カレット
2026-04-05 13:24:26
1623文字
Public
 

希望の色のつぼみを抱いて

amlkワンライ「花見」多分+2hちょっと/未来if、結婚しているアメリコ/リコちゃん視点のお花見デート

 アメジオの運転する車に乗ってハッコウシティ郊外に向かう。ほどなくして、満開に花を咲かせた淡いピンクの並木道が見えてきた。
 車を停め、先に降りたアメジオが、助手席のドアを開けて手を差し伸べてくれた。初めて車に乗せてもらったときからずっと欠かされないエスコートは、もう慣れたようで、実はいつも心をときめかせている。お腹に新しい命が宿っている今でさえ。

 近頃体調が落ち着いてきたし、どこかに出かけたいねと話したら、ちょうどアーモンドの花が見頃だというから、見に行こうとアメジオが休みを取ってくれて今日ここに来た。パルデアの春の風物詩。カントーでは桜を見て、アーモンドにあまりにそっくりで驚いたものだ。
 ゆっくりと、花を見ながらふたりで歩いた。アメジオの差し出した腕に手をかけて。ひらひらと、陽光の欠片のような花弁が降る様子に、心が照らされる。
「綺麗だね」
 それは花への感想だったのに。同意を求めて隣を見上げれば、甘く細まった目がこちらを向いている。
「ああ、綺麗だ」
 また、わたしのことばかり見ている。お花見しようとここに来たのに。そう唇を尖らせて言えば。
「花見に来たが、リコも見ていたいんだ」
 何年も一緒に居るから、そう言われるのは分かっていた。それなのにどうしようもなく胸が温まる。
 不意に、歩みが止まる。どうしたのかと彼を見上げた。頬をすり、と長い指に撫でられ、どきりと体の奥が音を立てる。
「花の色だな」
 大きい手に頬を包まれて、あっという間に彼の顔が近づいて、唇同士が触れ合った。
……っ、もう、外なのに」
 慌てて体を離そうとしたけれど、彼の腕が背中に回ってきて逃げられない。やむなく見える範囲だけでも確かめると、幸いにも誰の姿もない。至近距離にある紫の目を睨むように見つめても、こうかはないようで、低い笑い声が返ってくる。
「誰も見ていない。……行こう、リコ。まだ先がある」
 心臓の音がうるさくて、顔が熱くて。なのにアメジオは、体を離すと涼しい顔で手を差し出してくる。少しだけ恨めしく思いながら、結局わたしはその手を取った。
 遠くまで続くアーモンドの並木道を、手を繋いでまた歩き出した。

   *

 暫く歩いた先に見つけたベンチに、ふたりで腰掛けた。
 ふと、不安に駆られることがある。親になる不安。わたしたちの子供の未来への不安。
 薄桃色の景色は、あの忌まわしいラクリウムの靄とはまったく違うのに。あんなことがまたあったらとすら考える。その時は、わたしは未来を守り通すことができるのだろうか。
 まだ膨らみ始めたばかりのお腹に手を当てる。せっかくのお花見なのに、暗い顔していちゃいけないのに。顔を上げなくてはと気が焦る。
「考え事か?」
 優しい声がかかり、気遣わしげな目が向けられて。堪らずに、アメジオに考えていたことを全て話した。
「お母さんや、おばあちゃん、リスタルさんも、不安だったのかな」
「そうかもしれない。もしかすると俺の母も……親になる不安は、俺にもある」
「アメジオも?」
「親と殆ど関わらずに育ったからな」
 率直な言葉に、驚きが胸に広がった。いつも頼れるアメジオも、不安に思うんだと、自分だけじゃないんだと知れて、不思議と希望が湧く気がした。
「大丈夫だ、などとは軽々しく言えないが、リコが悩むなら一緒に悩もう。マスカーニャたちやソウブレイズたちもいつも側にいる」
 そうだ、ポケモンと一緒なら。そしてアメジオと一緒なら……まだ分からない未来にもきっと怯えなくて良い。
 心がほどけて、顔がほころぶ。頷きを返すと、アメジオも微笑んだ。
 背にした眩しい花の色よりなお眩しい、貴方のことがずっと好き。
「来年は、この子と一緒に見れるかな」
「ああ、必ず家族で来よう」
 お腹を撫でるわたしの手に、アメジオが手を重ねる。三人とポケモンたちの賑やかなお花見を、待ち遠しく思った。