月曜の朝、カフェの開店準備と仕込みを終えて昼前に事務所に戻った俺は、出勤時間を過ぎている逢さんがそこにいなくて一人で首を傾げた。パソコンで事務作業をしていた弥代さんが振り向き、お疲れ様ですと言いながら頭を下げる。それから逢さんの席を見て、もう一度俺を振り返った。
「皇坂さんは先ほど急ぎのミーティングが入ったと外出されました。午後に戻るとおっしゃっていました」
「ああ、そうなんですね」
「私でよければ何か手伝いましょうか?」
「いえ、ただ先週からなかなかタイミングが合わなくて会えていなかったので、すこし顔を見たかっただけです。午後に戻ってくるならその時に会えると思います」
「なるほど。
……
えっと、言いにくいのですが」
「?」
「ちょうど今、城瀬さん担当の代行先からメールで問い合わせがきていて、急ぎのようで可能であれば今日中の対応を、と」
「
……
確認しますね。ありがとうございます」
「すみません
……
」
「いえいえ。弥代さんが謝ることじゃないですよ」
申し訳なさそうな顔をする弥代さんに気にしないでくださいと笑みを作り、自席についてパソコンを立ち上げる。溜まっているメールの量に数秒目をつむって深呼吸をし、すぐに該当のメールを確認した。内容的にメールでやりとりするよりも電話の方が手っ取り早そうだったので電話をかけながら、未開封のメールを次々と開いていく。
「お世話になっております。私、Aporiaの城瀬と申します。先程いただいたメールの件でお電話いたしました。担当の
……
」
やりとりの末、案の定急ぎの案件で今日の午後に打ち合わせをすることになった。電話を切り小さく息を吐くと、弥代さんが心配そうに俺のことを見る。作った笑みはきっと少し情けなかっただろう。
「午後は俺が外出することになりそうです。逢さんには連絡を入れておきますね」
「はい。
……
私が代われたら良かったんですけど」
「そんな、大丈夫ですよ。むしろ気を使わせてしまってすみません」
「いえ。皇坂さんも、きっと城瀬さんと会いたいと思うので」
「
……
そうですかね?」
「そうですよ。明日は二人とも事務所の予定でしたよね?」
「今のところ、そうですね。また急な仕事が入らなければ」
「私にできることがあればいつでも振ってください」
「
……
ありがとうございます。頼りにしてます」
しかしそれから、もともと予定していたミーティングやカフェのシフトに加えて緊急の呼び出しや買い物、打ち合わせも入り、逢さんも外出が多かったこともあって週の半ばの水曜日の残業を終えても俺は逢さんと会えずにいた。二人とも事務所に戻っていないわけではなく弥代さんは俺たちと話せているのに、ここまですれ違うことも珍しい。仕事の連絡のためチャッタスでのやりとりは顔を合わせられない分こまめにしていたけれど、LIMEは全く送れていなかった。これだけ会えないということは、仕事が忙しいということだ。プライベートの時間を俺で消費させたくはなかった。でも、そろそろ、声が聞きたい。
弥代さんが帰って一人きりになった事務所の中で、俺はつい逢さんにLIMEを送ってしまった。内容は短く、『今日はまだ仕事ですか?』と。俺が事務所に戻ってきたのは夕方頃で、その少し前に出て行ったということだから今日はそのまま直帰するだろう。俺はもう今日の仕事は終わったから、もし逢さんの予定が空いていればごはんでも
……
。
そう考えていると、持っていたスマホがブーッと震えた。メッセージの返信ではなく、着信の通知が表示される。逢さんの名前を見て俺はすぐに応答ボタンを押した。
「もしもし」
『由鶴か。今、電話をしても?』
「はい。ちょうど仕事を終わらせたところです。逢さんは?」
『さっき打ち合わせが終わった。食事に誘われたが、断った』
「え、大丈夫ですか? 疲れているなら俺のことは気にしないで休んでください」
『そうじゃない。
……
おまえと会いたかったから』
「え」
『仕事を終えたと言ったな? この後の時間を俺がもらってもいいか』
「
……
えっと、
……
俺も、逢さんと会いたいと思ってて」
『
……
会社に戻る。もし由鶴が疲れている顔をしていたら、そのまま家まで送る』
「疲れてないと言ったら嘘になりますけど、逢さんと会えたら元気になりますよ」
まだ水曜日なのにこんなに疲れた気がするのは、きっと一度も逢さんと会えていないからだ。毎朝今日こそはと思って出勤するのにすれ違ってばかりだったから、一日がとても長く感じて。
だから逢さんと会えたら疲れなんて吹き飛ぶ気がした。実際、今こうして声を聞いて会話をしているだけでさっきまで感じていた疲労はどこかにいっている。
「逢さんさえよければ、一緒にごはんでもどうですか? 話したいこと、いっぱいあるから」
『
……
たった数日顔を見ていないだけだろう。そんなにおかしな日常を送っていたのか』
「そうかもしれませんね? 逢さんは、俺に話したいことなんて何にもない?」
『
……
顔を見たら思い出すかもしれない。おまえと会えないと、
……
たった数日なのに長かった』
「
……
俺も。ふふ、たった数日なのに」
『それだけ俺たちの日常の中にはお互いの存在があるんだろうな。すぐ戻るから、仕事の連絡を受けないように気をつけてくれ。これ以上すれ違うと、おまえのことを攫ってしまいそうだ』
「ああ、いい考えですね。次こういうことがあったらそうします。もうパソコンは電源を落としましたので、早く迎えに来てください」
『了解』
電話を切り、事務所の中にふっと笑い声を溢す。寂しいのが俺だけじゃなくて良かった。逢さんが本当にやろうと思えば俺のことなんて簡単に攫えてしまうんだろうな。もし次があった時、俺は逢さんのことを攫えにいけるかな。
逢さんのことを考えるだけで話したいことが次々に増えてしまって、やっぱり毎日会いたいなと、そう思った。
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