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akinoshiroihana
2026-04-11 00:24:58
1794文字
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イースター
遅刻。そういや数日前まで夜中の満月に起こされてたなあと。
イースターエッグ、そして昭和40年代局地的ポンコツ男子東映竜馬
「
―――
俺のは買って来たんだ」
「あら、もったいなくなくって?」
麓の町での用足し帰りらしき隼人とミチルが、胸に抱えた茶色の紙袋からは、食料品や何やがはみ出している。
ミチルが注意深く抱えるのは灰色のボール紙のケースに収まった沢山の玉子であろう、それはわかるとして
「畏れ多いや
ミチルさんのを使わせてもらうのは」
「あらそれくらい平気よ私」
隼人の胸元に片腕で抱えられた紙袋から覗くのはつやつやとした玉葱の袋ととそれと、ストッキングだった。
使う?あれを?ストッキングを「俺の」と言った?
ミチルさんのを借りる?ミチルさんも合意しかし隼人が遠慮した?
つまり隼人は自分の為のストッキングを買って来たんだな履くんだな何のために?
腹でも冷やしたのかなるほどそれなら道理が行く待てそれならステテコか猿股でもいやそれはあいつの長すぎる脚に合うのが果たして売っているものだろうかああそうかだからストッキングなんだな謎は解けたそしてよかった、あいつにステテコなんて猿股なんてそれを風呂上りに脱衣場で俺の隣りで履き始めたらきっと俺の中の何かが戸惑う締め付けられるいやそれならあいつが俺の目の前であのすらりとした脚線にストッキングを纏い始めるあんなポーズやこんなポーズを目にする心の準備がああわかるわかるぞ似合うのはわかるが待ってくれ心の準備が!
「おいリョウさんよ」
その思い詰めた顔で熱々の牛乳を卵液に投入するのはやめてくれっておばさんが念押ししていったとこだぜ、手伝いがしたいんならよ
「そうよプリン液が最初の方でもうリカバーできなくなっちゃう」
卵の頭頂と尻を刃先で突いて中味を出し、卵の殻に沿って春の野の若草を貼り付けては切ったストッキング生地で包んで縛って固定する。それを玉葱の皮を入れた湯で茹でれば、葉や蔓草の所だけが白いレース模様のように可愛らしくも綺麗に残る、あかがねいろのイースターエッグのできあがりだ。
本格的な春の到来、それを寿ぐ祭事。最初の満月の来る頃とだけ決められた祭にちなんでミチルが何かやり出したのは、軽井沢方面の教会に通う人々との早乙女家の付き合いが何かあるのかもしれない、他ならぬ隼人が助っ人に入って彼女にまったく不思議がられていないのも、信仰心よりは家族の形見か何かとしてであろうが、彼の白い胸の上に常にある十字架ゆえか。だがまあいい、
得心はしたし、あとは覚悟を決めるだけだったのだ
なのに扉を叩いて行った先では「なんだい随分怖い想像をしちゃったね、大丈夫そうじゃないから」とばかりに梯子が外され、降りられなくなったかのような感がいっぱいのまま、竜馬は普段絶対立ち入らない厨房のガス台前でただ一人立つ。なんだか仲睦まじいオーラを醸して台所テーブルで卵の穴あけと梱包にいそしむミチルと隼人に背を向け、「食べ物を無駄にしてはいけない」卵液でのプリン製作の工程に直面している。
いつになく笑顔少ない真摯な顔で「手伝わせてください」と押し入って来た好青年を無碍にも出来ず、信じ、ほんの少しだけ中座した早乙女夫人不在により、孤立無援で。
ここにおいて流竜馬は凛々しく明朗な面差しを、誰にも見られてないのをこれ幸い、全力でぶすくれさせた。
(いやいやいや想定、危惧していた最も劇的な事態は起きないと確定したんだ、なんだよかったじゃないかがっかりなどしてないぞ本当だ!)
よし落ち着こう、これはおばさんが戻って来るまで待つのがいいかな、そう考え熱いミルクパンをガス台に戻し、彼は「バニラエッセンス」の小瓶を手に取りしげしげと眺める。蓋を開ければいかにも甘そうなふんわりと幸せな香りがするものであるから
(これは入れておいてもいいやつだろう、全くなにも進めないで待っているんじゃ良くない)
出の悪い瓶の口をいぶかしみ、ゴムの蓋を男子の力づくで苦も無く外して中味を醤油のように回しかけながら、竜馬はちらりテーブルの方を振り返る。ミチルと隼人は依然静かにも時折言葉を交わしては微笑んでいるから、取り残されたような気持ちを、先程までの孤立無援を、孤独を、まつろえぬさみしさを振り払うべく竜馬は心の中でとなえた。
(守りたいこの笑顔)
今この時、ただお前(達)と共にありたかっただけなんだ
だが今この時が、惨劇が確定した瞬間でもあるのを、まだ誰も知らない。
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