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みずあめ
2026-04-09 22:43:38
1924文字
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brmy
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こうまお
「おはよ」
「ん、おはよ。今日はバイクじゃないんだ?」
「場所的に電車がちょうどよくて。てかごめん、待たせた感じ?」
「別に待ってないよ。僕もさっき来たところ」
「そう? なら良かった。んじゃ、行きますか、デート」
「
……
はいはい」
「ふ」
真央に呆れられるのが好き。普段は相手の欲しがってる言葉をそうと意識せず自然と口にして都合のいい男になれるんだけど、真央相手にだけは真逆のことをしている。理由はきっと、真央の都合の悪い相手になりたいから。
お花見の季節の交際部は忙しい。毎週末、桜やらチューリップやらネモフィラやら、満開情報に沿って恋人代行や友達代行が入る。その代わりに平日が休みになって、こうしてたまたま同じ日に休みだった真央を誘ってデートをすることができているんだけど。
いつも通り二人並んでとりとめもない会話をして、しばらく歩くと目的の映画館に到着した。最近の代行は外デートばっかりで定番の映画すら全然見ていなかったから久しぶりの映画館ににわかにテンションが上がる。売店の列に並んで何を買おうかと悩んでいればツンと脇腹を突かれた。
「うん?」
「僕アイスティー」
「はーい了解。なんも食べなくていい?」
「どうせこの後どっかごはん行くでしょ?」
「一応その予定ではある。けどこんなんオヤツじゃん」
「恋は好きに食べなよ。僕のことは気にしないでいい、って言わなくても、まあ気にしないか」
「うん。ポップコーン買うわ」
「どうぞお好きに。あ、払うよ」
「え?」
「チケットもう買ってあるんでしょ。残念だけど、奢られてあげないから」
「
……
かっこいーね、真央さん」
列が進んでレジに案内され、俺が注文をまとめて伝えて真央が会計をする。デートは全部奢りたいなんてこだわりは持っていないけれど簡単には奢られてくれない真央が相手だから、俺が買いたかった。思い通りにならないことが、不思議と楽しくて心地良い。
「ありがと、ごちそうさまです」
「どういたしまして。ごはんは割り勘ね」
「えー、俺払うけど」
「いらないよ。二人で行くんだから二人とも払うのが普通だろ」
「デートなのに?」
「
……
じゃあ奢ってあげようか? 知らなかった? 僕も男なんだけど」
「それは絶対だめ。まあ、それは後でね。もう中に入れるみたいだから入っちゃお」
「勝手に会計済ませそうだな、コイツ
……
」
もちろんそのつもりだ。真央は食事が終わったあと必ずリップを直しにお手洗いに行くから、その時に払ってしまえばいい。作った笑みを向ければ真央ははぁとため息を吐いた。
事前に取っておいたチケットを提示して劇場内に進み、この映画館の中で一番小さなシアターへ入る。人入りはまばらで、俺たちが並んで座った席の前後左右には誰もいないようだった。広告が流れる中で真央が「空いてるね」と呟いた。
「うん。よかった」
「
……
一人の方がよかった?」
「え? なんでよ。俺が誘ったよね?」
「そうだけど。周りに人がいない方が映画に集中できる、みたいなことかなって」
「ああ、違う違う。
……
こういうこと、誰にも見つからないでできるでしょ」
俺と真央の椅子の間、太い肘掛けの上で、真央の手をぎゅっと捕まえる。ビクッと震えた真央はすぐに俺を睨みつけてきて、俺は溢れそうになった笑い声をギリギリで抑えた。だってさ、デートなんだから、手くらい繋ぎたいじゃん。真央を驚かせたいって気持ちも、まあちょっとはあったけど。
「離して」
「はーい」
「まだ明るいし、今から入ってくる人もいるだろ」
「
……
えっと、それって、暗くなってからだったら繋いでいいって言ってるように聞こえるんだけど」
「誰にも見られないようにするなら、別にいいよ。デートなんだろ?」
「
……
本当にかっこいいよね、真央って」
ふんっと鼻を鳴らして、真央はポップコーンに手を伸ばした。キャラメル味に甘って顔をしてすぐにアイスティーを飲む真央の姿を俺はじっと見つめてた。早く照明を落としてほしい気持ちと、まだ明るいままでいてほしい気持ちが拮抗している。いつもなら待ち遠しい映画までの時間が今日だけは全然違う時間になっていた。
「なに」
「
……
好きだなって思ってただけ」
「
……
もう前見てて。予告見るのも好きでしょ」
「うん、でも、真央の方が」
胡乱な目を向けられて言葉を止めたところで、パッと照明が落ちた。予告が流れ始めた明るいスクリーンの光に照らされる真央に顔を寄せて「好きだよ」と止めた言葉の先を伝える。
俺を見る真央がどんな表情をしているかはよく分からなくて、でも肘掛けの上で掴まれた手に真央がやわく爪を立てたから、俺は俯いて笑い声を堪えた。
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