大通りに面した人気の仕立て屋、そこを出て大通りを何本か外れて奥に行くと、古惚けた靴屋がある。なんでも元々は小説家だか探偵だかの、事務所らしい。
からんと音だけは心地の良い古いドアベルを鳴らして扉を潜る。
「リッパー。悪い、少し待ってくれ。」
靴屋の店主から声が上がるが、リッパーは仕立て屋の店名だし、正確にはリーパーだ。しかしいつもそう呼ばれ、それを許して仕舞っている。なので掛けられた声に従い、客用ソファではなく、事務椅子に腰を落ち着ける。
奥から靴屋と客の話し声が聞こえる。
「なぁ頼むって。」
「そうは言うがな兄弟、どうせまた金が無くて、ツケだとか言うんだろ。」
「けどさ、足が痛くて敵わねえんだ。だから靴をどっか悪くしちまったんじゃねえかなって。」
「……まあそれは、大事を取って靴屋に来るのは、良い判断だ。」
「だろう。」
靴屋は客の靴と足を見て、暫くすると何かを書き付けた。そしてそれを封筒に入れ、客に渡した。
「なんだこりゃ?」
「これをお医者の先生に見せな。足の痛みは靴が原因じゃねえ。」
「……まさか紹介状か?靴屋のお前が?」
「おれは患者用のサンダルも卸してるし、なんなら医者の客もいる。」
靴屋が靴箱を漁ってサンダルを取り出した。
「靴はやらねえが、こいつを履きな。」
「へえー。ま、あんがとよ。」
客は封筒とサンダルを持って帰っていった。再びドアベルを鳴らしながら、リッパーに会釈して、よれた服の髭面は店を出ていった。
「待たせて悪いな。」
リッパーは首を横に振った。二人で向かうのは応接間ではない。もっと奥の事務所だ。
そこに広い机があり、上に模造紙が数枚重ねて広がっている。電球は他のものより机のより近くまでぶら下がっている。
リッパーは自分の店から持って来たスケッチを広げた。幾つもの様々な洋服のデザインが描かれており、サンプルとしての布やレースが挟まっている。
「へえ。良いな。」
靴屋が眦を下げた。
「この花の衣装は、靴にも造花を付けるか。なら、これくらいの大きさと、これくらいのものを作ってくれ。」
靴屋は胸ポケットから取り出したペンで、模造紙に書き付けた。そのペンは、いつだったかに仕立て屋が見繕った万年筆だ。
仕立て屋は靴屋の話に頷き、別の衣装を指し示した。鳥の羽の、靴での使用部分を打ち合わせ、話を進めていく。
「これは……靴の裏は何か光沢があるものなら面白いかもな。コートの裏地が、表に対してこれだけ光を反射する素材なら。」
靴屋が言った面白い提案に、仕立て屋は拍手を送って遣った。それを、よせ、と掴んで下げると、誤魔化すように、腹減ったな、と言う。仕方ないので、アイデアの上にクッキーの包みを滑らせて遣る。
「今日は閉店だな。」
嬉しそうな、しかし悪戯っ子のような顔をして笑った靴屋は、自分の店を自由勝手にそうした。
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