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かずきち
2026-04-10 02:25:33
1638文字
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好きと好みとお気に入り
月華月あとのお話
ソファに座ってうつらうつらとしていると、隣にいたはずの恋から両肩へ圧をかけられた。不意打ちだったおかげであっさりと押し倒されてしまい、背もたれへ身体を沈めながらなあに、と声だけ出せば、恋はけらけらと笑いながら膝に乗っかってきて、郁の額にキスを落とす。背中に腕を回すと、口を離した恋は散った前髪を左右に掻き分けて、それから満足げに息を漏らした。
「そんなに気に入った?」
先日終えた合同舞台での郁の髪型を再現してるのだろうと思い、くすくすと笑いながら聞けば、分けられた髪のほんのひと束を掬われ、それが少しずつ額に落ちて肌をくすぐる。
「いやー、ちょっと、新鮮だったよね。役込みでね」
「合同舞台ではこういう役はあんまり貰ってこなかったもんね」
役が新鮮なら、見た目にも少し変化を入れてみたい。そう思って相談をした結果あの形に落ち着いたのだったが、撮影の現場ですでに恋はテンション高めに郁に拍手を送っていた。
「めちゃめちゃ良かった!冷めた目で見てくる郁、需要あると思います」
「嬉しいんだけど、今言われるとちょっとどう受け取ったらいいか分かんないな」
「まだ理性あるからちゃんとしたご意見として受けとってどうぞ!」
「まだとか言わない」
膝の上ではしゃぐ恋を押し返してソファへ沈める。されるがまま座面に後頭部を埋めた恋は、見下ろす郁を見てくずれちゃった、と残念そうに小さく笑った。
「今度俺にもセットさせてよ」
「もちろん!でも折角してもらうならセットしておしまい、だと勿体ないし、出掛ける時とかにお願いしたいな!
……
あ、それとも恋もいつもと違う髪型にして二人で一緒に出掛けてみる?」
「おぉ、いいじゃんそれ!面白そー!」
楽しそうを詰め込んでみた提案に前のめりで乗り気になりどんなのがいいかな、とよそ見をして考え始めた恋の髪を梳いて前髪を片耳にかける。
あらわになった額をしばらくの間黙って見ていると恋の視線が戻ってきて、二度ほど瞬きをしたあと耐えきれずといった風に吹き出された。
「これはどっちかってと、いつも寄りじゃない?」
「そ、そうなんだけど!」
図星を突かれて今度は郁がよそを向く。
「恋はレパートリー多いから色々浮かびはしたんだけど
……
つい、これに」
「
……
へぇ〜〜ふーん!そっかそっか」
ついさっきまで体重を預けていたソファの背もたれへと細々と白状すれば何か愉快そうに含みのある頷きをした恋が両手で郁の頬を挟みじゃあさ、と続ける。
「これは郁くんの"お気に入り"なわけだ?」
「
……
ふふ。そうだね?」
「おお
……
」
ぎゅむと頬を揉みながらわざわざ郁が使った言葉で勿体ぶって言ってくるのがおかしくて笑う。だが確かにそうだな、と素直に頷けば、恋は殊更嬉しそうに口の端を持ち上げた。
「でも、出掛ける時は恋が好きで、やりたくて選んだ髪型にして欲しいな」
「お?なんでなんで?リクエストも全然受け付けちゃうけど!」
「うーんそれでも嬉しいんだけど。俺は恋が色んな撮影でたくさん提案してアイデアを取り入れてもらってる姿を見てるから、そういう恋の好きを見てたいなって」
頬にあてられている手を剥がしてその手を纏めて恋の胸の上へと置いて、首をかたむける。
「だから、いつも寄りのこれは今独り占めしちゃおうかな?なんちゃっ
……
て
……
あーえっと」
思ったことをそのまま口に出すうちに下にいる恋がだんだんと険しい顔をしてしょぼしょぼと郁を見上げているのに気が付いて、いつものやつを言われる予感がした郁は、何とか逸らそうと追加で告げる。
「
……
これは理性があるやつのご意見、で?」
「へぁ゛っ
………
。
……
あー、
……
ほんとに?それでいい?」
「
………………
う、うん」
結局訪れてしまった微妙な沈黙に二人して顔を赤らめるなか、恋がぽつりと、
「
……
じゃあ、理性がないやつの意見も聞きたいですけどね?」
と呟いた。
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