カレット
2026-03-08 08:48:38
1880文字
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誓いの白詰草

アメリコワンライ「約束」+2hちょっと/数年後if、付き合ってる/ポケモンたちとピクニック

 いつまでも、こんな日々を君に。


 パルデア地方南エリアの海を望む丘に、リコとアメジオはピクニックに来ていた。風薫る季節で、日差しは穏やか。手頃な木陰の下にシートを敷き、テーブルと椅子を広げ、ポケモンたちを呼び出せば、鮮やかな景色の中で皆思い思いに過ごし始めた。
 グレンアルマがソウブレイズに手合わせを申し込み、二匹は離れたところで打ち合いを始めた。アーマーガアとパゴゴはそれを眺めて応援している。マスカーニャとブリムオンはリコの手を引き、野花で冠を作ろうと近くの野原に連れ出した。一〇%フォルムのジガルデは椅子に腰掛けたアメジオの足元で目を閉じている。
 ポケモンたちが皆よく鍛えられている上、極めて貴重な種族が含まれていることを除けば、ごく普通のピクニック風景だ。リコもアメジオも、今この場は、ただのトレーナー、休日を過ごす普通の男女。
 働き詰めのアメジオを、リコが誘ったのだった。ゆくゆくはパルデア有数の大企業の社長の座に就くために研鑽を積む彼は、日夜を問わず働いている。
 テーブルに肘をつき、ソウブレイズたちを眺めるアメジオの様子をリコは時折窺う。彼の部下も、目付役も、父親すらも、彼の滅私奉公ぶりに手を焼いていて、しっかり休みを取らせるためにリコに頭を下げてくるのだ。アメジオが唯一、心を許す女性だからと。
 リコ自身も、いつもアメジオを気にかけていた。不思議と通じ合える仲だから、疲れが溜まっているとすぐわかる。そんな時には決まって、ハッコウシティから離れた場所に連れ出していた。
 ブリムオンが触手で花を摘み、マスカーニャが慣れた手つきで冠を編んでリコの頭に飾る。ありがとう、ふたりとも、と声をかけながら、リコもふたりのための冠を編み進め、やがて完成させた。花冠をかぶせてもらったマスカーニャとブリムオンは満足げだ。
「器用なものだ」
 向こうに見える花畑に駆けていく二匹を見ていたリコの隣にアメジオが腰を下ろす。花冠に言及しているが、その実見ているのはそれを戴くリコの方だった。
「すごいよね。一度教えただけなのに、すぐ覚えて」
 パートナーを褒められてリコは頬を緩ませつつ、アメジオの表情の柔らかさに安堵した。
 アメジオはリコがこちらを向くように、髪に手を伸ばし、梳くように撫ぜる。
「良く、似合っている」
……ありがとう」
 視線は甘やかで、どこまでも優しい。真っ直ぐな好意を受け取るようになってしばらく経つのに、リコは慣れることができずに顔を赤らめる。
 ソウブレイズとグレンアルマの打ち合いには区切りがついたようだ。ブリムオンがいやしのはどうをかけにそちらに近づく。マスカーニャは花畑の中で横たわり、アーマーガアもパゴゴもジガルデも微睡みの中にいる。輝く世界の中で、大切なパートナー、大切な人と過ごす平和な時間をリコは噛みしめた。
「ずっと、こんな風に過ごせたら良いね」
 何気なく溢れた心を、拾い上げるかのように。アメジオは花を一本手折ると、リコの左手を掬い取り、薬指に巻きつけた。
「そうだな。いつまでも、こんな日々を君と過ごしたい」
 少し不格好に結ばれたシロツメクサの指輪に、リコは目を瞠った。
「約束しよう」
 手をそっと握られ、胸が苦しいほどに高鳴る。震えそうになりながら、なんとかリコは声を出す。
「それ、って」
……!」
 遅まきながら、自分の行動が何を意味するか、アメジオは気付いたようだった。ばっと顔を手で覆うも、染まった頬も耳も隠し切れていない。
 うろ、と泳いだ紫の瞳は、シロツメクサの茎を指にぴたりと沿わせて結び直す手の動きに吸い寄せられる。顔を上げれば、幸福に輝く笑顔。
「嬉しい……。大切にするね」
 アメジオの胸にもまた、幸福が満ちていく。同時に、いつかは枯れてしまう花を指輪として贈った至らなさも。
「これは仮だ。枯れないものを必ず用意する」
「それも、約束?」
「ああ」
 決まりの悪さからの顰め面にリコはくすくすと笑いを漏らす。不服げなアメジオも、やがて可笑しくなってつられて笑った。
 そんなふたりの頭上に、花びらが降り注ぐ。見上げればどこか複雑そうに顔を背けたマスカーニャの腕の中の花を、すべて見透かしたような顔のブリムオンがねんりきで散らしていた。
 トレーナーたちの和やかさに惹かれるように、ポケモンたちが周りを囲んで集まって。パゴゴがリコの膝に乗ってきて朗らかに鳴く。
 初夏の陽光が、ふたりを祝福するように照らしていた。


 いつまでも、こんな日々を君と一緒に。