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shiroyakei
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バレンタイン
オロイフ旧ワンドロワンライ
(現ツーウィークドロライ)
第18回『バレンタイン』より
「イファ、もうそのぐらいにしておいたほうがいい」
「
…
んあ
……
?」
オロルンはイファの左手でまだ中身が入っているワイングラスを取り上げて、右手の暇つぶし相手にされ、毛並みを逆立られてぼさぼさになっていたカクークを解放してやった。
「きょうだい、まじかよ!」
「カクークの立派な毛並みがぼさぼさじゃないか」
「カクークは
……
ぼさぼさでも、かわいいぞ
………
」
「
……
まじかよ、きょうだい
…
」
夜も濃くなってきた時間帯で、カクークはもう眠気が限界だったのだろう。ぼさぼさになってしまった毛をオロルンから手櫛で整えてもらった後、オロルンの自宅にあつらえてもらっていた寝床に一目散に飛んで行ってしまった。
「カクーク?」
「カクークはもう眠たかったんだと思う。寝かせてやろう」
オロルンはそういうと、イファの目の前に腰かけた。
◇
オロルンは今日、朝から質のいい野菜をたくさん収穫して日の高いうちから夕飯の支度をしていた。明日はバレンタイン。ナタ全土が祝祭日で、オロルンはもちろん、多忙なイファだって診療所を急患のみにして基本休みにする予定だった。
日が沈むころ、オロルンが食事の準備を終えたところへ、イファがオロルンの自宅の玄関の扉を叩いた。
「よ、きょうだい。
……
おっ、もういい香りがするな」
「いいかおりがするな、きょうだい!」
「こんばんは、イファ。それにカクークも」
「これ、花翼のみんなからもらったんだが
…
俺は飲めないから一緒に飲まないか?」
そういってイファが掲げたのは木箱に入った数本の蜜酒と、モンド産であろう葡萄酒だった。
「お前が飲んでくれると助かるよ」
「結構いい葡萄酒じゃないか。ありがたくいただくよ。君も堪能できるように、この子たちが鍋の中で居場所をつくれるようにしてやらないとな」
「って言っていたのに、なんで君が葡萄酒をそのまま飲んでしまっているんだ
…
」
「ん
……
だって
…
」
オロルンが取り上げたワイングラスを取り返そうと、イファの手がテーブルを舞う。それはもう素面の彼では考えられないほどもったりとした動作で、まるでミツムシの蜜をハニースプーンで持ち上げたときのようだった。あきれた、とオロルンがワイングラスを彼の手元から遠ざけて己側に引き寄せる。
「だってじゃない。もうおしまい」
もうこの葡萄酒は僕が飲んでしまった方がいいな、とオロルンがイファの飲みかけのワイングラスを口に当てた瞬間だった。
度数の高い酒によって上がった体温。酒に負けないぐらいのイファの香りが、オロルンの目の前へ降ってきた。素面でもパーソナルスペースは狭いほうだというのに、酔って上機嫌な彼は容赦なく太腿に体重をかけて身を寄せてくる。背丈が平均よりもはるかに上回る大の成人男性である2人分の体重を受けて、椅子がぎい、と鳴いた。
「イファ」
「ん~?」
「重いよ」
「んー
……
」
ああダメだこれ、彼はかなり酔っている。酒のつまみが足りなさそうだからもう何品か作ろうかとワイングラスを放っておいて長めに席を外したのが悪かった。頭上から降ってくるキスの嵐も、恋人同士の甘いそれというより、オロルンが幼いころに受けた今のイファと同じぐらい酔っぱらった黒曜石の老婆の、じゃれつくようなスキンシップを思い出す。
「イファ」
「
……
んん?」
名前を呼ぶと、とろりとした熱っぽい視線が降ってきた。視線は熱っぽいのに、上がる口角は子どものような無邪気さもある。目が合うと、まるで視線から酔いが移ってしまいそうだ。今日この酔っ払いのペースに巻き込まれずに、どうやって寝床まで運ぼうかとオロルンが己の瞳を閉じた。
あくまでも冷静を貫こうとするオロルンが面白くなかったのか、イファはオロルンが目を閉じている隙に、いつも腰につけている医療ポーチから先ほどまでのもったりとした様子とは裏腹に、妙に迷いのない手つきで「なにか」を取り出した。
オロルンの耳はイファの動きを聞き逃さなかった。なにか企んでいる。彼のシャツが甘く擦れる音を聞きながら、少し酔っ払いの好きにさせてやろうと制止しなかった。
「
…
オロルン」
「ん?」
わざと視界を閉じたまま返事をすると、ふにゅ、と唇に何か冷たくて甘い香りの小さな塊が押し付けられた。それはオロルンの唇を割って入ってきて、歯に当たったかと思うと封をされるかのようにキスをされた。とたんに甘い香りが割れて、ふたりの空間をとろけさせる。
「あまい
……
チョコレートか」
「ふふ、ハッピーバレンタイン、オロルン」
イファがデザートを食らうかのようにオロルンの頭に手を回し、藍色の髪をくしゃくしゃと撫でながらチョコレートごと舌を絡ませてくる。オロルンはたまらなくなってイファの腰に手を回した。甘いリップ音とともにふたりの息が少しずつ熱を持っていく。
「
……
君、わざとここまで酔っぱらっただろ」
「ん~
…
なんのことだ?」
ちゅ、ちゅ、とイファが楽しそうにオロルンの唇にキスを下ろす。ワインとチョコレートが混ざった唇がオロルンを襲った。
「イファ
…
、話を逸らそうとしても無駄だ。君は酔いが回りやすいんだから
…
ん、こら」
ワインで熱く、チョコレートで甘くなった舌がぬるりとオロルンの唇を舐める。イファが襲い掛かるように唇をはむと、何度も何度も舌を絡めて、交わる唾液の中で、ワインもチョコレートも次第に境目を失っていく。
イファは舌をくぐらせながら、騎乗位のような姿勢で腰を前後にゆらゆらと動かした。
ひとりよがりな動きで、まるで自分を慰めるかのように。
己より幾分か体格の良い太腿に挟まれ、腰を抑えられたオロルンは身動きもできず、イファのひとり遊びを受け止めることしかできない。
「イファ、
……
ん、
…
っ
………
」
「
…
かわい、オロルン
…
」
恋人から受ける一方的な刺激にオロルンは震えることしかできない。ぴる、と震える大きな耳。イクトミ竜とそっくりな耳を、イファは患者にするかのように優しく撫でる。手つきは優しい竜医のものなのに、やっていることは恋人にまたがってゆらゆらと腰を妖艶に動かすひどいいたずらだ。
イファが後ろ手でテーブルにある何かをつかんだ。あっ、待て、というオロルンの制止も聞かず、イファはそれを口に含む。そのまま唇はオロルンの元へと降ってきて、濃くてぬるい葡萄酒が口を割って入ってきた。イファに頬をつかまれて動けないオロルンは生ぬるい葡萄酒を受け入れて飲み干すしかなかった。
「ん゛、っ、」
全部こちらによこしてきたかと思ったのに、イファも少量飲み込んだらしい。褐色の肌に彫られたタトゥーの下で、喉仏が嬉しそうに動いた。
「酔っ払い
……
」
このまま好きにさせてたまるかと、オロルンはかすかに膨らんでいるイファの乳首を、シャツの上から摘むように軽く引っ張った。
「あ゛ッ」
「イファ、いたずらが過ぎる。明日が祝祭日だからって
…
こんなに酔って」
「ん、あ゛っ、ひう」
「
……
セックスしたかったのか? 明日はバレンタインだから、こんなに酔わなくても僕は君を抱くつもりだったのに」
くにゅ、とシャツの上から膨らんだ先端を食むようにして刺激する。シャツが唾液で変色するのも構わずに、わざと歯をあててやるとイファが逃げるように腰を引いたものだから、オロルンは逃がさないよう背中に手を当てて逃げ道をふさいだ。震える腰を愛撫するようにおろしていくと、イファの医療ポーチに手が触れた。
そういえば──いつも羽織っている白衣は着ていないのに、この医療ポーチだけあるのはなぜだろう。
オロルンは口でころころと突起を愛でながら、片手でポーチを開いた。イファはその動きにも気づかず、頭上で小さく息を乱している。オロルンの指先にかさ、と包み紙が当たった。いつもは医療用具と竜たちのおやつで半々のはずのその中身は、──小さなチョコレートで埋め尽くされていた。
竜にはチョコレートは厳禁だ。それは聡明な小竜であるカクークも例外ではない。では、このチョコレートは誰のためのものなのかは明らかで。
小粒の甘い愛たちを見て、オロルンはやれやれ、とイファの背中を撫でた。
明日はバレンタイン。愛と友情の日。世の恋人たちのようにチョコレートを贈って、甘い時間を過ごしたかった。
けれどこのふたりは恋人になる前に親友として過ごす時間のほうがはるかに長い。素直に甘えるにはイファは照れくささがあったのだろう。
だからイファは、酒という手段を選んだ。このたくさんのチョコレートも、休日の前に思いっきりセックスしたいという欲望も、ぜんぶ彼の照れ隠しで隠されていたようだ。このチョコレートの包み紙のように。
「イファ、かわいい
…
」
オロルンはイファのポーチからひとつチョコレートを取り出して包み紙を外し、それをイファの口に挟ませた。
「ほら、君が食べさせてくれ。僕宛だろ、全部」
イファは頬をほんのりと赤く染めたまま、観念したかのように黙ってオロルンの口にチョコレートを運ぶ。
ぱき、と割れたチョコレート。それはボンボンショコラだったようで、オロルンとイファの間でラズベリーソースがはじけてしまった。とろ、とイファの口端に赤いソースが付く。口についたそれすらももったいなくて、捕食するように、べろりと頬ごとなめとった。びく、と震えるイファもかわいらしく思えて、オロルンの中で抑えていたものがどろどろと溶けていく。
「全部食べてもいいんだろう?」
「
………
さすがに全部は身体に悪いからダメだ」
「違う。君のこと、全部だ」
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