millet0824
2026-04-09 21:50:43
4018文字
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浴場

ノアハン♂(男の子自機、シャロンがいるよ)
マグメルのお風呂場って誰入ってくるか分かんなくてちょっとビビるよね

今日の探索は敵も多くて大変だった、返り血も時間が経ちすぎて固まってしまっている。
普段上げている前髪も、血で濡れそぼって固まってずうっと前から乱れて気になって仕方がない。
「シャロン、服と下着の替えは後で持ってってやるから先に温泉入っとけよ。タオルは浴室前の棚のやつ使え」
マグメルに入るためのエレベータでノアにそう促された俺は頬を触りながら(そんなひどい顔してたかな)と少しだけ戸惑った。

求人を見てやってきたマグメルで、早々に何か説明を受けたんだけど全然覚えていない。何か壮大な理念?だか使命?があるらしいけど、フーンと聞き流してしまった。
既に先遣隊がその使命に基づいて色んな事をしているらしい。なら俺が理解しなくてもどうにでもなるかなって。
俺はそののバックアップ、それの継続ができなくなった場合に引き継ぐらしい。そんなの突然できるモンなのかな、よくわかっていない。
吸血鬼とバディを組んでツーマンセル、使えそうなモノを探したり、敵と戦ったり、そんな感じで日々辺境域を走りまわっている。
仕事の話とかどうでもいいな、ノアの話をしよう。俺のバディの話。

めちゃくちゃ強くて、さらにはかっこいい俺のバディは、ノア・G・マグメルと自己紹介をしてくれた。料理もお上手で、双剣を扱う吸血鬼だ。
俺は昔からの性格で強い相手に心を乱されがちだった。今はこの男に心を乱されている。
普段は一緒に探索をしたりツーリングしたり共闘したりだ。最近は変な術式を収集したり、使えそうな物資・食べられそうな植物や果物を拾ったり、知らない敵勢力を追い払ったりを中心に働いている。
双剣の手数は片手剣の倍だから敵なんてすぐに倒されていく。ノアは迷いなく切り刻んでいく、そして圧倒的に強い。
踊るかのように優美に振るわれる双剣、そしてそれを持つ武力を視覚化したようなさまの腕にいつも見惚れてしまう。
ノアの腕には炎が奔ったような金継ぎがなされており、振るわれる腕の軌道がそれによって時折煌めくさまも、また美しいのだ。
あのいかつい腕でぎゅう、と抱きしめられたりしたらどうなってしまうんだろう?所謂、恋人を抱くような、向かい合って抱きしめるってやつ。
想像しただけで高鳴る。心臓が早鐘を打つし、なんだか上気する。己の漢の部分も上気してるのはちょっと申し訳ないけど、そういう意味でも好きなのだ。

流石にそろそろ温泉に入ろう......返り血はどうでもよかったが、固まるとなんだか不快だ。
浴場へ向かうと、既にノアが身体を流し終わっていた。きゅ、と蛇口をひねった音が響く。
何故先に入ってるんだろう?という疑問よりも、『水も滴る良い男』って言葉はこの情景だったんだな、と納得と感嘆で頭がいっぱいになった。
「ようやく来たか......背中でも流してやろうか?」とノアが尋ねてくる。子供じゃないんだし、そこまで世話焼かなくて大丈夫だよ、と断る。
お互いに返り血浴びているけど、触らせるのはなんとなく嫌だった。触ってもらうなら身綺麗になってからのほうがいい。
とりあえずシャワーで落とさないといけない、少し我慢して冷水を浴びる。冷たいけど、さっきまで妄想で火照っていた身体が強制的に冷まされるようで気持ちがいい。
排水溝に薄くなった血が、ゴロゴロと音を立てながら吸い込まれていく。頭に水を掛けるのは多少気を使わないといけないけど暇で仕方ない。
水が吸い込まれていくさまを眺めているとなんだか恐ろしい気がする、でもどうして恐ろしいのかが分からない。思い出したくないほど嫌な記憶なのか、思い出せないほど昔の出来事がこびりついているのか。思い出せないような『つかえ』が自分の中あることも、なんだか不快だった。
ようやく濁らなくなった水を確認して、掻きむしるように乱雑に、不快な何かを剥がすように髪を、頭を洗う。掻きむしるぐらいに強く頭を洗ったのでちょっと痛いなあと思いながらようやく体もさっさと洗う。
ようやく湯舟に浸かれる。流石にシャワーの冷水で身体が冷えてしまった、少し長めに入ろう。
とか思っていたら入口対角の椅子で休んでいるノアが目に止まる。「出てると思ってた、のぼせちゃった?」と声を掛けると「お前を待ってたからまだ入ってねぇよ」と返ってきた。ちょっと分からないな、なんで待ってくれてたんだろう?やはり気を遣ってもらっているんだろうか。

ぼんやりと、良いとも悪いとも言い難い、薄暗くて青っぽい空を眺める。けど身体を温めるために長湯をしないと、と思って入っていると暇で仕方がない。
目でもつむっておいてもいいかと思ったけど、寝ていると勘違いされているのか時々揺らされる。ノアは心配性だなあ。
考えることも、さっきの『つかえ』のことくらいしかない。つまらないモンしかないな、俺の手元には。
楽しいこと考えたいけど、なんとなくそんな気分にもなれない。今日は疲れてるのかな、ノアの美味しいご飯食べて寝てしまいたい。でも抱かれたいとも思うわけで。調子戻ってきたかな。
「そろそろ出るか。流石に熱いな......」ほれ、と既に上がっているノアから手を出してもらっている。今日はやけに優しく感じる、気を遣われるほど酷い感じなのかな俺。
「はは、俺そんな危うい感じする?」素直に訊いてみると、少し考えたノアは「今日は妙に殺気立っていた気がするぜ、それに頭結構強く洗ってただろ。そんなに強くしてたら痛いんじゃないか?」と言って差し出した手で頭を撫でてきた。
そんな優しくされたら今でさえメロメロしてるのに、これ以上メロメロになっちゃったら離れがたくなっちゃうじゃん。
ぽんぽん、と柔らかく叩かれ「立ちっぱなしは疲れるだろ、もう出ようぜ」と再び促される。
前を歩くノアを追うように温泉から出て、ぺったぺったと床の冷たさを楽しみながら更衣室へ向かう。のぼせているのか、疲れているのか分からないけど足取りが少しおぼつかない。きちんと意識して歩かないと滑りそうでいけない。
いや、今日は頑張ってもこれ以上は頑張りきれない気がする。そんな気がした途端、膝が抜ける感覚がした。このままだと転ぶし、ノアとぶつかるんじゃないか?
「あ」、と言葉にならない音を発し、どうにもならなそうなので後ろにそのまま倒れる。尻もちか、程度が悪ければ頭も打つか。どちらにせよ痛そうなのでぎゅうっと固く目をつむる。

そろそろ尻もちをついているだろうタイミングのはずが何の痛みもない、むしろ腕に圧迫感を覚える。つむった目を少しずつ開けてみると、ノアが腕を掴んでくれていた。
「シャロン、大丈夫か?咄嗟に腕掴んじまって悪かったな、痛いだろ」と声をかけながら、そっと俺の尻を着地させる。
「ノア、マジで抱いて」圧迫されて血の気が引いた手は、今じゃ燃え上がるように熱い。早鐘が鳴るままに言葉を吐く。
はぁ、と大きいため息が聞こえた後「今日は流石に休め、疲れてるだろ」と呆れ混じりの声色で言う。そして心配と気さくさも滲ませながら、
「部屋に飯持ってってやるよ、何食いたい?」と矢継ぎ早に話を振ってくる。
「え......ふざけていいなら、ノアのソレとか......?」局部を指差しながら、平静を装うように言う。
「お前なぁ......そういうのはもう少し元気になってから言え」顔赤いぞ、とのぼせていることを指摘される。
「じゃあなんか......食べやすいやつ...?」
自分で言っておいて、食べやすいってなんだろう?と、しばらく2人して考え込んでしまう。
「食いやすい......お前甘いもん好きだっけ?」
「自分では率先して食わないかも......ごめん」
「謝らなくていいだろ、茶漬けあたりにしとくよ」
「ん......ありがと」なんだか照れくさくて、もうちょっと茶化しておきたいけど、そろそろ怒られそうなのでやめておく。
少し休憩したからか、その後の更衣室、そして物置部屋をそのまま勝手に使っている私室までは何事もなく辿り着いた。圧迫感はあれど、遮蔽物がたくさんあるのは落ち着く。その最奥のベッドの上で横になって身体をゆっくりと冷ます。
身体の内側に貯めていた長湯の暖かい熱が、じわじわと空間に染み出しているような感覚と、ただ静かでどうしようもなくて自分の鼓動くらいしか音がないので否が応でも耳に入れるしかない。
部屋の外の喧噪も、この部屋の最奥には僅かにしか届かない。つまらないな、と思いつつも明日はどこに行くか、それかたまには休んでしまおうかとゆっくり迷う。こんな時、歌なんかを歌えたらつまらなくないんだろうか、俺は何も知らない。
なんて考えてると扉が叩かれる。子供らが遊んでいるように規則的で、しかも連続して打ち鳴らされる。流石に扉で遊ぶのは良くないだろうと思い注意しようと、のそのそと扉へ向かいそうっと開ける。
「お前ら~?扉そんなに叩いたらうるさいだろ、やめな~?」と目線が近くなるよう背を折り、扉の下部に居るであろう子供らに向かって注意をする。きゃあきゃあと言いながら子供らは散り散りに走っていく。
危ないから前見て走るんだぞー、声をかけなからすっくと立つと目の前にノアがいた。「走るな、って注意しろよ」と困った顔をしながらくつくつと笑うノア。
ひとしきり笑ったあと「見りゃわかるかもしんねえけど、飯持ってきてやったぞ」ほら、と片手で持つには少し重そうなお盆を持ってきた。
「お前の部屋ってテーブルあるか?そこまで持ってってやるよ。中、入れてくれるか?」お言葉に甘えて持って行ってもらおう。
「うん、左の方にある」と短く答え、扉を開く。室内を見て急激に表情が悪くなる。
「部屋使うなら、物置のまま使うなよ......!」
呆れつつも声を荒げたノアに、乾いた笑いを漏らしながら私室へ引き込んだ。