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3281文字
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今宵、夜桜と共に宿す想い

AR3CP企画内のワンドロ
4月お題:花舞う夜

びよどん後軸
鈍感だけどふとした時のリンウェルの反応とかはちゃんと覚えててくれているロウ

静寂が流れる部屋の中でカチカチと時を刻む時計の針の音が普段よりも存在感を増している。
時計が示す時刻は夜の11時過ぎ。大抵の人がベッドや布団へと身を委ねて、眠りの世界へと羽ばたく時間だろう。それを証明するかのように自身のベッドの枕元付近に設置されたミニチュアサイズの布団の中には気持ちよさそうに眠りに就くフルルの姿がある。そんな小さく愛らしい相棒の身体を起こさないようにそっと一撫でするとリンウェルは同じくベッドに身を委ねる……のではなく、ローブを肩に羽織ると部屋の中の静寂を破らないようにひっそりと部屋を後にした。


家を後にし、歩く事数分。
トラスリーダ街道の野営地に目的の人物の姿を捉えるとリンウェルは少し足を速めて駆け寄った。近づいてくる足音に気付いたのだろう、こちらに背中を向けていた人物はくるりと此方へと振り向くと「よう!」と変わらない笑顔を浮かべ、片手を挙げて挨拶をする。

「悪いな、夜も遅い時間に」
「ううん。別に平気だよ。それにいつもこの時間はまだまだ本とか読んでるし」
「まだまだって……ちゃんと睡眠取ってるんだろうな?リンウェルは夢中になるとそれ一直線になるから」

ジトリとした眼差しを向けられ思わずぐぬっ……と言葉に詰まる。
それは以前ロウが仕事の合間を縫ってリンウェルの元へと足を運んでくれた時の話だ。
丁度読解に梃子摺っていた本を攻略していた時で隙あらば本の読解に勤めていたせいか、全ての時間をそこに当てていた。そう、言葉通り全てを。
最初の頃は片手で簡単に済ませるサンドイッチやおにぎりをお供にしていたが段々と食事の時間ですら惜しくなり、気付けば日にちや時間すらも把握できない程読み耽る羽目になってしまっていたのだ。そんな状況をロウにバレてしまい、呆れられながらも珍しくロウの方に加勢したフルルと共に軽いお叱りを受けたのはまだ記憶に新しい。

「あれからちゃんと気を付けるようにしてるもん」
「本当かよ」
「本当だってば!」

こと本絡みになるとリンウェルへの信頼が途端に薄くなるロウは未だ疑いの目を向けてくるものの、「まぁ、フルルが見張っててくれるか」と一先ずは納得してくれたみたいだ。

「そんな事より!こんな時間に呼び出したのはなんで?」

そもそもこうして夜も静まり返った時間にわざわざ外へと赴いた理由はなにを隠そうロウに呼び出されていたからで。
仕事の関係で今日はヴィスキントの宿屋に宿泊するのだと仕事終わりにリンウェルの元へ足を運んでくれたロウからそんな話を聞いたのはお昼ごろの話。
それから他愛のない話題を繰り広げていく中で告げられたのが「今日の夜、会えないか?」というお誘いだった。
なにやら見せたいものがあるらしく、しかもそれは夜にならないとお目にかかれないものらしい。
今はお互いカラグリアとメナンシアに身を置くが故、旅をしていたあの頃のように昼夜関係なく顔を合わせる事は難しい。特に夜となると尚更。
だからこうして共に同じ場所に身を置けるタイミングだからこそのお誘いでもあったのだろう。

コテンと首を傾げ、呼び出した理由を問うとロウはクイクイと親指を上の方へと向ける。それに釣られるようにリンウェルも目線を上へと向ける。

「わぁ……!!」

瞬間、目を奪われる光景が目の前に広がっていた。
月夜の光が満開に咲き誇る桜の木々の間から降り注ぎ、煌めく桜の花々が夜空を彩るように舞っている。
昼間に見る桜も絶景ではあるが今、目の前に広がる光景はより一層幻想めいた雰囲気を感じられる。
昼と夜、見る時間帯が違うだけでここまで姿を変えるだなんて。

「綺麗……
「だろ?こういうの”夜桜”って言うんだってさ。それに今日は月がよく見える日らしくて、まさに夜桜を楽しむのに絶好の日らしい。……って、今日仕事を請け負った依頼人から教えてもらったんだ」
「夜桜……初めて知ったよ」
「俺も」
「でも意外だったな」
「意外?」
「だってロウってこういうロマンチックなものって興味ないと思ってたから」

あれは共に旅をしていた頃、フォグオル鍾乳洞を探索していた時の話。
夜光石の光が水に映って幻想的だとリンウェルが感嘆の声をうっとりと漏らす横で「どこもかしこもじめじめぬるぬるで、嫌になる」と不満げな声を上げたロウの態度に一気にトキメク気持ちをぶち壊された思い出がある。

「でもリンウェルは好きだろ?こういうの。ネヴィーラの時も興味深々だったし、前にフォグオル鍾乳洞で水に映る光る石見て、すげぇ~!ってなってたし」
「夜行石ね!……というか」

……覚えてたんだ。
まさに今自分が思い浮かべた出来事を例に出された驚きと同時にまさかロウも覚えていただなんて……

「だからリンウェルが喜ぶかなって思ってさ」

ポリポリと少し恥ずかしさそうに人差し指で頬を掻きながら呟くロウの頬はまるで色づき始めた桜のような淡い色を帯びる。
……どうしよう。夜桜の話を聞いて一番に私が喜ぶかもしれないと思ってくれた事が嬉しい。
ネヴィーラの幻の花の時だってそうだ。私の為にみんなに声を掛けてくれたのだって……

……うん、好き」

幻想的でロマンチックな風景が。こうやって私の事を思って行動を起こしてくれるロウの事がーー。
告げた”好き”という言葉に込められた意味にロウはどこまで気付くだろうか?

目の前には幻想的な花舞う夜の風景。夜も深くなり始めるこの時間という事もあってかリンウェル達以外の人影はない。
ロマンチックなシチュエーションに二人だけという事に気付くと変に意識し始めてしまい、自然と鼓動が早くなってしまう。

ロウは今、どんな事を考えてる?
私の顔、変に赤くなってないかな?

気になるけど気付かれたくもなくて、リンウェルはただただ夜桜を見上げ続ける。
数分、いや実際には数秒ぐらいだったかもしれない。暫く互いに目の前に広がる幻想的な風景に息を呑んだ後、ロウが沈黙を破る。

……リンウェル」
「な、なに?」

ゆっくりと顔をロウの方へと向ける。ドキドキドキドキ……
段々と速まる心臓の音がまるでカウントダウンのように鼓動を刻む。3、2、1、……0
青味がかった春の新緑を彷彿とさせるロウの瞳とバチリと目が合う。二人の間に桜の花びらがひとひらと舞い落ちるとそれを合図かのようにロウはーー。

「花見と言ったらやっぱ”これ”だよな!」
……へ?」

じゃん!と目の前に出されたのは様々な種類のお菓子にジュースの瓶が数本。中にはリンウェルが好物とするお菓子も沢山含まれていた。
桜の木に背を預けるようにして座り込んだロウに未だ状況の整理がつかずにいるリンウェルだったが一先ず同じように隣へ腰を下ろす。
え、だって今の流れは絶対そういう雰囲気だったよね? そういうのに絶好の舞台だったよね?

「花見と言えば飯!……つっても夜遅いから出店も閉まってて昼間買い貯めてたお菓子しかねーけど。でもなんかお菓子パーティーみたいでワクワクしね?」

まるで親に気付かれないよう夜更かしをする子供のようにワクワクとした様子で楽しそうに笑うロウの姿に思わずため息が漏れる。
さっきまで漂い始めていたドキドキとした空気感はもう既に消え去っている。今の状況を名付けるならまさに花より団子状態だ。
でもそういうところもロウらしくてーー。

……好き、なんだよなぁ」
「このお菓子だろ?」

数あるお菓子の中から袋に入ったグミを手に取るとロウは得意げな笑みを浮かべる。どうやら私の好きなお菓子もちゃんと把握済み&用意しているぞと言わんばかりに。
さっきから見当違いな事ばっかをするこの鈍感男に呆れを通り越して愛おしさが込み上げる。

「本当ロウってさ……
「な、なんだよ」
……なんでもない!私はこれとこれにしよーっと!!」

月の光に照らされた夜桜達が咲き誇るようにリンウェルの胸の内に咲くこの気持ちも満開に咲き誇るのだった。